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Hub Tokyoのつくりかた – 槌屋詩野さん、片口美保子さん(中編)[インタビュー]

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このインタビューシリーズは、「あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア」を実現して、よりよい未来を自らの手でつくりだしている方々へのインタビューをお届けします。
特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

こんにちは、greenz.jp発行人鈴木菜央です。

今回も、前編に引き続いて、新世代型コワーキング・スペースであり、グローバル・ネットワークである「the HUB」の東京版を設立中の槌屋詩野さんと片口美保子さんにお話をお伺いします。

前編ではそもそもHubって何?という点について聞いてきましたが、中編ではさらに深く、Hubの魅力を探ってみたいと思います。

Hubは思想を育てる場所

鈴木菜央(以下鈴木) これまでHubのグローバルな広がりについて聞いてきたけど、Hub全体に共通する特徴はあるのかな?

槌屋詩野(以下槌屋) Hubは「思想」を育てる場所でもあるんですよ

鈴木 思想?

槌屋 今やっている仕事よりも、もうひとつ、上位概念というか。自分の毎日の活動で考えている頭とは違って、一つ上の抽象的な概念を考える頭を使い、みんなで話してシェアする、という行為ですね。

例えば、今言われている「ソーシャル」というのは、どういうことなのか? 「ソーシャル」とつけることで何が今までと違って、これからそれはどうなるのか?いや、結局「ソーシャル」って言葉にこだわらなくていいんだ、とか。

「ソーシャルデザイン」が生み出すプロセスとは何か。それが社会のどういう場で、どう使われていくのか、などのことを、各国の文脈で、各国のHubの中にいる人達が話している。そして、各国のHubで話されたことの、生の情報がそのまま持ち込まれて融合している場が、Hubなんですよ。まだ紙にもブログにも載っていない、生の思想が融合しあっていくんです。

その時に西洋の考え方を日本に持ってくるんではなくて、アジアの中の、日本の考え方やアイデアをぶつけてきて、そこから刺激を得られることを、各国のHub関係者は楽しみにしているんです。

Hubグローバルとしては、今はヨーロッパの比重が多い。それに対して、アジアからの参加者が少なすぎるという現状があります。そこで、アジアの拠点を増やそうとしているんです。そして、思想の融合までできるようになるのがHubの最終的な到達点。次の時代をつくるために、新しいグローバルな思想や共通認識をつくっていく。

孔子や荘子もそうだけど、ものすごくローカルに根付いているものを吸収しながら上に上がっていって、ものすごく上位概念で融合していく感じ。ソーシャルなビジネスに関わる人の多くは、土着性とモダンなビジネス手法の両方を行き来しなくてはならないですよね。

コミュニティとかを考えると、人間の本性を問い直したり、人間の行動を文化人類学的に観察したり、社会的動物である人間が作り出した社会という仕組みについても考えなくてはならない。その際に必要となってくるのが、各国の土着の思想や文化、そしてそれをベースとして作り上げていくビジネスのヒントなんです。

Hubは人が集まり、起業家が集まる、というだけでなく、そういう世界中の実践に基づいた「思想(think)」が集まる、シンクタンク(think-tank)的な機能を持ち、そこから次世代の、国境を超えた新しい思想を作っていかなければならない、と思ってる。

そのために信頼があり、各国のファウンダー同士が信頼し合っていて、(英語という意味ではなく)同じ言語を話せるコミュニティがあって、その人たちが年に2回集まってコミュニケーションを取りながら思想がまた広がっていく。そういうことがしたい。

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Hub zurichのスペースは二つの空間に分かれており、こちらがワークスペース。

鈴木 年に2回っていうのは、グローバルの集まり?

槌屋 グローバルの集まりは年に2回あります。すべてのファウンダーや運営メンバーが集まって、お互いのHubの戦略についてシェアしたりとか、失敗とか成功をシェアしたりとか、どういうトレンドや文脈があるのか、投資の仕方があるのかとか、そういう話をするんです。実際のつながりがあるから、また広がるんです。

鈴木 面白いね! 「グローバルな思想」まで行くんだね。

槌屋 Hubが目指しているのは、そこなんです。だからHubは、ただのコワーキング・スペースじゃない。いろんなファウンダーに会いましたけど、みんな禅僧みたいですよ。

片口美保子(以下片口) お坊さんみたいだよね。

槌屋 各地のHubファウンダーには、静かに喋り続ける人が多い。あと、どのファウンダーも、じーっと人の目を見る。「こんなに相手の目を覗き込むと、いろいろ勘違いされそうだよね〜」とか言いながら(笑)。だんだんわたしにも伝染って来て。もともと目ぎょろぎょろしてるけど…「この人には、何があるんだろう?」ってすごく見てしまう。

鈴木 そんなファウンダーたちが、平均28歳。今日本には閉塞感が広がってるって言われてますよね。日本で新しいことに挑戦しにくい雰囲気の中にいる私たちと、Hubのファウンダーたちの間には、どんな違いがあるんだろう?と考えてしまいますね。

日本は「チャンスだらけの国」

鈴木 greenz.jpを5年間やってきて思うのは、「生き方としてのソーシャルアントレプレナー」というか、「生き方としてのソーシャルデザイン」というか、そういうものがあるんじゃないか?ということなんです。

現代社会は、環境問題や社会問題が国境とか分野を超えてつながっている時代ですよね。教育、エネルギー、貧困、格差、政治の劣化なんかが、全部スパゲティ状態でつながっていて、どう解きほぐして、新しい社会を作ればいいか、誰も答えを持ち合わせていない。そういう感覚が日本を覆っている。かつての成功体験になぞらえて「もう一度経済成長を」みたいな話があるんだけど、でもそうじゃないってことを肌身でわかっている若い人たちもいて。でも彼らも反論できるほど、思考が明確になっていない。

でも、このHubのグローバルな動きを聞いていると、「新しい思想」を持って、ありとあらゆる新しい方法を総動員すれば、社会問題は解決できるんじゃないか?という希望が湧いてくる。しかも、そういう考え方を受け入れて、動いていくことで、ものすごく豊かな友人関係ができたり、ものすごく豊かな人生が待っている。「閉塞感?感じてる暇もないよ」みたいな感覚。そういう感覚がみんなを突き動かしているんじゃないか?

それが、生き方としての「ソーシャルデザイン」と言えるんじゃないかなと考えています。

槌屋 確かにそれはそうですね。

鈴木 こういう気持ちでみんなが生きていったら、日本なんて「チャンスだらけの国」なわけですよ。課題先進国なんだし。

槌屋 いっぱい市場がありますね。

鈴木 日本人にとって、日本が「チャンスだらけの国」だと思えるようになって、豊かに生きるためにも、Hubがすごくいいきっかけになるといいな。

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どこのHubでもキッチンスペースは笑いと会話の場。ここでの交流で、仕事以外の顔を知り、繋がって行く。

協創の成功体験をつくる

槌屋 ほんとそうですね。複雑な時代の問題だからこそ、その問題に関わる多様なステークホルダー(利害関係者)で解決しないといけない。けど、閉塞感を感じている人は、多様なステークホルダーによる協創での解決の成功体験がないんだと思うんですよ。「コラボレーション」や「コ・クリエーション(協創)」とか、なんでやっているのか、わからない。日本の閉塞感は、そこから来ていると思います。

協創の成功体験を生んでいくのは、旅みたいなものだと思います。すべての協創からアウトプットが出てくるわけじゃないから。自分が満足できなかったときに、「あ、これでおしまいだ」ってその場を離れてしまうのか、旅を続けるのかで、成功体験に出会う確率は全然違うと思う。

Hubではその旅を続けられるようにしたいと思っています。成功体験を持つ人がもっと増えて、その手法が、戦略的にその人たちとやる事業なり活動に取り込まれたらいいですよね。

ところで逆質問ですけど「コラボレーション」って、日本でどういう文脈で使われているんですかね?

鈴木 世の中、なんだか「コラボ祭り」状態ですよね。何かと何かを合わせていれば「コラボ」という単語を使う。概念が消費されちゃってる。多様なステークホルダーを集めていて、本当に対話的、協創的なアプローチは、ほんの一部ですね。

今、協創の成功体験がないって話がでましたが、日本には、変な成功体験がずっと残ってるような気がします。それは、「いつもプランAしかない」こと。

槌屋 プランBがない。

鈴木 そう、常に計画がひとつしかない。別の言い方をすると、ピラミッド型での成功体験しかない。ピラミッド型というのは、全体としてどうしていくかを、頂点の少人数で決めて、上から決定事項が降りてきて、全員がそれにむかって一気に突き進むカタチ。経営学者の野中郁次郎は、第二次世界大戦での日本の敗戦を研究する中で、「一点突破・全面展開主義」がその原因であると言っています。

戦後の高度経済成長とその後の崩壊も、学生運動がうまく行かなかったのも、今回の原発事故も、原因には、「一点突破・全面展開主義」があったんじゃないか? ひとつの戦略がうまくいっている間は最強に強いけれど、プランAが崩れた時に、総崩れする。

現代社会は強烈に複雑化した社会なので、そこで起きるあらゆる課題・問題は、「一点突破・全面展開主義」では絶対に解決できない。解決するためには、あらゆる立場から、当事者がみんなで集まって、問題の解決策を、小さいレベルから大きいレベルまで話し合って創りあげていく必要がある。もっと言えば、そのプロセスを社会の中に組み込んでいって、いつも問題を解決していく社会をつくっていかなきゃいけない。

原発問題で言えば、そうなったときに、究極的には誰一人として責任が取れない原子力みたいなものを、みんなのエネルギーとして選択しうるのか?みたいな、そんな議論までしていかなきゃいけないと思うんです。

槌屋 最後の答えまでやり続けるっていうのが重要ですよね。

鈴木 だから、「コラボ祭り」みたいな薄っぺらい取り組みじゃなくて、協創や真の意味でのコラボレーションを通じた成功体験を地道につくっていくしかないと思う。グリーンズは活動のあり方のすべてをコミュニティ化して、ダイアログアプローチを通して未来をつくっていくということを初めて1年くらい経つんですけど、まずはグリーンズのコミュニティでうまく行った事例をつくりたいなと思っています。

Hubと一般のコワーキングスペースとの違い

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Hub Viennaのワークスペース。決して閉じた場所ではないが、落ち着いて仕事ができる、という魔法の空間。

木村 Hubは、普通のコワーキング・スペースとは、どう違うんですか?

槌屋 ひとつは、ホスト(場の切り盛り屋)がいることですね。一人ひとりの社会起業家の状況がわかっていて、必要な人を繋げたり、「対話をフレームする」ってよくいうんですけど、さっき言った思想的なところまで含めて、いろんな人たちが集まる場所をつくり出したりして、回すホストがいるんです。

Hubではどこでもそうですね。「ホストすること」がすごく重要で。ホスピタリティとも違う。もてなすんじゃなくて、放っておく。でも、ただ放っておくだけでもだめで、場所をどうデザインすれば、出会いが誘発されるか?と考えて場所をつくる。わざと視線が合うようなものにしたり、機能的に優れていなくても、居心地が悪いからこそ人と話すようになる場の作り方だったり。そういう仕掛けですね。

それがイベントって時もあるし、ファシリテートする時もある。あとは人と人をつなぐ紹介も重要。入居してるアントレプレナーやイノベーターを理解してないと、紹介できない。その人が何を考えていて、どういう状況にあるか、その人が本当に欲しいものはなんなのか、ということがわかる人じゃないといけないんです。

Hubが他のコワーキング・スペースのビジネスモデルと違うのは、そういうホストに対してかなりきちんと、投資をするところです。だから人件費が結構かかる。それを削減しようとすれば出来るけど、そういう意味では、Hubを運営するのは辛い。だから、他のコワーキングスペースと違うところは、「結構辛い」とこかな?(笑)。でも絶対ものすごく面白い。集まるタレントも絶対面白い。それだけは自信を持って言えるけど、でも結構辛い(笑)。

Hubの3つのサービス

鈴木 さて、ちょっと話を変えるんだけど、イギリスの地方都市に住んでいる僕の友人が、ロンドンに住んでいないのにHubの会員になっているんですよ。「なんで?」って聞いたら、「Hubは1年に数回しか行けないけど、会員になっているだけで、僕にとってすごくメリットがあるんだ」と言うんですね。

一番ホットな活動について情報を得られたり、困ったことがあれば、助けを求めたり。ネットワークに属するためだけにお金を払う人がいるんだなって驚いた。Hubはどんなサービスを提供しているんでしょうか?

槌屋 Hubから提供するサービスは、大きく分けると3つあるんですね。一つ目が「Hubコネクション」で、月会費はロンドンの3箇所の場合10〜15ポンド(1500〜2500円)。Hubという場所を使うのではなく、ネットワークに参画するという会員です。今Hubグローバル全体で6000人の利用者がいて、その人たちがHub独自のSNSに入っています。

鈴木 独自開発のSNS?それとも既存のサービスを?

槌屋 NationalFieldというシステムです。私たちもまだこれから登録していく段階。まだ全部のHubでも導入しきってない状態ですけど、今でも多分3〜4000人が入っていて、いろんなコミュニケーションをしています。

「Hubコネクション」に参加している人たちには会員が開催するイベントの通知が来たり、入場料もディスカウントされる。そういう人たちを、「ときどきHub注射を打ちに来る人」って呼んでるんです(笑)。

鈴木 ニンニク注射みたいだな(笑)。

槌屋 普段の生活ではどんよりする時も多いけど、Hubに来ると、ガッとインスピレーションを受ける。そういう人たちに興奮を与えるのが私たちの仕事でもあるし、そういう人たちがその興奮を持ち帰って、実際にカタチにすることを助けるのが、私たちのサービスですね。

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ライブラリースペースは集中したりスカイプをしたりする場所。Hub Islingtonのライブラリーの居心地は抜群。

2つ目のサービスは、ワーキングスペースに入居するという形。月あたり何時間使いたいかによって料金が変わってきます。ロンドンのウェストミンスターの場合、月30時間(125ポンド=約15,000円)、50時間(195ポンド=22,000円)、100時間(295ポンド=34,000円)、無制限(475ポンド=54,000円)のコースがあって、その人のスタイルに合わせて選べるようになっています。

料金は都市によって違いますし、人気のコースも変わってきます。例えばTech系が多い場所は、カフェの代替として使われることが多いから月20時間が多かったりする。一方でソーシャルアントレプレナーが多い地域で密なコミュニティだと無制限が多かったりとか。エコシステムによってかなり違うんですね。

最後のサービスが、ストラテジックパートナーという制度。これはHubに入居している人たちと、外部の企業、研究機関、大学関係者、NPO関係者なんかを繋いでいくための制度。言わば、イノベーションのパイプラインを作っていく制度です。

Hub Tokyoでは、企業と連携して、新規事業やソーシャルイノベーションに関する部署の方に、Hub Tokyoへ入居してもらうことや、企業内起業家(イントラプレナー)と一緒にプロジェクトを行う場、そういったことに興味があるフリーランサーと企業の人々をつなげるマッチングの場づくりを考えています。

そういうプロジェクトは海外では結構成功しています。チューリッヒでは、ストラテジックパートナーをとてもうまく活用しています。世界自然保護基金(WWF)と一緒に社会起業家を選んで、その社会的事業を成長させていくインキュベーション活動をおこなっています。WWFの寄付で資金援助をし、その事業の成長過程もWWFにシェアされていきます。ので、WWFにとってはサステナブルな事業の成長や失敗プロセスをつぶさに観察できるし、マーケットの調査もできるし、経験が得られる。

その選ばれたフェローシッププログラムの社会起業家たちはHubに入居することによって、いろいろなサポートを受けられる。例えば法律的な部分や会計、メンタリング(精神的なサポート)など、そういう人たちのパイプラインをHubの中でつくっていくので、成長の度合いも早いと思います。

例えばWWFの場合はこのようなフェローシップですが、他にも企業がHub内の起業家と連携するプログラムは多種多様です。

それがHubができる3つのことです。

※インタビュー後編では、設立のプロセスから今後の展望まで、現在進行形のHub Tokyoについて聞いていきます。

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(左)槌屋詩野(つちや・しの)
社会イノベーター達が集う場「Hub Tokyo」のファウンディングチームのイニシエーターとして活動。株式会社Hub Tokyo代表。学生時代以降、日本とグローバルな市民社会の連携の場で活動。また、コンサルタントとして日系企業のソーシャル領域での新規事業開発や組織変革プロジェクトを数多く手がける。専門は途上国の社会起業事情(BOPビジネス)とソーシャルな事業をビジネス化すること。執筆は「MS.BOPの新興国ソーシャルビジネス最前線」「世界を変えるデザイン〜ものづくりには夢がある〜」(英治出版、監訳)など。

(右)片口美保子(かたぐち・みほこ)
「Hub Tokyo」のファウンディングチームにてオペレーションを担当。株式会社Hub Tokyo取締役。前職では外資系金融会社にて秘書職に従事。かたわらソーシャルベンチャーパートナーズ東京に所属、社会的な課題の解決に取り組む革新的な事業家や団体の支援に携わる。社会的事業や関わる現場の人と既存制度の乖離、企業の在り方に疑問を持ち、それらを繋ぐエコシステムやソーシャルファイナンスの育成を目指し活動中。