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「京都移住計画」田村篤史さんと「京都市ソーシャルイノベーション研究所」山中はるなさんが語る、“大きな田舎”京都市での仕事と暮らしの顔を分けない生き方のススメ

東京で働くみなさん。一生、東京で暮らしたいですか? 
仕事のためだけに、東京に住んでいませんか?
もしも、そうだと感じていたら、京都で暮らしてみてはどうでしょう。

9月23日(土)、東京の下町・清澄白河で、『京都市×ソーシャル企業4社と考える「移住転職計画」』イベントが開催されました。

その目的は、東京で働きながら、本当は「帰りたい」「動きたい」と思っている人に向け、京都で働き、暮らす選択肢があるよ、と伝えること。

主催側のスタッフとして登場した「京都市ソーシャルイノベーション研究所(以下、SILK)」の山中はるなさんと、「京都移住計画」の田村篤史さんは、京都に住んでいる人の営みを「大きな田舎」と表現します。だからこそ、いわゆる都会とは違う働き方、生き方が実現できる、と。

京都なら、どんな働き方が実現できるのでしょう? 
移住・転職に悩んでいる人は、ひょっとしたら、一歩を踏み出すためのきっかけが見つかるかもしれません。

一生東京に住むことに
「イエス」と言えなかった

田村篤史(たむら・あつし)
1984年京都生まれ。京都移住計画代表。立命館大学在学中、APUへ交換留学、NPO出資のカフェ経営に携わる。その後休学しPRや企画を行うベンチャーにて経験を積み、卒業後は海外放浪の末、東京の人材系企業に就職。会社員の傍らシェアハウス運営なども行う。2012年に京都へUターンし「京都移住計画」を中心に、町家活用のシェアオフィス運営や商店街活性といった地域に関わる仕事や、大学でのキャリアデザインやPBLなどの講義も行う。「人と人、人と場のつながりを紡ぐ」をミッションに、2015年株式会社ツナグムを起業。

そうだ 京都、行こう。

あまりにも有名なこのフレーズ。京都といえば、日本有数の観光地で、歴史や伝統が息づき、日本の良さをもっとも体現できるまち。中心部を歩けば、とにかく人が多く、他地域から移住を促す必要があるようにはとても見えません。どうして、今回のイベントが開催されたのでしょう?

田村さん よく、「大丈夫ちゃうの?」とか「京都ずるいわ」と言われたりします(笑)

京都は「学生のまち」と呼ばれる通り、学生が10万人以上いて全人口の1割を占めている。でも、彼らの多くは県外の人なんですね。また、インバウンドの影響で、とても多くの観光客がやってきている。でも、京都の住民かというと違うわけです。

まちには、京都にいる学生にとどまってもらおう、と考える方もいます。ただ、「京都移住計画」としては、出ていこうと思っている人をとどめるのは、ちょっと違うエネルギーだなと思っています。

僕も就職で東京に4年間、住んでいましたが、「一生、東京に住みたいですか?」と問われた時に、働きたいは別にして、住みたいだけを考えた時、ポジティブに「イエス」とは全然言えない。

「本当は帰りたい」「京都に移住してみたい」、と思っている人が、東京にいるんだとしたら、そういう人たちに「移住や就職の選択肢はあるよ」と伝えてあげたい。そこで、今回のイベントでは「京都にもおもしろい企業があるよ」と直接伝えたいと、京都市ソーシャルイノベーション研究所と一緒に開催させていただきました。

京都は「大きな田舎」です

山中はるな(やまなか・はるな)
京都市ソーシャルイノベーション研究所 イノベーション・コーディネーター。広告出版会社での企画職を経て、2009年から京都市まちづくりアドバイザーとして勤務。ファシリテーションマインドとスキルを通して、住民参加型の区の基本計画の策定、地域活性化のためのプロセスデザイン、コミュニティの対話の場づくりを行う。2015年より現職。「これからの1000年を紡ぐ企業認定」、「イノベーション・キュレーター塾」事業担当。

京都の企業というと、何百年も続く伝統ある老舗のイメージが強いのですが、いったいどんな「おもしろい企業」があるのでしょう? 

山中さんがコーディネーターを務める「SILK」では、「これからの1000年を紡ぐ企業認定」を進めています。「京都のソーシャルビジネスを広げていく上で、山の頂になっていただけるような企業・団体さん」を見つけて、認定しようという企画です。

応募資格は「京都に事業所か営業所があること。幅広く企業・NPO に呼びかけ、これまでに10社を認定。今年3期目を迎えています。

山中さんは、ソーシャルビジネスと京都の老舗企業は、「相性は、割といいと思いますね」と語ります。

山中さん 京都には、100年以上続く老舗企業がたくさんあります。私もいろいろやりとりさせてもらっていますが、関係者をめっちゃ大切にするんですよ。お客さんも、株主も、従業員も従業員の家族も。

自分のところだけ利益が出たらいいのではなくて、周りを良くしてやっていく。そのこと自体がソーシャルなので、京都の今までの商いと一緒かな、と思います。

田村さん 山中さんの話に通じるんですけれども、暮らしの面でも、自分だけのことを考えている人には、冷たい、というか積極的に関わろう、としないところはあると思います。その人とお付き合いすることがどうなのか? と考えている人が良くも悪くも多い気がしますね。

山中さん 京都はFacebookで友だちになったら、絶対に共通の知り合いがいるんですよ。下手すると、10人、20人の時もあります。それを閉塞感があって、嫌やなと思うか、おもしろいと思うかは人それぞれ。

京都人は、誰の知り合いかを重視して、知り合いだと話が進みやすかったりします。私は、京都は「大きな田舎」やと思っていて、田舎の特徴として、外から入って来た人を嫌がる。けれども、入り込んだら、ものすごく可愛がってくれます。

仕事と暮らしの顔を分けず
「シングルスタンダード」で生きる

京都市の人口は147万人、規模としては大都市ですが、住んでいる人の営みは田舎の感覚に近く、京都は「大きな田舎」だと二人は言います。都市でありながら田舎、という京都だからこそ実現できるのは、どんな生き方なのでしょう?

山中さん 「SILK」では、「シングルスタンダードで生きる」ということを提案しています。どういうことかと言うと、自分の友だちには、絶対、こんな無理なこと言えへんのに、仕事相手には平気で言うことがありえるじゃないですか。そうせざるを得ないシビアな状況でやってはる方、それがしんどいなと思ってはる方はいませんか?

田村さん 東京で暮らしていると、家にいる自分と会社にいる自分は、なんとなく分かれているんですけれど、京都では分けないんですよね。まちも、暮らしの時間の流れ方と、働く時間の流れ方が良い意味で混じり合っている気がします。そのペースに居心地の良さを感じる人には、いいと思います。

お話を伺ううちに、「京都に移住する」イメージがつかめてきた気がします。最後に、おふたりから「京都に移住しようかな」と悩んでいる方へのメッセージをいただきました。

山中さん 私は東京には住んだことがないのですが、大阪の方が活気があって、おもしろいかなと思い、以前、暮らしていました。でも、まちなかのマンション住まいで、根なし草感が半端なかった。なんで、私がここに住むかの理由もないし、耐えられへん! そう思って、京都へ帰りました。

京都はいたるところに歴史があふれていて、ルーツがある。離れてみて、京都って、めっちゃいいな、と思いました。それで、今、京都で暮らしているので、すごく幸せです。

「1000年を紡ぐ認定企業」さんは、シングルスタンダードで生きてはる人ばかりです。ちょっとほんわかしたまちで、自分らしく、自分に嘘をつかずに働くことができると思いますよ。世の中に良いこともして、自分も気持ちよく働きたい。今の暮らしに違和感を感じている方に、ぜひ来ていただきたいですね。

田村さん 東京に住んでいる頃、周りの関西の人と「どこで生きていくの?」という話をしていた時、その場にいたみんなが「東京に一生住みたい、とは思っていない」ということだけが合意されていました。けれど、現実には「仕事がない」と思って、あきらめてしまう人がほとんど。

でも、実際は、そんなことはありません。京都にも、会社はたくさんあります。「京都移住計画」のホームページにも求人掲載の依頼が、毎月数社から届いていますし、ブレーキ踏んでいるのはもったいないですよ!

「これからの1000年を紡ぐ企業」に
認定されたソーシャル企業とは?

さて、ここからは、今回の「京都市×ソーシャル企業4社と考える『移住転職計画』」にご登壇された企業をご紹介します。移住やソーシャルについて語られた内容を散りばめつつ、お届けします。

・株式会社坂ノ途中

坂ノ途中」は、農薬や化学肥料不使用で栽培された農産物の販売を通して、環境負荷の小さな農業の普及を追求しています。取引先の9割が新規就農者という、業界では超異例の会社です。

小野邦彦(おの・くにひこ)
「坂ノ途中」代表取締役。奈良県生まれ。京都大学に入学後、世界を旅する中で、自分が本当にしたいことは人と自然環境との関係性を問い直すことなのだと思い至り、有機農業にその可能性を見出す。2年余りの外資系金融機関での”修業期間”を経て、2009年株式会社坂ノ途中を設立。2012年より京都の山間地域で自社農場の運営を、2016年より、東南アジア・ラオスでの有機農業の普及活動「Mekong Organic Project」を開始。

小野さん 基本的に、良いことしている会社です(笑)

新しく農業をやりたい、という新規就農者には、思い入れがあるんですね。農薬や化学肥料を多用して、コストを下げて収穫量を増やすのではなく、土づくりを大事にしながら季節に合わせたものをつくりたい、とか。

僕たちは、「未来からの前借り、やめましょう」というメッセージを掲げていまして、環境への負担を減らす、そういう考えの人が増えたら、ええやんと思っています。

「新規就農者の野菜は少量不安定になりがちです。それを扱う業者はなかなかいない」。小野さんいわく、それが農産物流通の常識なのだそう。けれど、京都なら、変わったことをしても、「おもろいやっちゃな」ぐらいに、受け止めてもらえるそうです。

小野さん 京都がずっと廃れずに、何度も盛り返しているのは、新しい力とか、異物を受け入れていく度量がある、ということやと思いますよ。

・IKEUCHI ORGANIC株式会社

つづいては、「坂ノ途中」とともに、京都市や地域のコミュニティとコラボし、「将来世代への豊かな自然環境や地域の未来を紡いでいくこと」を目指し、「誕生したばかりの母子(ボシ)」を歓迎するギフト「イチバンボシギフト」を無償で提供しているタオルメーカー「IKEUCHI ORGANIC」。

愛媛県の今治市に本社を置き、京都には直営店があります。認定された大きな理由は、100%風力発電での操業を行うなど、再生可能エネルギーの普及に力を注ぎ、サステナブルであること。

阿部哲也(あべ・てつや)
「IKEUCHI ORGANIC株式会社」代表取締役社長。1991年慶應義塾大学卒。同年大和證券株式会社入社。2000年 小売チェーン店へ転職。販売促進、新業態開発。基幹システム導入に携わり管理部門取締役を経て退職。2009年よりIKEUCHI ORGANIC株式会社に入社。2016年6月より現職。

阿部さん 代表の池内計司が、これからは自分たちの利益だけではなく、環境のことを考えていかなければいけない。そうしないと、製造業はダメになる、と経営の舵を切りました。

人間が暮らしていくために、利便性を最大限追求した結果が、今です。このままいったら、継続しないよね? ということが継続されています。ほしい時にほしいだけある、という幻想を捨て、みんながちょっとずつやめていく。そうすれば、本当に必要なことが、見えてくるんじゃないかなと思います。

・株式会社フラットエージェンシー

フラットエージェンシー」は、不動産でありながら、まるでまちづくり会社のような活動を続けています。地域コミュニティや商店街の活性化、学生が孤立しないシェアハウスづくりなど、その活動は多岐に渡ります。

中川桂一(なかがわ・けいいち)
「株式会社フラットエージェンシー」専務取締役。1972年大阪府生まれ。京都の大学を卒業後、1996年フラットエージェンシー入社。20代は賃貸営業を担当しながら地域の家主さん地主さんから少しずつ京都について学ぶ。2002年より短期滞在型のウィークリー、マンスリーマンションを担当し、賃貸マンションと短期滞在型の物件を混合した建物運営を担当する。現在は、京町家マンスリー「体験館 風良都」や町家旅館などの旅館を運営し「暮らすように滞在する」が実現する物件作りをすすめている。

中川さん 私たちの会社は、お客さんに物件を紹介して、終わりではありません。

物件紹介の担当者は、地主さんや家主さんの窓口でもあり、その方が卒業されるまで担当しています。あの家主さんの物件だから、こういう人に入ってほしいな、という思いを持ちながら、仕事をしています。町家の物件も扱い、いかに残して、まちの景観も含め、引き継いでいくのかを大切にしています。

・株式会社和える

最後は、2011年に「日本の伝統を次世代につなぎたい」という思いで、誕生した「和える」。赤ちゃんや子どもたちが暮らしの中で触れる、器や前掛け、ブランケットといった日用品を、全国の職人さんとオリジナルで製作しています。

今回、登壇した京都直営店「aeru gojo」で働く田房夏波さんは、東京で5年ほど働いてから転職。社員数万人規模の会社を辞めたため、周りからは「思い切ったね」とよく言われたそうです。けれど、田房さんご本人は、さらりとしたもの。

田房夏波(たぶさ・なつみ)
「株式会社和える」西日本統括本部長。1988年大阪生まれ。2011年に神戸大学国際文化学部を卒業後、住友化学株式会社にて、経理・経営企画業務に従事。2015年より、和えるにて“0から6歳の伝統ブランドaeru”、京都直営店「aeru gojo」ホストマザー(店長)を務める。2016年より現職。日本の伝統を次世代につなぐ仕組みづくりを促進すべく、“aeru room”や“aeru oatsurae”などの、新規事業の推進を担っている。

田房さん 以前は、全国、海外も含め、色々な地域への転勤の機会がある会社でした。

学生の時は、もちろん国内外への転勤も経験してみたい、という気持ちでいたのですが、結婚をして、お互いの両親は地元の関西に住んでいる。そうなったとき、私、あんまり転勤したくないかも、と思ったのです。転職する時に、何をリスクととらえるか。私の場合は、夫婦で暮らせなくなることや、何かあった時に家族の側にいられないということでした。

また、京都の人は「いけず」と言われがちだが、それは京都の伝統や歴史を大事に思っているがゆえではないか、といいます。

田房さん お店ができたばかりの頃は、よく前を通っておられる方でも、中まで入らず通りすがりにちらっと見るだけということも多かったように思います。でも、1年を過ぎた頃から、そういった方もお店の中に入ってきてくださり、「最近、できはったんですか?」とおっしゃって(笑)

京都の方々はまちを大事にして、次につなげていきたい、という思いを強く持っていらっしゃるがゆえに、悪い人が地域に入ってきたら困るのだろうなと。それで、新しく来られた方に対して、この人たちは、自分たちと同じように、京都のことを大事に思って、次世代につないでくれるのかな? ということを見ていらっしゃるのではないかと感じました。

京都の人は、こちらもまちの歴史や伝統を大事に思っているということが伝わると、実はすごく良くしてくださるとのこと。その想いをご理解くださっているご近所の方は、開店当初から、京都のまちの歴史や、季節ごとの風習を教えてくださり、京都のことを伝えたい、知ってもらいたい、という思いをひしひしと感じておられるそうです。

みなさん、どうですか? 京都の印象は変わりましたか?

「暮らす」の視点で、なかから見る京都は、ひと味違う。ソーシャル企業を推していく、という、まちの新たな動きも見せ、これからまちが、おもしろくなっていきそうな予感です。

「SILK」のWebサイトには、認定ソーシャル企業の就職情報も掲載しています。
京都へ帰りたい、あるいは移住したい。けれども、就職先が心配で二の足を踏んでいる。そんな方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

(撮影: 濱津和貴)

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