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大豆を育て、味噌を仕込む。“消費されるだけじゃない”生き方が、私に“安心”という豊かさをくれた。たけいしちえさんに教わる、人生を変える手前味噌のレシピ

巷で話題の“手前味噌”づくり。

興味はあるけれど、ひとりでは難しそう…と、手を出せずにいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。あるいは、「どうして味噌づくりってそんなにいいの?」と、イマイチ興味を持てない方もいるかもしれません。

今日はそんなあなたのために、“人生を変える(かもしれない)手前味噌のレシピ”をお届けします。教えていただくのは、たけいしちえさん。神奈川県茅ヶ崎市でライター業を営みながら、畑で大豆を育て、味噌を仕込む暮らしを送っています。

「味噌をつくって人生が変わった」というちえさん。味噌仕込みという体験が、彼女の生きかたをどう変えていったのでしょうか。

キーワードは、「循環」「安心」、そして、「消費されるだけじゃない生きかた」。味噌づくりを教わりながら、ちえさんの生きかた・ありかた、「自分の手でつくる」ことの魅力に触れてみましょう。

たけいしちえ
神奈川県茅ヶ崎市在住。2009年、あらゆる交流の「場」をデザインするNPOトージバ主催「大豆レボリューション」に参加後、大豆と味噌の虜に。以来、大豆を育て、収穫、味噌を仕込むサイクルを基本とした365日を営む。神奈川県津久井在来種を自然の力のみで収穫中。

たったの5ステップで仕込み完成!
“手前味噌”のレシピ

まずはちえさんに、味噌づくりを教えていただきます。体験するのは、6名のgreenz peopleの皆さん。全員が初めての味噌仕込みです。

今回つくる味噌の材料比率は、こちら。これで約5kgの味噌ができ上がります。

【材料】
大豆1kg
米糀2kg
塩400g

【準備するもの】
大鍋(または圧力鍋)、おたま、ポリ袋2枚、5kgの味噌が入る容器(100円均一ショップの蓋付きバケツでOK)、約2kg〜4kgの重石(適当)

ではさっそく、仕込みをはじめましょう。

1. ゆでる

※今回は、ワークショップの時間外で実施しました。

まずは乾燥大豆を茹でます。茹でる前日から約12時間以上浸水した後、たっぷりの水とともに大鍋へ移し、強火にかけます。

アクが出てくるので、丁寧に取り除きましょう。

アクが出なくなったら火を弱め、そのまま4時間ほど(圧力鍋ならわずか10分でOK)、水が減ったら足しながら手で潰せるほどの柔らかさになるまで、茹でていきます。茹で汁は捨てずにとっておいてくださいね。

2. つぶす

茹で上がった大豆を、手でつぶします。粒がなくなるまで、しっかり潰しましょう。

大きなボールがなければ、ポリ袋で代用可能。しっかり潰したければ、マッシャーやブレンダーを使ってもよいでしょう。

ちえさん手書きの紙芝居が場を和ませてくれます。

3. まぜる

米糀と塩を両手でもみ合わせるように混ぜていきます。全体が均一になるまでよく混ぜ合わせましょう。

塩を入れて糀菌を増やし、さらに大豆の糖質やタンパク質が加わることで酵母たちが生まれる。命がリレーしていくイメージです」と、ちえさん。

4. さらにまぜる

つぶした大豆と「米糀+塩」を、混ぜ合わせます。普段食べている味噌の固さをイメージして、硬ければ大豆の茹で汁を加えていきます。

ビニール袋で仕込む場合は、大豆の袋に米糀+塩を加えるのがオススメ。材料を無駄なく使えます。

5. まるめる、つめる

しっかり混ざりあった味噌の素を、容器に詰めます。手で丸めて容器に投げ入れるなど、空気が入らないようにしっかりと隙間なく詰めましょう。

上部を平らくして、塩(分量外)を薄く敷き、重石(約2〜4kg)を載せたら、フタをして完成!

この日の味噌は、ドラえもん仕様!?

このまま約半年間、寝かせます。屋内の、できるだけ涼しく風通しのよい場所に保管し、じっくり熟成するのを待ちましょう。

ここまでたったの5ステップ。

作業も、”つぶす””まぜる”など単純なものが多く、なんだか拍子抜けするほど簡単でした。greenz peopleの皆さんからも、「思ったより簡単!」「おしゃべりしながら作業してたら、あっという間だった!」という感想の声が。

そして、半年後という熟成期間を経た楽しみがあるのが、味噌づくりの大きな魅力のひとつです。今回はひとり1kgずつ持ち帰ったので、それぞれの味噌を持ち寄って味比べをする楽しみも増えました。芋煮会、味噌パンづくりなどなど、ピープル味噌の活用アイデアも次々と思い浮かぶ中、約1時間半のワークショップは終了となりました。

毎日が、循環の中にある。
“消費されるだけじゃない”生きかたのレシピ

さて、今回味噌仕込みを教えてくださったたけいしちえさん。お名前にピンと来た読者の方もいらっしゃると思いますが、greenz.jpライターとしても活躍しています。農業と味噌仕込みとライター業。いったいどんな暮らしを送っていらっしゃるのでしょうか。

ここからはちえさんに、“消費されるだけじゃない”生きかたのレシピを聞いていきましょう。

畑には毎日じゃなくて、週1〜2日ほど通っています。ただ、ピークになると3日続けて通うこともありますね。

1年のサイクルで言うと、大豆の種を6月の終わりから7月頃に植えて、大体12月に収穫。収穫後は同じ畑でジャガイモを育てていて、ジャガイモを収穫したら、今度は大豆が始まるという2サイクルですね。同時並行でお米もやっているので、田植えから稲刈りまで、田んぼにも通っています。

そして、1月になって新米ができたら、糀をつけて米糀をつくります。自分でつくった大豆と米糀で味噌を仕込む。だいたいここ5年はこの繰り返しで、そのサイクルの中に、greenz.jpライターの仕事が織り交ざってくる、というイメージです。

畑や田んぼが忙しい時期はライター業も調整しながら、「大豆や米に合わせて動く」暮らしを送っているのだとか。そもそもなぜ、大豆を育て始めたのでしょうか。

もともと私は編集プロダクションに所属してグルメ誌やウェブのライターのお仕事をしていたんですが、ご縁あってオーガニックショップのプレスとしての取材活動もしていたんですね。そこで、有機農家さんや思いのあるものづくりをしている方にお話を聞くことが多くて。それこそ「地球のために」とか、書いていたんです。

でも、それがもどかしかくて仕方なかったんですよね。だって記事を書いている自分の暮らしが、全く地に足が着いていなかったから。マンション暮らしで、スイッチひとつで電気はつくし、自分が書いていることに全く責任が取れていない自分がすごくもどかしくて。

この日の会場は、茅ヶ崎にあるコミュニティ農園「リベンデル」。畑を吹き抜ける風が心地よい午後、greenz peopleのみなさんも交えて公開インタビューをさせていただきました。

そんなもやもやしていた頃に、お友達に誘われたのが「大豆レボリューション」。NPO法人トージバが、大豆を育てることによって都市生活者と農家をつなごうと、全国各地で展開していたムーブメントです。2009年、茅ヶ崎の畑で大豆レボリューションが始まったことを聞き、ちえさんは足を運びました。

夏の暑い時期にすごいハードに大豆をつくるという経験をしたときに、「なんか私、今、やってる!」って初めて思えたというか。その感覚は、ジャガイモなど野菜をつくるのとちょっと違うんですよね。

大豆って加工品じゃないですか。買わなきゃいけなかったものが、こうやってできていって、最終的にこうやって選別されて、袋に収まる、という全部を体験して。「つくった!」という感動がありました。

茅ヶ崎の大豆レボリューションのゴールは、味噌を仕込むことでした。そこでまた、ちえさんはさらなる衝撃を受けます。

「味噌って簡単じゃん!」って(笑) 大豆をつくるところからやっていなかったらこうはならなかったと思うんですけど、モヤモヤしていた状態から、大豆をつくる体験をして、今度はそれが調味料になる。

そうやって自分の“手前味噌”ができたときに、やっとひとつ、地に足が着いた気がしたんですよね。それまで自分がライターとして上っ面で書いていたところに、「大豆ってこうやってつくるよね、味噌ってこうだよね」って言える!みたいな(笑)

私、師匠(その講座の講師で、現在もちえさんが“師匠”と慕う「いかりみそ」店主・碇哲也さん)の「生きているものは自分でつくったほうがいいよ」という言葉が忘れられなくて。味噌づくりだけではなくて、生きているものをお金で買うのは、食や暮らしを人任せにしている状態、つまりお金を使って「消費する」ことによって自分の暮らしが「消費されている」と気づかせてもらいました。

“伝える”役割から一歩踏み出して、“自分でつくる”実践者へ。この体験が、ちえさんの暮らしと価値観を大きく変えていくことになりました。

頼まれればワークショップを開催している、というちえさん。自作紙芝居を使った説明も、お手の物です。

暮らしと仕事から生まれるたくさんの小さなつながり。
「居ていいんだ」と思える“安心”の場が、私にはある。

茅ヶ崎での「大豆レボリューション」は、1年限りのイベントとして終了。でも、「ここでやめてしまったらダメだ」と感じたちえさん。翌年はお知り合いの大豆づくりを手伝い、そのまた翌年には、取材で何度もお世話になっている農家さんのご縁で、小さいながらも自分の畑を借りることができました。それから毎年大豆をつくる暮らしが始まり、ライターの仕事に対する想いにも変化が起こります。

本職の農家さんに比べたら、私なんて全然「農業」とは言えない程度ですが、大豆をつくっていると、全く自分の思い通りにならないこともあるし、夏は暑くて本当に大変…みたいな日々がある。

でも、ライティングの仕事がドバっと来てしまうと、全然畑に行けなくなってしまうんです。PCの前にずっと座って、顔も見えない相手からメールのやり取りだけで仕事を受けて、原稿を送って、原稿料だけポーンともらって…。なんかこの働き方は違うぞ、と。

「もう、ライター業はやめてしまおうか」。そう思い始めた頃に、お友達に「働き方について語ろう」と言われ、なぜか3人で木のスプーンを彫りながら語り合ったときに耳にしたのが、greenz.jpのこと。「面白いから見たほうがいいよ、確かライター募集してたよ」と言われ、そのままライターに応募したそうです。

ちなみにその場にいたもう一人の人は、その後木工の学校に通うことになったんですが(笑)、私はそれをきっかけにgreenz.jpライターになりました。

greenz.jpの仕事で何が衝撃だったかって、編集長がものすごく丁寧だったんですね。原稿もすごく丁寧に見てくれて、ひとりひとりのライターの心情をすごく気にかけてくれて。これまでと違って顔の見える中で仕事が進んでいく感覚が気持ちよかったですし、人として大事にされているな、と感じました。

greenz.jpのコミュニティに居心地の良さを感じたちえさんは、編集プロダクションを辞め、greenz.jpライターとして歩み始めました。日々の暮らしや畑仕事を通じて出会った人々と関係性を築き、取材し、記事として世の中に伝えることで、さらに関係性を深めていく日々。そんな営みから、お金には換えられない大切なつながりが生まれ、自分にも還って来るようになったと、ちえさんは語ります。

取材して記事にすることで、取材先に目に見えていい流れが起こっていくんです。反響があって問い合わせが来たり、見学にたくさんの人が訪れたり。私自身も、取材した方とお仕事をご一緒することが増えました。ひとつの仕事が、消費されて終わらずに、循環するんですよね。

ちえさんの取材先のひとつ和田農園の北村佳代さんの誕生日に、ちえさんが企画してプレゼントした手ぬぐい。版の作成も印刷もすべてちえさんの関係性のなかで完結し、お礼には北村さんから柿をどっさりいただいたのだとか。「お金を介さない中ですべてが完結した」という、ちえさんの生き方を象徴するようなできごと。

仕事も暮らしも、“消費されない”かたちを手にしたちえさん。そのはじまりは、やはり大豆を育てて味噌をつくった経験だったと振り返ります。

たぶん私、味噌をつくっていなかったら、greenz.jpライターになってなかったと思うんですよね。当時の、「書いて稼ぐぜ」ってマインドだったら、当時のgreenz.jpの原稿料、決して高いものではなかったと思うんですが(笑)、「これでは無理」ってなってたと思う。でもそうならなかったところで、既に何かマインドが変わっていたんだと思います。

それは、大豆をつくって味噌をつくって人間関係をつくって生きていく、「安心」という豊かさを手にいれたから。今の社会では、どうしてもお金に頼らなくては生きていけない状態になりますよね。それが好きな人はそれでいいと思うんですが、私はそうじゃなくて。

例えば、私が農作業のお手伝いをして野菜をたくさんもらうとか、取材した人から今度はイベントに呼んでもらうとか、そういう輪の中で暮らしている方が、安心なんです。

私。今「悩んだら畑」なんです(笑) 行くと誰かがいて、何かしら作業があって、手を動かして話して。「居ていい場所」があるって安心ですよね。そこで草を抜いたり作業をすることで、「役に立ってる」という感覚もありますし。そういうのが基盤で生きていますね。

実は今回のワークショップも、ちえさんが築いてきた小さなつながりの中で成り立っていました。大豆は取材で知り合った自然養鶏家・檀上貴史さん(取材記事はこちら)から、米糀はこの日の会場となったリベンデルの熊澤さん(取材記事はこちら)から購入したもの。

何かを「やってほしい」と頼まれたときに、自分のつながりの中で調達し、完結できる。ちえさんの生きかたの豊かさは、こんなところからも感じられます。

この日の参加者のみなさんには、壇上さんから自家製大豆でつくったお豆腐のプレゼントが。「ありがとう」の気持ちが循環していきます。

買わなくていいもの、唯一無二の物が増える「安心」を、
みんなに感じてほしい。

大豆を育てた経験から自ら行動し、「安心」というかけがえのない宝物を手にしたちえさんの“消費されるだけじゃない”生きかたのレシピ。それは、それまで買っていたものが「自分でつくれるんだ!」という衝撃的な気づきから始まったものがたり。

「安心」という豊かさに気づくきっかけとして、味噌づくりはちょうどいいとちえさんは言います。

調味料って買わなきゃいけないと思われていますよね。でもそれを自分でつくると、唯一無二のものに変わり、お金の代わりになると思うんですね。

私、3年くらい前から親戚に配るお年賀が、うちのお米になったんです。買わなくても、うちにある。そういうものが増えていけばいくほど、他のところで消費しなくて良くて、「お金がないとダメ」という恐怖感がちょっとずつ減っていくのかな、って。

それになにより、味噌づくりって簡単だから(笑) 私が大尊敬している方が「発酵は、“発幸”だよね」っておっしゃっていたんですが、まさにそうだなって。自分で発酵食品つくって食べて元気なら、幸せ。だからぜひみなさんにつくって食べてほしいな、と思います。

ワークショップで「味噌って簡単!」を実感した参加者のみなさん。ちえさんのインタビュー後は、「安心とは?」をテーマに、深い思考と対話の時間に。「安心してない」「安心したくない」と、それぞれの価値観が交錯し合いました。これも、味噌がくれたきっかけのひとつ。きっと、「簡単!」と同時に、「奥深い…!」という実感を持ち帰られたのではないかと思います。

「自分の手でつくる」ということ。それはときに、人生を変えるほどの衝撃をもたらす行為にもなります。

ちえさんの場合、モヤモヤを感じていたときに出会った味噌づくりがそのきっかけになりました。でもそのタイミングや対象は、きっと人それぞれによって、違うはず。

もしこの記事を読んでピンと来た方がいたら、それはひとつのきっかけかもしれません。寒い時期が最適と言われますが、実は年中仕込み可能な味噌づくり。この記事のレシピを参考に、あなたも“手前味噌”にチャレンジしてみませんか?疑問、質問やワークショップ依頼なども、ぜひ直接本人まで問い合わせてみてください。

「つくる」という小さな一歩が、あなた自身の「豊かさ」に気づくきっかけになりますように。

たけいしちえさんの連絡先
https://www.facebook.com/takeishi.chie
(撮影: 古瀬絵里)

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