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この1日から、そして1人からはじめる、暴力と紛争のない世界。国連ピースデーの提唱者、ジェレミー・ギリーさんに聞いた「平和のつくりかた」

みなさんは、9月21日は何の日かご存知ですか?

この日は、国連が定めた国際平和の日(ピースデー)。平和と非暴力の日として、世界に敵対行為の停止を呼びかけることを目的に、2001︎年に制定された日なんです!

日本での認知度はまだ高くはありませんが、毎年この日にはニューヨークの国連本部にて開かれる「国際平和の鐘」を鳴らすセレモニーをはじめとして、数百もの国際機関やNGOが紛争地への緊急支援活動を行うほか、世界中で様々なアクションが起こっています。

このように、この記念日が世界的に認知されるに至った背景には、ある一人の男性の信念と並々ならぬ尽力がありました。その男性とは、ドキュメンタリー映画監督であり、NPO法人「ピース・ワン・デー」の代表を務めるJeremy Gilley(以下、ジェレミーさん)

9月21日に制定される以前は、「9月の第3火曜日」とされていたピースデー。その存在感の薄さを問題視したジェレミーさんは、日付を固定した上で実際に非暴力の日として機能するよう、世界中を奔走したのです。

その活動は、ダライ・ラマをはじめとした平和活動家や団体の賛同を集め、最終的には国連でピースデーが「非暴力と世界の停戦の日」として現在の日付に制定されることが議決されました。

さらに、ジェレミーさんは日付が固定されただけでは満足せず、「停戦の日」としての効力を証明しようと、それまで紛争の戦火により接触できなかったアフガニスタンの140万人もの子どもたちにポリオワクチンを届けるキャンペーンを実施。国連やアフガニスタンの現地機関と協力し、2001年9月21日、見事に現地での争いを止め、ワクチン接種を成功させたのです。

このキャンペーンには、ジュード・ロウや、アンジェリーナ・ジョリーなどのセレブリティも協力。彼らの発信力でピースデイは世界に広く認知され、各地でムーブメントを引き起こしました。こうした活動はジェレミーさん自身が監督を務めた映画『ピース・ワン・デー』(2004年)と、『ザ・デー・アフター・ピース』(2008年)の中に捉えられています。

誰もが平和について考え、行動する世界的な記念日の立役者となったジェレミーさん。そんな彼が、2018年8月31日、ピースデーのキャンペーン活動のため初来日。9月1日に、東京都の国立オリンピック記念青少年センターで開かれた一般社団法人・国際平和映画祭(以下、UFPFF)主催の講演会に登壇しました。

講演会では、『ザ・デー・アフター・ピース』の短縮版を放映。ジェレミーさんの講演会は、この映画や彼の活動について、参加者らが質問する形で、進められました。

ジェレミーさんは、「小学生から私の年代の方まで、多くの人に集まっていただきとても嬉しいです。なんでも聞いてください」と笑顔でコメント。今回は、greenz.jpがピックアップした当日の質問と回答を、本人の言葉でレポートします。


『ザ・デー・アフター・ピース』

なぜ、ピースデーのために活動し映画をつくろうと思ったのですか?

十代の時、様々な情報にふれる中で人間というものに疑問を抱くようになりました。長崎や広島の原爆投下、終わらない紛争、環境破壊や、地域や家庭内で起こる暴力。そうした問題を知った私はひどく困惑し、答えを探そうと考えたのです。なぜ、こうした状況が続くのか? と。

そして、私が持つスキルは、映画をつくることだけでした。社会問題を題材に映画を製作していた私は、世界平和をテーマに映画を撮ろうと考えたのです。そして調べ物をするうちに気がついたのは、どのカレンダーにも「平和の日」がないこと。それが全ての始まりでした。

当初、ピースデーの制定を実現できるとは考えていませんでしが、チャレンジすれば、この問題に深く切り込むことはできると思いました。だからこの映画は、自身の疑問を解決したいという欲求から生まれたと言えるかもしれません。

なぜ9月21日なのですか?


いい質問ですね! それは祖父が好きだった数字なんです。彼は第二次世界大戦の時、長崎で日本兵の捕虜となり被爆しました。そして、終戦後、父と同じように捉えられていた兵士たちの中で、祖国に帰国できたのは父を含む21人だったのです。以来、その番号は彼にとって大きな意味を持ち、私にとっても大事な数字となりました。

暴力のないピースデーを実現するために、ジェレミーさんが最初にしようと思ったことはなんですか?


まず行ったのは、世界中のノーベル平和賞受賞者に手紙を書くことでした。「ピースデーの制定に賛同できますか?」という手紙に対し、彼らは賛同し、応援を約束してくれました。ダライ・ラマ元法王や、コスタリカの元大統領などは面会に呼んでくれ、そこから全てが始まったのです。

あなたが大きくなって、何か大きな行動を起こしたいと思った時は、先駆者たちに手紙を書くことをお勧めします。もちろんその前には、自分で良くリサーチし、入念に準備しておきしょう。あせらず準備に時間をかければ、あなたのやりたいことは、きっと実現できますよ。

映画『ザ・デー・アフター・ピース』の後、ピース・ワン・デーの活動はどのような広がりを見せているのでしょうか?

まず、ピースデーには3つのステージがあることをお伝えします。第1ステージは、ピースデーが9月21日に正式に制定されたこと、第2ステージはピースデーに実際の「停戦」を実現し、ポリオワクチンを届けたこと。そして、今後も続く第3ステージはピースデーを誰もが知っている「母の日」のように世界に定着させることです。

広く認知してもらうためには、ピースデーの情報を世界中に届ける必要があります。そこで私が行っているのは、世界を政府や国内組織、海外組織、教育機関、NGO団体などのセクションに分け、全てにピースデーのメッセージを届けること。世界に広めるわけですから膨大な作業に思えますが、実は、世界の政府に働きかけたければ、193カ国それぞれの代表にメールか手紙を送れば良い。かかる時間は数分です。このように、できる限り多くの人に定期的にピースデーを周知しています。

すると、この講演会を開いてくれた、UFPFF代表理事の関根健次さんのようにピースデーに賛同してくれた人たちが、更に周りに広めてくれるのです。今日参加した小さな子どもたちも、9月21日がピースデーだと覚えてくれたでしょう。彼らが友だちに広めれば次世代につながる、素晴らしいチームワークとなります。

そして、企業の力も欠かせません。最近ではGoogleのトップページや、Facebookにはピースデーのお知らせが流れるようになりました。今後、たとえば手帳にピースデーが記載されるようになると、何億もの人に少しづつ定着していくはずです。

現在、世界で起こっている暴力や争いの95パーセントは、紛争地ではなく家庭内や、会社、学校などで起こっています。つまり、私たちは誰でも周囲に平和をつくり出す機会があるということ。

ひとりぼっちの人に手を差し伸べ、家族を引き寄せ、地域の交流を促すといった行動こそ、平和への意識を真に引き上げ、人間の根本的な問題解決につながると私は考えています。

映画に「We are the people.」という言葉がありましたね。まさしく、平和を築くのはあなた、そして私たちなのです。

自分の考える平和と、ほかの人の思うそれが相容れないときはどうしたら良いのでしょうか?

違う考えと直面した時こそ、大きな学びを得るチャンスです。私たちにはそれぞれの視点や思想があり、それは喜ぶべきことです。対立の要因を紐解けば、自身や相手を成長させる機会にもつながるでしょう。

人生は、難しいことにたくさん直面しますよね。感情や思いに囚われ、自分自身を導いていくことすら容易ではありません。でもだからこそ人生は美しく、おもしろいのです。対立しても、葛藤のうちに新しい光が見えてきます。

アドバイスとしては、違う考え方を持つ人の中にも、自分と似ている点があるかどうかを探してみてください。違いに固執するのではなく、共通点をみつけるのです。そうして難しい場面を乗り越えれば、互いにとっての喜びになります。

難しい場面でこそ、違う視点をもつ人と出会えたことを祝福し、光を見つけましょう。それぞれの思想は違うと理解することが大切です。

映画『ザ・デー・アフター・ピース』では、アフガニスタンの停戦は不可能だと言う人がたくさんいました。なぜ「平和は訪れない」と決め付ける人がいるのでしょう?

そうですね、考えてみましょう。日本にあるような大きな山をイメージしてみてください。それを前に、「あんな山に登れる訳がない」という人はたくさんいます。しかし、登山とは実は一歩一歩の積み重ねで、必ずしも頂点に到達することだけが目的ではありません。

途中、転んでしまうこともあるでしょう。しかし、その時こそが最もたくさんの学びや閃きを得られる瞬間なのです。私自身、ピースデーが正式に制定されて頂上まで登りつめたこともありますが、映画で見ていただいた通り、制定後すぐにアメリカ同時多発テロが起こり、谷底へと落ちました。しかしあの事件は、私にその後の平和活動に更なるエネルギーを注ぐよう決意させるものでした。

確かに、キャンペーン活動の中で私は何度も「NO(不可能だ)」と言う言葉を受け取ってきました。しかし、「NO」は、とても興味深い言葉なのです。なぜなら、なぜ「NO」なのか、どうすれば「YES」になるのかを考えるきっかけとなるから。真摯に「NO」を突き詰めていけば、「YES」に変えることもできるでしょう。

私は人生の後半を迎えていますが、会場には幼い子や、若い方もたくさんいらしています。日本の若い世代に伝えたいことはありますか?

そうですね、あなたの世代の方にもぜひ活動に参加してほしいですが(笑)
 
今日来てくれた若い人たちに望むことがあるとすれば、ひとつは、様々な情報にアクセスできる現代に生まれたことを喜び、活かすことでしょう。

今の時代、インターネットを介せば、無料で素晴らしい教育が受けられます。私の運営する法人のウェブサイト、「Peaceoneday.org」でも、無料の学習ツールを提供しています。日本の学校がこうしたツールを活用し、学生たちが家庭や学校で直面する身近な問題から、環境汚染など地球規模の問題まで解決できるようサポートすることを願います。社会は、「世界を守るための教育」を子どもたちに託していかなければならないのです。

そうして未来の環境や平和のために団結した若者たちのパワーや輝きは、目を見張るものがあります。大人は、子どもがそういった活動に参加するよう励ましましょう。そうして、若い世代の団結がより多く生まれることを願います。

もし私が学生ならば、まず同級生たちを巻き込むでしょう。みんなで今日のような平和に関する映画を見るのも良いし、ピースデー関連のイベントを調べて参加したり、自分たちで企画したりするのも良いですね。

ピースデーは、日常のことを平和のために行うだけでも良いんです。平和のためにスポーツしたり、読書したり、絵を描いたり。友人とケンカをしている最中なら、電話をして謝るのも良いでしょう。みんなで何かをしたければ、自身の学校や、他の大学にも呼びかけ、黙祷を捧げる時間を持つのも良いかもしれません。

そして、自分たちが行った行動をFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアで発信するのです。これまでの歴史で、今ほど個人の発信に影響力がある時はないでしょう。だから、創造的になり、周囲を巻き込み、あなたの活動をできる限り多くの人に伝えてください。それは、他の誰かがあなたのように行動を起こすきっかけになります。

大きな川の流れをせき止めたければ、私たちはダムをつくりますね。ダムはたくさんの独立したブロックが強固につながりできています。そのように、平和も私たち一人一人が支えていくものなのです。川の圧力で崩れてしまわないよう、それぞれの活動でしっかりつながりあい、すき間があれば埋めていきます。そうすることが、人間の抱える根本的な問題の解決策であると私は考えているのです。

互いにつながり合えば、国や文化を超えて世界にリアルに変化を起こせる。それは、若い人にとって大変ワクワクすることではないでしょうか? たった1日でも暴力のない日が実現すれば、2日、3日と続けることも可能でしょう。そうして平和な日が増えていくことを願っています。

21世紀のうちに戦争のない世界を築きたいですね。

そう信じています。そして、日本はそうした世界の実現をリードできる国である思います。日本という国は素晴らしいです。UFPFFのほかにも至るところで様々な個人や団体が活動しており、皆さんの熱い思いが伝わってきます。非常に希望が持てますし、日本こそ、平和の実現に向けて世界にインスピレーションを与えることができる国だと感じています。

(基調講演の内容はここまで)

講演会に登壇されたみなさん。左から、井筒高雄さん(ベテランズ・フォー・ピース・ジャパンVFPJ代表)、髙瀨聖子さん(一般社団法人 国連平和の鐘を守る会)、谷口真由美さん(大阪国際大学准教授、大阪大学非常勤講師)、ジェレミー・ギリーさん、関根健次さん(ユナイテッドピープル代表)、松永瑠衣子さん(映画『アトムとピース』主演)、安田菜津紀さん(フォトジャーナリスト)


子どもから大人まで様々な質問がありましたが、ジェレミーさんは、どの質問にもじっくりと向き合い、熱が込めて回答されていました。彼のエネルギーは会場を訪れた人に、大きな希望を与えたのではないでしょうか。

「平和」は、私たちが思いを馳せ、求め続けることで実現・継続していくものでしょう。そして、ジェレミーさんが述べた通り、世界的な平和実現の鍵は、あなたの身近なところにあるのかもしれません。

9月21日、あなたのピースデーは、どんな日にしたいですか?

(撮影:丸原孝紀)

– INFORMATION –

国際平和映像祭(UFPFF)2018

国際平和映像祭(UFPFF)は毎年国連が定めたピースデー9月21日に合わせて横浜で開催している平和がテーマの映像の祭典です。国際平和映像祭 2018は9月22日(土)JICA横浜での開催となります。

今年は2部制で第1部は「平和のヒューマンライブラリー」。第2部は審査会&アワードセレモニーを開催します。今年のファイナリスト10作品の上映と監督スピーチ。去年のグランプリ、小林令奈監督(慶應義塾大学/日本)の新作上映、札幌国際短編映画祭PEACEセレクション特別上映、そしてグランプリなど各賞の発表と授賞式を行います(去年の開催報告はこちら)。1部、2部両方、または2部のみの参加が可能です。
https://ufpff2018.peatix.com/

その他の上映会情報はこちら https://www.cinemo.info/movie_detail.html?ck=63