東北にソーシャルビジネスを起こすことで、東北の課題も日本の課題も解決できる!―『東北復興緊急ギャザリング』[イベントレポート]

東北復興緊急ギャザリング スペシャルセッショントップ

「東北復興を通じて新しいコミュニティー“未来の子どもたちの尊厳を守れるまち”を実現する」をコンセプトに、1月13日(金)に行われた『東北復興緊急ギャザリング ~ソーシャルビジネスの力で日本(東北)から未来は変わる~』

午前中は開会挨拶、来賓挨拶、「ソーシャルビジネス・ネットワークにおける復興関連事業の紹介」に続き、基調講演「ソーシャルビジネスが拓く日本の未来」とスペシャルセッション「文明災からの再生」が行われました。

ソーシャルビジネス・ネットワークとは

一般社団法人ソーシャルビジネス・ネットワーク(以下SBN)は、2010年12月に設立された経済団体で、ソーシャルビジネスを実践する社会的企業や企業家が集まり、新しい社会づくりを目指して活動しています。しかし、その設立直後に震災が発生したことで「メインの事業として復興を進めてゆく」ことを決定し、ソーシャルビジネスを通じた復興に取り組んでいます。

来賓挨拶に立った経済産業省の内山俊一地域経済産業審議官は「生活を取り戻し、コミュニティを再生するためには、新しい産業や雇用を生み出して行かないといけない。その意味で被災地ではソーシャルビジネスに対する期待が高まっているという実感もあるし、被災地での事業者の活動がソーシャルビジネスの未来を切り開く道筋を拓くことになるとも感じている」と被災地でのソーシャルビジネスの活動に期待を寄せました。

現在までにSBNは復興支援として、民間によるまちづくり会議「陸前高田千年みらい創造会議」の開催、被災地へのインターンシッププログラム「T-ACTプロジェクト」の実施、凸版印刷の協力による移動図書館「BOOK WAGON」の開催、HISの協力によるボランティアツアーの開催などを行って来ました。さらに9月には陸前高田市に「なつかしい未来創造株式会社」や「生命環境産業推進協議会」を設立し、陸前高田の人たちと一緒に新しいまちづくりに取り組む姿勢を明確化し、さらにはそれが他の被災地のモデルとなることを目指していく方針をとっています。

新たなまちづくりには長い時間がかかるため、その実現のためには東京でその取組について現地の人達に話してもらう機会が必要ということで、今回の「東北復興緊急ギャザリング」が開催されることとなったのです。

東北の社会起業家を支援して「新しい公共」を実現しよう!

北城恪太郎さん

北城恪太郎さん

続いて北城恪太郎さん(SBN特別顧問/日本IBM最高顧問)による基調講演「ソーシャルビジネスが拓く日本の未来―東北復興に向けたソーシャル・アントレプレナーへの期待」です。

政府の「新しい公共」推進会議の委員を務めると同時に、アントレプレナーを支援する活動も行なっているという北城さんはまず「新しい公共」での議論でもNPO支援がほとんどで社会起業家の話はほとんどでないが、ソーシャルビジネスを起こすこと人こそがいま大事だと話した上で、まず現在の日本が抱える問題と社会起業家の必要性について次のように述べました。

まずは人口の問題。特に年金が問題になりますが、現在2.5人で1人を支えているのが将来的には1.2人で1人になってしまうということ。次は国の借金の問題。日本の国際はほとんどが国内の銀行や保険会社が持っているのでギリシャやイタリアのようにすぐに問題になることはないけれど、将来を考えると借金は減らして行かないといけない。そのためには何よりも支出を減らすことが重要で、それを実現するには今まで公が担ってきた部分をNPOやソーシャルビジネスが担うような体制に変えていかなければなりません。

もう一つはグローバル化の問題。中国やインドが台頭する中で日本が生き残るには中国やインドの人ができないことをやらないといけない。そのためには民間がとにかく新しいことをしてイノベーションを起こして行かないといけません。その体制はすでに出来つつあって、そのひとつはエンジェル税制。これはベンチャー企業に投資を行った場合、その投資に対する税が優遇されるという制度です。このような制度を生かしていけば日本でももっと社会起業家が育っていくのではないでしょうか。

ただ、NPOやソーシャルベンチャーには人の痛みがわかるような人はたくさんいるけれど、ビジネス経験があって企業でバリバリ活躍できるような人が少ないのが問題です。そういう人が社外取締役のような形で入り、その上でそれぞれの地域の良さを生かした事業を作ることが出来れば、新しい公共の担い手となることが出来るのではないでしょうか。

東北は今注目を集めているので、そこでソーシャルビジネスが成功すれば理解も深まります。そして、そのようにして成功した人を褒め称えることも起業家を輩出していくためには重要なことなのです。

つまり、今の日本が抱える問題を解決するためには東北で社会起業家を育成し、そこで行政に頼らない社会づくりを進めることが重要だということです。北城さんは「3月11日は明治維新、第二次世界大戦に次ぐ程の出来事で時代を画す分水嶺にもなる」とも言います。一番の被害を受けた東北から、新しい時代を築いていくことで日本が新しい社会として再スタートを切ることが出来るはずだというメッセージを提示していただきました。

震災から見えてくる日本の課題

続いて行われたのは「文明災からの再生―文明災から日本は何を学び、どのように新しいコミュニティを形成していくのか」と題されたスペシャルセッション。アミタホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長であり、SBN副代表理事でもある熊野英介さんをファシリテーターに、有識者がこれからの日本が抱える課題について意見を交わしました。

【登壇者】
風見正三さん(宮城大学事業構想学部教授)
久保田崇さん(陸前高田市副市長)
河野通洋さん(株式会社八木澤商店社長/なつかしい未来創造株式会社専務取締役)
辻信一さん(ナマケモノ倶楽部世話人/明治学院大学国際学部教授)
藤田和芳さん(SBN代表理事/株式会社大地を守る会社長)
御手洗瑞子さん(初代ブータン政府GNHC首相フェロー)
【ファシリテーター】
熊野英介さん(SBN副代表理事/アミタホールディング株式会社会長兼社長)

まず、熊野さんから「リオ宣言から20年、つまり環境が地域の課題となってから20年。豊かだと言われながら毎年自殺者が3万人を超える日本で、3.11と原発事故が起きました。ここから見えてくる財政やエネルギーなど日本の課題とはどのようなものなのでしょうか?」という問題提起があり、登壇者はそれぞれ自分の立場から考えを述べました。

左から、河野通洋さん、久保田崇さん、風見正三さん

左から、河野通洋さん、久保田崇さん、風見正三さん

河野さん

震災を経験してまず見えてきた課題は「パニックになったときにどうしていいかわからない」ということです。それに加えて、食に携わる人間として、エネルギーや食べ物を無駄にしてきたことは持続可能な社会を作る上で非常に大きな課題となると感じています。財政面では、今は交付金などに頼っていますが、それに頼らずに自立しなければならない。そのためには、まずうちの会社が財務から何から全てを公開して、会社が地域のために何が出来るのかを考える。そしてそこから陸前高田が日本のために何ができるかを考える材料にしたいと思っています。

久保田さん

陸前高田の市民が今一番求めているのは復興のスピードです。まず住居と仕事を確保したい。でもそのためには高台を開発する必要があります。でもそれは簡単にできない。その中で、近代日本の問題点として、個人主義が限界に来ていることがあげられると思います。分かち合いをシステム的にやって行かないとどうしようもないところまで来ているのではないでしょうか。陸前高田では震災以降、名古屋市から職員を何十人も派遣してもらって自治体間での分かち合いを実現しています。そこから何かこれからの地域のあり方のヒントが見えるのではないでしょうか。

風間さん

震災で希望として見えたのはコミュニティや人とのつながりでした。東京でもエネルギーや食糧が手に入らなくなり「なんでだろう?」と考えました。それは社会が見えなくなっているから。地域が見える循環型社会であればそういったことは起こりません。分業化やグローバル化を否定しているわけではないけれど、ローカルがしっかりしないといけないと再認識しました。今は「社会的共通資本」というものを元に地域を考えています。地域で共同して使っていく資本を持つことで人任せにしない「見える」社会が実現する。小さなつながりをしっかり持ったそんな社会がこれからは必要なのではないでしょうか。

左から、藤田和芳さん、御手洗瑞子さん、辻信一さん

左から、藤田和芳さん、御手洗瑞子さん、辻信一さん

藤田さん

震災によって関東圏が東北の食糧・エネルギーに依存してきたことが顕在化し、分業という形態や、ひいてはグローバル社会というものに問題はなかったのかという問いかけが必要になったと思います。アジアを見ても、換金作物を作ってそれを先進国が買うことで途上国を支えるというようなことが行われているけれど、そのような分業体制で本当に世界は幸せになっていけるのか、そのことを考えて行かないといけないと思います。

私は自立や自活というものが人間には大事だと考えています。自立していない人間が弱いように、国や地域も同じように自立や自活を目指していく社会にしないと、国や社会が脆弱化して行ってしまうのではないかとおも思うのです。農業基本法の制定以降、日本の農業は単作・大規模化・機械化が進み、その流れが3.11で改めて問われました。第一次産業の立場から考えると、その部分を変えることで地域の自立や自活を目指していくことが必要なのだと感じます。

御手洗さん

ブータンのことを喋ると日本人は「ブータンはいいね」といいます。でも、ブータンも日本と同じように問題があるわけです。ではなぜ「ブータンのほうがいい」と見えるのか。それはまず、ブータンは何かがないという状態に慣れているのでそのことを嘆かないし、そこから自分で何が出来るかというクリエイティブが生まれるということがあります。そして、そもそも人間が全てをコントロールできると思っていないので、ただやれることをやります。

日本の問題のほうがブータンより複雑だとは感じるので単純に同じ事はできません。でも、結局、問題の全部をいっぺんに解こうとしてもだめで、できることからはじめるしかないのです。

辻さん

ブータンの首相から「これは大転換の機会である。アジアのリーダーとしてまったく違う経済を作って欲しい」というメッセージを頂いたことがあります。アインシュタインが「ある問題を引き起こしたのと同じマインドセットでその問題を解決することはできない」といったように、いま起きている問題を解決するには、新しいマインドセットが必要となるわけで、それが大転換ということです。

そして今問われているマインドセットとは「文明」そのものなのではないでしょうか。私たちは金が全てという社会を作ってしまいました。でも本来の人間のボトムラインは「空気」であり「社会」や「愛」です。お金ではない。でもそれが全てお金に置き換えられてしまっているのではないでしょうか?

そもそも人間の弱さが社会を創りだしたはずなのに、私たちは強さをめぐる競争原理のもとに社会を作って来てしまいました。そこから抜けだして、豊かさを見直すときに私たちは来ているのです。

経済学の概念であるホモ・エコノミクスが前提とするのは「損得」と「欲望に限りはない」ということです。

被災者の立場から、行政の立場から、研究者の立場から、第一次産業に携わる立場からそれぞれ、日本が抱える問題についての考え方を明らかにして頂きました。今後どうするかを今まさに問われているという認識は一致しているという中で、熊野さんは次のようにまとめます。

近代の問題点についてまとめると、近代とは個人の財産を守る自由を担保する社会であり、しかしそれは未来に必要なエネルギーを食いつぶす社会でもり、その矛盾がいま顕在化してきているということ、このままでは幸せにはなれないということで意見が一致したと思います。しかしグローバル化は物凄い勢いで進んでいるし、70億人の大多数が富を求める自由を否定できないならば、具体的にはどうすればいいのか、意見をうかがいたいです。

東北の歩むべき道は日本の歩むべき道

東北復興緊急ギャザリング スペシャルセッション3

今まさに問われている今後の日本のあり方、みなさんが「こうあるべき」というあり方にしていくためには具体的に何をしていけばいいのか、それぞれの立場から考えを述べて頂きました。

辻さん

2年半お金を使わずに過ごしたアイルランド人が書いた「ぼくはお金を使わずに生きることにした」という本があります。彼は6年間離れている間に経済成長したアイルランドからコミュニティが失われてしまったのに驚き、お金を使わずにいきていけるかという実験をしました。その彼が言っているのは「経済の基本は交換ではない、贈与である」ということです。経済の基本は自然であり、自然は我々にモノを与えてくれているわけです。そして我々を幸せにしてくれるのは見返りを求めない愛なのです。だから与える場を増やしていかなければならないのではないかと思います。

御手洗さん

個人主義ということではブータンはコミュニティ感覚が強く、日本もわりとそうだと思います。だからそんなに問題はないんじゃないかと。グローバル化については怖いものでは必ずしもないと思います。ブータンはグローバル化が進んでいたからこそ、GNHというブランディングによって生き残れた国です。そうでなければ、同じように中国とインドに挟まれた国であったシッキムと同じようになくなってしまっていたかもしれません。

東北や日本はいま世界の注目を集めていますが、それは実は手綱を握るチャンスが来ているのだと考えるしたたかさが重要になるのではないでしょうか。

藤田さん

今の社会は「自分だけが幸せになりたい」という社会になってしまっているのではないでしょうか?子や孫の代にどういう社会を作っていくか、その想像力が欠けてしまっている。今の世代だけ幸せを考える社会と次世代について考える社会は根本的に違います。それが本当の持続可能で、その想像力を取り戻すことがまず必要なのではないでしょうか。

風間さん

「幸せってなんだろう」と問いなおすような社会になり、測れないモノの価値のほうが大事だということに気づいて来ているのだと思います。最近は、見える関係で直接感謝されるという関係を求める学生が増えています。見えない社会が見える化されることで小さな幸せを得る気が増える。幸せというのは欲求に対する達成度ですが、分母を小さくする、つまり「何さえあれば幸せなのか」を考えることで、自分たちの選択が正しいのかわかる、そんな社会に転換していくタイミングにあるんじゃないかと思います。

久保田さん

陸前高田では、学校の再生と同時にコミュニティの拠点となる機能をもたせようという方向に動きが進んでいます。そして、自治体間の連携はいざとなったら実現するということもわかりました。陸前高田に来て実際に見てもらえれば、それで大きく変わることができると思います。

河野さん

いま私の経済状況はひどいです。でもすごく幸せです。震災がなかったら、久保田さんは副市長にはなっていないし、SBNが陸前高田に来ることもなかったわけです。絶望の中でも、いい仲間がたくさんいて、いい仕事をしている実感があって、希望があります。子どもが3人いるんですがみんな八木澤商店を継ぎたいと言ってくれている。それがすごく重要なんじゃないかと思います。日本の最大の問題は子どもたちが親を尊敬できないこと。子どもたちが希望を持てるような社会にする仕事、それがつまりソーシャルビジネスになると思いますが、それをすることで問題は解決していくんじゃないかと思います。

ここでは「コミュニティ」というキーワードが多くの方から聞かれました。個人が幸せを追求するのではなく、コミュニティとして社会全体の幸福を追求するような社会、そのような社会を実現しなければいけない。そのためには未来に目を向けて未来の為に何をすべきかを考える、そのようなメッセージが発せられました。これを受けて熊野さんは次のようにまとめました。

熊野さん

日本は太古から天変地異が圧倒的に多い一方で、非常に豊かな自然を持っている国、それを今回の震災は改めて気づかせてくれた。そのことに気づけば、その自然という資本をうまく使って、市民が市民のための事業を起こし、市民のために資する社会を創ることが出来るのではないか。

ソーシャルビジネスという切り口で震災を考えた基調講演とスペシャルセッション、そこから見えてきたのは市民ひとりひとりが「見える」コミュニティに属することで、コミュニティの豊かさに資する行動を取るようになるということ。そして、ソーシャルベンチャーはそのようなコミュニティと連携しながら社会全体にその豊かさを広げる役割を負うことが出来るということです。

SBNは今後も陸前高田を舞台に様々なソーシャルベンチャーが市民の手で立ち上がっていくのをサポートしていくつもりだとのこと。これからの活動にも注目です。

午後は、糸井重里さんがファシリテーターとなり、被災地でソーシャルビジネスに携わったり、ソーシャルビジネスによって立ち直った企業の方々や現地のNPOの方々を招いての「白熱教室」。午前中のじっくりと考えさせるセッションとはまったく違った楽しく盛り上がるセッションとなりました。そんな午後のレポートもぜひお読みください!

USTREAM映像:白熱教室 前半

USTREAM映像:白熱教室 後半