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“前に出ないリーダーシップ”がもたらすものとは? SVP東京代表・岡本拓也さんに聞く「コラボレーションを生み出す秘訣」

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設立11年目の「SVP東京」を率いる岡本拓也さん。(撮影:Akiko Terai)

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

自由になるお金が10万円あったとしたら、あなたは何に使いますか? 海外旅行に行ったり、素敵な買い物をしたり。あるいはどこかの団体に寄付るという方もいるかもしれません。

ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京(以下、SVP東京)」は、「メンバーがパートナーとしてそれぞれ10万円ずつ出し合い、社会的な課題の解決に取り組む事業に出資しよう」というアイデアの元に始まったNPOです。

これまでグリーンズでも紹介してきた「認定NPO法人カタリバ」や「ケアプロ株式会社」「NPO法人ブラストビート」、また留職を提案する「NPO法人クロスフィールズ」や、うつ病対策の「株式会社U2PLUS」などの事業に、資金の提供とパートナーによる経営支援を行ってきました。

2003年に設立して11年。支援してきた団体は今や30団体に上り、この10万円を出すパートナーも100人を超えています。今回は、そんなSVP東京の2代目代表をつとめる岡本拓也さんにお話を伺いました。

協働がもたらす共成長モデル

SVP東京がクラウドファンディングなどと違うのは、単に資金を出すだけでなく、SVP東京のメンバーがそれぞれに持っているスキルを活かして、投資した団体と一緒に2年間ともに汗を流すという、「協働」に重きを置いているところ。

SVP東京は、この「協働したい投資先」を毎年3〜5団体選んでいます。応募してくれた団体の中でどの団体にコミットするのか、書類審査から始まり、応募団体と何ができるかを考え、最後はパートナーみんなでていねいに話し合い、4ヶ月ぐらいかけて決めています。

応募団体とミーティングを重ねるうちにパートナーの思い入れも強くなり、どの団体を支援するかを巡って大議論に発展することも。
 
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パートナーが集まって投資と協働する団体を決める「投資委員会」の様子。(写真提供:SVP東京)

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いよいよ投資先が決まるとき毎年白熱します。(写真提供:SVP東京)

この「投資協働先」が決まると、「実際に一緒に手を動かしたい!」というパートナーでチームをつくって2年間の協働が始まります。

ほとんどのパートナーが日中に本業の仕事を持っているので、夜や週末の時間をやりくりしながら投資先の団体と二人三脚で活動します。中には夢中になりすぎて、どちらが本業か分からなくなる人もいるのだとか。

SVP東京は、投資先とパートナーの両方がともに成長する”共成長モデル”なのです。どちらかが手段でどちらかが目的なわけではなく、両方が目的だと言えますね。

と岡本さん。

社会的な目的を持った団体と協働を通して、自分のやりたかったことを見つめ直し、社内で新たなプロジェクトを始めるパートナーや、自分で事業を立ち上げるパートナーも増えています。

いつのまにかリーダーになるタイプ

今や大きな団体に成長したSVP東京ですが、有給スタッフは代表と事業統括スタッフのみ。他のパートナーは別の仕事で働きながら活動し、投資先の団体と一緒に働くのもボランティアです。

それでも、若手の会社員から、すでに定年退職した人まで、様々な年代の人が参加するボランタリーな組織がここまで成長するには、どんなリーダーシップがあったのでしょうか?
 
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「e-educationプロジェクト」とSVP東京の協働チーム。(写真提供:Takeshi Kato)

岡本さんはSVP東京の代表を引き受けるまで、コンサルティング会社で事業再生の仕事をしていました。

会計士の資格を持つ岡本さんの仕事は、傾いてしまった事業の数字を見える形にして再生への道を示し、ともに伴走すること。「状況を変えるのは”人”。何をすべきかが見えてくると人が変わって、がけっぷちでもいきいきとしてくる。大変ではあったけど、そのダイナミズムが魅力だった」と言います。

役員の隣に机を並べて朝誰よりも早く来て、夜も誰よりも遅くまで仕事をしたことも少なくありませんでした。

一方、SVP東京のパートナーとして認定NPO法人カタリバのお手伝いもしていた岡本さん。その活動に共感して、どんどんのめり込んで行きます。

本業で地方や海外にいるときもカタリバから電話がきたり、東京でカタリバやSVP東京の活動をしているときに仕事先から電話がきたり。途中でカタリバの理事にもなり、そういう働き方を2年くらい続けていたのですが、あるとき体調を崩してしまって。「そろそろ限界かな」と思いました。

もうひとつ、ソーシャルベンチャーの経営をする人たちのすぐ側にいて、僕自身はプロボノ、アドバイザーという立場でいることにも、だんだん居心地が悪くなってきたんです。

カタリバやSVP東京で社会起業家、ソーシャルベンチャーの世界に関わっている中で、「本当に共感しているなら、そっちを本業にしたら?」と。事業再生の仕事もやり甲斐ありましたが、10年後に後悔しない道を選ぼうと独立しました。

岡本さんが会計士の資格を取得したのも、元々は大学時代に世界を旅しているときに、南アジアでマイクロファイナンスやソーシャルベンチャーの考え方に深い感銘を受け、専門性を身につけたいと思ってのこと。

独立した当初は、「ゆくゆくは自分でソーシャルベンチャーを起こすか、新しい中間支援組織の立ち上げをやろうと考えていた」と振り返る岡本さんですが、会社を辞めた11日後に東日本大震災が発生。

誰もが自分の生き方を見直すなかで、SVP東京の創設者で代表だった井上英之さんが代表を辞めて留学という新たな道に進むことを選び、週2日だけコミットするつもりだったカタリバも代表の今村久美さんが東北に行ったきり帰ってこないという事態に。

そしてそのまま4月にはSVP東京の代表、ゴールデンウィーク頃にはカタリバの常務理事・事務局長も務めることになっていました。
 
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初代代表の井上さんと2代目代表の岡本さん。(写真提供:SVP東京)

結局、どちらも”引き継ぐ”形でリーダーになった岡本さん。

考えてみたら昔から、後期になると学級委員に選ばれるタイプでした。

リーダーとして初めから突出して目立つタイプじゃないし、クラスの中であんまりグループとかには属さないんだけど、いつの間にか中心にいて、新しいリーダーが必要なときに「やっぱりおかもっちだよね」って言われる。

なんだかよく分からないけど、この人がいるとまとまる、場が生き生きするって、言ってもらうことは多かったように思います。

2代目の仕事

では、岡本さんが担う2代目の仕事とはどんなものなのでしょうか?

SVP東京に関しては第2創業を担う形でした。

第1創業では、いのさん(井上英之さん)という魅力的でカリスマのある創業者がみんなを引っ張ってきた。

自分はそこまでのカリスマ性はないですが、これからはメンバーそれぞれが考えて動く自律分散型の組織にしていきたいなと思いました。

「早く行きたければひとりで行け、遠くに行くにはみんなでいけ」というアフリカのことわざをとても大切にしているという岡本さん。

時間がかかっても遠くに行ける団体へと、体質を変える為にために大切にしたことが2つあったといいます。そのうちのひとつは「人を機能としてみない」こと。

SVP東京に入ってくる人の役割をこちらで決めるのではなく、それぞれが自分の成長の為にやりたいことを見つけて動いてもらおうと思いました。

そうすると、ものごとの当事者がどんどん生まれていって、結局は組織と社会の両方の成長につながるんです。

そしてもうひとつは「仕組みは大事だけど、対話・運用をもっと大事にする」ということ。

なにかうまくいかないことがあるときには、「新しい仕組みを加えずに解決できないか?」ということをまずは考えます。

僕は組織内では普段はあまり前に出ないようにしていますが、コミュニケーションが詰まってしまっているときには前に出て、対話をリードすることを大事にしました。

実際に、岡本さんは代表になってからそれほど大きく組織の仕組みを変えなかったそうです。SVP東京にはディレクターという、代表と一緒に組織の方針を決める経営チームがあります。

代表になった後の岡本さんがしたことは、ディレクターになってくれた人たちによりコミットをしてもらい、ひとつひとつの課題をしっかり話し合って動くこと。

代表としての仕事をしっかり続けていくうちに、例えば弁護士のメンバーたちが話し合って、恊働先や他のソーシャルベンチャーが法務関係の相談をできる法務チームをつくるなど、メンバーたちの間でも自発的な活動が広がっていきました。

ところで前にあまり出ないリーダーというのはどういうことなのでしょう?

僕は組織内的には”いじられキャラ“なんです(笑)

毎年、SVP東京ではパートナーで集まって合宿をやるんですが、その場でも「代表なにもやってないなー」と。

もともと志もあってできる人たちの集まりだから、「おかもっちだからしょうがない、俺が一肌脱ぐか」みたいな感じで、パートナーのみんなが自発的に動いてくれるようになったように思いますね。

「なにもやっていない」といいながら、ひとつひとつのことには自分の考えを持っているという岡本さん。

例えば、自分では色々調べて論理も検証した上でのベストな案と、他のメンバーとの対話から生まれる案とが食い違うときは、後者の道を選ぶことがあると言います。

みんなで納得感をもって取り組んだほうが、仮に遠回りでも、結果としてうまくいくことが多い。そして、その結果はまるごと代表である自分が引き受ける、と腹を括るそうです。

どんな選択をしても「責任は自分が引き受ける」と腹を括ることだけは、意識してきました。リーダーとしては当たり前のことですが、代表が逃げないと、パートナーから信頼されることで安心感が生まれて、のびのび活動してもらえるようになると思うので。

良き想いの元に選択しても良い結果ばかりがでるわけじゃない。最終的に大変なこと、本当は自分の責任じゃないかなと思うことでも代表が引き受ける。

そういう姿勢を語るともなく示しているうちに、「組織が安定して筋肉質になってきたと感じる」と岡本さんは振り返ります。
 
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SVP東京のミーティングの様子。日中様々な仕事をしている社会人が集まって、SVP東京のこれからや、提案された案件について話し合います。(写真提供:SVP東京)

企業とコラボレーションを生む秘訣

そんな岡本さんがリーダーになってから、SVP東京と外の組織との連携も強化されてきました。

投資銀行の「UBS」やコンサルティング会社「アクセンチュア」はSVP東京に資金を出して、SVP東京の選んだ投資協働先へ自分たちの会社の社員がプロボノして価値を提供する仕組みをつくっています。

「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」は、自社内にSVP東京のような取り組みを発足。社会企業が応募できる先としていわばSVP東京の競合になりました。実はこの立ち上げにも岡本さんがアドバイザーとして参画していました。

健全な競合が増えるのは嬉しいです。僕はソーシャルセクターの担い手を増やすことが大事だと思っていて。セクター間の連携や団体同士のコラボレーションを生みながら生態系をつくっていけたらいいなと思っています。

競合が増えることもコラボレーション。コラボレーションを生むときの岡本さんのスタンスも、お互いが成長できる形を探すことであり、そういった形をチューニングしたらできるだけ本人たちに任せることだと言います。

コラボレーションをつくるときの僕の役割は、場づくり。コーディネーターとしての力量が問われます。グループの中に感覚をつかんだ人が一定以上いれば場が固まるので、そこまでチューニングして、ある程度動き出したら後ろに下がるようにしています。

例えば企業とのコラボレーションだったら、コーディネーター役すら途中から会社の中の人にやってもらうことが多いです。そうするとその場に参加している社員さんたちの主体性が引き出されるんです。自分の内発的な動機から生まれたものだと勢いが違うんですよ。

実際に三菱UFJリサーチ&コンサルティングのプログラムでは、参加した会社の社員から「普段組むことのない他部署のメンバーと一緒に仕事をし、社内連携が進んだ」と言う声や、「社内のネットワークがあれば、もっと色んなことができるのではないかという自社の可能性も感じた」というフィードバックがあったそう。

ある意味、自分たちで動くことで発見できる自分たちの力があるんですね。

自分自身を整える

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(撮影:Akiko Terai)

僕は人の能力には大した差がないと思っていて。みんなリーダーになれると思っているんです。大事なのは、目の前の仕事に腹を据えていること、そして何より自分自身が楽しんでいることだと思っています。

みんなの意見を尊重して、他の人たちを主役にして、でも責任は自分が負うという形のリーダーシップ。それには結構な忍耐や胆力が必要そう。岡本さんはどうやって腹を据えているのでしょう?

まずは、自分を信じ、周りを信じること。そして、目の前の人やことに集中できるように、また苛々した状態で人と会わないように、心と体をできるだけ整えようと気をつけています。

その為には自分自身の在り方が大事だと思っていて、内省の時間を大切にするようにしています。景色を見ながらゆっくり歩いたり、たまに座禅をしたり。あとは長い距離でもできるだけ自転車を漕いで、自分のからだを使って自分を目的地まで連れて行くようにしていますね。

最近はSVP東北など、地域でSVPのモデルを立ち上げようとする動きや、SVP東京のパートナーが「ソシオファンド北九州」という団体を立ち上げようとするなど、新たな動きがじわじわと広がっています。

政府が投じるお金よりもずっと小規模なお金で、たくさんの変化を産み出しているSVPのモデル。民間企業に限らず政治や行政、学問の世界からも注目されはじめ、岡本さん自身も内閣府や経産省の委員に選ばれたり、大学の講師を頼まれたりと、活躍の場が広がってきたそうです。

自称「目立たないリーダー」だけど、年月を積み重ねて、これからもきっと産学民をつなぐパイオニアとして、そしてコーディネーターとしての役割を期待されそうな岡本さん。前に出ないリーダーの手腕に目が離せません。
 
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今や100人以上のパートナーと共に、これからますます期待が高まります!(写真提供:SVP東京)

(Text: 寺井暁子)