みなさんは身近な”緑”について考えることはありますか?
昨年の12月9日(金)に、そのヒントがもらえそうなトークイベント「エメラルド・ネックレス in Tokyo」が丸の内のエコッツェリアで開催されました。
「エメラルド・ネックレス」とは、ボストンの街の、緑豊かな公園がパークウェイでつながる緑地帯のこと。このイベントを通して、緑を大切に想う人たちがつながり、東京版のエメラルド・ネックレスが実現できる社会づくりの一助となってほしい、という願いが込められています。
トークショーのゲストには、「緑とともにある暮らし」を実践している方々が登場。後半には、参加者とゲストが入り交じってアイデアをシェアし、語り合うワールドカフェも行われました。和やかな雰囲気から生まれた豊かなアイデアに、笑顔が絶えなかった2時間。当日の様子をレポートでお届けします。
一人ひとりが”自分ごと”として捉えれば、環境は変えられる!
トークショーの登壇者は4名。ファシリテーターとして、greenz.jp発行人の鈴木菜央。ゲストスピーカーとして、丸の内朝大学「ピクニックプロデューサークラス」の講師を務める「東京キャンプ」代表の岩崎雅美さん、「アウトドアで結婚式をしよう!」をテーマに活動する「H.O.W」共同創設者の柿原優紀さん、greenz.jp 副編集長の小野裕之の3名が登壇し、トークを展開しました。
まずはファシリテーターの鈴木菜央から、「緑とともにある暮らし」に関する様々な話題が提供されました。鈴木は一昨年、千葉のいすみ市に移住し、緑と海に囲まれた暮らしを送っています。その様子を写真で紹介すると共に、学生時代に「持続可能性」を専門に学び、現在に至るまでの経緯にも言及しました。
今日のイベントについては、
地球が直径1mとすると地表は1mm、リンゴでいうと皮程度の薄いところに、私たちは暮らし、そこに緑もある。そこで命をいただいて、廃棄したものがその中で循環して再び私たちに返ってくる。一人ひとりが、宇宙船地球号の乗組員のような意識で、自分が社会や環境に対して責任を持って、何をしていくか考えていかなくてはならないと思う。一人の人間は決して無力な存在ではなくて、逆に私たちは地球や社会に影響を与えないわけにはいかない存在であることも、研究で実証されています。今日はみなさんと話し合えることにワクワクしています。
と、期待感を込めて語りました。
続いて登場したgreenz.jp副編集長・小野がまず語ったのは「公園とは?」「緑のある暮らしとは?」という問いに対する自分なりの考え方について。千葉県松戸市で、町内会長の方の家の前にある植栽に花が植えられている例を示し、「公共空間を使っているにも関わらず誰からも咎められず、むしろ歓迎されている事例で、緑との関わり方のヒントになるのではないか」と発言。今日のトークでは、「RE-PUBLIC=公共空間を再定義する」ということを考えてみたい、と語りました。
その「RE-PUBLIC」の事例として紹介されたのが、greenz.jpの記事として掲載されている世界中の取り組み。路上の駐車スペースを公園に変える「Park(ing) Day」、公園に現れた移動式図書館、農園付きシェアハウス「元麻布農園レジデンス」など、事例の”12選”が次々に披露されました。これらに共通するキーワードとして小野は、「”公園”から”こうえん”へ」(ひらがなで書いた時のような、隙がある空間にしていこう)、「お持ち寄り」(足りないものや考え方は、みんなで持ち寄って公共空間をいい場所に変えていこう)、「自分×公園」(自分の得意なこと、自分ならではのことと公園のコラボレーションを考えよう)の3つを提示し、この後のトークへの手がかりとしました。
キャンプ、ピクニック、ウエディング…等身大で緑を楽しむ実践例
そしてここからは、緑をテーマとした「マイプロジェクト」に取り組む2人による活動紹介。岩崎さんは丸の内朝大学に通ったことがきっかけで「東京キャンプ」を立ち上げ、今では「ピクニックプロデューサークラス」の講師を務めるようになりました。「東京キャンプ」では、都会の中の緑のある場所で、自然を感じてリラックスできる場づくりを展開中。屋上をピクニックの場所に変えたり、公園でこたつを広げてしまったり、ユニークなイベントを開催しています。岩崎さんは、
緑のある場所は都市の空間としても大事な場所。それを守るためには、自分たちがどうやってその場を楽しむかが大事で、規制がある中でもその空間を面白くするアイデアはたくさんあるんじゃないかと思います。そういう人が増えていけば街も人も楽しくなるのではないでしょうか。
と語りました。
最後は、H.O.Wの柿原さん。「H.O.W」は「Happy Outdoor Wedeing」の略で、まだあまり馴染みのないアウトドア・ウエディングを楽しむための事例紹介や空間づくりのお手伝いをしています。柿原さんは、「形式や予算に捕われずに自分たちにとって一番ハッピーなウエディングを作る方法」として、自分たちの一番好きな場所でウエディングを実現したカップルの事例を紹介。代々木公園や高尾山、北海道の大自然の中でのウエディングを、そこで起こったエピソードと共に披露しました。たくさんの笑顔の写真で会場がハッピーな雰囲気に包まれた後、柿原さんは、アウトドア・ウエディングの良いところを、「1:好きな場所で、2:人数は希望にあわせて、3:等身大の予算で、4:好きなスタイルで、5:時間はたっぷりある」とまとめました。
きっかけはひとりの気付き。雪だるま式に成長することも!
このあと鈴木から2人に、「活動をはじめたきっかけと、取り組んで来て良かったこと」という質問が投げかけられました。岩崎さんは、元々自然が好きで、東京での忙しい生活に違和感を感じていました。「日常でもキャンプの楽しさが実感できたらいいな」と思ったことがきっかけとなり活動を開始。自らが手掛けたイベントを通して、年齢や肩書きも関係なくみんながつながって仲良くなれること、そして思い出を共有できることに驚き、それが、空間をつくる喜びにもつながっているそうです。
一方の柿原さんは、2年ほど前、ご自身のウエディングを検討した際、まず高額な予算に驚き、さらに通常のウエディングのスタイルにどうしても馴染めず、「もっとナチュラルにできないか」と考えたそうです。いろいろな事例を調べるうちに、見知らぬ人のブログで公園ウエディングの事例を発見。取材に行きブログにアップしたところ、問い合わせがたくさん来たそうです。「みんなやりたいんだ」と気付き、そこからどんどん広がっていったとのこと。「ウエディングってつくれるんだ」という感覚を持てたこと、そしてカップルや参加者の人々が楽しんでいる姿に喜びを感じているそうです。
小野は参加者の視点から、「ちょっと深めている人がひとりいるだけで、圧倒的にその場の雰囲気が違う。参加者側としても満足度が上がり、喜びにつながる」と発言。最後に鈴木は、
最初はひとりの気付きだったことでも、実際に週末などを使って少しずつ始めてみることによって、どんどん転がって雪だるまのように成長していっている。身の回りの環境を決められたルールを守るだけじゃなくて、「そうじゃないんじゃないの?」と、環境にして能動的に働きかけることによって、自分たちも楽しむこともできるし、環境も良くなる。そこからもっと新しい遊び方を提案する人も出てくるかもしれないし、そういうネットワークを広げていきたい。とにかく、ポイントは楽しんでいるということだと思います。
と、トークをまとめました。
「100年後の東京の緑が2倍になっている理由」は?
そしてここからは、トークを踏まえたワークショップへ突入。この日は、4人1組となって語り合い、途中で2度のグループ変えを行う、ワールドカフェの形式をとりました。テーマは、『100年後の東京は、緑が今の2倍に増えています。それはなぜでしょう?』。ゲストのみなさんも加わったディスカッションは、和やかな雰囲気ながらも、どのグループも真剣そのもの。参加者同士がそれぞれのアイデアを披露し、共有しました。
約45分のワールドカフェの後は、それぞれのグループの代表者が発表を行いました。最初に手を挙げた参加者から出たアイデアは「道緑化(どうりょくか)」(使われなくなった道を緑に変えていくこと)、そして「移動手段を馬にする」というもの。これを皮切りに、「雲から種を降らせる」「人間緑化」などの奇想天外なアイデアが飛び出す一方、「グリーン減税」「徴農制」などの制度を考えたグループも。
少子化により空き家が増え、解体後の土地を緑地にして、エメラルド・ネックレスのようにつないでいく。これによって、都市の中に緑が点在するのではなく、緑の中に都市が点在化するようになる。
というイベントのタイトルを用いた発表は、参加者にとってもイメージしやすいもので、会場からも拍手が沸き起こりました。
一見、実現不可能に見えるアイデアも含まれていますが、発表の際は「今の東京のいいところを残しながら緑を増やしたい」「環境に関心の無い人の価値観を変えていく」など、アイデアの裏にある本質的な考えも披露されました。そして、それらを語る彼らは本当に楽しそうな表情。参加者のみなさんは、このような課題解決を楽しむ感覚を、ワークショップを通して体感できたのではないでしょうか。
今日をきっかけに、楽しみながら新たな一歩を。
最後にゲストのみなさんから、一言ずつ今日の感想が伝えられました。
鈴木:今日のイベントはひとつのきっかけだと思うので、もっと関わって行けるかな、と思っていただけたらうれしいです。
小野:僕らは一人ひとりの暮らしが社会をつくると思っています。常に気になることがあったら「×(カケル)自分」を考えてみること、そして楽しむことが大事かなと思います。楽しいことは続くし、続くことは社会を変えます。そうすれば、100年後には2倍と言わず、緑が3倍くらいになっているんじゃないかなと思います。
柿原さん:日本人は公園や自然などの公共空間を「そっとしておかなければいけない」と考えてしまうところがあって、それは日本人のとてもステキなことだと思うのですが、もっと自分のものの延長みたいに考えられるといいな、と思います。基本的に公園などは「やってはいけないことリスト」があるような考え方で運営されていると思うんですが、H.O.Wでは「(ウエディングなど)やっていいことリスト」を増やしていくような活動ができればいいな、と思います。
岩崎さん:発表のときはみんなニコニコしていたし、今、私の頭の中には緑がモワモワとあるような感じです。こういうアイデアを出し合う機会を、学校や友達同士で話してみるというだけでも、次につなげることができるのではないかと感じました。東京キャンプもそうなんですが、ちょっとしたアイデアを実現してみることが、新しいヒントやきっかけになるようなことをしているので、ぜひ参加してください。それに、今日のアイデアをみなさんが実現するような場があれば、参加してみたいと思いました。
トークとワークショップを通して「緑のある暮らし」に対する思いを共有できた「エメラルド・ネックレス in Tokyo」。参加者のみなさんの心には、どんな芽生えがあったのでしょうか。ここから始まる一人ひとりの一歩が、エメラルド・ネックレスのようにつながれば、「緑が2倍に」は本当に夢ではなくなるのかもしれませんね。
日時:2011年12月9日(金)18:30~20:30(受付18:00~)
場所:エコッツェリア(東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸ビル10階)
主催:一般社団法人 大丸有環境共生型まちづくり推進協会、東京の緑を守る将来会議、一般社団法人 セブン-イレブン記念財団
後援:東京都都市整備局
ファシリテーター:
鈴木 菜央(greenz.jp 発行人、株式会社ビオピオ 代表取締役)
ゲストスピーカー:
岩崎 雅美(東京キャンプ 代表、丸の内朝大学「ピクニックプロデューサークラス」講師)
柿原 優紀(H.O.W共同代表、編集者)
小野 裕之(greenz.jp 副編集長)
ゲリラ的に緑を増やす方法もあります