「これからはフェスティバルよりも、成熟した日常のマーケットを」水野俊弥さん(後編)【小商いで自由に暮らす】

コーヒー屋「珈琲 抱/HUG」を経営する水野俊弥さんは、房総いすみ地域の〝マーケット黎明期〟を知るマーケットプロデューサーでもある。当地のマーケット文化の発端となった「ナチュラルライフマーケット」の運営に関わり、震災後に立ち上げた「房総スターマーケット」を、毎回1500人を集客する大イベントにまで育て上げた。

地域のマーケット文化を牽引してきた水野さんが感じている、マーケットが地域に果たす役割と、これからのあり方とは?

(※前編はこちらをクリック!)

「珈琲 抱/HUG」の水野俊弥さん。

水野俊弥(みずの・しゅんや)
房総スターマーケット実行委員。2006年、妻と子ども一人を連れて東京から夷隅郡大多喜町へ移住。2007年から「ナチュラルライフマーケット」の運営に関わり、2010年に自身のコーヒー店「珈琲 抱/HUG」をオープン。2011年に「房総スターマーケット」を立ち上げた。

「顔を合わせて会話して、人と人とがつながるマーケット」が理想

──最近のマーケット出店者には、実店舗を持たない人も多いようですが、ナチュラルライフマーケットや房総スターマーケットの出店者はどうでしたか?

水野 半々くらいです。開催側としては実店舗のあるなしにかかわらず、いいなと思う人には声をかけていましたし。たとえば現在、茂原市で洋菓子店を構えている人は、スタートは自宅の工房でした。「これからパートで働きながら、ケーキを作って少しずつ売っていこうと思うんです」と言っていたんですが、試食させてもらうとクオリティがすごく高くて、おいしいことに驚いた。それでマーケットに出てもらうようになったら、あっという間に人気店に。やがて、マーケットを卒業して実店舗を開きました。そういう人も何人かいます。

かと思えば、もともと店舗を持っていて、けれど売上が少ないのでマーケットに出店するうちに、お客さんが付いて店舗も繁盛するようになった。それでマーケットを卒業していった人もいます。



──マーケットの運営が赤字になることはありませんでしたか?

なりかけたことはあります。マーケット会場はだいたい鉄道駅から遠くて、お客さんを駅からピストン輸送したり、近隣の駐車場をまわるのに20〜30人乗りのマイクロバスを借りる必要があるんです。これが1台で1日4万円くらいかかって、2台で8万円。プラス、交通整理をする警備員を雇うと1日10万円。1日のマーケット開催に最低18万円くらいは必要なんですが、これを毎回、出店者からいただく出店料で賄います。少しでも経費がかさむと赤字になる。

房総いすみ地域には、行列のできるマーケットも増えてきた。



──するとマーケットの運営そのものは、利益が出るわけではない?

水野 ほとんど出ないですね。マーケットの規模が大きくなっても、そのぶん経費も増えるし、管理面の負担も大きくなりますから。

マーケット運営は、継続していくことが大きな課題です。房総スターマーケットも回を重ねるごとに、開催会場のキャパを超えるほどの来場者が訪れるイベントになっていきました。でも同時に、毎週のようにあちこちでマーケットが開催され始めたのを見て、最初に考えていた役割は果たせたなと思えてきたんです。それで2015年に、これまでのような形態としてはいったん終了することにしました。

マーケットでは各種ワークショップが行われることも。

水野さんの作った「房総スターマーケット」以降、地域では個人の立ち上げるマーケットが増えた。

──毎回楽しみにしている人も多かったでしょうし、大きな決断でしたね。

水野 房総スターマーケットは、回を重ねて規模が大きくなるほど、マーケットというよりフェスティバル、お祭りのようになっていったんですよね。地元の高校の吹奏楽部が演奏したり、地域活性化に貢献する面もあったんですが、会場内はかなり混雑していて、「顔を合わせて会話して、人と人とがつながるマーケット」という理想からの乖離を感じ始めたのも大きな理由でした。そうした経験もあって、今後は、もう少し成熟したマーケットを作ることにチャレンジしてみたいと考えています。

以前、パリのラスパイユ通りで開かれている歴史あるオーガニックマーケットに行ったことがあるんですが、そこにはオーガニックの食材がズラッと並んでいて、農家もいれば養蜂家もいる。ほとんどが毎月、足を運ぶというリピーターで、マーケットが出店者とお客さんのふだんの生活になじんでいるんです。あくまでも日常の範ちゅうにありながら、売っているものは非常にハイクオリティというところが、すばらしいと感じました。そこに理想を置いて、淡々と静かに続いていくマーケットを作ってみたい。

お話を伺った水野さんのコーヒー店「珈琲 抱/HUG」。

──土地にしっかり根ざしたマーケット文化を作っていこうということですね。最初は店の売上を増やすことが目的だったマーケットの運営を、これからもやっていこうとするのは、なぜなんでしょう?

水野 マーケットで目をキラキラさせて商品を見ているお客さんや、「あれがおいしそう」「買ってくれてありがとう」というやりとりを見ていると、企画して良かったと感じるから。それに、ぼく自身も出店者さんから「企画してくれてありがとう」と言われると、やっぱりすごくうれしい。続けることは大変ですが、そのぶん期待感や信頼が後からついてきて、自分自身の商売の後押しになっている面もあります。
 
また、最初は出店者とお客さんという一本の糸だった関係性が、開催の数を重ねていくと、お客さん同士の「あそこのマーケット楽しかったよ」「あの店が良かったよ」という情報交換で、いろいろな糸が縦横無尽に折り重なって織物のような模様が紡がれていくんです。これが地域を、より元気にしていく気がする。だからマーケットで、そういうつながりをもっと太く、深いものにしていきたいと思うんです。

– INFORMATION –

『「小商い」で自由にくらす ~房総いすみのDIYな働き方』

いすみ市在住で、全国の地方を数多く見てきた著者が、当事者へのインタビューを通じて、好きを仕事にするために「小商い」で自由に働き、大きく生きる可能性を様々な視点から考察。今、地方はのんびり暮らすところではなく、夢が叶う場所になった。仕事がネックとなって地方移住に二の足を踏んでいた人にも勇気が湧いてくる一冊!

小商い実践者へのインタビューのほか、「小商い論・田舎論」として、いすみ市在住の中島デコ(マクロビオティック料理家)、鈴木菜央(greenz.jp)、ソーヤー海(TUP)の三氏と青野利光氏(Spectator)にインタビュー。巻末では佐久間裕美子氏(『ヒップな生活革命』)と、アメリカのスモールビジネスとの対比について論を交わす。※Amazon.co.jp「社会と文化」カテゴリー1位獲得。

著者:磯木淳寛
発行:イカロス出版
価格:本体1,400円+税
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– INFORMATION –

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【ファシリテーター】

磯木淳寛(『「小商い」で自由にくらす』著者)
食と地域を耕す編集者/プランニングディレクター。自然と共生する価値観と地域の可能性をテーマに執筆・編集・企画。多方面のプロジェクトに関わる。地域の物語を編む合宿型ライター・イン・レジデンス「ローカルライト」を主宰し、関東、関西、北陸、九州で開催。執筆媒体は、ソトコト、Be-Pal、季刊自然栽培、greenz.jpほか。連載は、季刊自然栽培「見えないものを見る」。各地のローカルメディアの編集・制作にも携わる。著書『「小商い」で自由にくらす~房総いすみのDIYな働き方』(イカロス出版)を2017年1月に発刊。千葉県いすみ市在住。http://isokiatsuhiro.com/

【ゲスト】

水野俊弥さん
『珈琲 抱/HUG』店主。都内で輸入家具販売会社勤務を経て、32歳で東京・南青山の自家焙煎珈琲店で珈琲の世界に足を踏み入れる。2006年、千葉県大多喜町に移住し、2010年に古民家の納屋を改装して『珈琲 抱/HUG』をオープン。2011年からは『房総スターマーケット』を立ち上げ、毎回1000人以上を集める地域のマーケットに育てた。http://chiba-ken.jp/hug/
※ほかゲスト調整中

【講座日程】

第1回 5/8(月) 19:15-21:45
第2回 5/19(金) 19:15-21:45
第3回 5/27(土) 10:00-17:00 ※フィールドワーク
第4回 6/6(火)  19:15-21:45
第5回 6/18(日) 10:00-17:00 ※マーケット出店
第6回 6/26(月) 19:15-21:45

【会場】

グリーンズオフィス
東京都渋谷区神宮前2-9-15アズマビル1階
東京メトロ 千代田線 「明治神宮前」駅、銀座線「外苑前」駅、副都心線「北参道」駅、JR「原宿」駅からそれぞれ徒歩10分

【参加費】

42,000円(一般8名)
36,000円(学割・遠方割各2名)
40,000円(people割引2名)

【定員】

14名
※申し込みは先着順です。定員に達し次第申し込みを締め切らせていただきます。
※最低開講人数は8名です。開講の決定は初回授業の1週間前までご連絡いたします。

【申し込み先】

http://greenz.jp/event/koakinai/

締切: 5月2日(火)22:00
※定員に達し次第、受付を停止します。お早めにお申込み下さい。