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“サービス”を越えたところに、保育園の役割がある。新型コロナ第1波を乗り越えて「やまのこ保育園」が捉え直した、家族と園の新たな関係性とは。

「保育園の役割」と聞いて、何を思い浮かべますか?

子どもを預かること?
保護者の就労の機会を保障すること?
子どものいる家族の暮らしを支えること?

そのどれもが大切な役割に思えますが、その担い手は保育者に限定され、どれも矢印は一方通行。「サービス」という視点が強いように感じます。

今回私がインタビューを申し込んだ「やまのこ保育園」の園長・遠藤綾さんは、新型コロナウイルスの第1波を通した気づきとして、こんなことを話してくれました。

今回のことで、園と家庭で一緒に子どもを育てていくこと、大変さも喜びも分かち合っていくことについて模索していきたいな、と思うようになりました。それぞれの家族に対して、これからの人生の力になっていくような関係づくりやサポートができたらいいな、と思います。

遠藤さんは、かつて困難を抱える子どもの居場所づくりに携わった経験から、保育の役割を家庭に委ねるようなことは考えていなかったのだとか。でもこの半年、仲間とともに第1波を乗り越え、保護者とともに生きる力を身につけていくような、“分かち合い”や“育ち合い”の関係性を思い描くようになったと言います。

その視点の変化を生み出した背景を知ることは、先の見えないこれからの社会を歩んでいく人々の道標になる。私はそう確信し、遠藤さんの言葉と「やまのこ(※1)」の約半年の歩みを、1本の記事にまとめました。

緊急事態宣言下で見えてきた「やまのこ」の本質を深く知るため、遠藤さんとともに時計を今年1月に巻き戻し、小さな生命とともにある現場を覗いてみましょう。

(※1)2017年9月に開園した「やまのこ保育園」。当初は0〜2歳児のための小さな園でしたが、2018年9月には規模を拡大。全天候型の児童遊戯施設「キッズドームソライ」の建物の一画に新たな園舎を構え、「やまのこ保育園」と「やまのこ保育園home」の2園体制(以下、2園の総称を「やまのこ」と呼びます)になりました。

2年半続けてきた営み全てを棚上げし、
COVID-19 仕様の新しいメガネをかけて。

庄内平野の雄大な自然に囲まれ、全天候型の児童遊戯施設「キッズドームソライ」の建物の一画に園舎を構える「やまのこ保育園」。

遠藤さんの心にさざ波がたったのは、おそらく世間よりも少し早い1月のこと。園を運営するSpiber株式会社(以下、スパイバー)では、新型コロナウイルスのことが話題になっていました。

創業以来、持続可能な社会の実現に向けてタンパク質素材の開発などに取り組むスパイバー。社員には科学者も多く、今後の感染拡大の予測も含め、いち早く客観的な情報を集めていきました。

私が新型コロナウイルスの危機を自分ごととして理解できたのは2月初め頃でした。企業主導型(※2)で、保育園単体ではなくスパイバーという企業として動いているところは、他の園との大きな違いだと思います。

(※2)企業主導型保育事業は、2016年度に創設された内閣府主体の保育事業制度。企業主導型保育園は「認可外保育園所」にあたり、主に企業が自社従業員の児童の利用を目的に設置しますが、地域利用も認められています。

スパイバーは、2月下旬には社員の出張や来客対応を全面禁止に。全国で一斉休校となった3月初旬には、全社員が原則在宅勤務となりました。

鶴岡市に本社とプロトタイピングスタジオを構えるSpiber株式会社。田園風景の中にあり、本社と「やまのこ保育園」は、徒歩ですぐの距離。(提供 Spiber)

同時に「やまのこ」では、徒歩圏内にある2つの園(0歳〜5歳が在籍する「やまのこ保育園」と0〜2歳の「やまのこ保育園home」)の行き来をストップすることに。さらに、「鶴岡市内に感染者が出た場合」「スタッフが感染した場合」「園児の家族が感染した場合」など、想定される事態をリスト化して取るべき行動をチャート図にまとめ、保護者のみなさんに手渡したそう。

「何が起きたらどんな対応を取るか」を端的に整理したんですが、何を重要だと考えてこの対応を選択したのかが伝わるといいなと思いながら作成しました。

重要だと考えたこと、それは「生命を守ること」。

とにかく、関わる人全員の生命を守るということが最重要事項。地域の医療体制も都市部と違ってICUも病床数も限られていますので、「自分たちから重症者を出さないことが地域への貢献でもある」と考えていたことも大きかったです。

海と山。豊かな自然に囲まれた鶴岡市にある「やまのこ」では、未知のものとの出会いを求めて、毎日外へ。まちの人も子どもたちのことをあたたかく見守ってくれているそう。

今年7月に発行された園の取り組みをまとめた園だより『ちいさな惑星』の中で、遠藤さんは、「やまのこが開園してから2年半続けてきた営み全てを棚上げし、COVID-19 仕様の新しいメガネをかけて、できることできないことに分けていきました」と当時を振り返るコメントを寄せています。

子どもたちが楽しみにしていたクッキングの時間よりも、2つの園の子どもたちの豊かな関わりよりも、何よりもまずは「生命」のことを。刻々と状況が変化し、目の前の判断と対応に追われる怒涛の日々のなか、山形県にも新型コロナウイルスの足音が聞こえてきました。

私たちが守っているのは子どもたちの生命だけじゃない。

3月31日、山形県内で初の感染者が確認されました。“COVID-19 仕様のメガネ”の重要性が高まるなか、4月3日には2つの園をオンラインでつなぎスタッフ全員で対策会議を実施。世界中で感染が拡大しており、みなさんの感情は大きく揺れていました。

海外に家族がいるスタッフもいるので、彼女たちからの情報はすごく鬼気迫っていたんです。「子どもの生命を守るために今すぐにでも園を閉じたほうがいい」という意見が出ました。不安な気持ちから涙している人もいました。みんな心にダメージを受けている状態で、「なぜ続けるのか」、「保育園って何のための場所なのか」という議論になりました。

保育園は何のための場所なのか。本質的な問いが掲げられたとき、遠藤さんは不安から来る感情も受け入れながら、二項対立に陥らないように心がけて議論をしていたそう。

「私たちが守っているのは子どもたちの生命だけじゃない」という話はしました。保護者には医療従事者の方もいらっしゃいますので、休園したら医療現場で働ける人が少なくなってしまう、ということも伝えて。

ただ、コロナ禍でよくある「経済か生命か」みたいな二項対立の議論にはしたくなかったので、そこから意識をずらせたらとは思っていました。

みんなが抱いている不安や怖いという感情も真実。だからそれ自体が否定されるべきじゃないと思いましたし、根性論をふりかざしても意味がない。私も一人の人間としてみんなと話すことしかできなかった。園長という自分の役割に徹して、みんなを鼓舞するみたいなことはできませんでした。「私もどうしたらいいのかわからない。難しい判断だよね」って、ただ共感していたという感じでしたね。

でも、休園にすることは現時点では考えられない。ここを選んでくれた家族ごと大切だと思う気持ちを私なりに伝えました。

「やまのこ保育園」園長の遠藤綾さん。

会議を経てそれぞれのスタッフの想いを受け取った遠藤さんの次なる行動は、いま世界で起こっていることについての情報を保護者のみなさんと共有することでした。4月4日、保護者向けの説明会をオンラインで開催。スパイバーの代表執行役・関山和秀さんが、「やまのこ」を運営する企業の代表として、できる限りの情報を集めて客観的な視点、情報を伝えました。

園としてどうするかはもちろん大事ですが、その前に、持っている情報が各家庭バラバラではないかと思ったので、まず情報を共有しようとしたんです。こちらで持っている情報はお渡しして、その上で各家庭で保育園に来る場合・来ない場合、それぞれのリスクをどこまで取るかを判断してもらおうと考えました。判断するための情報提供はいつでもする、ということも伝えていましたね。

前提を揃え、登園の判断は各家庭に委ねる。保護者の主体性を求めるこの姿勢には、保護者を信頼し決断を尊重する園の覚悟が見て取れます。その上で、「一緒にこの危機を乗り越えていきたい」「だから休園せずできることを最大限にやっていきたい」という想いも伝えたその翌日、4月5日に鶴岡市で初の感染者が確認されました。6日には、鶴岡市から市内全域の保育園に登園自粛要請が出されたことを受けて、再び保護者のみなさんとコミュニケーションを取ることに。

数日のうちに状況が大きく変わり、登園については行政や園から可能な範囲の家庭保育を要請するかたちになりましたが、すぐに全家庭に困っていることや不安なことについて電話でのヒアリングを実施。「ともに乗り越えていこう」と、できる限り個々に対話し、調整を行いました。そのなかには、登園自粛家庭に対する保育料等減免についての情報も含まれていました。

園として登園自粛を選択されるご家庭には保育料をお戻しすることが正しい、と思ったので、行政によって補填されるかどうかの決定を待たずに、保育料だけではなくその他すべての費用も減免することを伝えました。

逃げてもいい。辞めてもいい。
関わっているみんなを大事にしたい。

費用減免等の家庭へのケアと同時進行で、遠藤さんの心はともに生命を守る仲間たちにも向かいました。緊急事態宣言以降、登園する子どもは約半数になったものの、リスク管理のガイドラインを日々更新し、感染者が出た場合のシミュレーションを繰り返し、精神的な不安感も増しているスタッフに対し、休暇取得の推奨や手当の支給といった施策を次々に提案し、実行していったのです。

まずは早々に、持病がある人、重症化リスクが高い人が休めるようにしました。加えて、週に1日は身体をしっかり休めることが仕事と考えて、シフトを工夫して特別休暇をとってもらうことにしました。その後、4月中旬にはスタッフ全員への「危険手当」支給を決めて、4月初旬から起算して1日2,500円を渡すことにしました。

とにかく現場の緊張感、精神的な疲労が大変な時期でしたし、少額ですけど、美味しいものを食べたり、リラックスするために我慢しないでお金を使えるようになるといいと思って。

危険手当支給を伝えるメールのなかで、遠藤さんはスタッフのみなさんに、こんなメッセージを添えました。

みなさんの心と体の健康を心から願っています。みんな、自分を大切にしてくださいね。もし心から逃げたいと思ったときは、逃げていいと私は思っています。

みんな強い使命感をもって仕事していると思うんですけど、逃げるという選択肢、辞めるという選択肢もあっていいと思ったし、子どもたちを大事に思うのと同じように、一人ひとりの大人、ここに関わってくれているみんなを大事にしたいという思いが強かったですね。だからどんな選択をしても大丈夫だよ、と伝えたかった。

4月3日の運営会議のなかで「私たちが守っているのは子どもたちの生命だけじゃない」と伝えていた遠藤さん。会議では保護者にフォーカスしていましたが、その眼差しはスタッフの皆さんにも向けられていたのだ、と私は感じました。

それはスパイバーの執行役も同じです。危険手当も、私が相談しようと思ったら、代表の関山が先に提案してくれたんです。「大変な仕事をしている仲間に感謝のメッセージを送ることは大事だよね」って。在宅で子どもを見ることを選択した社員に対しても「自宅で子どもと一緒に過ごすことも社会への貢献」として、給与を全額保障してくれていました。

こういう危機のときこそ、一人ひとりを信じるということは大事だな、って。私自身もネガティブな気持ちになったりしましたけど、それでもやっぱり人を信頼し続けるということ。そういう姿勢を子どもたちに伝えていけるすごく大切な仕事だな、って改めて思いました。

信じてくれる人がいる。「逃げる」という選択も保障してくれる人がいる。そんな安心感がスタッフ一人ひとりの心の根っこに息づき、緊迫した状況下にある「やまのこ」を力強く支え続けました。

自粛期間中の子どもたちが教えてくれたこと。
“まぜこぜ”の時間を、「やまのこ」の日常に。

「自宅で子どもを見ることも社会への貢献」という会社からの力強いメッセージを受け、勤務時間を調整したり、自宅育児を選択する保護者も少しずつ増え、4月中旬頃には登園する園児数は1/3ほどに減りました。

自宅で過ごす子どもたちとつながるため、毎朝のサークルタイムを家庭とオンラインでつないで行ったり、保護者からの提案を受けて絵本を選んで各家庭に郵送したり。コミュニケーションツール「Slack」もフル活用して、関係性をつなぎ続けました。

0〜2歳児クラスのオンラインの集いの様子。自粛期間中も家庭でできる手遊びや歌などを紹介しました。

園で育てたハーブでハーブティーやハーブバスを楽しんでいただこうと、Slackで呼びかけ、園の前に設置。自粛中の親子が取りに来たタイミングで、コミュニケーションを取ることもできました。

一方、園のなかでは、0歳から5歳までの全員が一緒に過ごす時間が長くなったことで、保育者の間に大きな気づきが生まれました。やまのこ保育園では、0歳、1〜2歳、3〜5歳というクラス編成をとっていますが、「クラスってなんのためにあるんだろう?」という議論はずっと以前から交わされていたと言います。「それが今回、混ぜることによる可能性の方が保育者のみんなのなかで大きくなっていった」と、遠藤さん。

これまでのクラス編成では、大きい子のなかに、小さい子に対して「自分たちは君たちより大きくて強い」という気持ちが結構あって、優しさにつながっていかなかったんです。

でも今回、小さい子と一緒に生活する中で、歩幅を合わせて一緒に歩いたり、ゆっくり待ってあげたりする姿が見えてきて。異年齢グループは小さい子のほうがメリットが大きいと思われるかもしれませんが、大きい子たちの学びや育ちの助けにも十分なっているな、と感じました。

そんな光景を目の当たりにして、保育者のみなさんの心は大きく動きました。6月に通常保育に戻ると、さっそく異年齢グループの実践を開始。0〜5歳をまぜる2つのグループをつくり、週に2回は“まぜこぜ”で過ごすようになりました。

気づきをすぐに実践に落とし込む行動力には、常に“問い続ける保育”を実践する「やまのこ」ならではの意志決定のあり方を感じます。

年齢ごとのクラスも異年齢のグループもそれぞれにメリット・デメリットがある。なので決め手は、「何がしたいか」ですよね。それは私たちが目指す方向性から導き出されるものだと思うのですが、今回はこれまで持ち越されていた問いに対して、みんなの意識がドミノが倒れていくように更新されました。

そうなると強いですよね。誰かが先導した決定とはまったく違う。だからそれまで私は待っていたという感じだったんです。

“まぜこぜ”により、スタッフのシフトもこれまでの固定から変動に。こちらもメリットがデメリットを上回り、通常保育に戻ったあとも継続しているのだとか。

一方で、コロナ対策のため、これまでやってきたこと、大切にしてきたことができなくなってしまったという厳しい現実にも直面しています。

たとえば、「やまのこ」の取り組みのひとつの軸でもあったクッキングもこの期間はほとんど中止に。玩具も全てを消毒するため、個数を制限して使用していました。また、子どもたちの体が少しずつ強くなっていくことを大事に考え、雨の日も風の日もどんどん外に出ていましたが、この時期は体調管理を優先にしながら保守的に判断するように。

スタッフ同士のコミュニケーションの機会として大事にしてきた3ヶ月に一度の合宿も、3月、6月と続けて中止に。全員で集まってじっくり話す機会が無くなったことに対して遠藤さんは、「根幹に触れるようなことをじっくり話す時間が取れない状態が続くと、この場所をみんなが育てているという感覚が少しずつ弱まっていってしまう」と、強い危機感を持っています。

3ヶ月に1回、ほぼ全員参加で実施してきたスタッフの合宿。1泊2日で、園の情景や環境設定などについての話し合いのほか、「遊び」や「学び」についてのペアインタビューで仲間の人生や考えにたっぷり触れるなど、スタッフ自身が探求者であり続けるための意識共有の機会にもなっていました。

6月末、久しぶりに全員で集まって話したとき、何人ものスタッフが「こうやってただ会えただけでうれしい」と、涙を流したのだとか。大きな制約が立ちはだかるなかで「やまのこ」のチームのあり方がどのように変化していくのか、“根幹に触れるような時間”をどうつくりだしていくのか。これからも追い続けて行きたいと思います。

サービスを提供するだけではなく、
保育の喜びや学びを分かち合い、育ち合う存在に。

ここまで約半年の歩みをともに振り返ってみて、遠藤さんは、「この間に起きていたできごとを、まだ言語化できない」と言います。「言語化に至らないその思いについても聞かせてほしい」とリクエストを送り、私は遠藤さんの言葉を待ちました。

そうですね……。「地球に生きているという感受性を持った人」「今を幸福に生きる人」というのが、私たちが目指す人間像なのですが、改めてこの言葉にして良かったな、と思いました。今回のできごともそうですが、最近の気候変動の状況を見ていると、地球が語りかけてくるというか、いろいろな意味で地球が存在感を増してきている感覚があるな、と思って見ていて。

どんなふうにこの地球の声を子どもたちと一緒に受け止めていけるんだろうか、とか、でも子どもはすでにわかっているんじゃないか、とか、地球という生命体の中の私として眺めたときに今起きていることが一体どういうことなんだろう、と考えさせられました。もっと大きな目でこのことを捉えていくことが必要なんじゃないかな、と思います。

月山(がっさん)をはじめ、鶴岡には自然の雄大な景色が拡がっています。4月頃、心がへとへとになって通勤の車中で涙が止まらなくなったこともあったという遠藤さん。ある朝、車窓から月山の稜線がくっきりきれいに見え、その風景に背中を押されたそう。

どうしても目の前のことに追われてしまいがちな非常事態において、遠藤さんの視野が逆に地球という生命体にまで広がっていることには、驚きを隠せません。その視野の広がりは、保育園という存在や役割についても、改めて問うきっかけになったようです。

SNSなどで他の園の精力的な動きなども拝見していて、本当にすごいな、私にはできないな、と思っていました。でも、一方で、何かを良くしよう、解決しようという気持ち、人が動きを止められない感じって、どこから来ているのかなって。良くしようって思う気持ちを少しだけ止めてみたらどうなるのかなって、考えていました。

今こそ、自分たちが当たり前だと思っていた価値観や動く速度を足下から見直してみたいと思ったんです。エネルギー過剰になっていないか、今を幸せに生きられているだろうか。「今を感じて大切にすること」と「より良くしたいという欲求」のバランスを、地球的観点からもう一度考え直してみたい。

私にも子どもがいますが、保育園に子育ての一部を担っていただいているような感覚を保護者として持っていたんです。でも今回のことで、園に委ねるだけじゃなくて、園と家庭で子どもを一緒に育てていくこと、大変さも喜びも分かち合っていくことについて模索していきたいな、と思うようになりました。

そんな思いから、まずは小さく、同僚であり、子どもをやまのこ保育園に預けている保育者の家庭から分かち合いの試行実験を始めました。

ノート形式で行ってきた連絡帳のやりとりを、大きめの紙にマインドマップ形式で表現して、家と保育園とで子どもへの発見を重ねて書いていきます。すると、「ある日のできごとが2,3日後の子どもの行動につながる」というように、行動や感情のつながりを俯瞰して見ることができるそうです。

保育者のみなさんは環境や言葉のかけ方を変化させるための参考にすることができる。保護者にとっては少し手間ではありますが、子どもへの複数の視点を共有することで、子どもに対する見方が変わり、家庭と園の連携がより豊かになっていきそうです。

保護者と一緒に子育てを分かち合い、楽しんでいけたら。もちろん、保育園は福祉的な子どもの居場所としての役割も重要で、すべての家庭がそうすべきだとは思わないですし、必要な社会的サービスをどの家庭もどの子も受けられ、大切にされるような社会をつくっていくというのはすごく重要なことです。

でも一方で、それぞれの家族に対して、これからの人生の力になっていくような関係づくりやサポートができたらいいな、と思います。

小学生と保育園児のお子さんがいる遠藤さんファミリー。休校期間中は、家族で自然の中に身をおいて多くの時間を過ごし、夫婦で「自分たちで子どもと一緒に学べるチャンスだね」と話し合っていたそう。今回の遠藤さんの挑戦には、親としての“覚悟”も感じます。

この言葉を受け取ったとき、私は思わず「わぁ、ぜひやってほしいです!」と、ひとりの保護者として(筆者も保育園児の母です)の心からの声を発してしまいました。プロの保育者の視点を共有いただけるということは、保護者の存在や力を信じていただけているのだと感じられたのです。

インタビューを思い返せば、仲間に「逃げてもいい」というメッセージを送ったときも、「休園すべき」というスタッフに「どうすべきかわからないよね」と共感したときも。保護者に情報を渡して判断を委ねたときも、クラスを越えた取り組みを始めるタイミングを待っていた姿勢も。

遠藤さんのあり方からは、ともに子どものとなりで生きる人々のことを心の底から信じ抜く力を感じ取ることができました。

本人は「自分がまだまだできないことだらけだから“信じる”ということにフォーカスしているだけ」と笑いますが、そんな弱さも持ち合わせている遠藤さんだからこそ、優しさを持って人々を信じ抜くことができるのだと私は思います。

そしてその信じる力は、相手に安心と勇気を与えます。「保育者と同じことなんて絶対できない……」なんて思っていた保護者も、信じて委ねてもらうことで、「できるかな、やってみようかな」と、一歩踏み出す力がふわっと湧き上がってくるはず。そしてサービスを「与える側」と「受け取る側」という境界線が曖昧になって、ともに成長できたとき、その関係性やコミュニティはより強固で豊かなものとなっていき、それが先の見えないこれからの社会を生き抜く家族の糧となっていくことでしょう。

インタビューはZoomにて。私にとって大切な友人でもある遠藤さん。前回取材以来1年ぶりの、うれしい再会の時間でもありました。

遠藤さんの思い描く「分かち合い」の関係性には、保育に限らず、サービス化されたあらゆるものを捉え直す視点としての普遍性を感じます。私はひとりの保護者として、また、子どものとなりで生きる人々へのインタビューを続けるライターとして、遠藤さんの思い描く“分かち合う未来”を、ともに見に行きたいと強く感じました。まずは自分の子どもの保育園に対して、委ねるばかりではなく、育ち会える関係性を築くきっかけをつくっていきたいな、と思っています。

「保育園の役割」とは?「家庭の役割」とは?
あなたが委ねてみたいもの、引き受けてみたいもの、分かち合いたいものとは?

少し立ち止まり、地球的観点も持って、子どものとなりで考えてみてください。

– INFORMATION –

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