僕は、この数週間、毎日とてもがっかりしています。
この「がっかり」という情動を分解すると、
という3つがあるなと気づきました。
そう分解できる一方で、事態の重大さに毎日打ちのめされ、仕事の片手間にニュースサイトを覗きに行っては不安に飲み込まれる。同じような日々が続いている方も多いのではないでしょうか。
こういった袋小路に入り込んでしまいながらも、僕が気づいたのは、社会変革や平和実現に対してできる貢献は、ボランティアや署名、寄付だけではないということ。
実は毎日積み重ねている暮らしにもたくさん見つかるということです。そして暮らしや、それによって日々得る知識や経験は十人十色なので、僕らが個人個人でできる貢献も多様にあります。
そこで、16年間かけて7000本以上の記事を発信してきたgreenz.jpだからこそできる、僕らの知的・文化・社会・経験・余裕資本(※)を用いた貢献について、過去記事の力を借りながら紹介することに決めました。僕らが見つけた貢献を取り入れていただくのはもちろん、みなさんそれぞれが「私ならこんなことを」と考え始めるきっかけになればうれしいです。
(※)「資本」という考え方が気になったら、ぜひこちらの記事を。
greenz.jp過去記事から考えた平和のための行動5ステップ
STEP 1「エンタメやアートから学ぶ」
紛争や争いが発生してしまったときに、よくラジオやテレビで耳にする楽曲、目にする映像やアートがいくつもありますよね。戦争反対や、人種や性による差別、あるいは愛と慈悲を大切にしようというメッセージを発する作品たちです。音楽に深く関わってきた僕は、ジョン・レノン、ボブ・マーリー、カーティス・メイフィールド、忌野清志郎、桑田佳祐などさまざまなミュージシャンのことが思い浮かびます。
でも、「平和といえばあの曲!」と思い出しやすくても、実際どんな思いで書かれた、どんな歌詞なのかと意識して注目する機会はそう多くないかもしれません。
2017年公開のこの記事で紹介したのは、マーヴィン・ゲイの名曲『What’s Going On(邦題: 愛のゆくえ / 私訳: 一体、何が起こっているんだ?)』。ベトナム戦争が泥沼化していた1971年、平和や暴力や不公平に対する問題提起として発表された、歌詞はもちろん音楽的にも最高峰の楽曲です。
ポイントは、「Only love can conquer hate(憎しみに打ち勝てるのは愛だけ)」というフレーズ。そのあたりも意識しつつ、まず自分の暮らしに接点があるチャネルを通じて、争い・不条理・暴力という問題への意識を高めてみるのはどうでしょうか。
STEP 2「なぜ争いは起きるのか」その根源を映画や本で学ぶ
音楽やカルチャーの発信するメッセージや問題提起に触れたなら。次に、争いや暴力がなぜ起きてしまうのか。どのようなマインドセットの変革を起こせば、過ちをくり返さずに済むのだろうと考えてみるのもいいかもしれません。
2021年公開された映画『シャドー・ディール 武器ビジネスの闇』は、現代の戦争の裏にある武器ビジネスの闇で何が起きているか、さまざまな証言が飛び出す作品でした。
あくまでビジネスとして、人を傷つける性能の向上に取り組み、世界各国に武器を販売して富を得る人びと。記事を執筆した村山幸さんも書いている通り、
武器を売り買いし、開戦の鍵を握っている政治家も武器商人の誰もが、その武器の犠牲になることはないということ。
を忘れてはいけません。自身の情報リテラシーを高め、幅広い情報を入手すること。社会で起きていることに対して、さまざまな角度からアンテナを張り巡らせることが大事ですね。
STEP 3「平和活動家たちの解決策・仮説に耳を傾ける」
世界各地で起きている争い、その裏にある闇を知って、少し気が重くなってしまったかもしれません。しかし、世界は美しさと希望にも満ちあふれていて、なんとか平和な社会をつくろうと奔走する活動家たちもたくさんいます。
2001年、国連が「ピースデー」を制定したのですが、世界に敵対行為の停止を呼びかけ”平和と非暴力の日”をつくろうと取り組んだのがNPO法人「ピース・ワン・デー」の代表であるJeremy Gilley(以下、ジェレミーさん)。
大きな争いも、最初は些細な意見や価値観の違いから始まる。それが肥大化する前に、どうお互いを受け入れ合えば平和を築けるのだろう。そしてそういった違いを乗り越えていくには、どんなマインドセットを持つことが大事なのか。ジェレミーさんは、こう話していました。
違う考えと直面した時こそ、大きな学びを得るチャンスです。私たちにはそれぞれの視点や思想があり、それは喜ぶべきことです。対立の要因を紐解けば、自身や相手を成長させる機会にもつながるでしょう。
人生は、難しいことにたくさん直面しますよね。感情や思いに囚われ、自分自身を導いていくことすら容易ではありません。でもだからこそ人生は美しく、おもしろいのです。対立しても、葛藤のうちに新しい光が見えてきます。
暴力も紛争もない世界にするために、相手と向き合うことは不可避ですが、建設的で平和に向かう議論にするために、まず自分自身がどう在るか考えるのも大事な一歩でしょうね。
STEP 4「平和をもたらす対話のメソッドを会得する」
侵攻や戦争といった暴力を解決するときに、目には目をでなく、立ち向かう相手の命も尊重し、あくまで非暴力な社会変革を続けよう。そういう対話やアピールって、どう進めたら良いのだろうと考えている方におすすめしたいのが、NVC(非暴力コミュニケーション)とソーシャルジャスティス(社会正義)です。
ジャスティス(正義)というと、ヒーローが悪玉を”退治する”漫画やアニメを思い浮かべてしまいがちです。しかし、正義の名のもと「悪漢」を設定し、彼らを追い払うという暴力を含まないものだと鈴木重子さんはこう話します。
それぞれの人たちにとってのソーシャルジャスティスの形があり、それが尊重されることが大切だと思います。私個人の定義では「すべての命が大切にされる世界を目指して活動すること」。NVCを志している私たちは特に非暴力に重きを置いて捉えています。
なぜ暴力に対して暴力で立ち向かうことが問題なのか、安納献さんはこう話します。
昔の戦争もいまの社会も、「悪いお前を倒すことで俺の正義が勝つ」という、仕返しや勧善懲悪の「型」をお互いに持っていることが、暴力を永続させている。その連鎖を止めるために、非暴力を選びました。
暴力を排除し、平和な社会をつくるためには、どのような対話をしていけばいいのか。その思索のきっかけにぜひ活用してほしい記事です。
STEP 5「対話の場をつくりながら、目指す変化を非暴力で自分が体現する」
誰も人を殺したいとか環境を壊したいとか思わないのに、平和も環境も保てないのはなぜか?
1991年の湾岸戦争開始の瞬間を、留学先のサンフランシスコで迎えたという、ワークショップ〜ファシリテーションのパイオニアである中野民夫さん。反戦の様子を映像で記録したりしながら、考え続けたのが上の問いだったそうです。
その問いに対して、民夫さんが探り当てた根本原因は「切り離された自己」「“在る”よりも“する”ことへの強迫」「自分をあらわにできる場が少ない」の3つだったといいます。
これらを解決するために彼が行ったのは、“本来の自分の自然”に戻るための道場「本然庵」を屋久島につくることでしたが、「それはモデルケースとして素敵だけど、私たちには難しい・・・」と思う方が多いでしょう。
民夫さんから学び、私たちが低いハードルで始められることは何だろう。僕が考えたのは、対話(相手とじっくり向き合い、心から話し、心から聴く)の場をつくっていくことです。
みなさんそれぞれの独自の解釈や目標設定により、最適化させた対話の場をアップデートしながらつくり続ける。きっとそれは大きな一歩です。
「わたしだからこそ」を考える。
今回は過去記事を用いながら、greenz.jp 副編集長として僕が思い浮かぶ平和実現・紛争解決のためにできる貢献を5つのステップで整理してみました。いくつか気が重くなることもあるし、もしかしたら「自分には知識も経験もないし・・・」とハードルの高さを感じる項目があった方もいるかもしれません。
ただ僕が大事だと感じるのは、構想や計画や懸念に時間を割いているうちに、事態が深刻になってしまい、「もっと早く始めれば」と後悔しないようにすることです。「考えてから走る」のは、さまざまなリスクから身を守るために有効ですが、時に「考えながら走る」のもアリです。そのトライ&エラーの中で常に改善し続けながら活動するのです。
そしてみなさんと考えたいのは、greenz.jpが今回示した5つのステップ以外の貢献です。僕らの提示した案は「正解」ではありません。そして冒頭に書いたとおり、十人十色の暮らしや価値観や知識や経験により、各々ができる貢献は多様で、それがまた素晴らしい結果を導き出す可能性もあります。
だから僕らは、「あなただからこそ」を見つけてほしいんです。
資産家たちは、人道支援のために寄付をしています。
ハッカー集団は、国家により隠された侵攻の実態を暴いています。
インフルエンサーたちは、自身が持つSNSで懸念を発信しています。
自分の身の周りにあるモノ・コトで役立ちそうなものは何だろう。
一緒に活動できそうなヒトはいるだろうか。
そう考えて、「自分だからできること」を見つけるのもきっと素敵ですよ。
greenz.jp 副編集長の僕も、「自分だからできること」を始めています。第2編集部のメンバーやNPOのコアスタッフとの対話の場をつくったり、こうして記事を発信したり、Spotifyには平和を考える第一歩になるプレイリストもつくってみました。
対話の場を持ったことで、「モヤモヤを持つことは悪くない」と気づいたし、代表・編集長の鈴木菜央からは「平和のための断熱(※)」というキーワードが出てきて、暮らしをシンプルに美しくする術を発信し続ける「グリーンズ」というプロジェクトも一種の平和活動だよねと気づく時間にもなりました。非暴力・平和のためにできることをしていると、僕ら自身も日々を棚卸しし、アップデートする機会に恵まれるかもしれません。
(※)「エネルギーや化石燃料により争いが起こるならば、省エネに取り組むことは家計にも優しい立派な平和活動だよね」というひとりの発言がきっかけになって生まれた言葉です。
グリーンズでは、平和のためにあなたが取り組もうと考えていること、すでに取り組んでいることを集めています。Google Jamboardというブレストツールに拠点を用意したので、あなたのアイデアをぜひ書き込みに来てください。
https://jamboard.google.com/d/102DfdcVVgxoJ6mK7msIYUHkrc4ze1kWLy79bST4e-tg/viewer?f=0
(編集・企画: greenz challengers community)
– INFORMATION –
はじめて学ぶNVCの教室(初級編)第11期
12月5日開講!
日本中で、そして世界中で、パンデミックや戦争、景気の低迷など、さまざまな社会問題が尽きない今。世界というものは個人の集合体。改めて「平和とは何か」と思いを馳せたり、「自分はこれからどう生きていきたいのか」と自身の人生に向き合っている方も少なくないと思います。
だとしたら、私たち一人一人の心が平和であることと、世界全体の平和や調和は繋がっていると思います。
「はじめて学ぶNVCの教室」は、自分のことも相手のことも大切にするコミュニケーション方法を、基礎から学ぶことができる入門クラスです。