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下北沢から全国へ「これからの街の本屋」が増殖中! B&B内沼晋太郎さんに聞く「開店から2年経ってわかったこと、変わったこと」

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あなたは「小さな街の書店」と聞いてどんなお店を思い浮かべますか? 地元の駅前に古くからある小さなお店でしょうか。それとも旅先で偶然立ち寄ったお店?

子どものころにおこづかいを握りしめて近所の本屋さんにマンガを買いに行ったっけ、なんてことを思い出す人もいるかもしれませんね。なんだか夕日が似合うような、ちょっぴりノスタルジックな気分とともに。

若者の活字離れだとか、出版業界の未来は暗いだとか言われるようになって久しく、そういった小さな街の書店は苦境に立たされていることも少なくありません。

そんな中「これからの街の本屋」をコンセプトにした「B&B」が下北沢にオープンしたのは2012年7月のこと。毎日トークイベントを開催していることに加え、ビールを飲みながら本を読めるという目新しさもあり、当時話題を集めました。

あれから2年を経て「これからの街の本屋」はどんな形になったのでしょうか。B&Bの内沼さんにお話をうかがいました。
 
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内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立。2006年末まで代表をつとめる。のちに自身のレーベルとして「numabooks」を設立し、現在に至る。異業種の書籍売り場やライブラリのプロデュース、書店・取次・出版社のコンサルティング、電子書籍関連のプロデュースをはじめ、本にまつわることを中心に、あらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う。2012年、東京・下北沢に「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。ほか、読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサー(red dot award communication design 2012 を受賞)、これからの執筆・編集・出版に携わる人のサイト「DOTPLACE」編集長、街のシェアスペース「BUKATSUDO」のクリエイティブ・ディレクションなどを勤める。著書に『本の逆襲』(朝日出版社/2013)、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版/2009)がある。

「これからの街の本屋」は掛け算でつくる

下北沢の商店街から路地に入ると、B&Bの緑色の大きな看板が目に飛び込んでます。ビルの入り口には今日のイベントの内容が掲示されていて、その下には

本屋 B&B ビールも飲める本屋です。

という貼り紙が。
 
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今回取材にうかがったのは平日の昼下がりでした。いろいろな年代のお客さんが、次から次へとやってきます。一人でふらっと入ってくる人もいれば、2人で楽しそうに話しながら本を選ぶ人もいます。

店のカウンターにはビールサーバーがあって、お客さんがビールを片手に本を吟味していたり、オリジナルブレンドのコーヒーを飲みながらくつろいでいたり、その過ごし方はさまざま。

北欧のヴィンテージ家具でまとめられた店内には、ゆったりとした時間が流れています。この店内の家具もB&Bの商品のひとつです。今回、ちょうど本棚が売れていく瞬間を見ることもできました。

オープンから2年が経ち、毎日開かれるイベントも、ビールサーバーのあるカウンターも、お店の家具が買えることも、すっかりおなじみになりました。

「本×ビール×イベント×家具」というかけ算で相乗効果を生み出し、知的好奇心の渦に人を引き寄せていく。「これからの街の本屋」の活路を、B&Bは身をもって私たちに示してくれています。
 
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カウンターの端にたたずむビールサーバー。B&Bはビールやコーヒーの味にもこだわっています。

「面白そう」の共有が「B&Bらしさ」に

当初、周囲の目には奇抜に映った「本×ビール×イベント×家具」というかけ算でしたが、この2年間でそれがB&Bの「あたりまえ」のものとして定着しました。すると、B&Bに集まる人にも変化が現れます。

B&Bにはインターン制度があり、常時20〜30名がそれぞれのペースで関わっています。学生や社会人、主婦など、多様なバックグラウンドを持った人が、都内を中心に、さまざまなエリアから集まってきているそうです。

当初は、インターンを募集すると、共同経営者の嶋さんや僕を知っていて応募してくる人がほとんどでした。でも、最近では僕らのことはまったく知らなくて、純粋にB&Bという本屋に魅力を感じて応募してきてくれる人が増えています。これはすごくいい変化だと思っています。

B&Bを立ち上げたときには、内沼さんが店頭に並ぶ書籍の9割をセレクトしました。立ち上げ後は、店長を中心にして、お店のスタッフで選んで発注しています。内沼さんの「面白そう」という感覚がB&Bの礎になったことは間違いありませんが、「今」のB&Bを形づくっているのは現場で働くスタッフです。

初めは内沼さんと店長との間で共有されていた「面白そう」の感覚が、スタッフとの間にも共有され、スタッフの間で「それ、いいね!」と思うことの精度もかなり上がってきたといいます。そうするうちに、B&Bらしさが醸成されて、次々と人を惹きつけるようになりました。
 
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B&Bのウェブサイトに名を連ねるイベントの出演者たち

個人を核にして人が集まるのではなくて、B&Bという店を核にして人が集うようになった今、店はそこで働く人のものだと内沼さんは言います。

働いている人が「ここは自分のお店だ」と思ってやっている店じゃないといけないと考えています。

スタッフが「こんなことやりたいんですけど」と提案してくれて、みんなで「それいいね! やってみよう!」って進んでいく方が、働いている自分たちも楽しいし、結果としてお客さんも楽しんでくれるんです。「働かされる」のはつまらないですからね。

以前はイベント担当のスタッフが一人ですべてのイベントを取り仕切っていたそうですが、今ではスタッフがそれぞれのイベントを手分けして担当しています。

一つのイベントに一人の担当者がついて、お互いに相談しつつイベントの企画を形にしていきます。「自分のお店」の「自分のイベント」という意識が、ここで働く人を生き生きとさせていくようです。

B&Bのスタッフは「イベントになる本」がわかる

この2年の間に、B&Bの人を引き寄せる力はどんどん増してきました。その様子を、内沼さんは「磁場」という言葉で表現します。B&Bに集まった人がさらに磁力を帯びて、次なる人を集め、次第に輪が広がっていきます。

それはイベントを毎日やっているということも関係しているようです。

内沼さんは自身の著書『本の逆襲』のなかで次のように書いています。

いつも何かが起こっている、ワクワクする場所が駅前にあって、面白い話が聞きたくなったら、いつでもそこに行けばいい。そういう『磁場』を、ぼくたちはB&Bでつくりたいと思いました。

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内沼晋太郎『本の逆襲』。グリーンズ『ソーシャルデザイン』と同じ若草色

そのためにこだわったのが毎日イベントをするということでした。通常、新刊書店では本を売るという日常の業務があって、その延長線上にイベントがあります。そのため、イベントに関する業務は非日常的な仕事だといえます。

しかし、B&Bでは毎日イベントをするということが日常業務として、もともと組み込まれているのです。

テレビをつければ、なにか面白い番組をやっている。寄席に行けば、落語が聴ける。映画館に行けば、映画が観られる。そういう風に、常に何かをやり続けることによって、B&Bも「今日は何をやっているかな」と思ってもらえる存在になりたかったんです。

B&Bに行けば、知的好奇心を刺激してくれるような何かがある。そうして時間が空いたときに、B&Bという選択肢を持つ人が増えればいいと思っていました。2年経って、実際にそうなってきたなと感じています。

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イベントの様子

毎日イベントを開催することを積み重ねて、B&Bの磁場が強くなったのはもちろんのこと、スタッフにも変化が起こりました。新刊情報が届いたときに、「イベントになる本」がわかるようになってきたというのです。

うちのスタッフは新刊情報を見て「この本はイベントになりますね」って言うんですよ。こういう新刊があるけど、うちでイベントやるべきだよね、という感覚が共有できているんです。

日々のイベントの企画・運営を通して判断を共有し、積み重ねてきたことによって身についた「イベント勘」とでもいうべきものでしょうか。まるで職人のようです。

「書店」という空間で本に関わる人のことを「本屋」と呼ぶなら、B&Bは「本屋」という職人の集団になりつつあるのかもしれません。

シンプルで自然な「本と人との偶然の出合い」の場

内沼さんはこれまでに、本自体の面白さを伝えるために、「本と人との偶然の出合い」をつくるための試みをいくつもしてきました。たとえば、「文庫本葉書」という商品があります。

古本の文庫本をクラフト紙で包み、表面には宛て名とメッセージを書く部分を、裏面にはその文庫本から引用した数行のフレーズを印刷しました。気に入った絵柄のポストカードを買うように、ピンときたフレーズの文庫本葉書を買うと、思いがけない本との偶然の出合いが生まれる、というわけです。

こういったしかけにこめられていたような「本との偶然の出合い」は大切にしつつも、内沼さんがB&Bでやりたいのは、もっと大きな実験です。

B&Bでは戦術的な仕掛けみたいなものはそんなにやっていません。なぜかというと、嶋さんや僕にしかできない店にしちゃうとだめだからです。

この店ではそもそも「新刊書店がビジネスとして成り立つ」ということを重要視しているので、派手な単発の戦術的な手法、たとえば、こんな独創的なフェアをやりましたとか、こんな奇抜な並べ方をしましたとかいったことをウリにするつもりはないんです。

できるだけオーソドックスな方法で、新刊書店としてどうやればいいのか、ということを試していきたい。

かつての駅前の小さな書店は、20〜30坪の店内に、面積が小さいなりにも、そのときに話題になっている本を置いて、とにかく売れる本を並べるというスタイルでした。

ところが、「これからの街の本屋」を標榜するB&Bでは、今、世間一般で話題になっている本をそろえているわけではありません。「この本ありますか?」とお客さんに問われたとき、B&Bでは必ずしも希望にそえるわけではないのです。

しかし、「何か面白いものありますか?」という問いには、いくらでも応える用意があります。
 
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世の中には、毎日のように書店を訪れる人もいれば、ほとんど書店に足を踏み入れることのない人もいます。活字中毒の人もいれば、活字アレルギーの人も。B&Bが目指しているのは、そのいずれにも「面白い」と思ってもらえるような店です。

本が好きな人にとって、B&Bの本棚にはセンスのよい友人の書棚をのぞくような楽しみがあります。

「あっ、この本私も好き」
「この並びにこの本が置いてあるのって意外!」 

そんなことを心の中でつぶやきながら眺めているうちに、いつの間にか買いたい本に出会ってしまいます。B&Bに集められた本が、本を好きな人を惹きつけ、またその人が自分と同じように本を好きな人を呼び寄せます。

最近、B&Bのことを気に入ってくれた若い女性が、実家のお母さんを連れてきてくれたんです。60代くらいのお母さんです。そうしたら、今度はそのお母さんが同年代のお友達を連れてきてくれた。

インターネットでの口コミもありますが、そうやって人が人を呼んできてくれるパターンも多いんです。

一方、ふだんはめったに本を読まないけれど、イベントがきっかけで来てみたら「面白そう」と感じられる本に出会ったり、「ビールが飲める本屋」という物珍しさに魅かれて来てみたら「面白そう」と思える本に出合ったり。

そういった、ごくシンプルで実に自然な偶然の出合いがB&Bにはあふれています。

B&Bで育った「本屋」たちによる「これからの街の本屋」

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リーダンディートの「民藝の教科書」展(ウェブサイトより

B&Bでインターンとして2年働いていたスタッフが、この7月に広島で「リーダンディート」というお店をオープンさせました。

彼のかけ算は「本×うつわ」。本はくらしやデザインに関する古書やリトルプレスを扱い、うつわは毎日使いたくなるような手仕事のものを中心にセレクトしているそうです。

またグリーンズと日本仕事百貨が始めたリトルトーキョーを舞台に、「小屋ブックス」という本屋を始めたスタッフも。2坪の店内に働き方に関する本がぎっしり並びます。

こうしてB&Bで本屋としての「勘」を身につけた人たちが、自分にとっての「これからの街の本屋」をつくり始めているのです。
 
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リトルトーキョーの小屋ブックス

私たちは駅前の小さな書店がいつの間にかひっそりと消えていく現実を、仕方のないものとして受け止めてはいなかったでしょうか。駅前の小さな書店に足を運ぶより、インターネットで買う方が便利で楽なんだから仕方ない? みんなが本を読まなくなっているんだからどうしようもない?

それなら、みんながわざわざお店に足を運びたくなるようなきっかけをつくればいい。お店に来てくれた人が「面白そう」と思える本と出会えるように仲をとりもってあげればいい。

もし自分がワクワクできるようなかけ算を見つけることができたら、あなたにも「これからの街の本屋」としての知的好奇心に満ちあふれた明日がやってくるかもしれません。

(Text: 松山史恵)