ママの居場所がまちにない? だったらつくろう! ママが主催のイベントを市内最大級に育てた「摂津まるごとプロジェクト」新田昌恵さんに聞くつながりのつくり方

皆さんは今、自分が住んでいるまちが好きですか?
どんな理由で、そのまちに住んでいるのでしょうか?
夢を持って移住したり、何か可能性を感じてわくわくする思いで今の土地に住んでいる人もいるかもしれません。

しかし、配偶者の転勤や親の介護など、夢などとは無関係で今の土地にいるという人も少なくないでしょう。その土地で、住みやすい、自分の居場所をつくっていくにはどうしたらいいのでしょう?

「摂津まるごとマーケット」は、大阪府北東部にある摂津(せっつ)市で毎年9月に開催されているイベントです。「何もないといわれるまちを、子どもたちが誇れるまちにしたい」と願った母親たちが2013年にはじめたそのイベントは、初回から、行政・企業・商店・学校・大学・NPOや市民サークルなどが参加する市内最大級のイベントとなり、1日で3000人の来場者を記録。多くの市民が「摂津市にはこんなにたくさんの魅力があるんだ」と気づくきっかけになったといいます。

2016年には、地域活性の担い手の育成を目的に、NPO法人「摂津まるごとプロジェクト」を設立。摂津に暮らす人たちが、そのまちで暮らしもしごとも楽しめるつながりをつくり続けています。

この動きを立ち上げたのが、2010年に摂津市に移り住んだ新田昌恵さん。彼女がなぜ地域づくりをはじめたのか。それはどんなふうに継続されているのか。地域で「いかしあうつながり」をつくる彼女の思いをうかがってみたいと思います。

新田昌恵(にった・よしえ)
22歳で結婚、翌年長女を出産。長女5歳、次女4歳の時に大阪市からパートナーのご実家のある摂津市に引っ越し。半年後の2011年5月、子連れで楽しむ習い事サークル「マミー・クリスタル」を立ち上げる。集まったママたちの中から立ち上がったイベント「摂津まるごとマーケット」は、初回で約3000人が集まる市最大級のイベントとなった。2016年、経産省近畿経済産業局主催の女性起業家応援事業「LED関西」でファイナリストに。同年NPO法人摂津まるごとプロジェクトを設立。地域活性化につながる企画のプロデュースなどを行っている。

ママ自身が自分のことを話せる場所がほしい。
ないなら、私がつくる

新田さんが住む摂津市は、大阪市中心部(梅田)から北東へ電車で30分ほど、北摂とよばれるエリアにある7市3町のうちのひとつです。大阪府民にとって北摂は、「緑が多い」「治安がいい」「なんとなく高級住宅街」というように、比較的良いブランドイメージがあるところ。ですが新田さんはこう言います。

北摂7市のなかでは、住んでる人の実感として「何もない」というイメージなんですよ。たとえば、吹田市には万博記念公園があるし、茨木市は利便性が高い。比べてみると摂津市には「何があるん? どこにあるん?」と言われることが多くて、ここだけ切り離されたイメージなんです。

そんな摂津市に新田さんご家族が越してきたのは、2010年12月。当時5歳と4歳の幼子を育てる専業主婦だった新田さんは、知らない土地で日々の育児に追われるなかで「自分の時間がほしい」と切望します。

地域の子育て支援では、子どもを遊ばせることはできても自分のための時間をとることはできず、私にはフィットしなかったんです。「ママ自身がもっと楽しめる居場所が摂津市にないのかなあ」とインターネットで検索しても、何も出てこない。けれど、私と同じように、子どもがいても何かを学びたい人、自分の楽しみがほしいママはもっといるはず。「ないなら、私がつくろう」と思ったのがきっかけでした。

そうして、当時流行していたSNS「mixi」のコミュニティで立ち上げたのが、先生も生徒もママ、子連れ参加がOKの習い事サークル「マミー・クリスタル」でした。

「子どもを預けてまで自分の時間を優先できない」と悩むママたちが、子どもとともに、新しい学びや出会いを得られる場所。また、子育てに入ったことで資格やスキルを生かせていないママたちが、自分の得意なことで人とつながれる場所。そのコンセプトは摂津のママたちに瞬時に支持され、コミュニティ参加登録者は立ち上げからわずか1週間で50人に増加します。

マミー・クリスタルのハンドメイドイベントの時の風景。親子で楽しめるのがいい。

さらに新田さんは、リアルな集まりでも、「ママたちの居場所」をしっかりとつくっていきました。

イベントをするときは、最初に30分くらいかけて一人ひとり自己紹介をしてもらうんですよ。名前と住んでいる地域、子どもの年齢に加え、毎回異なるテーマ、例えば「夏休みの思い出」とか「夢って何?」というテーマで話してもらっています。自己紹介は、初めてマミー・クリスタルでレッスンの時間を持ったときからずっと続けています。

育児がはじまると、会話するのは子どものことばかり。母親は自分がそれまで何をしていたのか、どんなことに関心があるのか、自分自身が自分のことを置き去りにしてしまいます。そんな育児中のママにとって、自分の話を聞いてもらえる機会はどんなにありがたかったことでしょう。

自分のことを話すことで自信もつくし、ママじゃなくて「私」という存在があるんだ、ということに気づく瞬間というか。

サークル立ち上げから約2年経つ頃には、会員数も500名近くに成長していきます。そのメンバー数人の中から、「摂津で何かイベントやりたいね」という声が挙がったのが「摂津まるごとマーケット」のはじまりでした。

子どもたちに、自分が育つまちを好きになってほしい

「マミー・クリスタル」に集まるハンドメイドが得意なママたちは、他市で開催されるイベントに出店していたのですが、摂津市には同じようなイベントがありません。「発表できる場所が欲しいね、イベントやりたいね」と話をするうちに、企画はどんどん膨らんでいき、「小さい子どもたちからおじいちゃんおばあちゃんまで、地域の良さをまるごと詰め込んだイベントにしたい」と発展していきました。

自分たちが満たされてくると、地域に何か還元したいって思うんですよね。最初は「ハンドメイド作品の発表の場がほしい」からはじまったけど、やっぱりママたちには、「子どもたちがこの地域でどんなふうに育つんだろう?」という思いがあったんです。

摂津って、住んでいる人が地域に誇りを持っていないという地域性があるようなんです。摂津で育った私の旦那さんも、「摂津なんて何もないし」って、自分の町を自虐的に話す。対して私は大阪市内で一番にぎやかと言われる商店街の近くで育って、地元のお祭りが大好きで、いい思い出もいっぱいあるんですよ。

これから自分の子どもたちが摂津で育っていくのに、子どもも旦那さんと同じように「摂津なんて」と思うのかな、と思ったらすごく寂しいな、と。私が生まれ育った町を好きなように、子どもたちにも摂津を好きになってほしい。サークルに集まるママたちのなかにも同じように感じている人がいっぱいいて、じゃあ「子どもたちが地域に誇りを持てるように、摂津もすごいことやってるな、と思ってもらえるような地域の良さを詰め込んだ大きなイベントにしよう」となりました。

第一回のチラシ:イラストの子どもが話す「パパ、ママ、摂津はまるごと楽しいね」のコピーに、当時の思いが込められている

この時点ですでに新田さんの頭の中には、「マーケットのイメージが完璧にできあがっていた」と言います。さっそく摂津市駅前にある市の施設を仮予約。そのとき、市民活動支援課の担当者から、「まさにこういった活動が、これからの摂津市には必要」と応援されて市民公益活動補助金を紹介され、行政に対して初の申請とプレゼンテーションを行い、補助金を獲得します。

費用面では、補助金に頼らずとも運営できるように企業から出展料や協賛を募ったほか、地域の飲食店を自分たちで取材・編集した地域情報誌「摂津まるごとナビ」を制作し、広告収入を確保。

「地域がまるごと参加する」を実現するため、商工会議所を通して地域のお店に出店を依頼したり、コミュニティプラザを利用している市民サークルなどに協力・出演を依頼してまわったり。さらに、小学校でチラシを配布してもらうために教育委員会に出向くなど、全方面にアプローチしました。

これらを、新田さんを実行委員長として、たった6人のメンバーで奔走。「イベントをしたい」と会場予約をした日から実施日まで約5ヵ月。このエネルギーは一体どこから出てくるのでしょう?

 「ないものはつくりたい」という気持ちが先行しちゃうんですよね(笑) 誰もやっていないことをしてみたい。いつも「自分はどこまでできるかな?」とか、まだ見えてない景色を探しているようなところがあるかもしれません。

こうして開催した初回の「摂津まるごとマーケット」は、大阪府・摂津市・摂津市教育委員会・摂津市商工会の後援、8企業の協賛、地域の商店、市民団体などすべてを巻き込み、約60ブースの出店、来場者数は約3000名と、大成功をおさめました。「子育てママがつくる、市民・ 企業・行政が一体となった新しいイベント」として、摂津市外からも視察に来たほか、メディアからの取材も数多くあったといいます。

初回の「摂津まるごとマーケット」開催時の様子。

もうやめられないイベントになっていた

市民から期待されるイベントになったことで、第2回も継続して実施されました。しかし3年目にして継続の危機が訪れます。

2回目までは勢いがあるから、出展したいママたちが実行委員になってくれたんですけど、3年目からそれでは立ち行かなくなってきたんです。規模も大きくなり、ボランティア精神だけでは継続できないような仕事の量と内容…。誰にも「助けて」と言えず、イベント前の行政、商店、企業などいろいろな人とのやりとりをほぼ私ひとりで抱えてしまったんですよね。

3回目を迎えるまで「マーケットはもう無理ではないか」と考えていた新田さん。そんな彼女を再び奮起させたのは、参加者から回収した数百枚にわたるアンケートや、参加者からの生の声でした。

「摂津がほんとうにまるごと参加するイベントなんですね。」
「来年もぜひお願いします!」
「とてもよかった。子どもたちもとても楽しんでいました。」

そんな声に「この事業は地域から求められているんだな。もうやめられないんだな」と思った新田さんは、地域づくりの担い手育成を目的に、2016年、NPO法人「摂津まるごとプロジェクト」を設立。理念は「摂津まるごとマーケット」と同じく「摂津をもっとわくわくするまちに」ということに加えて、「夢も暮らしもしごとも地域で創る 市民から生まれた地域プロジェクト」と掲げました。

生活しているところで暮らしも仕事もつくっていけたらいいなと。とくに女性は、妊娠・出産・子育てという段階の中で、あるいは親の介護とかで、すごく自分の環境が変えられてしまうじゃないですか。そういうときに動ける場所って自分の住んでいる地域でしかない。だからその地域が楽しかったり、そこで仕事ができたらすごくいいなと。地域が盛り上がると、仕事も暮らしも、全部地域でできちゃうみたいな。

現在、「摂津まるごとプロジェクト」では、「地域に役立つ仕事で起業をしたい」「地域とつながる生き方・働き方を実現したい」と思う人向けにセミナーを開催し、各専門機関と連携して、次のステップへ向かうサポートを行う「摂津まるごと大学」や、マーケットに出店した人が日常的にアンテナショップやワークショップを開いたり、地域課題を解決したい起業家が集ったりできるような拠点づくりを、せっつNPOセンターにて行っています。

もちろん、「摂津まるごとマーケット」をはじめとする地域活性イベントの企画・運営事業、摂津市の地域情報を集めた「摂津まるごとナビ」のWeb化・冊子発行も実施しています。

こうした取り組みにより「摂津まるごと大学」の修了生から、新田さんに次ぐマーケットの実行委員長が誕生。2017年(5回目)のマーケットからは黒田美幸さんが実行委員長を務めています。また、「マミー・クリスタル」の代表も松田綾子さんに交代されています。

実行委員長を完全に任せて開催された今年9月の摂津まるごとマーケットは、雨天の中、過去最大規模の来場者数5000人超、出店70ブース、ステージ出演17団体を記録。写真はステージプログラムに出演した子どもたち。生き生きした表情は、まちの宝物だ。ちなみに「マミー・クリスタル」も、代表交代後に登録者数は約1000人近くにまで増えているそう

地域づくりも、水と一緒で循環が大事だと思うんです。ずっと同じところに留まっていたらよどんでくるから、次の人にバトンを渡していかないといけない。今実行委員長をしてくれている黒田も「マミー・クリスタル」代表の松田も「次のステップに行きたいな」と思ったときにはすぐに移れるべきだし。自分の年齢も子どもの年齢も周りもみんな変わっていくのに、同じ人がいたらいけないなというのがいつもどこかにあります。

私自身もいつまでもママではないし、摂津にずっといるかどうかはわからない。その時々で今の自分が望むこと、できること、すべきことを考えていたら、今していることは手放さざるを得ないし、同じ階段にいたくないんでしょうね。登って、登って、登って。乗り越えると、見える世界が変わってくるというか。そこがおもしろいのかな。

「マミー・クリスタル」を立ち上げたときは5歳と4歳だった新田さんのお子さんたちも、今は中学1年生と小学5年生。ご自身の環境も「自分の居場所がほしい」と願った7年前からずいぶんと様変わりしました。そして実は取材時、新田さんは3人目を妊娠中。確かなつながりを築いたこのまちで、またひとつ、新しい命を育もうとしています。

3人目ができたからかどうかわからないけれど、今、「マミー・クリスタル」に再び力を入れたいなと思っています。NPOはNPOで、摂津というまちでみんなの居場所ができるよう足元を固めていきながら、同時に、「マミー・クリスタル」を全国に広めていきたいなと。日本中にあるコンビニのように「そこに行けば、いつもと同じ」という安心感。女性がどこに引越しをしても、安心して子育てできる環境があるといい。そういう環境をつくりたいなと思っているんです。

マミー・クリスタルの運営ノウハウをまとめた一冊を作成。他府県はじめ様々な人から運営について問い合わせがあり、制作したそう。「自分のまちでもやりたい」と思った方は、ぜひ問い合わせてみてください

住んでいるまちで、暮らしも仕事もつくっていきたい。そんなふうに感じている人は、筆者も含めて全国にたくさんいると思います。

「自分の居場所がほしい」という新田さんの切実な願いが、同じ境遇にいる女性たちの間で共鳴しあい、大きなうねりになっていったように、いま自分が感じている悩みや課題を飲み込まずに吐き出してみること。それが自分自身を生かしつつ、周囲とつながって生きる第一歩ではないでしょうか。


(Text: 立藤慶子)