アプリは遊んで楽しむため?それとも、生活を便利にするため?
いえいえ、それだけではありません。新しいアプリの活用方法がここにありました。
それが、このiPhoneとiPadに対応した「Yum Yumかたちパズル」と「子ども静かにタイマー」。さっそくどんなアプリなのか、みてみましょう。
障がいを持った子どもも遊べるアプリ
「YumYumかたちパズル」(左)は、かわいいクッキーやチョコレートのピースを、パズルにあてはめて図形を作ったり、同じ形同士を組み合わせて遊べるアプリ。対象年齢は2歳から8歳ですが、中には1歳半で遊ぶお子さんもいるそう!パズルをうまくあてはめると、「三角形」などとその図形の名前が音声で出るので、楽しみながら基本的な図形とその名前を覚えることができます。
「子ども静かにタイマー」(右)は、画面の中で寝ているちょっと強面の犬を起こさないように、設定した時間静かにするアプリです。騒ぎがちで物事に集中することが困難なお子さんが、視覚情報を頼りに自分自身でコントロールする方法を身につけることができます。
どちらのアプリも一見かわいい子ども向けのようですが、実はどちらのアプリも障がいを持った子どもも楽しめるようにと開発されたもの。今では家庭だけでなく、学校や療育施設などでも活用されています。特に「子ども静かにタイマー」の方は、自閉症や注意欠陥・多動性障害(ADHD)がある子どもの特別なニーズに対応し開発されました。
障がいを持った子ども向けの知育アプリは、これまでにも開発されてこなかったわけではありません。しかし、簡単すぎてすぐに飽きてしまったり、逆に難しすぎて諦めてしまったりというものが少なくありませんでした。
そんな中、スモールステップで少しずつレベルが上がっていく学習支援アプリや生活支援アプリを開発しているのが、今回ご紹介する「キートン・コム」です。
ITの知識・プログラミングの技術×教育支援
キートンコムを創設したのは、今回お話を伺った三宮直也さん。もともと大学卒業後15年ほどIT業界で仕事をしていました。30歳を過ぎた頃「もっと自分にできることがあるのではないか」と考え始めたそうですが、そのキッカケは息子さんだったそうです。
10年ほど前、長男が3歳の頃に発達障害だと診断され、どう子育てをしてゆけばいいのか悩みました。仕事もしていたので、子育ては妻にまかせっきり。これではいけないと思いつつ、でも自分になにができるのだろうと悶々と考えていたんです。
この時には、自分の持っているITの知識やプログラミングの技術が、障がいを持った子どもの教育支援につながってくるなんて「思ってもみなかった」と言います。
2010年には次男も発達障害だと診断されたんですが、その頃たまたまiPod touchを子どもに渡したところ、やり方を教えてもいないのに楽しそうにゲームで遊び始めたんです。それを観た時に、この直感的なデバイスが療育に使えるのではないかと思い付きました。
iPod touchやiPhoneのもつ”自分で触って動かせる”と言う直観的な操作性は、子どもたちにとって楽しく興味をひくものだということに気付き、この時に「自分ができること」を活かせるのではと考えた三宮さん。さっそく当時勤めていた会社を退職し、障がいを持つ子どもの支援活動に本格的に取り組むことを決意しました。
広がる療育の現場でのスマートデバイス利用
ここ1~2年でiPhoneはもちろんiPadも広く普及し、特別支援教育の現場でも活用しようという動きが広まってきています。
2012年4月からは、東京大学先端科学技術研究センターとソフトバンクモバイル、ソフトバンクグループで教育事業を担うエデュアスが、スマートフォンやiPadを特別支援学校に貸し出しを行い、教育現場での実証実験を推進する「魔法のじゅうたんプロジェクト」を始めた事もその一つだと言えるでしょう。
では、そのメリットはどこにあるのでしょうか。
いろいろありますが、ひとつはコンパクトで簡単に持ち運べるので、外出中などいつでもどこでも使うことができるところです。福祉サービスを行う施設は都市部と比較して地方では少なく、療育支援が受けづらいという問題がありますが、地方はもちろん世界のどこでもネット経由で利用できるのも利点です。あとは、やはりタッチパネルによる直観的な操作性ですね。子どもたちが興味を持ちますし、楽しんでできるという点も大きいと思います。
他にも、運用コストが安くおさえられる点や、利用用途や子どものレベルに合わせてそれぞれカスタマイズできる点があるそうです。特に、カスタマイズできる点は紙の教材とは大きく異なるところで、子どもたちがそれぞれのペースで学習できるのが大きな強みとなっています。
しかし、課題もあります。50万以上あるアプリの中から、それぞれの子どもに合ったアプリを探すことの困難さをどう改善するか。そもそも療育に使えるアプリがまだまだ少なかったり専門家が少ないこと、またセキュリティーや情報リテラシーをどう高めていくか、などです。三宮さんは、この課題の解決にこれから取り組んでいきたいと言います。
ブログやソーシャルメディアを活用して、療育に使えるアプリの情報をもっともっと発信していきたいです。またセミナーやワークショップも月一回ペースで開催しています。お子さんや保護者、学校の先生などが参加する勉強会では、障がいを持つ子どものiPhone/iPad活用講座や、実際にアプリを体験してもらうワークショップなどを行っています。
ワークショップに参加された保護者からは「うちの子がこんなに集中している姿、初めて見ました!」という声も上がるそう!まず触ってみることができるような場づくりも大切なんですね。
テクノロジーが絶対ではない
「テクノロジーはあくまでツール。技術が直接人を助けるわけではなく、支援手段の一つとして活用したい」といいう三宮さん。スマートデバイスが持つ大きな可能性を信じつつも、障がいを持つ人の気持ちやニーズに応えることが大事だというスタンスは変わりません。
様々な支援方法のひとつの手段として、テクノロジーを活用してもらう。決して押し付けてはいけない…このことを最近は意識し活動を行っているそうです。
アプリの開発をするうえで、「楽しみながらできる」ということを大切にしています。学習が好きになるモチベーションを維持するために、「ゲームのチカラ」が有効だと思っています。ゲームというとマイナスのイメージを抱かれることも多いですが、ゲームと学びの融合を図っていきたいんです。
現在さらに2つのアプリを開発中だそうで、こちらの完成も楽しみ!開発しながら二人の息子さんに実際に遊んでもらうことで、予想外の改善個所がみつかったり、新しいアイデアが生まれたり、そうやって身近にリアルユーザーが存在することも「キートン・コム」の大きな強みであり、特徴なのでしょう。
日本を超えて、海外へ
また、今後はアプリの海外展開にも力を入れていきたいそう。
今も120か国以上で販売されていて、アメリカやロシア、ノルウェー、スウェーデンなど様々な国で使ってもらっています。でも、ユーザーの8割は日本。もっともっと海外へ広めていけるといいですね。
現在、「キートン・コム」が開発したアプリの言語は日本語と英語ですが、今後さらに対応言語が増えれば、幅広く世界で使われていく可能性が高まります。条件さえ整えばスケールアウトがしやすい点も大きな特徴の一つと言えるでしょう。
「自分にしかできないことを」「ないものはつくる」という言葉が、インタビュー中とても印象的だった三宮さん。自分の持っている技術で、社会に貢献するひとつの形を提示してくれました。
「キートン・コム」の開発するアプリ、今後さらに必要とされ、注目を浴びること間違いなしです。
(Text:高橋明日香)
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