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他者とつながることで自分らしく生きられる。大阪でシングルマザーシェアハウスを運営する「Peace Festa」が日常の先に見つめる新しい“日常”

私が私らしくいられる。そのためには何が必要なのでしょうか。

家族や仲の良い友人、やりがいのある仕事、趣味など、答えは人によってさまざま。しかし、どんな時もまず衣食住が充実していることが欠かせません。

厚生労働省の「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によると、日本の母子世帯数は119.5万世帯とされ、30年前と比べると1.5倍に増加しています。

母子世帯になった理由のうち約9割が離婚。背景はさまざまですが、中には配偶者からのDVやストーカー行為により、暮らし慣れた土地を逃げるように離れ、新生活を余儀なくされる方もいます。

また、逼迫した状況下にはなくとも、離婚準備中や離婚による精神的な負担は大きく、目の前のことをこなすだけで精一杯な状況に追い込まれる場合も。

衣食住がおびやかされる状況から再び前を向いて生きていけるよう住居支援を軸にシングルマザーの“自立”を応援するのが、大阪市平野区にある株式会社Peace Festaです。大阪メトロ谷町線「喜連瓜破(きれうりわり)駅」の近くでシングルマザーシェアハウス「ideau(いであう)」と「mitsuku(みつく)」を運営し、立ち上げから5年で約20世帯を受け入れてきました。

今回は代表の越野健(こしの・けん)さんと、住人の安田委久美(やすだ・いくみ)さんに、シェアハウスを立ち上げた経緯や暮らしぶり、そしてシングルマザーシェアハウスの可能性についてお伺いしました。

越野健(こしの・けん)<写真右>
株式会社Peace Festa代表。1984年生まれ。千葉県出身。大学在学中に世界一周。広告制作会社にてCSR報告書制作に従事。後に行政・企業・NPOの協働を目指すシンクタンク系NPO法人や環境省に勤めた後、2009年12月に独立。
安田委久美(やすだ・いくみ)<写真左>
シェアハウス住人のシングルマザー。1980年生まれ。26才で結婚、27歳で女の子を出産し、その後離婚。シングルマザーになった頃、越野さんと出会い、「ideau」の設計段階から参画。オープン時より入居している。

シングルマザー向けシェアハウスってどんなところ?

シェアハウスとは、自分の部屋とは別に、住人が共同利用できる共有スペースを持った賃貸住宅のこと。物件によりますが、玄関や浴室、キッチン、トイレ、リビング、洗面所が共有のところが多いです。

では、シングルマザー向けのシェアハウスならではの特徴はあるのでしょうか。まずはお部屋を案内してもらいました。

空き家になっていた築60年弱の長屋を改装して生まれた建物の一角に、シングルマザー向けシェアハウス「ideau」はあります。

5戸ある長屋のうち3戸分をPeace Festaが大家さんから借りて「ideau」として運営

玄関を開けると、それぞれの玄関部分をつなぐ細長い土間があります。外からは一戸ずつが独立しているように見えますが、一歩足を踏み入れるとゆるやかに住人同士のつながりを感じられる空間になっています。

1階の、白を基調としたフローリングのお部屋(現在は空き室)。収納がたっぷりあり、クーラーも完備

各部屋に水回り完備。他の入居者に気兼ねなく使うことができると好評

各世帯の住居となる部屋は1階に3室、2階に1室の全4室。1階と2階のお部屋では間取りが異なりますが、全て7〜9畳のワンルームです。各部屋にお風呂と洗面所を完備しており、ペットとの入居も可能です。

2階の真ん中には共用のキッチン。必要最低限の家具・家電が揃っているので、引越しをしてすぐに生活を始めることができます。大きな窓からたっぷり陽の光が差し込むのも、気持ち良さそう。

炊飯器や電子レンジ、トースターなど必要な調理家電が揃ったキッチン。誰かと利用タイミングが被ることを想定すると、コンロが4口なのは嬉しい

ダイニングテーブルには最大8人が座れる。調理しながら子どもが宿題をしたり遊んだりする姿を見ることができるので安心

子どもが思いっきり遊べる共用の子ども部屋。個室と別にあることで、もしおもちゃが散らかっていても気に留めることなく過ごせる

キッチンの隣、2階の角部屋は子ども部屋。声の大きさや片付けの心配をすることなく、好きなだけおもちゃを出して遊ぶことができます。もともとは、こちらの部屋も賃貸に出していたそうですが、コロナ禍で思うように外に出られず困っているという声が出たことから、住人みんなで相談をしてちょうど空いていた一室を子ども部屋として使うことになりました。

1世帯あたりの家賃は月7万円+共益費1万円(2024年11月時点)。水回り完備のワンルームに共用のキッチンと子ども部屋が付いて、水道・ネット代も込みです。ただし、緊急性の高い母子が利用しやすいよう、入居から最初の2ヶ月は家賃を月4万円に設定しています。また、大阪市に確認の上、児童扶養手当の受給も可能です。

社会のために自分には何ができるのか?

2021年4月、「住宅セーフティネット法」に「ひとり親向けシェアハウス」の基準が追加され、国をあげてその必要性が叫ばれるようになりました。しかし、ひとり親向けのシェアハウスは全国的に見てもまだ十分な数があるとは言えません。そうしたこともあってか、越野さんの元には離婚を考えている子育て中の女性から入居の相談が年間40〜50件舞い込むそうです。

そもそもなぜ、越野さんはシェアハウス事業をはじめ、シングルマザー向けのものをつくることになったのでしょうか。

越野さん 原体験でいうと大学生の時、自分ができることを考えたいと就活前にピースボート(※)に飛び乗ったんです。途上国でのボランティア活動に参加して、無力感に苛まれましたね。一体自分には何ができるんだろうって。

(※)ピースボート:地球が抱える問題をテーマに、世界各地を船で巡り、各地の人びとと交流を行う

取材は隣の棟にあるレンタルスペース内で行った

2000年代後半といえば、「社会起業」や「CSR」といったキーワードが日本で広がり始めた頃。就活の際には、グリーンズの共同代表である鈴木菜央を訪ねたこともあったと懐かしそうに話します。

卒業後、広告代理店に就職した越野さんは、クライアントのCSR報告書を作成する部署に配属になりました。1年ほどで退職した後、NPO職員、環境省での勤務を経験。数々の経験を積み、「社会問題に直接アプローチできる事業をやろう」と2009年12月に独立します。

独立当初は、一部上場企業との寄付型商品タイアップ企画を実施。例えば、500円のビール一杯を販売するごとに10円がカンボジアに寄付される仕組みを提案し、共感するパートナー企業を増やしていました。しかし、事業が広がり始めた矢先、東日本大震災が発生。全ての取引が中止になり、事業プランは白紙に戻ります。

母方の実家が宮城だったこともあり、仲の良いNPO法人のツテを頼って、東北でのボランティアへ。そこで多くの大学生が「東北のために何かしたい」と思い奮闘する姿を見たことが、新たな事業につながります。

越野さん 社会のために動きたいと考える若者を応援するような何かをやりたいと思いました。そこで、2012年から社会起業スクール「オモイ*デザインコミュニティ」を東京で始めました。

オモイ*デザインコミュニティを経て、自分のやりたいことを見つけたり、社会的な事業を立ち上げたりする若者が生まれた(写真提供:Peace Festa)

越野さん スクールは初回から盛り上がりました。月2回開催していたのですが、それだけではもったいないなと思うようになって。面白い若者たちが一緒に暮らして切磋琢磨できたらいいのではと考え、シェアハウスを提案してみたところ、15名ほどから「住みたい」と手が上がったんです。

2012年9月、池袋にシェアハウス「オモデザハウス」をオープン。そして、大阪でもオモテザハウスのような場を作ってほしいという声を受け、2013年、大阪市北区でもシェアハウスの運営を始めました。

オモテザハウスには様々な若者が集まっていた(写真提供:Peace Festa)

当事者と二人三脚でテーマ性のあるシェアハウスを立ち上げ

そんな折、越野さんはシェアハウスのもつ新たな可能性に気づきます。

越野さん LGBTQの方と話をした時、当事者同士ではよく老後の話題になると聞きました。身体的に同性同士のカップルの場合、出産はできないので老後を子どもに見てもらう選択肢はありません。それならみんなで一緒に暮らして面倒を見合おうと冗談で話をしていると。それを聞いて「今からでもできるんじゃない?」と提案して、LGBTQの方向けシェアハウスをつくりました。

その後も、料理人から相談を受けて料理人向けシェアハウスをつくるなど、「当事者と二人三脚で始めるスタイル​​」でさまざまなテーマのシェアハウスを手がけていきます。

数々のシェアハウス運営実績ができた2017年、越野さんのもとに一通のメールが届きます。

越野さん シングルマザーの方から、子連れでシェアハウスに入居できないかと連絡がありました。当時運営していたのは若者を中心にワイワイしている物件ばかり。個室の鍵もなかったので、断腸の思いでお断りをしました。

実は当時、僕も以前のパートナーと離婚調停中。精神的にはしんどい時期でしたが、問い合わせをきっかけに自分の経験が誰かの役に立つかもしれないと考えるようになりました。

専業主婦(夫)だった場合、離婚後は無職になってしまう。定職がなければ賃貸物件の審査は厳しいのではないか。もし貯金がなければ引越しや新居の初期費用、家具の購入などができないのではないか。越野さんの頭には次々と、ひとり親が住居を得ることが難しい理由が浮かんだと言います。

冒頭でも紹介した「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」を見ると、実際、母子世帯の平均年間収入は272万円と、父子世帯の518万円の半分程度。また、父子世帯が14.9万世帯であるのに比べて、母子世帯はその約8倍あることから、多くの母子世帯が相対的貧困状態に陥っている可能性が高いことがわかります。

越野さん ひとり親、特にシングルマザーの置かれている状況を考えた時、シェアハウスと相性がいいのではないかと思いました。家具・家電付きですし、みんなで住めばママ一人で仕事も育児も頑張らなくてもいい、新しい暮らし方ができるんじゃないかって。

出会いからとんとん拍子に「ideau」をオープン

2018年、越野さんは当事者のニーズを把握するため、シングルマザー向け支援をしているNPOとともに座談会を開催しました。そこに来ていたのが、現在も住人である安田さんです。

安田さんは、娘が小学6年生の時に「ideau」に入居。現在は、peace festaが運営する2軒目のシングルマザー向けシェアハウス「mitsuku」で生活をしている

安田さん 当時は、ちょうど離婚をしたばかり。私自身ステップファミリー(※)の家庭で育ちましたし、かつて結婚していたパートナーも前妻との間に4人の子どもがいてステップファミリーだったからか、私も子どもも、親の顔色を見て行動してしまう癖があったので、「私が私らしく、子どもが子どもらしく居られる場」があったらなと考えていました。

(※)ステップファミリー:離婚や再婚などにより、血縁関係のない親子関係が含まれる家族関係のこと

座談会で出た意見として多かったのは、水回りは各部屋に付けてほしいという希望。シェアハウスでお互いに頼り合えるのは嬉しいけれど、子どもが病気になった時などに、水回りが共用だと使いづらいという声があがったそうです。

越野さん 物件を探していたところ、安田さんから「ぴったりな物件を見つけた」と連絡がありました。それがここ、「ideau」のある長屋です。大家さんは、長屋をいかして地域のハブとなるような場をつくっていきたいという思いがある方で、「誰か一緒にやりませんか」と広告を出されていたんです。

越野さんは早速大家さんに会いに行き、あっという間に意気投合。最寄駅から徒歩10分、また徒歩5分圏内に4つの小学校がある好立地であることも決め手になり、オーダーメイドでのシングルマザー向けシェアハウスづくりが始まりました。安田さんも当事者として企画・設計段階から携わることになります。

安田さん 路地のタイルは、子どもが転けても怪我のしにくいクッション性があるものにするか、それとも吸収性のあるものにするかなど、一つひとつ相談しながら決めていきました。建築士さんも「階段の一つを滑り台にしたらどう?」と提案してくださるような楽しい方でしたね。

当事者の声が反映され、各部屋に完備されたお風呂

理解のある大家さんと、遊び心のある建築士さん、そこに越野さんと安田さんの熱意が加わり、2019年に「ideau」が完成。同年、peace festaは住宅確保要配慮者居住支援法人の認可を取得し、現在に至るまで約5年に渡り、北海道から沖縄まで全国各地から引っ越してきた約20世帯の母子の生活が営まれてきました。

「ideau」は「出会う」という意味の古語。「i」=私と「deau」=出会うという意味も込められそうだなと筆者

家族とも友達とも違う、シェアハウスだから得られた経験

子どもが小学生の頃から「ideau」で暮らしてきた安田さんは、シェアハウスでの生活をどのように捉えているのでしょうか。

安田さん フルタイムで働いているので、母子のみで暮らしていた頃はお留守番をさせたり一人で食事させたりして申し訳ない気持ちでいっぱいでした。でも、シェアハウスなら誰かが居るし、一緒にご飯を食べさせてもらったり子ども同士で遊んだりできるので、娘も「寂しくなくなった」と話しています。

シェアハウスでは、季節イベントを実施したり時には一緒に旅行したりすることもある。写真は長野でSUPを楽しむ様子(写真提供:Peace Festa)

また、いざという時にも、シェアハウスに入居していたことが大きな安心感につながったと振り返ります。

安田さん 2018年の大阪府北部地震の時はまだ娘と二人で住んでいて、とても心細かったです。でも、シェアハウスでは「大丈夫?」と声を掛け合ったり、避難所の情報をシェアしたりできて、安心感がありますね。台風が来るとわかれば、みんなで手分けして窓が割れないよう対策もしています。

一方で、シェアハウスならではの「しんどさ」も痛感しています。

安田さん 家庭によって生活リズムやルールは違うもの。遅刻は絶対ダメとするママ、遅刻してもいいんじゃないってママもいます。私の子どもは不登校だった時期があるのですが、「あの子はなんで学校へ行かないの?私も行きたくない」と言う子も出てきて、どうしようとなったことも……。

他にも、食事や就寝の時間など、各家庭で異なることが子どもに影響を与えて、トラブルに発展してしまうこともあったそうです。時には、ママと子どもが喧嘩をしている時に仲介に入るべきなのか・知らないふりをしておくのが良いのかと判断に迷うこともあったそう。

安田さん 家族や友達とも違うので、距離感をどうとったらいいのか悩みます。こちらが求めている距離感と相手が求めている距離感は異なりますから。私はみんなでやろうよってタイプなので、必要以上に近づかないでほしいママさんと距離が空いてしまったこともありましたね。ただ、子ども同士は関係なく遊んでくれていて、それが救いになりました。


これまで入居した子どもは0歳から高校生まで。赤ちゃんがいれば夜泣きが聞こえてくることも。住人によって環境が変わるのを楽しめる方がシェアハウスに向いているそう(写真提供:Peace Festa)

安田さん でも、こうした経験は母子二人の生活ではできません。多様性を社会の中で実感することはあまりありませんが、シェアハウスに住んでリアルに感じています。さまざまな価値観のママと子どもがいて、いろんな家庭の生活を見て。関わり合いの中でいろんな人を知れたのは私にとっても娘にとっても学びになりました。

「私が私らしく、子どもが子どもらしく居られる場」を求めて、「ideau」での生活に飛び込んだ安田さん。そこから5年、その願いは叶ったのでしょうか。

安田さん 他のママは娘をいい意味で子ども扱いせず、一人の人として見てくれます。だからこそ、娘も嫌なことを嫌と言えるようになりました。自分の子どもであれば「何言ってんの」となってしまうことも、他者だから「嫌なんだね」と肯定できることもあると感じています。親以外の大人との関わりができたことで、子どもらしくいられているのかもしれません。

私も親の顔色を見ながら大人になりましたが、一人ひとりのママたちとの適切な関係性を模索する中で、嫌なことを嫌と言えるようになってきているかな。

ペット可の物件のため、犬を飼っている家庭もあります。ペットもたくさんの人に見守られて育っている

必要とする支援を届けるため、数々のパートナー団体と提携

安田さんのように母子二人だけではない生活を望んでシェアハウスに来る人もいれば、仕事を探している人、状況が落ち着いてシェアハウスから次の住まいへ引越しを希望する人もいます。そうした声に応えるため、越野さんは居住支援を軸にしながらも、パートナー団体と提携し就労支援や生活支援などにも事業を広げています。

越野さん 入居者の8割は遠方からで無職のため、人材紹介の企業と連携して就業サポートをしています。また、引越しはお金がかかるので理解のある引越し業者さんに協力してもらい、格安で新生活を始められるようなお引越しサポートも始めました。

越野さんが以前運営していた「オモデザハウス」からは、貿易商や僧侶、エネルギー会社を立ち上げた人などが生まれ、社会で活躍しているそう。そうしたネットワークもいかし、直接社長を紹介することもあると話します。

0歳児のママが就活中、越野さんが代わりにお守りをすることもあったそう。越野さんは自身を「令和版サザエさんのノリスケ(血縁関係のない父親役)」と考えている

「おてらおやつクラブ」からの支援。不定期に食材や日用品の寄付が届く(写真提供:Peace Festa)

他にも、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を仏さまからの「おさがり」として頂戴し、子どもへの「おすそわけ」としてサポートする団体「おてらおやつクラブ」から食糧支援を受けたり、家賃保証会社と連携して養育費の補償サービスを提供したりするなど、シェアハウスの住民が必要とするサービスとつながり、支援の幅を広げています。

いろんな生き方に出会える機会をつくりたい!

そんな越野さんが次に目指すのは、ママが新しい一歩を踏み出す後押しをすることです。「新たに着手しているものがある」と、目を輝かせます。

越野さん いろいろな生き方があることを知ってもらえるよう、職業体験付きの修学旅行を実施したいんです。経済的な理由や男手がないなどの理由から、母子世帯は体験活動が少ない傾向にあります。でも、いろいろな体験や価値観に若いうちから触れて選択肢が広がるのは大切なこと。僕も世界一周に行って、見える世界が広がりました。だから体験格差を減らす機会をつくれないかって。

初回は2024年12月を予定していて、徳島へ行く予定なのだとか。なんて楽しそうな旅行でしょう。子どもにとってだけではなく、ママにとっても新しい世界に出会うチャンスになりそうです。

目指すのは、日常の先にある“日常”だと越野さんは続けます。

越野さん 母子二人の日常ではなく、その先に見える“日常’を共に過ごしていきたいんです。一緒に旅行をしたり季節行事を楽しんだりすることで、ママの世界が広がり、想像もしていなかった“日常”を送ることができるかもしれません。そうした関わりの中から、ママがママらしくいられるようなお手伝いをしたいです。

越野さんは自らの肩書きを「いろんな生き方クリエイター」と名乗っています。その名の通り、これまで若者向けシェアハウスから始まり、LGBTQの方、料理人、シングルマザーと、さまざまな人を応援する場をつくってきました。今後は引き続きシングルマザーの方が自立していけるような応援をしながら、自然豊かな場所に多世代向けシェアハウスをつくろうと計画中です。

越野さん 僕は、シェアハウスを出てマンションやアパートに引っ越すことが、自立だとは考えていません。自立とは、住まい方ではなく、他者とつながり合う心を持つことだと思うんですね。僕のモットーは「違いを間違いにしないでいかす」。すると、相手の才能も得手・不得手もわかり、どんどんお互いが自分らしくなっていきます。シェアハウスを通じて、そんな経験をつくり続けたいです。

人生には思いもよらぬことが起こります。そんな時、温かいご飯や安心して眠れる家、そして誰かの優しさによって、ちょっと元気が湧いてくる経験をした方も多いのではないでしょうか。

今はまだしんどいかもしれない、それでも新しい人生を歩んでいくため一歩を踏み出したい時に、日常の先に見える“日常”を応援してくれる場所があることは大きな支えになりそうです。

さまざまな生き方や異なる価値観の人と出会い、つながり、いざという時は支え合うことができるシェアハウスは、安心感を得ながらチャレンジもできる暮らしの土台になりうる可能性を秘めています。

(撮影:風間美幸)
(編集:村崎恭子)