「あそこに行くと、子どもが激変するらしい」
これは2年半ほど前、私がモリウミアスについて耳にしたウワサ。
教育に関心を持つライターであり2児の母でもある私、半信半疑で情報収集してみたところ、MORIUMIUS(以下、「モリウミアス」)は、「サステナブル」「ローカル」「ダイバーシティ」をコンセプトにした子ども向け複合体験施設だと知りました。東日本大震災で被災した石巻市雄勝町、その高台にある廃校をリノベーションした施設で、子どもたちが自らの手を動かし、仲間との協働のなかで自然と共生する暮らしを営むのだとか。
2019年初夏、さっそく家族で訪れてみると、まずは海、山、森に囲まれた素晴らしい自然環境、そして築92年の校舎を中心としたフィールドの豊かさに圧倒されました。場の力に背中を押されるように、動き出す子どもたち。そして印象的だったのは、この場所に魅せられ、遠方から故郷のように通い、新たな出会いと交流を心から楽しんでいる多様な大人たちとの出会いでした。
「モリウミアスとは、いったい何なのだろう?」
それ以来、私の頭にはこの問いが浮かんでいます。ある人は「多様ないのちとつながる場所」であると言い、またある人は「自分の生き方や考えを振り返り整理できるところ」だと語り、常連の小学生は「自分で答えを見つけに行く場所」だと言い切る。モリウミアスは、もはや単なる「施設」や「場」ではなく、ひとつの「概念」へと昇華しつつあるようにさえ感じられます。
2021年5月初旬、私はあらためて、石巻市雄勝町へ。モリウミアスを舞台に来年4月からスタートする新事業「漁村留学」を立ち上げ、子どもたちとともに暮らしを紡いでいくスタッフを募集していると聞き、取材に訪れました。
「モリウミアス」とは?
「モリウミアスで働く」とは?
さまざまな角度から、この問いの核心に迫ります。
ー 目次 ー
▼人が人を呼び、場にいのちを吹き込んで。森と海と明日へ。モリウミアスの物語
▼「変化の中で常に意味を見出しながら、人と生きる」学ぶチームリーダー・安田健司さん
▼「暮らしを楽しむことが私たちの仕事であり、価値でもある」泊まるチーム・原田明季さん
▼「自然との共生」を軸に、つながりのなかで変化し続ける。モリウミアスのいま
▼専門性よりも「変化を面白いと思えるか」。モリウミアスという組織と人と。
▼「劇的に変化する」のは、きっと、子どもだけじゃない。
人が人を呼び、場にいのちを吹き込んで。
森と海と明日へ。モリウミアスの物語
2011年3月11日。リアス式海岸が美しい豊かな海と森に包まれた漁業のまち・宮城県石巻市雄勝町には、激しい揺れとともに大きな津波が押し寄せ、あっという間に8割もの民家が流されました。
あまりにも多くのものを失ったこのまちの高台に残されていた、築92年の廃校。少子化の影響で2002年に閉校となった後も想いのある法人が取得し、守られてきたこの建物を舞台に、モリウミアスの物語は始まりました。
「この場所をまちと子どもたちの未来のために使い、復興のシンボルとしよう」。プロジェクトが動き始めたのは、2013年4月のこと。著名建築家たちが指揮を取り、週末ごとに日本全国から企業からの派遣も含めた多くのボランティアが訪れ、長い時を刻んできた校舎に息を吹き込んでいきました。
2年半、のべ5千人もの手で再生され、子ども向け複合体験施設「MORIUMIUS(モリウミアス)」として歩み始めたのは2015年7月のこと。
それ以来、7泊8日の夏のプログラム(※)を中心に、春から初夏にかけては週末のショートプログラムも展開し、都心を中心に全国から子どもたちが訪れるようになりました。
(※新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、それまで7泊8日だった夏のプログラムを、2020年は4泊5日、2021年は6泊7日に変更して開催しています)
火をおこしてかまどでご飯を炊き、生ゴミを堆肥化し、豚や鶏など動物の世話をし、森に入り手入れをして、漁船に乗り込み海の幸を得る。都会生活では体験できない、自然との共生の中で子どもたちが自ら生きる力を学び取るプログラムに魅せられた人が人を呼び、リピーター家族のほか、企業や自治体の視察も次々に訪れるようになりました。また、校舎再建のボランティアとして社員を派遣していた企業は、今度は研修の場として利用するようにもなりました。
こうしてモリウミアスは、2019年には年間約1,500人もの人々が訪れる場所へと育っていったのです。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い宿泊を伴うプログラムの遂行が困難になった後も、オンラインプログラムを企画・配信する他、石巻市から委託を受けた艇庫事業や、地元の方を中心に実現に向けて動き始めた雄勝ガーデンパーク事業などにも参画。
さらに来年4月からは、今回スタッフを募集する「漁村留学」事業がスタート。都市部の小・中学生が長期間に渡って親元を離れ、自然豊かな農山村で生活をする「山村留学」が各地で行われていますが、「漁村留学」は、その漁村版。
モリウミアスでサステナブルな暮らしを営みながら石巻市立雄勝小・中学校に通い、ともに雄勝町の未来をつくっていく子どもたちを全国から募集するため、現在寮を建設中。1ヶ月〜数年間という長期に渡って子どもたちを迎え入れるための準備が進められています。
立ち上げからまもなく6年。関わる人々、訪れる人々によって新たないのちが吹き込まれ、進化し続けるモリウミアス。子どもたちと雄勝町の未来のための行動体として、歩みを止めることはありません。
この場所で働くとは、いったいどういうことなのでしょうか?
ここからは、今回の人材募集について考えるため、いま働いているスタッフの方々のあり方に迫ってみたいと思います。
「変化の中で常に意味を見出しながら、人と生きる」
学ぶチームリーダー・安田健司さん
子どものプログラムを企画運営する「学ぶチーム」のリーダーであるとともに、今回募集する「漁村留学」の立ち上げスタッフでもある安田健司さんは、千葉県柏市出身。大学3年生の3月、就職活動中に東京で震災を経験した約1ヶ月後、1週間の災害ボランティアに参加し、初めて石巻市雄勝町を訪れました。市街地から峠を越えた先に見えたのは、「真っ茶色で何もない」世界。「まるで違う世界に来た」という強い印象が安田さんの中に残りました。
東京に戻り、「漂うように」就職活動を再開したものの、夏には自主休学。東北の教育支援を行うNPOでインターンとして働き始めました。その後、目にしたのがモリウミアスの前身である「一般社団法人Sweet Treat 311」の代表の“右腕”となるポジションの求人。既に募集は終わっていましたが、「雄勝」そして「教育」というキーワードに「ここしか無い」と感じた安田さん。“右腕”の派遣元だったNPO法人ETIC.の事務局インターンとして関係性を築くことから始め、約半年後の2012年8月には正式にSweet Treat 311の職員になりました。
その後、やがてモリウミアスに至る「雄勝学校再生プロジェクト」の立ち上げ事務局の一員として奔走し、2015年7月のモリウミアスオープン後は「学ぶチーム」のリーダーに。約6年間に渡り、子どもたち向けプログラムの企画運営を牽引し続けてきました。
震災直後から関わり、激動の立ち上げ期を乗り越え、常に変化とともにあったこれまでの働きを振り返り、安田さんは「幸運にもその都度、自分の中でやる意味を見出して来られた」と語ります。
安田さん 支援活動をして終わる団体だったら、今頃僕は露頭に迷っていたと思います。でもモリウミアスには「子どもの成長」という共通の喜びを軸に、それぞれがそれぞれの役割を見出していける環境がある。
僕自身、モリウミアス立ち上げ前は、事務も経理も動画の編集も全部やるという感じでしたが、オープン後は「学ぶチーム」のリーダーという役割ができて。いまは漁村留学立ち上げという大きなミッションもあります。
次々に変化する役割。でも安田さんはそれを「すべてつながっている」と語ります。
安田さん たとえば漁村留学も、これまで大事にしてきた「サステナブル」「ローカル」「ダイバーシティ」というコンセプトは変わらずに存在しますし、1週間のプログラムでは“真の暮らし”にならなかったところを、一緒に住むことによってかたちにしていくという意味合いが強いんですよね。延長線上であり、拡大した先でもあると思っています。
激動の中でも安田さんが自分自身の役割を見出して来られたのは、「関わる人によって形を変えていく」という組織のあり方によるところが大きいようです。
安田さん モリウミアスという組織は、「やりたいことはやりなよ」というスタンスではありますが、そのための環境は用意されていません。でも自分で頑張りさえすれば、なんでもできる。だから人との出会いによって、プロジェクトのあり方も場のあり方も変わっていくんです。
漁村留学も、現在の構想がすべてではなく、関わってくださる方によってどんどん変化していくでしょう。だから、強さと優しさ、そしてその人なりの感覚や動機を多いに持ち合わせて、感性まるごとで飛び込んでほしいですね。
モリウミアスで働くということ、安田さんにとってそれは、「人と生きる」ということ。
安田さん 子どもたちの成長の場として、自分自身が生きる場として、多様な人との関わり合いが豊かさにつながっていく。それがモリウミアスらしいところだと思います。
子どもから家族が変わり、社会が変わっていく。そんな未来を見据え、安田さんは歩み続けます。
「暮らしを楽しむことが私たちの仕事であり、価値でもある」
泊まるチーム・原田明季さん
訪れる人々の宿泊や移動をサポートする「泊まるチーム」で活躍する原田明季さんは、2018年、モリウミアスでは珍しく、大手求人サイトからの応募でスタッフとなりました。
兵庫県姫路市出身。教員を目指して大学に進学しましたが、新卒時は「社会を知るための時間がほしい」と、NPOや塾講師等、教育関連の職を複数経験。約1年半後、迷いながらも教員採用試験を受けて見事採用に至り、兵庫県加古川市の中学校社会科教員として公教育の現場に飛び込みました。
担任業務に授業準備、部活指導に明け暮れ、忙しくも「めっちゃ楽しかった」と振り返る教員生活。子どもに大きなパワーをもらえる自分自身を感じ、「教員は天職」とさえ感じましたが、日々の業務に忙殺され子どもと丁寧に向き合えないジレンマを抱えて求人サイトに登録。偶然目にしたのがモリウミアスの求人でした。
「面白そう」と心惹かれ、週末を利用して見学ツアーに参加。初めて目にしたリアス式海岸の美しさと森と海がつながる雄勝の自然環境に感動し、直感で「住んでみたい」と感じたそう。子どもの成長に携われること、大学の寮生活という原体験からくる宿泊業への関心、そして「たくさんの人の思いがこもった場で働いてみたい」と応募に踏み切り、教員3年目だった2018年4月、モリウミアスの一員となりました。
「まさかの採用」から3年半。いまでは「泊まるチーム」の中心で、プログラムの予約管理や問い合わせ対応、学校団体との調整等事務仕事のほか、掃除や風呂炊きなどの体力仕事も卒なくこなす原田さんですが、参画当初はどこまでも主体性を求められる組織のあり方に対する戸惑いも大きかったと語ります。
原田さん 「郷に入っては郷に従え」という言葉がありますよね。でもここでは、「従おう」と思うと「従わずに自分で考えて!」って言われちゃって、「えー! 最初くらい従わせてよ」みたいな(笑)
つまりモリウミアスの「郷」って、人それぞれにあるんですよね。一番大事なポイントだけ抑えていれば、それぞれに大事にしたいことを持っていていい。だから、みんなの考えを探りつつ、自分の答えを見つけていく姿勢が求められます。難しいけど面白いですよ。最初は修行ですが(笑)
戸惑いながらも、スタッフやまちの人、訪れる人々とのコミュニケーションにあふれる仕事と暮らしのなかで、自分自身の生き方の根本を見つめ直してきたと振り返る原田さん。特に暮らしは「180度変わった」と語ります。
原田さん 私、マッチさえすれなかったんですよ。こんなエコで丁寧な暮らしがあるなんて全然知らなかったし、震災のことも漁師さんの暮らしも野外活動も全く知らなかった。
だから何もかもが新鮮で。自然にも周りにもフェアな生き方っていいな、と思いますし、ここにいるとそういう暮らしの情報がいっぱい入ってくるので、あれもこれもやりたくなって、楽しいですね。
そしてこの春、自分なりのプロジェクトをはじめました。年に4回、モリウミアスが大事にしている価値観を詰め込んだお惣菜を、地域の人々に向けて予約販売する「季節のお惣菜」企画です。
原田さん 地域のみなさんのところに「お茶しに来ました」って行くのはハードルが高いですが、「惣菜を届ける」という理由があれば顔を出して関係性をつくっていけますよね。そうやって私たちのことを少しずつ知ってもらうことは、私たちの暮らしを楽しくすると思います。
私が一番大事にしたいのは、こうやって自分がここでの暮らしを楽しむこと。「暮らしのモデルをつくる」といいますか、私が楽しむことでモリウミアスで働く私たちの暮らしがこんなに素晴らしいものなんだよ、って子どもたちや地域の人々に伝えていきたいですし、そのことで私たちが周りにとっていい影響を与えられたら最高だな、って思っています。
「いつか自分で宿泊業をやりたい」という想いを携えながら、いまここでの暮らしも仕事も存分に楽しんでいる原田さん。「ここで働く時間は絶対に無駄にならない」という真っ直ぐな言葉が、その確かな価値を力強く照らしてくれているようでした。
「自然との共生」を軸に、つながりのなかで変化し続ける。
モリウミアスのいま
それぞれのあり方で、ここで生きる。「ダイバーシティ」というコンセプトのとおり、スタッフのみなさんはそれぞれの個性をそのまま携えながら、自らの働きを自由に表現しているように感じられます。
そのあり方を許容する源となるもの、そして「モリウミアスで働く」ということをより深く捉えるため、ここからはモリウミアス代表・フィールドディレクターの油井元太郎さんにお話を聞いていきます。
子どもの職業体験テーマパークとして、いまや誰もが知るところとなった「キッザニア」の日本での立ち上げに奔走し、震災後にモリウミアスを立ち上げた油井さん。モリウミアスという場について、いまなにを感じているのでしょうか。
油井さん ここ数年、「モリウミアスを訪れる」ということが、もはや「雄勝の廃校の施設に泊まりに行く」という意味ではなくなっていると感じるようになりました。
「家でもモリウミアス的なことをしたいね」とか、「学校の授業でもモリウミアスみたいなことをしよう」なんて語られるようになってきていて。それはキッザニアがテーマパークではなく「キッザニア的なこと」と、職業体験の代名詞のように使われているのと同じ感覚です。
「モリウミアス的」なこととは? 油井さんは、「やはり“自然とともに生きる”ということですよね」と前置きし、こう続けました。
油井さん もっと言えば、人が自然と関わることで、自然がより良くなるということ。人間は自然から搾取しているイメージを持たれますが、里山では人が自然とともに生きることでより豊かな自然が育まれていくという循環が生まれています。
モリウミアスで過ごす時間だけではなく、どんなに都会で土や木がないところでも、そういうサステナブルな生き方・暮らし方の感覚を持つ子どもたち・大人たちが増えるということ。それが僕らの役割じゃないかと強く感じています。
「都会でも、モリウミアス的な暮らしを」。その構想が加速度的に現実のものとなっていったのは、2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大により、宿泊プログラムの遂行が困難になったことがきっかけだったそう。プログラムを予約していた家族に対して返金ではなくオンラインプログラムを実施したところ、思わぬ手応えを感じたのだとか。
油井さん それまではプログラム実施後、保護者から「帰ってから数日、お手伝いしてくれました」といった声が届いていて。子どもの主体性を嬉しく感じる一方で、生活に根付いていかない寂しさも感じていました。
でもオンラインプログラムでは、子どもと同時に保護者にも届けることができる。参加した親子が残った食材を使って週末に一緒に料理をする、生ゴミをコンポストに入れて堆肥化する、といったことが自発的に始まりました。
人が来られなくなったから始めたことでしたが、こうやって振り返ってみるとつながっていますよね。6年経って、全部がつながってきた。新しいフェーズに入ってきたな、と感じています。
「すべてはつながっている」。これはスタッフの安田さんのインタビューでも耳にしたフレーズでした。一見ダイナミックな変化のなかで走り続けてきたように見えるモリウミアスという組織ですが、「自然との共生」を軸に、事業のあり方もスタッフの働き方も、それぞれが連続性を持って確かなときを刻み続け、いまへとつながっている。私にはそう感じられました。
油井さん 僕らは細かくプランニングして検証していくような組織ではなく、やってみて微調整して改善を重ねて続けていく、つくりながら運営してく、運営しながらマニュアルをつくっていくスタイル。見本となる活動も少ないですし、人との出会いや培ってきた経験の積み重ねで少しずつ軌道修正しながらやってきました。
だからこそつながっているし、教育ってそういうものですよね。自然の変化はものすごく穏やかで、「6年なんてまだまだ」と感じる一方で、我々大人も成長していかないと自然についていけないとも感じる。その両軸を持ち合わせながら変化し続けています。
専門性よりも「変化を面白いと思えるか」。
モリウミアスという組織と人と。
こういった変化に対応していくために欠かせないのが「人」の存在。「やはり人材が一番大事」だと強調する油井さんに、モリウミアスで働く人物像について聞きました。
油井さん 子どもや農業などの専門性よりも、何にでも興味を持てること、そして、日々形態を変えていく組織やまちにいることを面白いと思えるかどうか。
雄勝もまだまだこれからまちづくりが動き出す段階で大変な状況ではあるのですが、住民が主体的にやりたいことをやる動きが起こっています。
組織もまちも、まだまだこれからフェーズが変わっていくので、僕らが想像していないような領域に広げてくれるような人が来てくれたらすごく嬉しい。“伸びしろ”はものすごくある仕事だと思います。
油井さんの語る“伸びしろ”は、さまざまなかたちで発揮されているようです。
油井さん 本来食事をつくる役割の「食べるチーム」のスタッフが料理の腕をいかして「学ぶチーム」のプログラムの講師になるようなことも起こっていますし、プログラムのカラーもスタッフによって変わります。個性こそが多様性だということを子どもたちに感じてもらいたいですし、自分のカラーをどんどん発揮していただきたいですね。
モリウミアスに関わる人々の持つ「伸びしろ」、そして「多様性」は、いまや組織の枠を越えて広がっています。
たとえば、私が初めて訪れた際に出会った一木典子さんは、最初は子どもの保護者としてこの場所を訪れ、その後ご自身のネットワークで企業研修等、たくさんの方を呼び寄せ、いまでは価値観を共有する「MORIUMIUSコミュニティ」のメンバーとしてモリウミアス主催のイベントに登壇されるなど、組織の外から深く関わっています。
また、スタッフの一人として、保護者との交流を誰よりも楽しんでいた市川潤弥さん(通称「ダビデ」さん)は、モリウミアスでの生活を通じて、日々の暮らしが自然と密接につながっていることを実感。「食を通じて、人と人、人と自然がつながるきっかけになりたい」と、約3年働いた後にスタッフを卒業し、現在は神奈川県逗子市で漁師として働きながら、“海”と“人”をテーマに新たな生き方にチャレンジしています。
モリウミアスという概念を感じ取り、それぞれらしく行動している彼らに共通しているのは、スタッフである・ないにかかわらず、不思議なほどモリウミアスのことを“自分ごと”として語るということ。今回の取材についても、「モリウミアスを取材してくださってありがとうございます!」と、何人もの人から言われました。
このことを油井さんに伝えると、「当事者意識ですね」と笑いながら、その所以をこう分析してくださいました。
油井さん それはもちろん僕が組織に対して完全に手放していて、関わる方々の主体性に委ねているということもあると思います。でもやっぱり、すべては「子どもたちとどう学びをつくっていくか」という、お互いに学び合うスタンスが一貫しているので、そこから周りの人々の主体性が育まれているのだと思います。
フルタイムのスタッフはもちろん必要なんですが、主体的にサポートしてくださる数百人の人の存在がうちの面白さでもあると思いますし、ここにはさまざまな分野のプロフェッショナルが関わってくださっている。スタッフにとっては自分を高みにもっていってくれるようなきっかけが、「人」という視点でもたくさんあると思います。
特に今回募集する漁村留学立ち上げスタッフは、子どもたちだけではなく、留学生が通う地元の小中学校の先生はもちろん、漁師さんや役場の方との接点も多いため、人として成長できるチャンスが多くありそうです。そして何より大事なのは、「子どもたちと一緒にまちの未来をつくる」ということ。
油井さん モリウミアスの「アス」は、「子どもの明日」でもあり「雄勝町の明日」でもある。「教育を通じてまちの未来をいかに明るくできるか」ということが僕らのゴールです。
特に今回の「漁村留学」は、震災後地元の小中学校の生徒数が激減している危機的状況のなかで、まちの未来につながる子どもたちの教育という視点でもとても大事な事業です。
油井さん まだ決まっていないことが多く、未来がはっきりと定まっていないのでチャレンジングではありますが、だからこそ自己実現がしやすい環境だと思います。それぞれがそれぞれの思いを持って、子どもたちやまちの未来に向かって走って行って、振り返ると自分が描いていなかった未来が切り開かれている。そんなきっかけが、ここにはあります。
決して「永住してください」とは言いません。自分の人生の一幕としてここでなにをやるかを、一緒に考えていくような組織です。そこに可能性を感じて飛び込んで来てくれるとうれしいです。
「劇的に変化する」のは、きっと、子どもだけじゃない。
「モリウミアスとは?」、「モリウミアスで働くとは?」という問いを追いかけてきた記事の最後に、油井さんがご自身のスタンスについて語ったこの言葉を贈ります。
油井さん 僕は自分が社会課題を解決したいというよりは、解決してくれる人の成長に携わりたいという気持ちのほうが強いんです。
政治家になって日本をより良くするというやり方もあると思いますが、子どもたち数千人と一緒に自分ができることをすることで子どもたちの未来が明るくなれば、スパンは長いですがインパクトとしてはそっちのほうがずっと大きいと思います。
子どもたちの未来のために、いまなにをするか。そのために行動していきたいです。
東日本大震災を機に立ち上がり、コロナ禍という困難に直面してもなお進化し続けるモリウミアスには、これからを生きるために必要な営みがあふれています。
モリウミアスで働くということ。それは、決して理想郷に身を置くことではありません。この場に刻まれた本質的なメッセージを自らの感性で感じ取り、子どもたちとともに行動することで、まちの未来、そして自分自身の未来を切り開いていくことなのだと私は思います。
「未来を切り開く」なんて難しそうですが、大丈夫。だってここには、ありのままのあなたであることを祝福し、「子どもの成長」という喜びを共有できる仲間たちがいるのですから。
さて、冒頭で紹介したモリウミアスにまつわるウワサ。
「劇的に変化する」のは、「子ども」だけでしょうか?
それはひょっとしたら、これからモリウミアスに飛び込む、あなたのなのかもしれませんね。
(撮影: 亀山啓太)
– INFORMATION –
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