国際ボランティア・デーの12月5日(土)、ボランティアの新しい概念である“プロボノ”をテーマにしたフォーラム「Hello, PRO BONO」が行われた。日本ではまだ聞きなれない“プロボノ”だが、人々の関心は高く、当日は入場前から列ができ、用意された約350席がほぼ満席となる盛況ぶり。今日は熱気に包まれた当日の様子を、レポートでお届けします。
知的で新しい、スキル・ボランティア、上陸
というキャッチフレーズが示すとおり、このフォーラムは、この規模では恐らく日本で初めて、“プロボノ”をメインテーマにしたイベントとなった。“プロボノ元年”と言われる2010年を前に、その概念について認知を広める目的で開催されたものだ。
(プロボノの定義や考え方については「ビジネスパーソンが社会貢献できる最も効果的な方法!?“プロボノ”ついに日本上陸!」をご一読ください。)
生駒芳子さんの軽快な司会進行により、トークセッション形式でフォーラムはスタートした。
■セッション1 「プロボノを知ろう」
スピーカー:小黒一三さん(ソトコト編集長)、地花くららさん、嵯峨生馬さん(サービスグラント)
まずは嵯峨氏より、米国におけるプロボノの最新情報として、サンフランシスコを拠点としてプロボノ活動に専門的に取り組むNPO「Taproot Foundation」の映像が放映され、さらに日本でのプロボノ活動の現状についても説明がなされた。
映像では、いきいきとプロボノ活動に取り組む人々の様子が映し出されたが、彼らは企業での仕事とプロボノの違いについて、他の業界の社会人と出会えること、自分のスキルを他で活かすことで新たな発見があること、ふだんの自分の仕事のすばらしさを実感できることなどと語った。
知花くららさんも自分の言葉でプロボノについて“心から賛同できる”と熱く語り、仕事ともボランティアとも違う、プロボノ活動について、その魅力を伝えた。
■セッション2 「プロボノのニーズ」
NPOを代表して、2つの組織によるプレゼンテーションが行われた。女性の産後ケアをテーマに活動する「マドレボニータ」、病児保育を専門に取り扱う「フローレンス」は、共にサービスグラントのプログラムで支援を受けているが、アイデアをビジネスにしていく“チーム力”は、経営コンサルやプロジェクト推進を専門とする方々のプロボノによって成り立っているのだという。
マドレボニータの例では産後女性の課題をまとめた『産後白書』の発行において、働きたくてうずうずしている産後女性のプロボノ活動にも助けられているのだとか。プロボノ活動がNPO活動を推進する上で必要不可欠であることを熱く語った2人の女性が、会場全体に笑顔とパワーを送っていた。
■セッション3 「プロボノが当たり前の仕事場」
プロボノ活動を義務化して罰金制度までも設けているという第二東京弁護士会、そしてNPOに対し無償でコンサルを行う活動を続けている米系経営コンサル会社ベイン・アンド・カンパニーからゲストを招き、日本におけるプロボノ活動の事例が紹介された。プロボノ活動にやりがいを持って取り組む若者の姿や、プロボノ活動が入社の動機にさえなっているという現状から、日本にも芽生えつつあるプロボノの息吹を確実に感じ取ることができた。
■セッション4 「ネットでできるプロボノ」
日本最大のQ&Aコミュニティ「OKWave」代表の兼元氏と、その回答者がリアル空間に集結するという貴重なトークセッションが展開された。それぞれ、科学者、保険会社、英語の翻訳という専門スキルをOKWaveの回答者として活かしている3名のゲストが、そのやりがいや実情について語り合った。
“アボガドロ定数とは?”といったかなり難しい質問に対しても、小学生のような分かりやすい言葉で回答する専門家たち。たとえマニアックなスキルであっても、ネットという広い世界においては、だれかの悩みの一助となることができる。その小さな出会いも、立派なプロボノの1つなのだ。このセッションの最後には、社長自らが感謝状を手渡す場面も。ネットの世界での情報発信は「ボランティア」という意識はないかもしれないが、例えばtwitterでのあなたの小さなつぶやきが誰かの役に立っているということだってありうる。来場者も、ネットの世界でもできてしまうプロボノの手軽さを実感し、理解を深めていた様子だ。
■セッション5 「2010年は“プロボノ”元年」
既にプロボノを経験した3名が登壇。総合商社勤務の男性、広告代理店勤務の女性、そしてgreenz.jpからはYOSHが経験者としてそのやりがいとメリットについて語りあった。
仕事のスキルを社会貢献に活かせるのはもちろんだが、キャリアアップや自身のネットワークを広げるためにもプロボノは有効なのだとか。一方で、プロボノでは自分の興味のあるものを選択しないと続かなかったり、チームが上手くいかずに途中でやめてしまう人もいるとの声も。無理なく続けるために、そのやり方と時間配分、自分の立ち位置を見極めて始めることの重要性を語り、一筋縄ではいかないプロボノ活動の一面も垣間見ることができた。
■ワークショップ
トークセッション後、ご覧のような紙が全員に配られ、6人一組でのワークショップが展開された。それぞれが何ができるかを考え、プロボノに捧げる時間を宣言。会場内の合計を足すと…
なんと約3万時間に。これを経済価値で換算すると、1億円を越える金額になるのだそう。宣言にはもちろん強制力はないが、会場に足を運んだ人だけでもこういった大きな力になる、というポジティブな空気が一段と鮮明になった瞬間だった。
最後にはサンフランシスコへのメッセージとして、全員で“Do it Pro-Bono!!”の宣言。日本の未来は明るいのか!?それは来年の流行語大賞でわかるかも、です。
さて、プロボノについて、よく言われるのは「ボランティア」との違い。フォーラムを取材した私個人の意見としては、プロボノはどちらかというと「ボランティア」というより、「お金以外の価値を生み出す仕事」という説明の方がしっくりくる気がしている。経験値ゼロからはじめるイメージの強い「ボランティア」という言葉よりも、実際の活動は、より「仕事」に近いと感じる。その違いは、生み出した価値の対価をお金として受け取るか否か。プロボノにはお金と言う形の報酬はないが、自分で好きな仕事(や、クライアント)を選べるというメリットがあるし、お金とは違う部分の達成感や満足感を得ることができるだろう。
たとえば、自分の仕事の意義が見えなくなっている人やNPOなどへの転職や独立を考えている人、「ボランティア」という言葉に少し暗く重たい印象を抱いている人は、一度「プロボノ」=「お金以外の価値を生み出す仕事」をやってみるとよいだろう。自分の仕事とプロボノ、その両方を行うことが、それぞれの価値や意義を改めて見直すきっかけとなり、結果として自分自身の生き方をきちんと整理できることにもつながるはずだ。
こういったライフスタイルは、ソーシャルエコノミーという新たな価値が生まれた現代を生きるビジネスパーソンに、ぜひオススメしたい。この時代を気持ちよく生きるために必要な、生き方の新バランスといってもいいかもしれない。
さて、あなたにとってのプロボノとは?自分の仕事を、そして人生を考えるきっかけに、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
ストリーミングでもフォーラムの様子を見てみよう