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島根県の離島・中山間地域の高校に、全国から年間約200人が入学する理由。「教育魅力化」に取り組むコーディネーターたちが実践する、地域へ、世界へ向けた学校の開きかた

高校生が、学校の授業の一環で地域に繰り出す。地元の人と交わる。さらには海外にまで飛び出す―。
そうしたリアルな体験を通じて、生徒のさまざまな力を伸ばしていく「教育魅力化」の取り組みが島根県で始まり、全国から続々と生徒が集まってきています。

「なんのために勉強するの?」

学生時代に誰もが一度は抱いた疑問を、「今、子どもたちはどんな力を身につけるべきか?」という問いに変換して、志ある大人たちが真剣に取り組むと、教育のかたちは大きく変わります。

島根県海士町の大野佳祐さんと津和野町の中村純二さんは、子どもたちへの教育は未来をつくることだと信じて、島根県に移住し、先進的な教育環境づくりを行う魅力化コーディネーター。

これからの時代に必要とされる教育とは?
そして、魅力化コーディネーターの仕事とは?

「革命は辺境から起こる」という言葉を地で行くような、過疎のまちから始まった教育魅力化の取組みについて、ふたりの熱い言葉を浴びてきました。

大野佳祐さん(おおの・けいすけ)
隠岐島前教育魅力化プロジェクト魅力化コーディネーター/一般社団法人ないものはないラボ代表理事/株式会社余白探究集団代表取締役
1979年、東京生まれサッカー育ち。大学卒業後、早稲田大学に職員として入職。競争的資金獲得などで大学のグローバル化を推進。2010年にはプライベートでバングラデシュに180人が学ぶ小学校を建設し、現在も運営に関わる。2014年に仕事を辞めて海士町に移住し、隠岐島前高校魅力化プロジェクトに参画。
中村純二さん(なかむら・じゅんじ)
津和野町教育魅力化コーディネーター/一般社団法人ツワモノ代表/厨ファミリア代表
石川県出身。大学卒業後、埼玉県と東京都で小中学校の教員として勤務。2009年よりマダガスカルで、青年海外協力隊として教員養成プロジェクトに取り組む。2013年より、津和野高校の高校魅力化コーディネーターとして赴任。2016年より、一般社団法人ツワモノを設立し、津和野町の教育コーディネート業務を請け負う。

社会は変化する。ならば教育も変わらなければいけない。

(左)中村純二さん(右)大野佳祐さん。偶然似たテイストのシャツを着てきたふたり。「恥ずかしいな」と照れる中村さんに「異なる文化(ポケットとシャツの生地の違い)を受け入れていくのが魅力化コーディネーターだからさ」と大野さんが返す。

ふたりの取材は、とある空の玄関口にて。学校説明会などのため、島根県と全国を忙しく飛び回るふたりらしく、インタビューはテンション高く始まりました。

大野さん ぼくらの時代は、言われたことがきちんとできるということや、受験を突破するために高い学力をつけるということに公教育の価値が置かれていたように思います。

でも今は、いい大学に入っていい会社に入ればいい人生を送れる、という時代じゃなくなっていますよね。なにより、これからの社会では、人口が減少していき、抱える課題もより複雑になっていく。そこでは、より多様な人と協働する力や、より主体的に課題に対して取り組む力が大事になってくると思う。

中村さん 仕事自体も機械化されたりAIに代替されたりしていくはずですし、人間にしかできない仕事が求められていくのは間違いない。答えが無い問題を自分なりに考えることが必要な場面も多くなるでしょう。ならば、それに合った教育が必要ですよね。

話したいことが溢れてしょうがないという勢いの大野さんと、じっくりと考えながら適切な言葉を丁寧に選んでいく中村さん。一見対照的ですが、ふとしたときにファーストネームで呼び合う様子からは、それぞれの地域で新しい教育づくりに挑む戦友のような関係であることを感じます。

プロジェクトのはじまりは、地域にひとつだけの高校の存続危機だった

「教育魅力化」の取り組みが最初に始まった、隠岐諸島の海士町。手前に見えるのが隠岐島前高校。隣が西ノ島町、一番奥が知夫村。三町村を合わせて島前地域と呼ばれる。

大野さんのフィールドである島前地域(西ノ島町、海士町、知夫村)は、四方に海を臨む隠岐諸島にある離島のまち。島根県立隠岐島前高校のある海士町は東京の杉並区と同程度の面積に約2,300人が住み、島へは本州側の港からフェリーで日本海を約3時間かけて渡ります。

江戸時代に城下町として栄えた津和野。この10年で人口は20%近くも減り、高齢化率も高い。

一方、中村さんの住む津和野町は、眼前に山々が迫る小さな盆地にあり、冬は雪に埋もれる美しい山村。人口は7,600人程度とやはり多くはありません。

海士町と津和野町は、それぞれ‟海のまち”‟山のまち”という違いはありますが、どちらも絶対的な自然環境に囲まれた過疎地域であるのが共通点。「教育魅力化」に取り組んでいる島根県内の他地域もおおむね人口減少の著しい離島・中山間地域で、自治体にひとつしか高校がないケースが多く、生徒数は軒並み減少傾向にあります。

今でこそ、島根県のこれらの地域の高校に全国から年間200人近くもの生徒が入学しているといいますが、その物語の始まりは2008年の海士町でした。

当時、隠岐島前高校は、島の人口が減少していくなかで新入学者数が28人にまで減り、廃校の危機が現実として迫ってきていました。全校生徒も100人を下回る状況だったそうです。

大野さん 隠岐島前高校は地域にひとつだけの高校。もしも無くなると中学を卒業した子はほぼ全員が島を出ていくのは明らかでした。子どもだけではありません。子どもの進学に伴う仕送りの負担を考えて、家族ごと島を離れる世帯がいれば、人口はますます減ってしまいます。

だから島前高校の存続問題は、島そのものの存続危機でもありました。そこで島前三町村が立ち上げたのが「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」でした。

東京で、入学を希望する中学生たちに島で学ぶ魅力を話す大野さん。

「島前高校魅力化プロジェクト」では、島外から進学する生徒を受け入れる「島留学」制度の導入、教育寮の設置、地域と連携した探究学習の導入、学校地域連携型公立塾の開設などが次々と行われ、離島・中山間地域では異例の学級増を果たします。

8年後には入学者数が65人程度にまで回復。島出身の子どもたちにとっては地域にいながらにして全国からやってくる仲間に出会えるなど、魅力的な教育環境が整えられていき、教育による地域活性化の成功モデルとして各メディアで紹介されることも増えてきました。

やがて、この実績を踏まえて、「高校魅力化」の取り組みは島根県全体に広がります。2011年には県としての事業となり、導入自治体が拡大。津和野高校のある津和野町もこの時から加わり、取組み自体も高校だけでなく、小中学校などを含めた地域の教育全体のコーディネートをやっていこうということになりました。

魅力化コーディネーターの役割は、地域や学校現場に入って市町村などの自治体や県の教育委員会、そして地域に住む人たちを学校につないでいくことです。

”Think global, act local”。ローカルとグローバルを越境できる人材を育てる。

知夫村の村民体育祭に参加する島留学生とその島親さんたち。島親さんは、留学生と地域をつないでくれる存在。

「県立高校の管轄は県教委で、高校が置かれているのは市町村などの自治体。縦割りの間に入っていくのはかなり大変なのでは?」と伺うと、「そこの風通しを良くしていくのがぼくらの仕事です」と大野さんはパワフルに笑います。

大野さんが現在隠岐島前高校で取り組んでいることは大きく3つ。「高校と三町村の連携のための基盤づくり」と、「隠岐島前高校ならではの地域課題解決型探究学習のデザイン」と、「生徒募集のための広報活動」です。

大野さん 「地域課題解決型の探究学習」は、地域に実在する課題を見つけてチームで解決策を考え、実践するというもの。その過程で生徒の協働性や主体性を磨き、「自分たちにも何かできるかも」と手応えを感じてもらうことがねらいです。

先生たちとぼくらで一緒に授業案を考え、ぼく自身が授業をやることもあります。広報活動は、島内の生徒たちにはもちろん、東京や大阪、シンガポールで中学生と保護者向けに島で学ぶ意義や価値などを説明する機会をつくったりしていますね。

大野さん自身は高校魅力化コーディネーターとなって4年目。「ローカルだけでなくグローバルにも学校を開いていく」ことにも力を入れ、隠岐島前高校がスーパーグローバルハイスクール(SGH*)の指定校になった際にも大きく貢献されたそうです。

(*)スーパーグローバルハイスクールとは、高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、もって、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的とする、文部科学省が指定する制度。

考案した地域課題解決策は机上の空論に留めず実践までおこない、活動のまとめをシンガポールでプレゼンした。

シンガポールの大学生から、実践した課題解決策の内容についてフィードバックを受ける様子。

隠岐島前高校では2年生になると生徒全員でシンガポールへ行き、シンガポールの大学生に対して、島で取り組んできた探究学習の成果について英語でプレゼンを行います。

そこでは、大学生からの質問に対する回答もすべて英語で伝え、身振り手振りを交えて一生懸命やりとりをしていきます。

大野さん 島というローカルにどっぷり浸かりながら、ときにグローバルな視点や観点から学ぶことも大切にしてもらいたいんです。

本当は先生方も僕も最初は「この子たち本当に英語でプレゼンなんてできるだろうか?」と半信半疑だったんですけど、これがね…、できるんですよ! 「信じて任せれば生徒はできる」ということのひとつの証だと思ってます。それが生徒たちの自信になっていくんです。

このとき生徒が行ったというプレゼン内容も面白いものでした。そのひとつが「隠岐に来る外国人観光客の満足度を高めてリピートしてもらうためには?」という地域課題に対する取組みです。

高校生たちは、いくつかの宿にヒアリングに行き、外国人旅行者の「自分が浸かったあとの風呂の湯を溜めたままでいいのかわからない」といった、文化の違いに起因する彼らの困りごとに着目。風呂の入り方を図示したポスターをつくって島の旅館に配り、貼り出してもらったそう。そのうえで最後に再び外国人旅行者に感想を聞いて結果をまとめたといいます。

旅館に貼りだしたポスターのひとつ。

それがたとえ小さなことであっても、自分たちの住む地域の特性や課題を見つめ、自ら考えて解決のためにチームで取組み、地域の人や旅行者と関わりながら解決策を模索し、実践していく。こうして、教室だけでは決して得られない学びの機会を得て、地域への想いや愛も育んでいく。さらにそれを海外で英語でプレゼンするのだから、成長しないはずがありません。

大野さん 国語や数学が苦手でも、チームを盛り上げるのが得意な子がいたりして、そういう場面で彼らはすごく活き活きする。学校のなかにいると、同世代と先生にしか会わないけど、外に出て多様な人に会うことで人間性も自然と磨かれていきます。地域のおっちゃんに怒られることもいい経験ですしね(笑)

学校を地域に開き、世界に開くことで、生徒の可能性も開かれていく。こうしたプロセスを先生たちとデザインし、学校や周りの関係者を巻き込んでいくのが大野さんの仕事。離島というローカルにいながらグローバルにも挑戦できるということで、学校自体の魅力もさらに増しています。

大野さん ただ、”これをすれば魅力化は必ず成功する”というものは無いと思っています。それぞれの学校や地域が抱えている問題は千差万別だし、同じ島根県内でも住んでいる人の気質や自治体の前提条件がまるで違う。だから地道にやるしかない。

「生徒がはじめの一歩を踏み出す。その葛藤の先の行動に感動します」

コーディネーターがカリキュラムを先生たちとともにつくり、授業を行うこともある。

一方、津和野町教育魅力化コーディネーターの中村純二さんは、津和野町に入って5年目。

当時は津和野高校もやはり存続が危ぶまれていたそう。15年前の平成14年以降、学級減が続き、定員数も4クラス160人から80人へと減少。中村さんが着任した平成25年には、すでに、いち学年の生徒数が50人程度と大きく定員を割れており、状況は深刻といえるものでした。

それまで際だった特色を打ち出すなどの対応をしていなかったこともあり、地元中学生からも進学先として積極的には選ばれず、隣町の高校に進学する生徒も多かったといいます。では、中村さんはそこでなにを始めたのでしょうか。

中村さん 大きく分けると3つです。まず1つめは情報発信で、ホームページを改善したり、SNSページやチラシをつくって保護者や外部に対して届けたり、中学生が一日高校入学するオープンスクールを高校生との座談会形式にするなど、学校や生徒の魅力を体感できるようにつくり替えたりしました。

2つめは、情報発信するための中身づくりとしての魅力的な教育環境づくり。地域課題をテーマにした総合学習のカリキュラム設計をしたり、地元で400年続く地域行事への参加など、生徒が学校外での経験を積む機会をつくったりしています。

3つめは、学校を開くための連携体制づくりとして、さまざまな機関との調整業務でしょうか。なにより、地域資源であるヒトやコトの見える化をしたり、情報や人をつなげていくのがぼくの仕事。そのコンセプトに合うことであればなんでもしてきました。

こうした地道な活動によって、1年目より2年目、2年目よりも3年目と、徐々に入学者数も増えていったといいます。やがて、津和野高校の高校魅力化プロジェクトに興味を惹かれて島根県外からの入学者もあらわれ始めます。

地域外からの生徒が入ってくることで、もともといた地元の生徒たちにも刺激になり、新しい視点が加わる。それが生徒の成長にもなるし、より魅力的な学校、地域にもなっていきます。

豪雨災害で線路が流され、電車が来なくなった駅のホームで町民への応援と復旧への願いを込めたイベントを開催。

地元の祭りにも積極的に参加し町民と交流。ステージへの参加や、屋台を出店したりと祭りを一緒に盛り上げた。

また、中村さんは高校魅力化を行っていくなかで、地域に積極的に関わることでより広い視野をつけていくための「グローカルクラブ」をつくり、生徒を募りました。このクラブ活動を通して、ある生徒は高校生とまちの大人が交流するイベントを企画。高校生とまちの人が混じりあう60人ほどの花見を河原で行ったといいます。

ほかにも、地域で水害があったときに「リスタート津和野」と題してキャンドル約1,000個を並べてのライトアップイベントなども企画実行していきました。

「グローカルクラブ」での生徒の成長を中村さんは嬉しそうに語ります。

中村さん 一番覚えているのは、やっぱり生徒がはじめの一歩を踏み出したときのこと。自分のやりたいことを企画して実現していくことで、少しずつ変わっていくんですよね。あんまり前に出るタイプじゃなかった子が自分から生徒会長に立候補したときは、「そのチャレンジええやんけ!」ってね。そういうところに感動があります。

好奇心を触発することで、生徒が自ら広げていく未来

場面は変わりますが、このインタビューの数日後、ぼくは県境を挟んだ津和野町の隣町で行われたイベントで、大人たちに交じって参加していたひとりの高校生に偶然出会いました。イベントは、「ローカルの未来を考える」ことを主旨としたもの。こうした場に、ふらっと顔を出す高校2年生。それが、「グローカルクラブ」が格上げされ部活となった「グローカルラボ」の部長、鈴木元太くんでした。

鈴木元太くん。しっかりとしたまなざしと受け答えが印象的
Photo:kenji fukuda

元太くんは、もともと横浜の高校に通っていました。そのころから海外には興味を持っていたと言いますが、ふとあることに気づいたそう。

海外以前にまず日本のことを良く知らないなって。それで、高校生のうちになにかできることがあるのかなと思っていろいろ探すうちに津和野高校を知り、転入しました。今は寮に住んでいます。
グローカルクラブでは竹害を地域で管理したいと考えて、小学生と一緒に竹飯盒でごはんを食べるイベントをしたり、伐り出した竹で出店テントをつくったりしています。

グローカルクラブのメンバーで竹を伐り出す。現場で体を動かし、協働する。

学ぶことの面白さは、多くの事を学ぶほどにまだまだ知らない事が無限にあることを知ったり、学ぶことに対してさらなる好奇心が触発されるところにあると思います。津和野高校に転入したことで、元太くん自身もそうしたスパイラルに入っているようです。

大学進学も考えていて、今は建築関係に興味があります。津和野に来て、まちや人とのつながりを感じられたのがすごく面白かったので、ハード面ではなく、人が集うという意味の建築のソフト面について学びたいです。あ、でもそれ以外にも学びたいことはたくさんあるんですけど。

生の体験こそがなによりの学び。学校を地域に開き、まち全体を学校にする。

「今後は企業や大学との協働研究もやってみたい」と大野さん。

「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」が始まってから、もうすぐ10年。取り組みを始めた島根県内の各地域では、高校への入学者数の増加などで人口の流出ペースが鈍化している市町村も出てきています。

また、必ずしも学力を上げることを目的とした取り組みでないにも関わらず、隠岐島前高校などでは、大学への進学率も向上してきているといいます。それはつまり、生徒自身の学ぶ意欲の高まりや、意識が地域だけでなくさらに外にも広がっているということ。実際、ふたりには、生徒の主体性が年を追うごとに増していくという実感があるそうです。

中村さん 学校外に出ていく活動も最初はイベント的にして、「やりんさいやりんさい」って煽ってたんですけど、今では自分たちで「あれもやりたい、これもやりたい」って言うようになってきました。

大野さん 島前でも、生徒自ら西ノ島町長にアポを取ってインタビューに行ったりしていて、あとからそのことを聞いてひやひやしたこともありました(笑) 本やインターネットからも学べるけど、そういう生の体験こそがなによりの学びなんですよね。

地域の教育魅力化が成功するかどうかは、学校、行政、コーディネーターを含めた3者にどれだけ当事者意識があるかだと思います」と中村さん。

では改めて、そんなふたりは公教育についてどう考えているのでしょうか。

大野さん 教育には未来を変えていく力がある。でも今は、教育そのものが「提供する側」と「受ける側」に分かれてしまっているように思います。本来、教育って学校だけじゃなくて、家でも地域でもできるもので、一緒につくっていくものですよね。

だからぼくらのようなコーディネーターが間に入って、学校とのかかわりしろをつくっていければ、もっとみんなで学校を後押しできるんじゃないかと思うし、そうなっていけば日本の公教育は今よりも面白くなっていくでしょうね。

中村さん 今後そうなるであろう多様な社会から見ても、学校だけで教えられることはごく一部分。学校で学んだことをアウトプットする場としてどんどん地域に出ると、「まち全体が学校」になるような多様な教育環境づくりが公教育でもできると思う。

大野さん そう、なにより、子どもたちに「協働しなさい」と言うんだったら、まずはぼくらが多様な人たちと協働して教育を魅力的にしていかないといけないですしね。

学校を社会に開いていくのは、忙しい先生たちの力だけではなかなか難しいもの。だからこそ、「教育魅力化」の取り組みのように社会との接続点をつくるコーディネーターが学校に入っていくというやり方は効果的なのでしょう。

コーディネーター自身がしなやかに変化し、子どもの成長を促す。

ここには生徒の顔も性格も把握できる環境がある。ツコウ農園での収穫の様子。実際の農園づくりを通して人と出会い、仕事を学ぶ。実社会との接点から、社会への関心や問題意識が生まれる。

大野さんと中村さんのお話を聞いていると、「過疎地域」と「先進教育」には、ある面での相性の良さも感じます。それはたとえば、生徒の人数が少なく、一人ひとりの顔が見えることで生徒およびコーディネーター自身が成長や変化を実感しやすいこと。そのダイレクトな実感は、次にやるべきことを明るく照らしてくれそうです。

大野さん 本当にその通りです。小さな船のほうが小回りが利くし、うまくいかないことがあっても軌道修正はしやすい。小さいことの価値ってめちゃくちゃあります。スモールイズビューティフルという時代の変わり目にいるという感覚さえあります。

自分たちの仕事について話すほどに充実感をにじませるふたりですが、島根県には彼らだけでなく、多くの魅力化コーディネーターが地域に入り、子どもと地域の未来をつくる挑戦を続けています。では、魅力化コーディネーターに向いているのはどんな人なのでしょうか。

大野さん うん、やっぱりしなやかさを持った人ですかね。地方では経済よりも文化の方が上位概念に来る瞬間があって、その価値観はぼくらが都会で身につけてきたこととは少し違う世界。

自分が培ってきたことも大切しながら、一方で自分の価値観を喜んで変えられる人。楽しんで受け入れられる人。あらゆる境界線を越えていく人材をこれから育む上で、コーディネーター自身がそういう存在になっていくべきですから。

中村さん 企画やコンテンツをつくるスキルも大事だけど、それよりも考え方や文化の違う環境のなかで物事を進めていくために何度も工夫する熱量や粘り強さ、打たれ強さみたいなものが必要ですね。

あとは、弱みを見せられること。弱みを見せることができる人なら、自分ひとりで解決できなくても、解決できる人を探して来られるし、ほかのコーディネーターとお互いの強みを活かしてチームで進めていくこともできる。そうやって大人がもがく姿を見て、子どもたちはきっとたくさん学ぶはずだから。

ふたりの挑戦はこれからも続く。前向きな余韻を残して、再びそれぞれの持ち場へと戻っていった。

4時間強にも及んだこの日のインタビューのなかで、ふたりが「地道にやるだけ」「急がないことが大事」と繰り返すのを聞きながら、魅力化コーディネーターの仕事とは、子どもと地域が有機的に関わり合い、一緒になって豊かな生態系を育んでいくための土づくりのようなものという印象を受けました。

そのとき必要なのは、今日1日の水やりがこれからどのように花咲くかはわからないけれど、たゆまず続けていくことが豊かな未来につながるのだと愚直に信じる強さと明るさ、しなやかさ。

「たどり着けるかどうかわからないけど、大きな目標を目指して試行錯誤しながらも向かっていくということ自体に価値がある」。生徒に関してのある質問を中村さんに投げかけたときの返答が、生徒だけでなく、中村さん自身、さらには社会の大人たちの在り方までも含むように聞こえた一瞬がありました。

「まち全体が教育の場である」と認識すると、どこにいようとぼくたちはその瞬間から教育の当事者です。若い芽が健康に育つ環境の一部として責任を持つことは、ぼくたち自身の未来にも責任を持つこと。
明日は、いつだって今このときの積み重ねでつくられています。

(photo: shinichi arakawa)

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– INFORMATION –

本記事に登場いただいた大野佳祐さんと中村純二さんをゲストに迎えてgreen drinks Tokyoを開催!「地域×公教育」に関心のある読者のみなさん、ご参加お待ちしています。

green drinks Tokyo「これからの学校は、地域でつくる。」
日程:2018年1月18日(木) 19:00〜21:30
場所:SHIBAURA HOUSE(田町)
参加費:2,000円(軽食+1ドリンク)
詳細:https://greenz.jp/event/180118gdtokyo/