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令和の時代を生き抜く、あそびの哲学。「郡上カンパニー」が持続的な地域を目指すために「あそぶ」その真意とは?

日本のほぼ真ん中に位置する、岐阜県郡上市。
そこに、「根っこのある生きかたを、つくる」をコンセプトに、都心部で暮らす若者と、何かやってみたいことがある郡上の人が、新しいことを次々と一緒にはじめている共同体「郡上カンパニー」があります。

今年で3年目を迎え、岐阜県郡上市の移住促進施策としてはじまったけれども、必ずしも移住がすべてではない。都市か地方か、というより、都市と地方で一緒に豊かになる方法をつくる。そんな攻めた姿勢で、突き進んでいます。

5月末からは、地元のひとと、都会のひとで事業のタネを育てる「共創ワークショップ」の参加者を募集します。

郡上カンパニーが掲げる今年の大きなテーマは
「あそぶ」=没入すること

提案したのは、「郡上カンパニー」を立ち上げた、ディレクターの岡野春樹さん。春樹さんは、大手広告会社の社員でもありながら、旅をする社団法人を経営している。そんな「風の人」です。

旅するなかで出会った郡上に惚れ込み、昨年6月にはついに会社に籍をおいたまま、家族で郡上へ移住しました。この先、キャリアも収入もどうなるかわからないけれども、人生をかけて。

逆算するよりも「あそぶ」ほうがいい

岡野春樹(おかの・はるき)
1989年ドイツ生まれ。神奈川県平塚市育ち。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、大手広告会社に入社。自治体のブランディングや、地方創生を中心とした官公庁の国内外の広報に携わる。また、日本を愉しむ関係性をつくる編集チーム「Deep Japan Lab」を立ち上げる。

人生において、なにか大きな変化を決断するとき。
それは、どんなときだと思いますか?

昨年6月、岡野春樹さんは会社員のまま「地域おこし企業人」という枠組みをつかって、郡上へと移住しました。そのきっかけには、入社2年目のときの休職があったといいます。

春樹さん 僕が入社した当時、職場はかなり忙しく、加えて僕は、ガンコで要領もよくなかったので、文字通り朝から晩までずっと働いていましたね。

そんなある日、学生時代にとてもお世話になった地域の方が予算を工面し、直接仕事の依頼をしてくださったといいます。

春樹さん すごく嬉しくて、当然気合いを入れて、自分が最高のものをつくる! と、意気込んでとりかかったのですが、社内の仕組み上、そのプロジェクトは僕のもとを離れることになってしまったんです。しかも、そのあとそのプロジェクトは、とても残念な結果になってしまって。自分の無力さと、お世話になった人への申し訳なさで、何度も泣きました。

ハードな環境でもなんとか働いていた春樹さんでしたが、その件を境に、プツンと糸が切れたように体調に異変が。手が震えだし、体温が乱高下し、自律神経を悪くして、ついにはドクターストップがかかり、休職。気がつけば、自分の「ワクワク・モヤモヤ」などといった感情や、「自分はどうしたいのか?」という願いすらわからない状態になっていたそうです。

休職中は、どう行動すればよかったのか? と自問自答する日々。
勝手に責任を負って、会社をやめて、その地域に移住して全力で仕事をしようか。
けれど、自分にとっての本質的な解決策は、なかなか見つかりません。
そこで次へ進むため、自分のアクションを考えるのではなく、“自分を真ん中に戻す”方法を考えるようになっていきます。

その当時は、「マインドフルネス」という言葉が流行りはじめ。そこに何かヒントはないかと、瞑想などを勉強し、実践を繰り返す日々でした。
そのうちに、春樹さんの場合は、瞑想よりも「あそんでいる」時間に、自分の心に素直な感覚を取り戻すということに気がついたといいます。

春樹さん 水に触れて、長くゆっくり泳いだり、息を深く吐きながら温泉に入ったり、体に伝わる水の温度や感触をじっくり味わう。そんな時間をとると、すごく未来志向で物事を考えられたんです。

“水に触れる”という最後の逃げ場ができたことで、職場に復帰してからも、なにかあれば水に飛び込み、自分が何に違和感を感じているのか? いちばんワクワクすることは何か? を常に感じられるようになりました。

あそぶことで、「ああ、これだ!」という感覚を取り戻す

職場に復帰してからは、週末にわくわくすることを楽しもうと、仲間とはじめた活動が、「日本みっけ旅」です。自分たちの素直な問いを起点に、全国の地域をめぐるという旅だといいます。
その旅先に郡上を選び、アウトドアガイドの由留木正之(以下、ゆるさん)に出会い、夜の川に連れて行ってもらったことで、郡上に“のめりこんでいった”といいます。

由留木正之(ゆるき・まさゆき)
1967年兵庫県尼崎市生まれ。アウトドアガイド。学生時代にバイクに夢中になり、バイク屋で働く。1992年にカヌーに出会ったことをきっかけに、郡上へ移住。現在は一般社団法人明宝ツーリズムネットワーク理事、NPO法人こうじびら山の家理事。

物静かに、あっという間にどこからか木の枝をひろって、火をおこし、お肉や川魚を焼き始めてくれた、由留木さん。

春樹さん 郡上は長良川の源流域なんですけど、その源流域にある夜の川で、魚を獲ったことが、僕にとって本当に衝撃的な体験だったんです。僕、本来集中力がない方なんですよ。気がちりがち。でも、夜の川にウェットスーツを着て、川の中に入って、魚と向き合って、獲ろうとしているときの1対1の集中力がものすごいなと思ったんです。

聞こえてくるのは、川の音だけ。魚をとっている人もいれば、疲れて休んだり。それに、川辺で火を囲むと、いい話をするんですよね、みんな。

川辺でスウェーデントーチに火をつけ、みんなで語り合ったそう。

春樹さん 話を聞いていたら、地域の人って、心を素直にする方法をめっちゃくちゃ豊かに持っているなあと思ったんです。

例えば、山が好きな人は行く山を使い分けていた。今日は嫌なことがあったから、あの山に行ってスカッとしようとか、今日は大事な考えごとをしたいから、あっちの山に行こうぐらいなことを考えていたり。僕はこれを“地あそび”と呼んでいます。住んでいる土地の自然や文化に浸ることで本来の自分に帰る気がします。本当にやりたいことも見えてくる。

春樹さん ぼくら平成生まれの世代は、世の中が豊かな時代だったし、もっともっとみたいな欲が少ないなと思っているんです。だからこそ、長い時間の流れの一部であること、生態系の一部であることを感じられる瞬間などに「ああ、いいなぁ」って安心する感じを覚える気がするんです。

ゆるさんは植物を愛でるように、その人がいま、どっちの方向にいこうとしているのか、フィールドのなかでの草食動物的な視野の広さでみてくれていて。疲れていそうであれば、休ませてくれる。釣りとかやってみたさそうだったら、釣り竿を渡してくれる。ゆるさんのもとで自然に入ると、ゆるさんのあたたかさに包まれて、安心するんです。ちなみにそんなゆるさん、ただいま共同創業者募集中です(笑)

やりたいことをプロジェクトにして、“あそんでみる”

春樹さんにもうひとり、大きな影響を与えたあそびの師匠が興膳健太さん。

春樹さん 興膳さんは、おもしろそう、やりたい! と思ったことをプロジェクトとして立ち上げて、実現する“プロジェクトあそび”の天才なんですよ。

田んぼで「泥んこバレー」やろうって言ってすぐ企画にして何年も続く大会をつくっちゃったり、山で罠と一緒にモーションセンサーカメラをつけて、鹿が通るたびに、職場でその画像をメールで確認できる「クラウドハンター」というやりかたをつくってしまったり。頭の中、どうなってんだ、という感じです(笑)

興膳健太(こうぜん・けんた)
1982年福岡県生まれ。郡上に移住した先輩たちの姿に憧れて2007年に郡上へ移住。「NPO法人メタセコイアの森の仲間たち」の代表理事、猟師の6次産業化を進める「猪鹿庁」長官。「郡上里山株式会社」代表。

興膳さんは、プロジェクトであそぶときの秘訣として、

「自分の感覚に正直になって前提を疑うこと」
「みんながわくわくできそうな“絵”を描くこと」

このふたつが大事だといいます。

興膳さん 山を地元の猟師の先輩たちと歩いていると、「これは鹿の足跡で、こっちからあっちの方向に歩いていったんや」など、足跡だけで色々な情報を推測して、教えてくれる。でも、心のどこかで「ほんとかよ!?」と疑う自分もいて。だからカメラで確認しようと思って、「クラウドハンター」の企画を思いついた。こういう自分が感じた素直な違和感が大事だと思うんですよ。

その違和感がヒントになり、アイデアを思いついたら、みんなもワクワクできそうな“絵”、つまり理想の場面を描いてみる。都市部で暮らす人に最近狩猟免許を取る人が増えている。こういう若いペーパー猟師、特に狩猟女子たちが、みんなで田舎に罠とモーションセンサーカメラを仕掛けて帰り、かかったら、みんなでその肉を食べにくる。おもしろそうじゃないですか!?

郡上であそぶ楽しさを教えてくれる最強コンビとの出会い。
それによって、学生時代からのテーマであった「土地にひもづいた学びと挑戦の場づくり」の理想像がぼんやりと見えてきたといいます。まさにそんなときに、郡上の人たちから春樹さん個人に「そういう場を一緒につくらない?」という、「郡上カンパニー」へとつながるオファーがやってきたのです。

春樹さん 僕にとっては、やりたいことがすべてこめられそうな“全部入り”のしごとだったんです。ずっとわくわくに基づき、あそんでいたら理想的なしごとをいただけた。

決断するタイミングは人それぞれだと思うんですが、僕の場合は、いきなり心に素直にやっちゃえーっ! と進んだわけではなくて、やっぱこっちだよね、どう考えてもこっちだよね、ということを徐々に徐々にスライドしていったところがあって。最初は会社と関係ないところで、ぼくにとっての“プロジェクトあそび” にあたる「日本みっけ旅」がはじまり、続けていたら、だんだん地域の仕事がくるようになった。でも、どこかで自分で調整するタイミングがあったんです。

それがこの機会で、3年後、4年後のキャリアがどうなるかわからないけれど、これだけ僕がいいなと思った人たちと学びの場をつくれるなら、やろう! そう決めることができたんです。

最初は、会社をやめるつもりで、お世話になった上司に「郡上でどうやって食っていくかわからないけれど、心からやりたい仕事が見つかりました。会社としては成り立たないと思うので、辞めます」と素直に伝えたといいます。

春樹さん そしたら、「バカヤロー! 物事には調整の仕方ってもんがあるんだ。俺はお前よりお前の家族のことを真剣に考えている自信がある」って、すごく怒ってくれて。今思うと、僕が何かやりたい、という覚悟を示したときに応援してくれたんだと思います。

それからは、資料を山のようにつくり、会社員のまま移住すべく、社内で“調整”する日々がはじまりました。

春樹さん 自分がその土地に移住したとき、自分に、家族に、会社に、社会にどんなメリットがあるのか、徹底的に考えました。会社を説明する数字が足りないなら、別案件をつくって埋めるとか、調整して。会社にとっても、これだけいいことがありますよね。社会にとってもメリットがありますよね。自分と会社、会社と社会、を何度も行き来して考え続けていたら、わりときれいな一直線で結びつけることができたんです。

そのみちのりは険しいようでしたが、ありがたいことに社内でも特例中の特例で郡上へと移住させてもらえることになったのです。

自分なりの指標や納得度を持って、生きる

春樹さん これからの時代、自分なりの指標や納得度を持って、生きていくことが大事だと思うんですよ。自分に素直になり、一番ワクワクすることができたときに、覚悟と誠意をもって本気で周りに話していく。

その本気度をもって人に伝え、あそびがなりわいになったとき、「郡上カンパニー」では、“しごとあそび“と呼んでいます。

春樹さん どこの会社にも超楽しそうに仕事をしている人って、いるじゃないですか。えっ、そんな案件あり!? ということを会社から認められて、堂々とやってる人。

そこには、僕と同じように会社でしごとをつくらせてもらうパターンもあれば、社外で起業してはじめるパターン、そして、今の目の前の仕事をいい意味で私物化して全力でやるパターンがある気がします。それらはすべて“しごとをあそぶ”ということだと思います。

いつもあそぶことに本気の興膳さん。激しいです(笑)

興膳さん おもしろいことも大事だとおもいつつ、自分がおもしろいだけでは、周りから勝手にやってろよ、と見放されちゃう。そうすると、おもしろくないという感覚があって。そのバランス感覚は、郡上のいろんな先人のメンターみたいな人がいて、鍛えられた感じがあります。

しごとと、あそび。
右肩上がりの成長社会が終わりを告げ、どう生きることが正解なのかわからない時代に、このバランス感覚を持って、生きていくことは大切なのかもしれません。

春樹さん 「郡上カンパニー」では、郡上の先輩たちと僕の体験も踏まえて、「地あそび」、「プロジェクトあそび」、「しごとあそび」の3つのあそぶ機会を提供しながら、「根っこのある生きかたを、つくる」仲間・同志を増やしていきます。

僕たち3人には、それぞれ役割があります。僕は逆算思考で凝り固まっている都市部の人に、郡上で五感を通じてあそぶことがいかにすばらしかったかを誇張もせず、追体験するような形で伝える。そしてそこになにかひっかかって、ついてきちゃったひとが、まずはゆるさんに遊んでもらえる。遊んでもらって「自分の“真ん中”を取り戻した」あとは、興膳さんをはじめ、郡上の人たちと一緒に“プロジェクトあそび”をはじめる。

最後の締めは僕で、多くの人はやりたいことをやるために、キャリアを「やめる」「やめない」を0か1かで考えがちなんですけど、その間の選択肢って実は無限につくりだせる。何かやりたいことができたとき、それを“しごとあそび”として取り組む方法は、僕から伝えることができるなと思っています。

昨年のワークショップ参加者の「自分を“真ん中に戻す」光景(笑)

郡上に身を浸してあそぶと、みんないい表情になるそう。

春樹さん まずは自分の願いを知れるまで、頭での思考領域を止めてあげる。それがすごく大事だけど、超難しくて、何やりたいんだっけ? どっちの方向に行きたいんだっけ? ということをすごく注意深くみていないといけない。7月からは、いよいよ都市部の人が、郡上の人と一緒に3か月間全力であそぶ場として、「共創ワークショップ」が始まります。

毎日が忙しくて、なかなか動けない。
けれど、意識して時間をつくらないと、なにも始まりません。
そのきっかけに都会を離れ、夢中になってあそびながら、わくわくする事業を考えてみませんか?

(写真: 逸見菜々子)

– INFORMATION –

郡上カンパニー共創ワークショップ全4回 (募集締め切りは6/30)

第一回:7/13-15「出逢う」 @郡上
第二回:8/10-12「本気であそぶ」 @郡上
第三回:9/14-16「つくる」 @郡上
第四回:10/12-14「発表する・振り返る・感謝する」@郡上
詳細は、コチラから!

共創ワークショップ 説明会日程

6/18 (火) 19:00-21:30@「喫茶モーニング」(名古屋)
6/23 (日) 16:00 – 20:30@「BASE」(東京・恵比寿)
6/25(火) 19:00-21:30@「カフェスロー」(東京・国分寺)
6/27 (木) 21:00-22:30 オンライン説明会
説明会の申し込みはコチラから!

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