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プラごみ問題、いつまでも「一人ひとりにできることを」でいいのだろうか。世界の動きから、その先のヒントを探る

「使い捨てプラスチック海洋ゴミの問題について」と聞くと、何を思うでしょうか?ペットボトルは買わないとか、浜辺のゴミ拾いをしている人もいれば、分別はしているという人など、千差万別の反応かもしれません。

使い捨てプラスチックを減らさないといけないという認識は広がりを見せる一方で、それに対応する実際の動きはどうなっているのか。気になっているのは私だけでないはずです。そこで世界を見渡してみると、プラスチックフリーな経済社会にシフトしようとする動きも進んでいます。

まずは少し振り返ってみましょう。2018年、主要7ヶ国首脳会議(G7)にて「海洋プラスチック憲章」が採択されました。ここで日本とアメリカを除く5カ国が署名したことにより、2030年までに全てのプラスチック製品がリユース、リサイクル、または回収可能となることを目指して、各政府と産業界の連携が始まりました。具体的には、環境配慮された代替素材の開発や、レジ袋をはじめとする使い捨てプラスチック製品の使用制限などです。

2019年5月、G20大阪サミットに先立って、日本政府は「プラスチック資源循環戦略」、「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定しました。これをきっかけに日本でも「プラスチックフリー」という概念が広がり始めます。カフェや飲食店のストローが紙製になったり、使い捨てカトラリー類が代替素材になったりという実例も増えていきました。2020年7月からはレジ袋が有料化、2022年4月からは新しい法律「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」、通称「プラ新法」が施行されます。このことは以前、こちらの記事でもご紹介しました。

2030年まであと6年足らず。本当に目標達成できるのか

こうして2024年の今、エコバッグやマイボトルの使用も一般的に。でもこのままで本当に、2030年までの目標を達成できるのでしょうか。もっと言えば、「プラスチック汚染」とも言われることがある、使い捨てプラスチックの環境負荷は、本当に解決できるのでしょうか。

すでに多くの人が個々人にできることを実践しているからこそ、本当に問題解決に向かっているのかどうか、疑問が拭えずにいます。

そこで、市販品の容器包装や使い捨てプラスチックの対策に努めるイニシアティブ(※目標に向けて実行される計画)について、最新の傾向を聞いてきました。

(写真:WWFウェブサイトより引用)

 

循環型の経済社会への第一歩は、可能な限り減らすことから

足を運んだ先は、環境保全団体WWFジャパンの呼びかけによって始まった枠組み「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」のセミナーです。プラスチック問題を解決するためには、立場の垣根を超えた協力体制が大前提。この枠組みでは、NGO、消費者、企業、官庁など、さまざまな立場からの意見を同じテーブルに乗せることで、プラスチック問題を私たちみんなに共通した問題として解決していくことをめざしています。

将来的にプラスチック製品が循環型(サーキュラー)となるために、まず優先的に取り組むべき課題は、容器包装と、使い捨てプラスチック製品でした。

WWFジャパン プラスチック政策マネージャー・三沢行弘さん 現在、海洋流出しているプラスチックごみの7割が、何かしらの容器や包装、もしくは使い捨てプラスチックです。それならば、まずフォーカスすべきは容器包装・使い捨てプラスチックの解決であると考えています。

この「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」に参画する企業は、下記の取り組みをコミットメント(社会への公約)することになっています。

2025年までに、容器包装/使い捨てプラスチックにつき
1. 問題のあるもの、および、必ずしも必要のないものの使用を取り止める。
 さらに環境負荷低減に向けて削減目標を設定した上で取り組む。
 代替素材への切り替えの際は、その持続可能性を十分考慮する。
2. 可能な限り、リユース(他の素材のリユースを含む)へと切り替える
3. 可能な限り、リユース、リサイクル可能なデザインとする
4. リサイクル素材の意欲的な使用目標を設定する
5. リユース、リサイクル率を向上させるためにステークホルダーと協力する

現在、参画している企業は、飲料メーカー、食品メーカー、生活消費財メーカー、フードデリバリーサービス、航空会社など、いずれもグローバル規模の大手12社。この日のセミナーにはそのうちの3社の他に、自然循環システムの研究を専門とする国立環境研究所田崎智宏さん環境省の容器包装・プラスチック資源循環室長井上雄祐さんなどが参加していました。

国際的には現在「国際プラスチック条約」の策定も進行中。欧州では企業のグリーンウォッシュを法的に取り締まる動きもあるなど、世界各国で対策が急がれている。この日はイギリスの環境NGOであるCDPや、国際NGOのWRAPとの連携も。写真はオンライン参加したWRAPのPeter Skelton氏

有無を言わせぬ深刻さ。企業が求めるものは私たちにあった

この日いろいろな事例を聞きながら思ったことは、海洋汚染への取り組みも変化してきた、という実感でした。実態が深刻だからこそ、産・官・学・民の連携は大前提。なぜならプラスチックゴミによる海洋汚染の問題は、地球上で生活し、活動する人間として、誰もが共に考える必要があるからです。

一筋縄に解決できることではありませんが、それ故に、メーカー企業を単純に”悪者”に仕立てるだけのフェーズは完全に終わったことを実感しました。企業はプラスチック製品やCO2をたくさん排出しているというよりも、「せざるを得なかった」。なぜなら消費者が求めるものに応えるために。この認識を持つことから、プラスチック問題の自分ごと化が始まると思います。

(写真左から)ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社の代表職務執行者・松井さやかさん日本航空株式会社のESG推進部 部長・小川宣子さんキリンホールディングス株式会社 CSV戦略部・池庭愛さんが登壇

生活消費財における世界一のメーカー・ユニリーバでは、商品パッケージを再生可能素材に切り替えることや、生産以上の量を回収することなど、2030年もしくは2035年までの目標を掲げている。より加速度的に目標を達成するためにもステークホルダーとの連携が欠かせず、2020年からは消費者がマイレージ(ポイント)を貯められるUMILE(ユーマイル)プログラムも実践している。


JALこと日本航空では、安心安全と並んで環境課題を優先目標に掲げ、客室やラウンジの使い捨てプラスチックは2025年までに全廃を目指し、空港使用でも代替素材への切り替えが進行中。特にリデュース(削減)を最優先にサービスの見直しを行い、客室だけでもプラスチック削減率は57.6%まで伸ばしている(2023年時点)。


ペットボトルの資源循環に取り組むキリングループでは、日本国内におけるリサイクル樹脂の割合を2027年までに50%、2050年には100%を目指す。ペットボトルからペットボトルにリサイクルする「水平リサイクル(ボトル トゥ ボトル)」では石油由来の樹脂使用を9割減らせるため、業界全体の目標と各社の目標を定めている。

各社の「意欲的な目標」や進捗をうかがいながら、共通の見解に大きな意味があると思いました。それはどの企業も、購入者や利用者など「個人顧客層との協力関係なしには目標達成できない」と、明言していることです。

より安価で、より手軽に、と要求する消費者の思いに企業が応えた結果、現在の大量生産・大量廃棄に行き着いたのであれば、その逆もまた、企業と消費者でつくり出せるはず。想像以上に企業は、私たちの声を聞きたいと思っているのでした。

かたよりに注意。生活者こそ情報をしっかり求めよう

プラスチックが引き起こす問題は、気候変動、生態系破壊、大気汚染など、「グローバルで複合的である」と、危機感を示したのは、国立環境研究所の田崎 智宏さんです。これからは、持続的な経済の仕組みに落とし込んだ循環型へのシフトが欠かせない。そのためにも企業の情報開示が重要である、と企業が取り組む重要性を解説。そして、多くの消費者との間に「認識のギャップ」が起きていることを懸念していました。

さかのぼること2015年。あなたは覚えていますか、ウミガメの鼻にプラスチックストローが刺さった写真に、世界中が衝撃を受けたことを。

あのショックをきっかけにプラスチック汚染を自分ごとにした人も多くいた一方で、本来ならば複合的な問題であるはずなのに、プラスチック問題=海洋汚染という取り上げ方が急増したのも事実です。

田崎さん 例えば、プラスチック問題とレジ袋有料化のつながりがピンとこない人も少なくありません。マスメディアや研究者など、比較的公に発信する立場の人は、消費者の認識を丁寧に紐解く必要があると思います。

研究者や専門家から発信される情報を、一般市民も、より正しく包括的に理解すること。多面的で複合的な問題を持ち合わせたプラスチック問題だからこそ、あらゆる立場の人が、本来の意味で等しく、同じ認識に立つことを念頭に置かねばなりません。

皆さんのお話を聞いたこの日の帰り道、「これほどまでの説得力をもって産官学民の連携が必要になっている課題って他にあるのだろうか」と考えました。それだけプラスチック製品を取り巻く環境問題が、どんな人に対しても危機であること。つまり、人類の危機というレベルにあるといえます。

greenz.jpでは10年前の2014年、田崎さんが所属する国立環境研究所と一緒に、2030年を念頭に置いた連載を展開していました(田崎さんたちに伺った記事はこちら)。改めて今読むと、研究者の皆さんはすでに問題意識をもって取り組んでいたものの、当時の社会は今ほどの危機を感じてない模様。直近の数年で状態が加速度的に悪化したことを実感しました。

ならば、私たちの行動力にも加速あるのみ。一方的に欲しい声だけをぶつけるだけではなく、企業に聞きたいことを尋ねて、情報を受けること。専門家のデータと合わせて咀嚼し、環境対策を最優先にした決断を、毎日毎日、積み上げていきましょう。面倒くさいと思った時は、すでに個人のわがままが通る問題ではなく、人類の危機にあることなんだと思い出しながら。

(写真提供:WWFジャパン)
(編集:丸原孝紀)