「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」

greenz people ロゴ

自分と未来に向き合う「あつまじかん」を過ごそう。北海道厚真町が提案する「テロワール型ワーケーション」とは?

ワーケーション」と聞くと、旅をしながら仕事をすること、自然豊かな地方で仕事をすることといったイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。私もときどきワーケーションに出掛けては、行きたかった場所を訪れ、美味しいご飯を食べ、現地の方々と交流しながら仕事をしています。

一方で、仕事に熱中してしまうあまり、旅先の食や人との出会いを楽しむ余裕がなくなってしまうこともしばしば。

「都市部から持ち込んだ仕事を、豊かな環境の中でやることはワーケーションなんだろうか?」

と、自分の行動に対して疑問を抱いてしまうこともあります。

新型コロナウイルス等の収束が見えない今、個人・組織問わずワーケーションの注目は高まり、導入する自治体も全国的に増えてきています。そんな中、「テロワール型ワーケーション」と一風変わったネーミングで提案しているのが、北海道厚真町です。

“テロワール”とは、ワイン好きの人ならご存知かもしれません。その土地の土壌、地勢、気候…そのような要素(テロワール)が揃ってこそ、美味しいワインができるのです。そんな意味をなぞらえて、この名を掲げている「テロワール型ワーケーション」。なんだか美味しそうな魅力がつまっていそうですね。

厚真町のワーケーションとは一体、どのようなものなのでしょうか? プログラムを企画・運営する株式会社フェリシモ/株式会社hope forの三浦卓也(みうら・たくや)さんと厚真町役場の森田綾(もりた・りょう)さんにお伺いしました。

左・森田さん、右・三浦さん

三浦卓也(みうら・たくや)
株式会社フェリシモ 執行役員/ 株式会社hope for取締役
1976年生まれ 大阪府出身。株式会社フェリシモにて新規事業開発を担当する傍ら、総務省の「地域おこし企業人(現:地域活性化企業人)」プログラムを活用し2017年4月より3年間北海道厚真町に出向。地域資源と人材を活用した企業コラボレーションや商品開発に取り組む。北海道胆振東部地震発災から3ヶ月後の2018年12月6日、地域発で日本の希望を生み出す事業を支援するフェリシモの100%子会社「株式会社hope for」を現地に設立。ベンチャー企業への投資や地域の事業支援を行う。
森田綾(もりた・りょう)
厚真町産業経済課経済グループ
1991年生まれ、北海道勇払郡厚真町出身。
厚真町内にある小学校、中学校、高等学校を卒業後厚真町役場に奉職。年齢=厚真歴の生粋の厚真人。
普段は観光担当として業務に従事しているほか、東胆振地域1市4町(厚真町の近隣市町)の若手職員で構成される自治体連携プロジェクトチームのリーダーを担い、地域単位での誘客を図る取り組みを実施している。

街全体でチャレンジを応援し、多くの起業家を輩出

北海道厚真町は、「北海道の玄関口」である新千歳空港から車でわずか35分。全国の都市部から日帰り圏内というアクセス抜群な立地でありながら、のどかな田園風景が広がるまちです。人口は約4400人。農業・林業・水産業が揃い、「リトル北海道」と呼ばれるほど豊かな資源が人々の暮らしを潤しています。

また、以前グリーンズでもご紹介した、起業したい人を応援する「厚真町ローカルベンチャースクール(※)」を2016年から毎年開催。馬搬と林業を営む西埜将世さん輸出・輸入業を営む佐藤稔さんなど、多くの起業家を輩出してきました。

(※)官民様々な立場で、厚真町を舞台にした新しい価値創造にチャレンジする仲間を発掘・育成・選考するプログラム。起業を目指す人(地域おこし協力隊等)、新規就農を目指す人(地域おこし協力隊等)、企業に所属したまま自治体で活躍を目指す人(地域おこし企業人(現:地域活性化起業人)などを募集している。

一方、2018年に発生した北海道胆振東部地震においては、最大震度7を記録。大きな被害を受けました。それでも「これからも厚真町で頑張りたいと話す仲間も多かった」と三浦さんは当時を振り返ります。

震災から2ヶ月後、三浦さんがフェリシモの仕事で基金の募集をする際に撮影。地域の未来を担う活動にも基金を活用しています。

前向きなエネルギーがつまった厚真町に惹かれて

震災以前から活動する三浦さんもその一人です。株式会社フェリシモの一員でありながら、2017年から3年に渡り総務省のプログラムを活用し「地域おこし企業人(現:地域活性化起業人)(※)」として厚真町に関わりました。

(※)企業に所属したまま自治体で活躍を目指す人

2018年には、株式会社フェリシモの100%出資子会社としてコーポレート・ベンチャー・キャピタルの「株式会社hope for」を、2020年には厚真町に関わる企業4社で「OpenTown厚真一般社団法人」を設立。2020年に「地域活性化起業人」の任期を終えてからも、三浦さんはフェリシモ本社のある神戸市と厚真町を行き来しながら、新たな挑戦をつづけています。

いくつか三浦さんの活動をご紹介しましょう。

例えば「株式会社hope for」としては、厚真町の元ゴルフ場を放牧牧草牛の牧場「和牛メゾン」に生まれ変わらせようとしている畜産ベンチャー「GOODGOOD株式会社」や備蓄・防災事業を展開する「株式会社ワンテーブル」に出資。事業を応援してきました。

また、北海道胆振東部地震で被災した、厚真町を含む胆振東部3町の中小企業の復興支援のため、商品開発や販路開拓に伴走しています。

地域の事業者をめぐるバイヤーツアーの様子

一方、三浦さんが代表を務める「OpenTown厚真一般社団法人」は、「日本一行き来しやすく開かれた疎な町づくり」を目指す応援団体です。一般的に、過疎化が進むまちは「閉じた疎」なまちであることが多いもの。しかし、厚真町はアクセス抜群の立地であり、「厚真町ローカルベンチャースクール」などで培われたチャレンジャーを応援する気運が醸成されていることから、「開かれた疎な町」と定義づけ、厚真の外と中をつなぐ入口となるべく活動してきました。

これらの活動を通じて、三浦さんは厚真町の魅力をこう語ります。

三浦さん 厚真町に関わる以前、地域には課題がいっぱいで悲壮感が漂っているんじゃないかと思っていました。でも全く逆。むしろこのまちでチャレンジしようと頑張る人を応援する風土があり、厚真町の未来に継いでいける挑戦をしている方がたくさんいらっしゃったんです。それらに触れるうちに僕も、厚真の人たちが願いを叶えられるように応援できることはないかと考えるようになりました。

関わりを深めていく中で、厚真町役場から三浦さんのもとに新たな相談が舞い込みます。それが厚真町でのテレワークやワーケーションを推進する事業です。

森田さん 厚真町に限らず、どこの自治体も少子高齢化が進み、人口を増やすにしても移住・定住だけでは限界があります。まちを存続させるためには、共助の力が不可欠。解決策の一つとして注目しているのが「関係人口」です。

厚真町はもともと外から来る方にウェルカムなまち。周辺の自治体に先駆けて2016年には「厚真町サテライトオフィス」を開設しました。おかげさまで好評で、ほぼ満室です。今テレワークが注目されていることもあり、サテライトオフィスの増設を予定しています。さらに多くの方に利用してもらうためにはどうしたらいいのか、三浦さんとパートナーを組んで相談しています。

右:森田さん 左:三浦さん。サテライトオフィスにて。

「あつまじかん」を楽しむ、2泊3日のワーケーションプログラム

三浦さんがまず考えたのが、「厚真町の魅力とはなんだろう」という問いでした。浮かび上がってきたのが、「厚真にながれる時間」というキーワードです。

三浦さん 個人と企業どちらもの生産性が上がり、地域との関係性も築けるところを軸にできないだろうかと考えました。一般的に言われるワーケーションはバケーション要素が高く、組織としての生産性が向上しているか、地域との関わりがあるかは不明瞭です。だから、ただ旅行と仕事を一緒にするものにしたくはありませんでした。

そもそも厚真町には温泉や観光名所がなく、バケーション要素は低め。それを逆手にとってワークに重点を置き、個人の充足度と組織の生産性を高めながら、地域との関係性を深められるプログラムづくりを進めています。

コンセプトは「あつまのじかんと向き合う」。その地域がもっている自然豊かな環境で過ごしながら、じっくりと自分と未来に向き合う時間をつくるところが、テロワール型ワーケーションの特徴です。

2021年10月には、そんなプログラムを想定したモニターツアーを決行。株式会社フェリシモと人材開発事業を展開するウィルソン・ラーニング ワールドワイド株式会社のメンバーが、1泊2日のワーケーションプログラムを体験しました。

チームは3つ。一つは家族で参加するファミリーチーム、二つ目は仲間と組織の未来に向き合うワークチーム、そして三つ目は自分と自然とつながるチームです。

1日目のテーマは自然との調和。厚真町の自然の中で過ごし、ゆっくりと自分のスイッチを入れていきます。その間ファミリーチームは厚真町のこどもたちと草木染のワークショップを楽しみます。

馬搬(山で伐り出した木材を馬で運搬すること)見学。

三浦さん 都市部のオフィスにいると、今日の天気もわからないまま過ごすことがあります。今回モニターツアーに参加してくださった身体論者の藤本靖さんに聞いた話なのですが、「人間は自律神経が凍りついている状態では、心と身体のスイッチが入らず、気づきも生まれない」らしいんですね。なのでスイッチを入れる場所をたくさんご案内しました。

例えば浜厚真の水平線と地平線が同時に見えるスポットは、ボディワークの観点から見ると「心と身体のバランス感覚をとり戻す」ために抜群の場所らしいです。

浜厚真

浜厚真のほか、建設中のGOOD GOOD和牛メゾンや広葉樹の森が美しい環境保全林などをめぐり、徐々に心と体のバランスを整えていきます。


2日目は全チーム集まって、保育園を改装したワーケーション施設に集合。厚真町の事業者やチャレンジを応援する役場のみなさんにも加わっていただき、「厚真町の魅力」を考えるワークです。チャレンジする人・応援する人の双方の話を聞きながら、厚真の可能性を探る時間になりました。

三浦さん ワークをしたところ、厚真町には未来に向けて挑戦をする人がたくさんいることが見えてきました。人口が少なくて課題が多いことはネガティブにも捉えられますが、一方で若いうちから大きな裁量権を持って幅広い業務を任せてもらえる風土が育まれているのではないか、との仮説も浮かび上がってきました。

「厚真町の魅力」を考えるワークの様子。

三浦さん かつ、しんどい時に気づいてくれる距離感の取り方がうまい人が厚真町には多い気がしています。僕も過去に「もうあかん」ってなった時、地域のおばあちゃんと一緒に鉄塔に下がる夕日をじっと見てたことがあって…。30分くらいでしょうか。それで自分の調子が整ったんですよね。

受け入れ側としてモニターツアーに関わった森田さんは、こう振り返ります。

森田さん 我々にとっては当たり前な風景が、実は身体科学的に意味があり、能動的な行動に寄与していることに驚きました。外から訪れるみなさんが与えてくれる気づきは、我々にとっても刺激的です。我々も楽しいですし、外から来る人も都市部では得られない魅力を感じてくれるのであれば、win-winな関係が生まれると思いました。

森田さん 厚真町の人口は少ないですし、何かしたいけどどうしたらいいかわからない方も多いです。でも外の方はモノは持っていなくてもノウハウがある。中と外をつなげたら、「一緒にやりましょう!」と話が進むことも多いですし、どちらも成功の道に進んでいけるので、彼らをつなぎ合わせる役場の役割は重要ですね。そのためにも場所がないとはじまらないので、新たにつくるサテライトオフィスには可能性を感じています。

実体験から見えてきた、テロワール型ワーケーションの可能性

厚真町の自然に触れ合うことで心身のバランスが整う。小さなまちだからこそ任せてもらえる風土があり、挑戦を生む。そして、挑戦者を全力で応援してくれる役場やまちの人がいる。だからこそ、外から多様な人が入って来ることもウェルカムで、お互い気づきが生まる状況をつくり出せているのではないか。モニターツアーを通して、厚真町ならではのワーケーションの可能性が見えてきました。

三浦さん モニターツアーの参加者に感想を聞いたところ、「自分に出会えた」と言ってくれた方がいました。会社では人見知り、家では母親、いろんな役割をずっと演じてきたことに気づいたって。特に会社では人の話を聞いて調整役に回ることが多かったけど、厚真町では積極的にまちの人と喋ることができたし、自分の意見を言ってもいい”安心感”があったとおっしゃってくれたんです。

実際、三浦さんも厚真町に関わったことで、素の自分に戻り、自分の役割を見出せた経験があるそうです。

三浦さん 厚真町に関わった当初は、何かしなきゃと自分を追い詰めてしんどい時もありました。でもさまざまな活動をし役割を模索する中で、自分は旗振り役は向いていないとわかって。むしろ誰かに悩みを相談された時に、できる人を巻き込んで一緒に形にしていく瞬間が一番気持ち良いと気づいたんです。

三浦さんは、人と企業をつなぎ、物ごとが形になった経験により「まちと人をつなぐミツバチ役」としての役割に徹しようと思ってからは、ありのままの自分で居られるようになったとつづけます。

三浦さん 厚真町にいると、”フェリシモの三浦”っていう立場は置いておいて、「自分は何がしたいんだろう」とか、まちの人の話を聞いて「何ができるだろう」とかいうように、素の自分をさらして話ができる場がある気がしています。そうした気づきを得られるようなワーケーションプログラムをつくりたいですね。

「自然と仕事」よりも「自分と仕事」が調和する場所、厚真町へ

三浦さん自身の体験やモニターツアーから、少しずつ見えてきた厚真町だからできるテロワール型ワーケーションのプログラム。今後はどのような展開を考えているのでしょうか?

三浦さん 「厚真町お試しサテライトオフィス」は、一週間1万円ほどで利用でき、インターネット回線や調理器具も揃っています。そこでじっくり仕事に取り組んでいただくこともできます。

そうした利用の仕方ももちろんありですが、より踏み込んで、「自分と未来に向き合う時間」になる厚真町ならではのプログラムをつくれないかな、と。自然の中でスイッチを切り替えてリラックスしたら、挑戦意欲も湧きやすくなるはず。そうした方がサテライトオフィスに集まると、新しい事業が生まれやすくなるだろうし、外の人と中の人と交流することで実現性が増す可能性もあるんじゃないかって。

まだはっきりと言葉にできていないと言いながらも、三浦さんの心に浮かんでいるのは、「自然」よりも「自分」を軸にしたプログラムです。

三浦さん 従来のワーケーションのイメージは、自然に囲まれた豊かな環境で都市部の仕事をする、「自然と仕事が調和する」ものでした。でも、厚真町では「自分と仕事が調和する」ことがテーマになりそうです。

自然体験して終わりではなく、自然の中から自分と未来に向き合ってみるとか地域の人と関わるとか、そんなプログラムをつくれたら道内の他市町村にも波及できるモデルになるんじゃないかと妄想しています。

そうした三浦さんの妄想を共に実現していく森田さんは、三浦さんの存在をこのように語ります。

森田さん まちの一番の財産は「人」です。三浦さんは多種多様な”風”を厚真町に運んでくれていて、ありがたい存在です。外の人と厚真町をつなげられるよう、そしてテロワール型ワーケーション事業が自走できるよう、我々もしっかり伴走していきます。

「自分起点」で人生も社会もより良くしていこう

テロワール型ワーケーションのテーマである「自分と未来に向き合う時間」。肌感覚ですが、今立ち止まって自分に向き合う、まさにこのテーマのような時間を求めている人が増えている気がします。

取材が終わり、そんな問いかけを各々味わっていると、三浦さんから「自分起点」というキーワードが出てきました。

三浦さん きっと今は社会の変革期。仕事柄かもしれませんが、未来のために「何かしなきゃいけない」ことに気づいて、動いている・動こうとしている方とたくさん出会います。彼らと話をすると、1番の起点はみんな「自分」にあるんですね。

怒りで社会を変えようとするのではなく、自分と向き合った上で「心地よい社会ってどんなものだろう」と考えた結果、ある方は地域に関わるし、都市部で何とかしようと思う方もいらっしゃり、それぞれのフィールドで活動されています。

新しい社会には「自分起点」が大切だと気づいた人が増えているからこそ、テロワール型ワーケーションでは、役職も役割も取っ払って、自分の一番心地よい状態を見つけてもらえるような時間にしていきたいです。

厚真町お試しサテライトオフィスは個人・法人問わず利用ができます。でも、せっかく訪れるならただ都市部の仕事を持っていくのではなく、一部を地域の人と関わったり、自分と向き合ったりする時間にすると、より自分が心地よいと思える人生を歩めるヒントを得られそうですね。

今後、3本シリーズでお届けする「北海道厚真町が提案する『テロワール型ワーケーション』」では、共に事業を進めるパートナーのみなさんに自然資本を体験することで起こる個人の変化や組織変容を、また厚真町で事業をはじめた方が語る厚真町の魅力などをご紹介していきます。お楽しみに!

[sponsored by 株式会社hope for]

– INFORMATION –

厚真町ワーケーションの情報サイト「厚真ワーケーションスタイルあつまじかん」が公開しました。
本記事をご覧になって、もっと厚真町ワーケーションのことが知りたくなった方はこちらをご覧ください。
https://atsumaworkcation.jp/