日本の各地で、過疎の問題や自然資源を失いつつあることは深刻な問題です。多くの人がそのことに気付きながらも、変わらず経済社会でジレンマの中にいます。
そんな中「ここにある資源を百年先に残すために」、具体的なモデルを生み出そうとする社学一体の学校「土佐山アカデミー」が、土佐山に開校します。いわゆる学校とは少し違い、参加者は3ヵ月間土佐山に住み込み、ここをフィールドに地元の資源を社会に還元できる仕組みを作っていく、プロジェクトを実践する場。「自然の中で人はどう生きられるのか?」この問いに挑む機会と、ほかの場にも持ち帰れる体験を提供します。
<なぜ、土佐山か?>
高知県の旧土佐山村は、高知市から車で30分ほどの場所にある人口1080人の小さな集落。高知市は、2005年に吸収合併したこの土佐山を、もっと活かすこができないかと頭を悩ませてきました。そこでたてられたのが「土佐山百年構想」。このことは、以前こちらの記事でも少しご紹介しましたが、その中でもさっそく具体的に形になろうとしているのが「土佐山アカデミー」です。地域の資源を生かして仕事をつくる社学一体の学校として、第Ⅰ期が2012年1月より開校します。
土佐山アカデミーでは、この地に残る資源を社会に活かしながら、百年先まで残すことを大きな目標としています。参加する生徒は、土佐山をフィールドに課題を発掘し、ここの資源を持続的に活用するためのプロジェクトを企画します。そのために必要な知識やサポートを得られる場が土佐山アカデミーのプログラムです。
エデュケーションディレクターである内野加奈子さんは、こう語ります。
土佐山は、人と自然の関係が強く、そこに住む人々はここが世界一の場所だと思って暮らしています。私たちはまず、この土佐山に豊富に残る人や自然、知恵を、百年先にも伝えたいと考えました。
安全な水、食がそれだけで価値をもつ時代に、土佐山には価値あるものが沢山あります。すでにあるものを活かすこと。そのために私たちには何ができるのか。フィールドも、教材も土佐山にありますが、土佐山の抱える課題は日本の各地に共通していえること。
ここでの体験は、他の場所へ持ち帰って活かせると思います。土佐山に関わった人々が、その後自然と関わり、地域で暮らしていく際に支えになる考え方やネットワークを得られる場であればと思っています。
<何をするのか?何を学べるのか?>
土佐山アカデミーで、もっとも大切にされるのがアクションラーニングです。参加者は、土佐山アカデミーが考える、三つの大切な資源カテゴリー(水・土・人)から一つを選び、地域や協力機関と連携しながらプロジェクトを進めます。
例えば、土佐山の川を使った水力発電の可能性や、豊かな土づくり、人であれば過疎化の問題や世代間交流をどうしていくのかなどの課題。
まずこのアクションラーニングが中心にあり、その実現のために必要な知識や考え方を、講義やフィールドトリップを通して学ぶのです。
講師やフィールドトリップ先の候補を見ても、かなり本格的な内容であることがわかります。正式にはまだ公表されていませんが、エコツーリズムや林業、農業、木工芸など実地で自然に携わる方々や、大学で地域連携機構に携わる教授、NPO・企業の代表から自然のこと、自然に関わる考え方を学びます。一方、いまや全国に知られる、地域活性事業の先人からプロジェクトの進め方を学び、フィールドトリップでは、高知の豊かな森林や河川での現場調査を実際に行います。
毎日2コマ(午前、午後1コマずつ)×5日間で、週に10コマのうち、毎週2コマはフィールドトリップ、4コマはアクションラーニングに割かれます。
このプログラムに参加することになれば、3か月間をどっぷりと土佐山に浸ることになります。第Ⅰ期の授業料は、土佐山の民家をシェアハウスとして住む分の家賃を込みで3ヵ月間で29万8000円。光熱費、食費は別に、目安として月3万円(3ヵ月で約10万円弱)ほどあれば大丈夫とのこと。
そして、この学校の志の高さをうかがわせるのが、応募した誰もが参加できるわけではないことです。自然に対してどんな思いを持っている人か? 一緒に何かを作っていけそうか? そんな視点から、まず第Ⅰ期には10名が選ばれます。(第Ⅱ期には6か月のプログラム、20名募集の予定)
応募課題は、以下の二つ。
——————–
1. あなたにとって「Sustainable」とは何ですか?ご自分の好きな表現方法でお伝え下さい。印刷物、DVD、ブログ、ウェブサイト等、表現方法は問いません。
2. アクションラーニングの地域資源カテゴリー「土・水・人」の中からあなたが取り組みたいテーマを一つ選び、その理由を文章で述べて下さい。手書き・印刷は問いません。
——————–
目指すもの
土佐山が目指すのは「自然の中の人のあり方」を探ること、と本校のアドバイザーであるジョン氏は言います。
自然はサステナブルなもの。そのままであれば何の問題もないのです。問題は人。人が関わることで問題が起こる。例えば、人間が自分の食べる食糧を作るのには問題がなくても、そこで商売しよう、お金にしようとなると、大量生産のために農薬を使うなど、問題が起こってくる。そのラインをもう一度見直したいと思うのです。
自然に負担をかけずに人がきちんと暮らしていけるための境界線をどこに引くのか?そのラインを作り直すのが、土佐山アカデミーの仕事だと思っています。
10月15日に行われたローンチイベントでは、スイッチパブリッシングの新井敏記編集長を招いてのトークイベントが行われました。新井さんが話に挙げたのは、アラスカに移り住み野性の動物や自然の写真を撮り続けた星野道夫氏のこと。星野氏は、自然を「ただ見てきれいだとか、感動するというだけでなく、自分たちの食糧を得る場、生かしてくれる場」と見ていたことが紹介されました。
土佐山アカデミーでは、たびたび「ネイチャー・ジーニアス」という言葉が使われます。
ネイチャージーニアスとは、
「地域・自然とポジティブに関わり、自然をよみとる知見をもち、人が暮らしていける循環の仕組みを作れる人」
のこと。
人が自然の一部として暮らし、百年先にその文化を伝える担い手である、ネイチャージーニアスが集い、生まれる場として、土佐山アカデミーは来年開校します。
土佐山アカデミーを知る
- 「土佐山アカデミー」公式サイト
「土佐山アカデミー」の資料を申し込む