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高野山で“はじまり”を問い直す『語りかける音 歌う言葉。』コンサート ー 大貫妙子さんインタビュー

高野山 音まんだらコンサート vol.11 『語りかける音 歌う言葉。』
「チャンスがあれば人生で一度は行ってみたい」。

誰もが心のなかに“いつか行ってみたい場所の地図”を持っていると思います。

弘法大師・空海が開いた高野山は、おそらく多くの人の“いつか行ってみたい場所の地図”に載っているのではないでしょうか。そして、行きたい場所への“チケット”は、ちょっとした“チャンス”で手に入るものだと思います。

高野山・三宝院では、2012年11月11日(日)に大貫妙子さんのコンサート『語りかける音 歌う言葉。』を開催します。大貫さんは、命と自然のつながりを感じながら暮らし、自然の一部である身体で歌う“正しい声”を持つシンガー。高野山という祈りの地で大貫さんの歌を聴くという“チャンス”は、もしかするとあなたの“高野山行きチケット”になるかもしれません。

命と自然のつながりを大切にする大貫さんのライフスタイル、そして今回のコンサートが実現するまでのストーリーを、大貫さんにインタビューで聴かせていただきました。ぜひ、大貫さんの人柄と言葉に触れてほしいと思います。

オファーから1か月! ご縁のつながりでコンサートが実現

「語りかける音 歌う言葉。」が開催される三宝院表広間

『語りかける音 歌う言葉。』は、2002年から三宝院で開かれている『音まんだらコンサート』の第11回目。例年は中秋の名月の夜に開催されていた同コンサートですが、今年は諸般の事情により開催が危ぶまれていました。ところが、開催一か月前に大貫妙子さんの来山が伝えられたことで事態は急展開します。

以前からライブをさせていただいていた「食べる」をテーマにしたうつわ展『TABERU』を主催する祥見知生さんが、10月に三宝院さんで展覧会を開かれたんです。「高野山に来ませんか?」と誘っていただいてすぐに行くことに決めました。

祥見さんは、鎌倉で『うつわ祥見』を主催し「食べる道具の美しさ」を伝える器の展覧会を全国各地で開いている人です。また、大貫さんや細野晴臣さん、高野寛さんらミュージシャンとコラボレーションし、「食べる」ことから「生きる」ことを見直す場づくりもされています。

三宝院の飛鷹全法(ひだか ぜんぼう)さんは、大貫さんの来山を知って「『音まんだらコンサート』で歌っていただけないだろうか」と祥見さんに相談。飛鷹さんの思いが伝わり、一か月前という急なオファーにも関わらず『語りかける音 歌う言葉。』が実現することになりました。飛鷹さんは「コンサートの実現に関わった人たちの間に、確かな信頼関係があったからこそ不可能が可能になったのだと思います」と振り返ります。

また、大貫さんは約20年前の雪の季節に高野山に訪れたことがあり「機会があればまた行きたい」と思っていたそうです。

「行きたい」と思う場所には行ってみるといいと思います。自分が思うことだから、そこに縁があるんですよ。考えたことがなかった場所でも、チャンスがあって「行きたい」と思うならそこから次の扉が開くと思います。自分の声には素直に従ったほうがいいと思うんですね。

静謐な高野山のお寺で自然と一体になった歌を聴く

三宝院臨光庭

『語りかける音 歌う言葉。』は、大貫さんとギタリストの小倉博和さんのふたりだけというシンプルなセットで行われます。小倉さんは、大貫さんとの共演のほか、桑田圭祐さんのソロアルバムや小林武史さんとMr.Childrenの櫻井和寿さんを中心に結成したBank Bandにも参加されていることでよく知られています。

今まで歌ってきた曲のなかから、高野山の空気と合う曲を選びたいと思っています。小倉さんのギターも素晴らしいので彼のインストゥルメンタルも聴いていただきたいですね。また、三宝院さんは東北にも縁が深く、被災地支援も行われています。岩手県花巻の作家だった宮沢賢治が書いた『星めぐりの歌』『牧歌』を歌うことで、被災地への思いもお伝えできればと思います。

お寺でのコンサートは、外界と遮断されたコンサートホールとはまた違った良さがあります。山深いお寺では、風や差し込む光のざわめき。鳥や虫の声も聴こえるかもしれません。アーティストとオーディエンスの距離がとても近いのも大きな魅力です。

大貫さん自身も、お寺という空間で歌うことをポジティブに捉えています。

お寺のように風が通る空間では、周りの木や草や季節の“気”の助けを借りて歌う気持ち良さがすごくあります。ずっとホールでコンサートをしてきましたが、最近はこういった外界とつながっている空間のほうが楽しいですね。また、音楽はお客さまに向けるものであると同時に神々に奉納する意味もあります。そういう意味でも、今回のコンサートはすごく楽しみにしています。

大貫さんの歌声に映る“大自然の風景”

アメリカ自然史博物館ウェブサイト

古来より日本は自然崇拝が深く根付いており、「すべての自然に神が宿っている」として“八百万の神”を拝んできました。現代の音楽は、ほとんどが「人のため」に作られていますが、大貫さんが言うようにかつて音楽は「神楽」として神々に奉納されるものだったのです。

大貫さんは、自らの音楽に向き合うなかで“自然”とのつながりながら歌う感覚をつかみとってこられました。きっかけは、30歳の頃に訪れたニューヨークでの体験でした。

海外レコーディングのたびにミュージアムで写真や絵を見ていたのですが、あるとき人間の作りだす芸術を見続けることに疲れちゃって。あらゆる芸術の色もカタチも、全部もともと自然のなかにあるものじゃないか? 人が作ったものに感動するのもいいけれど、そのオリジナルである自然という大きなものをちゃんと自分のものにしないことには、音楽を作り続けられないと思いました。

そこで、大貫さんが足を運んだのはアメリカ自然史博物館(American Museum of Natural History)でした。ありのままの自然の姿を目にして大貫さんは衝撃を受けます。

自然には、本当にすばらしい色や形があって完成されている。すごいなあ! ってあらためて感動しました。ここにすべてがある、と思ったんです。自分にとっての表現があるなら、いちど自然と向き合わなくてはだめだと思いましたね。

ニューヨークから帰国すると、メディアプロデューサー羽仁未央さんから「アフリカの野生動物の映像を撮るから音楽を作ってください」というオファーが舞い込みます。まるで、大貫さんの心境の変化を知っていたかのような展開です。そして、「アフリカでの体験があまりにも楽しかった」ので、大貫さんは翌年に再びアフリカへ。その体験をつづったエッセイ『神さまの目覚まし時計(角川書店)』が出版されると、今度は新潮社の雑誌『Mother Nature’s』から「世界中を旅してエッセイを書いてほしい」と依頼されます。

84年から95年頃まで、ガラパゴス、南極、コスタリカ、アマゾン、五大陸は全部行ったんじゃないかな。アフリカには延べ一年くらいはいたと思います。都市にとっての環境とは、自然ではなく「人間環境」なんですね。本当は、人間は大きな自然のなかの一部なのに、人間関係は実際大きなストレスを生む原因になっています。それが視野を狭くすることに繋がっているのかもしれません。

「自分からはじまらないとだめだと思う」

大貫妙子さん
大自然の旅を続けながら、自分の身体と自然がつながっていること、食べることが生きることにつながっていることを実感し、大貫さんのライフスタイルは研ぎ澄まされたシンプルなものに変わっていきました。

自然をたくさん見続けていると、人が作りだすもののルーツも見えてきます。空気、水、食べ物。家族と人の絆。それさえあれば、ほとんどのものは必要じゃないんじゃないかと思うんです。

大貫さんは今、たとえば恋をテーマにした曲であっても、いつも心のなかに自然の風景を映しながら歌っているそうです。

日々に暮らす人のために音楽を続けているので、やはり人と人の関係を歌う曲が圧倒的に多いです。南極やアフリカは、あまりにも壮大で歌では表現しきれないから。でも、それを見た経験は自分のなかではつながっているし、歌うときはいつも壮大な景色を見ています。だから、言葉として託さなくても、声のなかには必ずその景色があるので、それも表現のひとつのあり方じゃないかな。人の声って多くの情報を持っているので、歌は表現として強いと思います。

歌うためのコンディションを整えるには、身体、そして命をつくる食べ物も大切です。7年前からは、秋田県で自ら田植えをしてお米作りもはじめました。食や環境、エネルギー問題についての発言も多い大貫さんですが、自らの体験をベースにした言葉には強い説得力があります。

ものを作る以前に、自分の暮らしや生き方のなかに大切だと思うことを常に忘れないようにしています。大自然のなかに入って、自然と一体になるには自分をチューニングしなければいけないから、チューニングできるラジオを持っているのがとても大事だと思います。都市のなかにも、人間をはるかに上回る数の命が存在しています。それを感じ続ける回路を常に持ち続けることが大事なんです。

人の社会を形づくっているのは、個である小さな細胞です。その個人がどう生きるかで社会は変わると思います。今ある社会の姿は自分の映し鏡であると思うなら、自分を差しおいて人に「ああしろ、こうしろ」っていうのは無責任なのではないかな、と思いますから。

大貫さんに聞く「よりよい未来のための暮らし方」

大貫さんのお話を聴いていると、歌うことから自分の身体を見つめ、自分の身体を通して命の根源である自然へと、ひとつひとつていねいに見つめておられることを強く感じました。たとえば「都市の中には、人間をはるかに上回る命が存在している」という言葉。頭では理解していても、本当に自分の身体と心でそれを感じ続けている人はそういないのではないでしょうか。

どうして、大貫さんはそんなふうに感じ続けることができているのでしょう?

メディアやまわりの声に惑わされていると自分がどうしたいのかがわからなくなります。「自分はこうしたい」あるいは「こう思う」という、自分で考えるということをもっとしなくてはいけないと思います。でも、頭よりむしろ身体の方が正直ですから、身体に問いかけることを正直に続けて、積み重ねていくことで自分らしく生きる方向性が定まっていくと思います。

最後に、greenz.jp読者に向けて「3.11以降の世界でより良い未来を作るためのメッセージ」をいただきました。

地球に住む以上、自然災害は必ずやってくるもの。それは受け入れるしかありません。でも、どんな理由があろうとも原発は辞めてもらいたいですね。震災以前から柏崎刈羽原発の再稼働を阻止する運動に参加していましたから、原発が危ないということは充分認識していたんです。だから、福島第一原発の事故は「ついに!」と頭を抱えました。想定外じゃなくて想定していたからすごく悔しかった。東日本大震災では本当にたくさんの方が亡くなっていて……。3.11から、ずっと同じ気持ちでいます。

人が幸せになるために、そんなにたくさんのものが必要でしょうか? みんなで変わるのはムリだとしたら、できる人からどんどんシンプルなライフスタイルに変えていけばいいと思います。10人、15人のコミュニティをたくさん作って、スキルやモノを交換しながらやっていくのもいいと思います。

大貫さんのインタビューを終えて「ああ、かっこいいと思える大人がいるのはありがたいことだな」としみじみ思いました。「こんな大人になりたい」と思う気持ちが、「より良い未来」につながっていくなら、これほど次世代を担うものにとって心強いことはありません。

いかがでしょう? 大貫さんに会いに、高野山へ行ってみたいと思いませんか? もし、そう思うなら、その思いをチケットに変えて秋の高野山を訪れてみてください。きっと、素晴らしい場所と時間が待っていると思います。

高野山 音まんだらコンサート vol.11 『語りかける音 歌う言葉。』
http://blog.sanboin.com/

音まんだらコンサートは、高野山別格本山 三宝院住職飛鷹全隆師の発願により、阪神淡路大震災でなくなられた方々の鎮魂の意味を込め、真言宗の仏教音楽である声明とアーティストの共演という形で2002年にスタート。すべての魂の慰めにと「天空の御霊に捧ぐ」というサブタイトルが当初あり、2011年は、東日本大震災で亡くなられた供養の思いを込めての開催。11回目を迎える今年は、日本のトップシンガー大貫妙子さんとギタリスト小倉博和さんを迎えての開催となります。

日時:11月11日(日)OPEN:14:00 / START 15:00
場所:高野山別格本山 三宝院 表広間(和歌山県伊都郡高野町高野山580)
料金:5000円(税込、整理番号付き自由席)/コンサート+宿坊一泊二食込み2万円
申込:高野山別格本山 三宝院 0736-56-2004(info[a]sanboin.com)
企画:SHOKEN.inc 
※当日は整理番号順に入場。コンサート後、18時より夜の食事「精進料理の夕餉の会」予約は5000円(税込)。
※当日は、祥見知生さん企画による展覧会『TABERU』も開催されます。

大貫妙子さんプロフィール
http://onukitaeko.jp/
シンガー&ソング・ライター、東京生まれ。1973年、山下達郎らとシュガー・ベイブを結成。76年『グレイ スカイズ』でソロ・デビュー。日本のポップ・ミュージックにおける女性シンガー&ソング・ライターの草分けのひとり。その独自の美意識に基づく繊細な音楽世界、飾らない透明な歌声で、多くの人を魅了している。新潮社「考える人」(季刊)にてエッセイ「私の暮らしかた」連載中。2010年秋には坂本龍一氏と共作のアルバムリリース、ツアーを行う。レコーディングや取材などで南極を含む6大陸を旅した経験や、日々の暮らしの視点から、環境、エネルギー、食料などの問題についての発言も多く、米作りや、東洋医学に基づく健康管理を実践する行動派でもある。

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