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“がっこうづくり”から“まちづくり”へ。不登校や発達障害の子どもを支援するトイボックス・白井智子さんに聞く、人を変える“居場所”の力とは?

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。こちらの記事は、会員サイト「マイ大阪ガス」内の支援金チャレンジ企画「Social Design+」との連動記事です。

子どもたちにとって、学校は生活の場であると同時に社会そのもの。だからこそ、「学校に行けない」子どもたちは家の外で安心していられる場所を失うという、非常につらい状況に身を置くことになります。

学校に行けない理由は、子どもたち一人ひとりによってさまざま。家庭の事情や友人とのトラブルがきっかけになることもありますが、なかには現行の学校教育の現場では対応するのが難しい発達障がいなどの課題を抱えている場合もあります。

大阪に拠点を持つ「NPO法人トイボックス」は、不登校やひきこもり、発達障がいなど、課題を抱える子どもたちを支援する団体です。2003年には、池田市の行政・教育機関との連携により、日本初の公民恊働モデルとなる教育相談事業を実現しました。

そして、2004年には、不登校や発達障がいの子どもたちが学ぶフリースクールを「池田市立山の家」内に開校。これら一連の「スマイルファクトリー事業」は、池田市の不登校児童数の減少にも寄与してきたことは、以前の記事でもお伝えした通りです。

前回の記事から2年。「スマイルファクトリー事業が大きな転換点を迎えている」と噂に聞いて、あらためて代表理事の白井智子さんにお話を伺ってきました!
 
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白井智子(しらい・ともこ)
1972年千葉県生。1995年東京大学法学部卒業後、松下政経塾に入塾し、教育改革をテーマに国内外の教育現場を調査。1999年4月から2年半、沖縄県に開校したフリースクールの校長を務めたのち大阪へ。2003年、池田市教育委員会より委託を受け日本初の公民協働型不登校・ひきこもり対策の居場所づくり事業をスタート。様々な問題を抱えた子どものための新しいがっこう「スマイルファクトリー」を池田市立山の家に開設すると同時に「NPO法人トイボックス」を設立。2007年には通信制高校と連携し、高校卒業資格がとれるハイスクールを併設、校長を務める。内閣府「新しい公共」推進会議委員・文部科学省中央教育審議会 文部科学省 フリースクール等検討会議委員など。

子どもが生き生きと成長する社会をつくるために

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昨年12月に行われた関西ラブジャンクスライブ「INFINITY」の様子。「彼らの無限大に広がる可能性を、たくさんの人に感じてもらえるようなステージにしたい」という思いを込めたタイトルです。

トイボックスの願いは「こども達の成長と自立をサポートする」「こども達が生き生きと成長できる社会をつくる」こと。現在は、「スマイルファクトリー」のほか、「ラブジャンクス」「キャンプロジェクト」の3本柱で事業を行っています。

ラブジャンクスは、ダウン症の若者たちによる世界初の本格的なエンタテインメントスクール。現在は、関西、関東、そして沖縄でダンスレッスンを開催。800名あまりの会員が参加しています。
 
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キャンプロジェクトでは、指定管理者制度を活用しながら、自治体と連携して子どもたちが元気に成長できる地域社会づくりに取り組んでいます。

トイボックスは、これまでに、門真市民文化会館や寝屋川市立市民会館など、5自治体の6つの公共施設を運営管理。アーティストや研究者、古典芸能の伝承者などのプロフェッショナルと市民が連携するイベントなどを開催しています。地域の人材やコンテンツを育むことで、地域全体の活性化につなげるねらいです。

ずっと続けていくなかで、どのセクションも関わってきた方のニーズを拾うかたちで多機能化しています。

ラブジャンクスはダンススクールとして始まりましたが、今はダウン症を持つ方々の就労支援も始めています。キャンプロジェクトからは、子どもの学習支援ができる場所やカフェのある「LOBBY」という事業も立ち上がりました。

そして昨年の秋、下村博文文部科学大臣(当時)が会見において、「多様な選択肢のなかで不登校であった子どもたちが、より教育環境に適応できるような、そういう柔軟な検討を考えていきたい」と発言。スマイルファクトリーの事業も、急速に新たな展開を迎えることになりました。

難しい課題を抱えて生きる子たちの“あたらしいがっこう”

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自然あふれる環境のなかにある「山の家」のフリースクール

スマイルファクトリー事業として、大阪府池田市と展開している「池田市立山の家」では、子どもたちは原籍学校に籍を置いたままで「山の家」へ通学することができます。出席日数は、校長先生の判断で籍のある学校の出席数にすることも可能という画期的な仕組みでした。

ところが、今年、自民党や民主党の超党派による議員連盟が、フリースクールなどでの教育を義務教育に位置づける「多様な教育機会確保法(仮称)」いわゆる“フリースクール法案”の議論を本格的にはじめたのです。

同法案は、学校以外で学ぶことを希望する場合は、個別の学習計画を市町村の「教育支援委員会」に提出し、認定された計画通りに学べば義務教育を受けたものとして認めるというもの。成立すれば、スマイルファクトリーに通う子どもたちも「原籍校にも籍を置く」という二重状態が解消されるようになります。

フリースクール法案はまだ成立していませんが、公民恊働の先進モデルである山の家には視察を希望する人たちが多数訪れるように。それに伴い、子どもたちの意識にも変化が起きているそうです。

人の意識を変えるには、制度が先に動くということも大きいんですよね。やはり、制度そのものがひとつのメッセージですから。

全国各地からわーっと視察に人が来るので、子どもたちも「あ、自分たちの学びの場がすごい先進事例として注目されている」と感じるんですね。「落ちこぼれたから来る場所じゃなくなる」と思うと元気が出るようです。

国がこちらを向いてくれるということは、子どもたちの自己肯定感をつくるうえでも大きな効果があるのだと思います。

山の家に天の声? 廃校になった小学校への移転計画

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旧伏尾台小学校での学習の様子。ここから新しい未来が始まります。

そんななか、山の家に“天の声”が降ってくるという事件が起きました。なんと老朽化した建物の屋根の一部が落ちてきたのです。幸い誰にも怪我はなかったのですが、危険のある施設で子どもたちに過ごしてもらうことはもうできません。

実は、もともと山の家では、子どもたちを受け入れるスペースが不足し、待機児童問題まで発生していました。以前から、より良い環境を求めて移転の計画をしなくてはならないという話もあり、この出来事をきっかけに、緊急避難として移転することになったのです。

行き先は、かつてのニュータウン。少子高齢化が進み“オールドタウン”になりつつある、池田市伏尾台というエリアです。

昨年、伏尾台では少子化に伴い、ふたつの小学校とひとつの中学校を再編整備。2015年春に施設一体型小中一貫校「ほそごう学園」を開校しました。

閉校になった旧・細河小学校と、旧・伏尾台小学校の有効活用が議論されるなかで、「山の家で実施している不登校児童・生徒とその保護者の支援事業を旧・伏尾台小学校に」ということはすでに決まっていました。

さらに、池田市は旧・伏尾台小学校に、子育てと若者支援の拠点としての機能を整えて、「伏尾台エリア創生の拠点」として活用することも検討されています。

伏尾台地域でコミュニティの中心になって活動されている方々と初めてお話しさせていただいたとき、「大変な思いをしてきた子どもたちをこのまちは受け入れるんだ。支えて行くんだ」とそこにいた全員がおっしゃったことに深く感動しました。

今までの経験で言うと、ひとりくらいは「不登校の子どもたちが通う学校ができたら、地域に悪影響があるんじゃないか」などと言う人がいても不思議じゃなかったのに。

本当にありがたいと思いましたし、ここに迎え入れてもらえるなら子どもたちも幸せだと思いました。屋根が落ちたのは“天の声”かもと話しているんです。

実は、スマイルファクトリーに通うために、全国から引っ越してくる家族も少なくありません。伏尾台エリアの人たちは「まちの活性化にもなるのでどんどん引っ越してきてほしい」とも仰っているそう。「いろんな試練を抱えている子どもたちを受け入れる福祉のまちになるんだ」という、まちの人たちの強い意志が感じられます。

「ここにいてもいい」という安心感が人を変える

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「がっこうづくり」から「まちづくり」へ。教育事業に携わるようになって十数年が過ぎ、白井さんの仕事は年々スケールアップしていくようです。そして今、白井さん自身にも「やっと見えた」という手応えがあります。何よりも大きいのは、かつての教え子たちの成長した姿です。

教え子たちが、トイボックスのスタッフとして働いてくれたり、福祉の仕事で活躍していたり、結婚してお父さんやお母さんになっていたり。

そんな姿を見ていると、この仕事は一代で終わる仕事じゃないんだな、この子たちがちゃんと引き継いでいってくれるんだ、ということが見えてやっと私も心が落ち着きました。

とにかく目の前に現れる子どもたちを元気にしようと思って続けてきたら、いつの間にか世の中にちゃんと場所ができていた。そんな感覚ですね。

放課後のスマイルファクトリーには、毎日のようにOBOGが遊びにきます。OBOGにとって、スマイルファクトリーは唯一の母校と呼べる場所。安心して悩みを打ち明けられる、頼れる場所なのです。

一生のおつきあいというか、いくつになっても「ここにいてもいい」と思える場所があることは、子どもの生き方を根底から変えるんですね。

ものすごくつらい思いをしてきた子どもたちがその状況から抜け出すには、ものすごく豊かな環境のなかで育ててあげる必要があると思うんです。

だからこそ、白井さんには、障がいの有無に関わらず多様性のある人々を受け入れるまちをつくりたいという思いがあります。教育だけで完結せずに、学校を出た後にもいきいきと暮らせる地域がないと、次世代を担う子どもたちの未来はありません。

子どもたちの未来のために必要なのは、赤ちゃんからお年寄りまでが、「ここにいてもいい」と安心できる、居場所のあるまち。いろんな人たちの豊かな人生を支えられるまちです。

全国各地で生まれつつあるオールドタウン。でも、古くなったまちと社会課題を解決するアイデアが結びつけば、まちに次の命を吹き込むことができます。

もしも、今あなたが住むまちの近くに “オールドタウン”があるなら、ひさしぶりに古い団地や学校に散歩に出かけてみませんか? そこに、新しい動きが見つかるかもしれません。

– INFORMATION –

 
Social Design+でトイボックスを応援しよう
山の家から旧・伏尾台小学校への本格移転が実現すれば、子どもたちの受け入れ人数は40名から100名に増える予定。教員免許や臨床心理士免許を持つスタッフによるプログラムを充実させるために、現在トイボックスは「マイ大阪ガス」の「ソーシャルデザイン+」にチャレンジしています。ぜひ応援してください!
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/social/social10.html