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「自分のやりたいことを言葉にする」ことが世界を変える。ダイアログの場から“未来を創る”「ミラツク」 [マイプロSHOWCASE]

ダイアログの風景

ダイアログの風景

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

私たちが、ふだん何気なく誰かと言葉を交わすことを“会話”と言います。

“会話”の文字をひとつ置き換えると“対話”。手もとにある白川静『常用字解』を引くと、“会”という文字は“人が集まりあう”ことを意味する一方で、“対”はもともと“ふたりの人が相対して土を撲つ”ことを現わす文字で“むかう、あう、こたえる”の意味だと書かれています。

“対話”とは、自分がやりたいことを見つめながらていねいに言葉にして相手に手渡してシェアすることです。

西村勇也さんは、対話(ダイアログ)を通して個人とコミュニティに変化が生み出されることに着目し、「ダイアログBar」をはじめとした対話の場を開いてきた人です。以前 greenz.jp で“コミュニティデザイン”についてのコラムを書いていただきました。

2011年12月には新たにNPO法人「ミラツク」を設立、「“未来を創る”をテーマに対話とともに社会にイノベーションを生み出す」という大きな仕事に取り組んでいます。

対話=ダイアログの場で何が起きているのか?

NPO法人「ミラツク」代表 西村勇也さん
NPO法人「ミラツク」代表 西村勇也さん

西村さんは、大学と大学院で心理学を学び「人の成長はどういう状況のなかで起きるのか」をテーマに研究。「自分から進んで行動することは心の成長にすごく関わってくる」ことに注目します。

たとえば、大学を受験するとき、親から強制されたのか「この大学に行きたい」と自ら望んだのかによって、不合格通知を受け取ったときの気持ちは違うはず。「自ら進んで行動したかどうか」が、結果を受け止めるときの肯定感に大きく作用するのです。

研修ベンチャーに就職した西村さんは、大学での研究の成果を実践に移します。ところが、「社員のモチベーションをあげる理論を教えるだけでは、会社の状況を変えきることはできない」ことを実感。他の方法はないかと模索しているときに出会った手法がダイアログでした。

ダイアログとは、立場や肩書きによらずに誰もが思ったことや感じていることを誰もが自由に発言すること。そして、その場にいる人たちすべてが発言者の話を聴くことが原則です。また、結論を出すことをよりも一人ひとりが自らの気持ちを見つめなおしていくことを重視します。

たとえば、「何についてどう考えているか」は誰にでも言えますが、「じゃあ、ダイアログをしたいの?」と問われると言えたり、言えなかったりするんですね。「何をしたいのか」という話がしっかり出てくるのがダイアログの状況です。

立ち止まってこの一日に自分が話した言葉を振り返ってじっくり吟味してみてください。本当に「自分がしたい」と思って話した言葉はどれほどあるでしょうか。“ただの会話ではない対話”をしている状況は、私たちの日常のなかにどれほどあるのでしょう?

「自分がしたいことをわかっている」「自分がしたいことを言う」。言葉にすると簡単ですが、意外とできていないことにハッとする人も多いのではないでしょうか。

4年間で1500人が参加 「ダイアログBar」の“出会うデザイン”

仕事でセミナー運営に携わるなかで、西村さんは多くのセミナーが「つまらない」ことに疑問を抱きます。「本を読んだ方がまし」と言いたくなるような一方的なプレゼンテーション。会社を休まないといけない開催日時。同じ関心を持つ人が集まっているのに“出会うデザイン”がない――もっと面白い場を作れるはずだと思った西村さんは、2008年に「ダイアログBar」をはじめます。

ダイアログBar

ダイアログBar

「ダイアログBar」では、ゲストに「どんな面白い人生を歩んできたのか」を話してもらい、「ワールドカフェ」という手法を用いてダイアログの場をつくるスタイルで開催。時間は誰もが参加しやすい平日の夜遅めに、場所も会議室ではなく空間に色も匂いもあるカフェを選びました。

「ワールドカフェ」は組織開発のメソッドです。ひとつのトピックを決めて4~5人のグループで1ラウンド(約30分)話してもらい、意見があったら机の上に用意した模造紙に書き留めていきます。時間が終わると、各テーブルに1人だけが残って他の参加者は別なテーブルへ移動。これを何度か繰り返すうちに、ほぼ全員とダイアログできるんです。

これまでの4年間に、東京を中心に、京都、滋賀、奈良、名古屋、大阪の各都市で「ダイアログBar」開催し、社会人から学生までのべ1,500人が参加し、そこから新しいネットワークがどんどん生まれています。

ダイアログの場を作る人を育てるために

「ダイアログBar」に手ごたえを感じた西村さんは、さらにダイアログを深めるために二日間をかけて行う「未来をつくるワークショップ」を新たに開くことにします。「未来をつくるワークショップ」ではじっくり時間をかけて参加者間に関係性をつくり、参加者からもトピックを提案する場も設けました。

「未来をつくるワークショップ」には7人のゲストを迎えました。講演のほか、内面を深く掘るインタビューをしたりして、しっかり準備をしたうえで「これについて話をしたい」とトピックを出し合って話すと、「一緒にやろうよ」「面白いからやってみようよ」といろんなプロジェクトが生まれました。

さらに、ダイアログの場を作るファシリテーターの育成にも着手。米・ユタ州のThe Berkana Institute(以下、ベルカナ・インスティテュート)共同代表のBob Stilger氏らと共にダイアログのメソッドを実践的に学ぶ「Art of Hosting ワークショップ」を国内で初めて開催します。

Art of Hosting ワークショップ

Art of Hosting ワークショップ

よく誤解されるのですが、ファシリテーターは、前に出ていって「あなたの意見はこうですよね?」と言ったり、誰かの言いたいことを代わりにまとめるような人ではありません。みんなが話し合えていない状況を話ができる場に変えていく人です。

みんなの気持ちがどこにあるのかをちゃんとわかっていて、その状況に合わせてテーマや手法を持ってきたら、その後はひっこんでおかなければいけない。話し上手でも話し好きでもなくていいのですが、どんな状況であろうとダイアログができる人であることが前提条件になります。

「Art of Hosting ワークショップ」は3日間の合宿形式で行われ、2010年5月と11月の開催で合計120人が参加。このほかにも、海外のカンファレンスへの参加を促すなど、ファシリテーター育成にも力を入れています。

ダイアログから生まれた震災復興プロジェクト

新しいプロジェクトを生み出すダイアログの力は、震災後に西村さんが手がけてきた震災復興プロジェクトにも活かされています。ひとつは財団法人KEEP協会、ベルカナ・インスティテュートとともに被災地および全国から20~30代の若者が集う3日間のワークショップ「ユースコミュニティリーダー・ダイアログ」。2011年に5回実施し、250名が参加しました。

ユースコミュニティリーダー・ダイアログで「ブラストビート福島」が生まれた瞬間

ユースコミュニティリーダー・ダイアログで「ブラストビート福島」が生まれた瞬間

「ユースコミュニティリーダー・ダイアログ」では、ダイアログを繰り返しながら、それぞれが「自分のやりたいこと」を明らかにして合宿最終日には具体的なプロジェクトを作っていきます。被災地の若者による音楽イベント「ブラストビート福島」はこの合宿から生まれました。

もうひとつは「陸前高田の未来をつくる対話プロジェクト」。陸前高田創生ふるさと会議と協働し、地元の若手リーダーを中心に合計22名が集まって、被災地のコミュニティ再生とユースリーダーの育成に取り組み「内部からの復興」を目指す支援プロジェクトです。

「若者と年配の人が意見を交える対話の場やコミュニティ」を生みだすために、東京を中心とした社会的活動に取り組むリーダーと協力して進めています。また、これらの合宿を通じて学んだダイアログの手法を被災地での活動に活かしてもらうことも目的のひとつです。

ダイアログの成果として、プロジェクトが生まれることが目的のすべてではありません。自分がどういうポジションにいて、どういうことを考えているのかを明らかにして、自分自身を理解することが一番大事です。自分のやりたいことがわからないとぼんやりしたまま過ごしてしまいますから。それを変えていくのがこれらの合宿の目的のひとつでもあるんです。

「ミラツク」で“未来を創る”を目指すこと

フリーランスとして活動していた西村さんが「ミラツク」というNPOを設立したのは、「NPOだと社会のために活動していると捉えられやすい」という「わかりやすさ」に加えて、理事にさまざまな人を迎えられるというメリットがありました。日本では、社員が他の会社の取締役になることを禁じる場合がありますが、NPOの理事だと問題ないのです。

西村さんは、「ミラツク」を「ぜひ一緒に何かやりたい」人を巻き込む器として活用することにしました。ちなみに、greenz.jp編集長の兼松佳宏さんも「ミラツク」の理事のひとりです。ETICのスタートアップメンバーにも応募し、ユニークな“同期”の人たちともつながることができました。

また、NPO設立と同時に「未来を作る対話基金」の運営もはじめました。

「ミラツク」ウェブサイトより「未来をつくるソーシャルアクション」

「ミラツク」ウェブサイトより「未来をつくるソーシャルアクション」

「未来を作る対話基金」はダイアログをするための基金です。ダイアログから何が生まれるのかは約束していません。たとえば、被災地が良くなるだろうとか、若い人たちの未来が開けるだろうという可能性にお金を出してもらっています。将来的には基金から財団に変えることも構想しています。

「ミラツク」は「未来を創る」をもとに考えられた名前です。西村さんは「ミラツク」という名前を決めるまでに、半年もの時間をかけて「それさえ達成されたら、この組織が達成されたことになるような名前ってなんだろう?」と考えたそうです。

僕は、名前をつけることにすごいこだわりがあるんです。「それさえ達成されたら、この組織が達成されたことになるような名前ってなんだろう?」と考えていて。「ダイアログの場では、対話が行われているだけではない何かがあるなあ。それって何なんだろう?」と考えていると「そこから未来がつくられないといけない」と思ったんです。

でも、具体的に何かをすることが未来をつくるわけではない。それぞれの意識が「未来を創る」ことに向いていることがすごく大事だと思うんです。もし、それが達成できたら「この組織としてやり切った感がするな」と思って、「ミラツク」という名前に落ち着きました。

未来のつくり方には決まったレシピもルールもありません。そして、「未来を創る」のはこの世界に生きているすべての人――つまり、私たち――が未来を意識して行動することからはじまるのではないでしょうか。

「僕にできる方法はダイアログだったから」

ところで、「未来を創る」ことをテーマに仕事をする西村さん自身はどんな未来を創りたいと思っているのでしょう?どうしても聴いてみたくなって、「西村さんが創りたい未来はどんな未来ですか?」とインタビューの最後に質問を投げかけてみました。

もし世界中のみんなが立ち止まって考えなおす時間を30分とれたら世界が変わると思うんですね。それがないから、火災が起きたビルのなかでパニックになっているような状態で。常に起こり続けていることに対応しつづけなければいけないと思うんです。ちょっとみんなで立ち止まって考え直して「うーん、違うね」と思ったら、もう世界は変わりはじめるはずです。

西村さんが創りたいのは「アタリマエだと思っていたことが実は違うんじゃないか」と世界中の人が気づいて、より良い社会へと歩み出すような未来。その実現には、「ほんとうはどんな世界がいいと思う?」という問いかけに、「こんな世界がいいと思う!」とはっきりと答えられる人たちが必要です。

まだ、何らかのイノベーションに加わっていない人たちが「関わるようになる」という変化を作っていきたいんですね。もちろん他の方法でもいいんです。たとえば、一緒に曲作りをして歌うとか、ダンスをしながら巻き込めるならすばらしいと思うけれど、僕が熱意を持ってやれるのはダイアログなんです。

「本当に心から望むのはどんな未来ですか?」と問われたら、あなたならどんなふうに答えますか? そばにいる人たちはどんな未来を望んでいるのでしょう。忙しい日常からちょっとだけ離脱して、そばにいる誰かと未来について“対話”をはじめるなら、そこから確実に世界は変わりはじめるのではないかと思うのです。

他にもこんなマイプロジェクトがあります。