greenz.jpの連載「暮らしの変人」をともにつくりませんか→

greenz people ロゴ

この「地方創生」ブーム。今、未来をしっかりと描ける地方自治体は、どれくらいあるんだろう? 「issue+design」が考えていること

00_main1

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

最近、「地方創生」という言葉をよく耳にしませんか?

「地方」というとどこか他人事のようにも聞こえますが、あなたの地元、ふるさとはどうでしょう。

昨年発表された25年後の推定人口数から、896の地方自治体が消滅可能性があるとして話題になりました。この見方については議論もありますが、とにかく国は今、膨大な予算を投じて「地方創生」対策を行おうとしています。その時、あくまで主役は地方自治体。

自治体が提案するプランがあって初めて国が支援するのが基本姿勢です。つまりもっとも大事な役割を果たすのが、地域を率いる行政のトップと職員ということ。その采配で、地域の未来が決まると言っても過言ではありません。

そこで今、「issue+design」が必要を感じて始めようとしているのが「地方創生スクール」。行政職員のための、町の戦略をつくるプログラムです。

「地方創生スクール」とは?

まずはじめにお断りしておくと、この「地方創生スクール」は国からお金が出て行われる事業、ではありません。

地域との仕事をいくつも手がけてきた「issue+design」の筧裕介さんが、いま必要なのではと感じて自主的に始めるものです。

「issue+design」のことは、これまでにも何度かご紹介してきましたが、世の中の社会課題(イシュー)をデザインの力で解決しようとさまざまなプロジェクトを仕掛けてきたクリエイティブチームです。

代表の筧さんは、博報堂で広告クリエイティブの仕事を手がけてきた方で、2001年NYで9.11事件に遭遇したのをきっかけに、デザインの力をもっと社会課題の解決に活かせないかと、「issue+design」を立ち上げました。
 
01_dekimasuzekken一人一人のボランティアができることを一目でわかるようにした「できますゼッケン」。

02_boshitecho育児環境の難しさを改善する新しい母子手帳をつくるなど、これまでに防災や医療、観光などさまざまな分野でユニークなアプローチをしてきました。

その「issue+design」が、今年度新たに始めようとしている「地方創生スクール」は、地方自治体の行政職員を対象に(最大10地域)、5月から8月にかけて、毎月一回東京で行われる講義とワークショップのプログラムです。

長期目線での人材育成や研修とは違って、ここで計画したプランを地方に持ち帰ればそのまま使える、実行力のある内容にブラッシュアップしていく、というリアルな検討の場でもあります。

できたら、次の世代の町の中核を担うような実行力のある30〜40代の若い行政マンに参加してほしいと思っています。それに見合う充実したプログラムを用意しているつもりです。

と筧さん。参加は、3人1組、自治体単位での申し込みとなります。

詳細はこちらのサイトでご覧いただけますが、大きな流れとしては、まず地域の課題を構造化してあぶり出し、解決の方法論を学び、後半で未来像を描いていきます。
 

NPO法人ミラツクのイベントでの筧さん

「ばらまき」で終わらせないために

このプログラムの目的は、地方創生を「ばらまき」で終わらせず、一つでも多くの地域が、しっかりと練られたビジョンのもとに創生プランをつくっていくこと。

これまでにさまざまな地域と関わってきた中で、真の課題解決につながる魅力的なプランが自治体からどれくらい出てくるんだろう、と思ったのが発端でした。

地域のビジョンを描き、実効力のあるプランを提案できる自治体が一つでも増えればいいなと思ったんです。

それもどこかで聞いたようなものではなく、各自治体が地域の強みを考え抜いて、ぴりっと個性が効いて地域課題解決につながる本質をとらえたプランがどんどん出てきて、これから10年で一つでも多くの真の地方創生成功モデルが生まれてこないと、将来地方圏はもたないんじゃないかと思うんです。

筧さんがこの「地方創生スクール」をイメージするようになったのは、昨年一年間、高知県佐川町のプロジェクトに関わったことがベースになっています。

当時、佐川では町長が変わったばかりで、10年ごとにつくられる町の総合計画を新しくする時期でもありました。
 
03_sakawa_shokuin
高知県佐川町役場で行われたワークショップの様子。

40代で地元にUターンし町長になった堀見和道町長は、この総合計画を、行政のものではなく、町民みんなでつくる町民のものにしたいとissue+designに協力を求めました。

堀見町長は早い段階からソーシャルデザインに興味を持っていて、直接僕に相談に来てくれたんです。そこで一年かけて、役場の職員や町民と何度もワークショップを行い、総合計画の下地づくりをしてきました。

佐川町のどこに強みがあって、どこが問題なのか。10年後どういう町にしていきたいのか。何度も話し合って、町の方向性や計画を形にしているところです。

05_choucho堀見和道町長

佐川以外にもさまざまな地域と関わり、地域を支えるのは住民の力だと感じてきた筧さん。その背景を、こう話します。

人口が減るということは、税収も減って、これまで自治体が行っていたことすべてが従来通りには行えなくなることを意味します。

その時大切になるのが、行政と住民がともに参加する自助型、共助型の地域づくりです。高齢者の見守りや、ちょっとした道の保全など、地域のなかで支え合うしくみをいかに整えるかによって、その地域の住みやすさが大きく変わってきます。

そうしたしくみづくりを中心になって進めることができるのは、やはり地方自治体のトップであり、行政職員です。外部のコンサルタントが一方的にプランを提案しても、それは実行力を伴うものになりません。

だからこそ筧さんは、佐川で進めてきたように、一つでも多くの自治体で、自治体職員を中心に創生プランを考えることをサポートしたいと考えました。

実態の伴わないプランに予算がつぎ込まれれば、人の入らない施設やイベントなど、これまでにたくさんあった行政の空回りの連鎖になってしまう。地方の未来を考えるとき、地域のリーダーの役割がいかに大切か、筧さんは堀見町長とのやり取りから再認識したのです。
 
05_sakawashiawase2015年2月に町民参加で行われた「さかわ幸せ会議」の様子。200名を超える町民が参加。

地域の課題を解決するのは地域ならではの個性。
佐川で目指す、最先端のデジタル技術を生かしたものづくり

そしてもう一つ。これまでさまざまな課題に向き合う際に、筧さんが大切にしてきたのは、その企画の地域ならではの個性であり、住民の気持ちを動かす“楽しさ”です。

どこの地域にも通用する、優れた解決策が既にあるのであれば、それを実行すればいいだけで、僕らの出る幕はないんです。

でも課題や解決先が混沌としている時に声をかけていただくことが多いので、僕らが求められていることは地域ならではの個性を活かした新しいものだと思っています。

kakei2

例えば、佐川と進めている地方創生プランでは、どんなところが新しいのか。

佐川では、森林に囲まれた土地柄、本格的に自伐型林業(森林組合が大規模に森林の管理・伐採をするのではなく、個人や小規模な事業者各自が行う近年注目を集めている新しい林業)を地場産業として育てていきたいと考えています。そこで筧さんが提案したのは、次の2つ。

ひとつは、FabLabのような、子どもたちが地域産の木材を活用したものづくりの最先端技術を学べる学校教育のプログラム「佐川ものづくり大学」をつくること。

そしてもう一つは、産業化も踏まえて、地元で新しい木の製品をつくっていくこと。ただの木工品ではなく、「クロスモーダル」という研究領域を活かした、新しい体験のできるものづくりです。

クロスモーダルとは、人間の五感をクロスするという意味で、視覚、聴覚、触覚など複数の感覚を同時に刺激することで得られる感覚のしくみのこと。

例えば、風鈴の音を聞くと、実際の気温は変わらなくても涼しく感じることがあったり、かき氷のシロップなど同じ材料でも色が違うと味が違って感じることなどありますよね。人は聴覚と視覚、視覚と味覚など複合的に感覚を得ています。

これが近年、新しいものづくりやサービスデザインに活かせる可能性があると注目されています。(参考:クロスモーダル設計調査分科会

この東大の苗村研究室の研究を活かして、issue+designが「勉強したくなる机」というコンセプトで開発したのが、「Write More(ライトモア)」です。
 
07_writemore視覚、聴覚など複数の感覚を同時に刺激することで新しい体験のできる机「WRITEMORE(ライトモア)」。

08_writemore
この商品は、2015年4月のミラノサローネにも出品予定。

中にマイクと回路が仕込まれた木工ボードの上で文字や線を描くと、筆記音が通常より大きくなったり、音色が変えられるため、自分がモノを書くという行為が自分ごと化されて、書くことに夢中になったり、美しい線が書けたり、書く速度が速くなるなどの効果があります。

このアイデア、もともとは筧さんの3才になる娘さんが、絵や字を書くのになかなか集中してくれないことに、頭を悩ませていたことが発想のもとになったのだとか。

木工品をつくるだけでなくて、こうした最先端の技術を組み合わせることで、新しい商品をつくっていく、これを佐川町のひとつの柱にできたらよいなと思っているのです。

09_sakawariver森林に囲まれ、川の水がきれいな佐川町。町では積極的に自伐型林業を促進している。

まちづくり、行政、ソーシャルデザインを融合した先に

こんな風に、町のトータルデザインを考えながら、商品化のような具体的なアウトプットまでを提案できるのが、「issue+design」の強みでもあります。

近年話題にのぼるメーカーズ革命や3Dプリンター等を使った最先端のものづくりの話が地方経済にどうすれば役立てられるだろうかってことは、ずっと考えていたんです。今回、佐川の例で言えば、それがうまくつながりました。

これまで、「まちづくり」「行政」「デザイン」といった分野は、プレイヤーも別だったし、同じ課題にそれぞれ別々にアプローチしてきましたが、それをもっと僕らはくっつけていきたいなと思っています。

最近「issue+design」が手がけたものでいうと、北海道の日高町という、冬には氷点下20度になる極寒地域の観光対策で、寒さを逆手にとり「極寒10種競技─COLD HIDAKA(凍るど!日高)」を開催。

スノーフラッグス、寒中やまべフィッシング、カーリング、ホーストレッキング、スノーボールバトルといった競技大会を行って、道外からの参加者を誘致し、大いに盛り上がりました。
 
hidaka1

hidaka2COLD HIDAKAの様子。

来年度は、岐阜県で乗客の減少に悩む鉄道の活性化、観光まちづくりの仕事が始まる予定。コミュニティづくり、IT、グラフィックデザイン、まだどういうアプローチになるかわからないけれど、自分たちのできる新しいことに挑戦していきたい、と筧さんは話します。

こうした個性ある地域デザインを、あなたの自治体でもやっていくことを提案する「地方創生スクール」。あなたの地元、ふるさとはどうでしょう。

その土地ならではの、素敵な未来を思い描けているでしょうか?