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“リスクに備えること”こそソーシャルデザインの第一歩! 国立環境研究所「2030年の未来シナリオ」研究チームと語る「持続可能な社会の描き方」

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こんにちは、グリーンズ編集長のYOSHです。

みなさんは2030年、何歳になっていますか? 僕はいま34歳なので、ちょうど50歳。どんな仕事をしているのか想像もできないけれど、いま1歳の娘が高校生になっているとすれば、地続きに感じられて、「ちょっとお父さんがんばってみようかな」と気が引き締まる思いです。

今から15年前の2000年前後は、ブロードバンドやケータイ電話が普及しはじめたころ。僕たちの日常を変えたTwitterやFacebookの登場はまだ数年後ということを考えると、2030年にはすっかり様変わりした景色が広がっていることは容易に想像できます。

また、数十年という大きなスパンでみると、気候変動や格差社会といった大きな変化も、もっとリアルなものになっているはず。今は「まだ大丈夫でしょ」と見過ごしがちな小さな変化も、時間が経つと顕在化してくる。

だからこそ大切なのは、起こりうるリスクに備え、それに対応する力を、個人として、そして社会として、身につけていくことではないでしょうか。
 
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左からYOSH、研究チームの金森さん、青柳さん、田崎さん、吉田さん

そんなことを改めて意識させてくれたのが、今回ご登場いただく「国立環境研究所」のみなさんです。公的機関の研究者として、2030年までに持続可能なライフスタイルに転換するためのシナリオづくりを行っています。

ちょっと先の未来のことや、地球規模の大きなテーマに “自分ごと”として向き合うためにどうすればいいのでしょうか。国立環境研究所社会環境システム研究センターの青柳みどりさん、資源循環・廃棄物研究センターの田崎智宏さんと一緒に考えてみました。

ソーシャルデザインをさらに進めていくために

YOSH 今日はありがとうございます!今回の「2030年の未来シナリオ」づくりに、僭越ながら有識者のひとりとして参加させていただきましたが、改めて思ったのは「リスクに備えることって、こんなにクリエイティブなんだ!」ということなんです。

青柳さん そうでしたか。それは嬉しいですね。

YOSH リスクに備えることって、実際やってみると、数十年後のようなかなり先の未来を“自分ごと”にしていくことなんですよね。僕も娘が生まれてから未来について意識するようになりましたし、ひとつひとつの決断もかなり現実的になりました。
 
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青柳さん 想定をしておけば、地に足の着いた判断ができるようになりますよね。

YOSH まさに。ふつうリスクというとネガティブな印象があるし、それに囚われていては身動きがとれなくなると思っていて。グリーンズとしても世界をにぎわすニュースも大事だけれど、まずは「身の回りのことからはじめてようよ」というメッセージを大切にしてきました。

でも、それは決して「気候変動や戦争といった、地球規模のテーマは考えなくてもいいよ」ということではなくて。まずは自分の足場を固める方が先で、その後にしっかりと大きなテーマとも向き合っていく。その転換期を模索してきたように思います。

最近はグリーンズの周りでも、自分でプロジェクトを始めたり、会社内で新しいプロジェクトを起こしたりしながら、社会と積極的に関わる人が本当に増えています。だからこそいよいよ、次のステップに進むべき時期に来たのかなと。“自分ごと”と“地球ごと”をつなぐというか。

青柳さん なるほど、それは楽しみですね。国立環境研究所は公的な研究機関なので、政策提言を通じた社会のルールづくりや、それこそ20〜30年後に向けたインフラづくりなど、長期的な視野で仕事をしています。

そういう意味では、グリーンズさんで紹介されているような、新しい世代の方々とご一緒できることはとても楽しみですね。

YOSH そうですね。政策を決めるような会議に取材先をご紹介したり、グリーンズとしても大きなソーシャルデザインを描くためのつなぎ役になれたらと思っているので、こちらこそこの機会に感謝しています。

「2030年の未来シナリオ」って?

YOSH と、前置きはここまでとして、まずは「2030年の未来シナリオ」について、簡単にご紹介いただけますか?

青柳さん はい。今回の私たちの目的は、持続可能なライフスタイルに転換していくための具体的な提言をすることです。

そのためにワークライフバランスや非正規雇用の増加など、今までの環境分野から少し離れているけれど、「持続可能な社会」という観点からは必要不可欠な社会的な視点も加えて、さまざまなリスクや可能性を分析していきます。

そのためには柔軟な発想が大切ですので、確実な未来予測ではなく、まずは不確かな事柄も考察に含められるように、シナリオを描くことにしました。
 
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シナリオを描くに当たっては、兼松さんをはじめ、コミュニティデザイナーの山崎亮さん、ITジャーナリストの津田大介さん、ワークライフバランスを専門とされている松原光代さんなど、多くの有識者の方にもご協力いただきました。

それから、シナリオを描く前段階の作業で、現在までの社会潮流や変化の兆しを考察しているのですが、これらも作成されたシナリオと同様に重要だったと考えています。

YOSH 最終的に出てきたシナリオが「(1)健康優先社会へ」「(2)もう一度輝けるアンチエイジングタウン」「(3)つながる地域は一つじゃない〜したいことリストでつながるコミュニティとライフキュレーション〜」「(4)Visor-comで拡がるコミュニケーション」の4つですね。

アウトプットは小説仕立てになっていてイメージしやすく、ポジティブ一辺倒でもなく、どれもありそうな未来像だと感じました。
 

(1)健康優先社会へ
健康が医療・介護・地域コミュニティ・企業・消費の評価軸になり、そのために「健康ID」が多用される社会である。社会保障費削減と効率的な働き方を両立させ、経済に代わる新たな指標として健康が登場する内容で、健康と経済を両立させるモデルを示唆している。

(2)もう一度輝けるアンチエイジングタウン
ストレスや不安を抱える都会人が地方の「アンチエイジングタウン」で生きる喜びや働く意義を見出していく。介護の担い手が家族から社会へシフトしたり、二拠点生活が広まったり、環境調和型の地域産業が根付いたりと、産業転換を伴う新たな公共投資の姿を提示した内容である。

(3)つながる地域は一つじゃない〜したいことリストでつながるコミュニティとライフキュレーション〜
通常の情報ではなく“あなたの為の”情報のキュレーションが付加価値を生みだし、さらに個人が近未来にしたいことの情報が交換されるようになると、それらの情報をもとに生活や街のあり方、関係性が変化し、コミュニティデザインに影響を及ぼしていく内容である。複数地域住民(票)の誕生や、住民と地域外のサポーターとが協働して地域の自治を行う姿が提示されており、地方自治や税制改革による地方再生の方向性の一つを示唆している。また、個人の多面的能力がより活かされる方向性も提示されている。

(4)Visor-comで拡がるコミュニケーション
ICT関連の技術革新により人々のコミュニケーションのあり方が大きく変わった社会が描かれている。様々な人々の間での相互理解の必要性が高まった社会において、メガネ型の拡張コミュニケーションツールVisor-comをプライベートや職場等で使いこなす人々が現れ、距離と文化を超えたコミュニケーションや映像データが言語と同じレベルで対話に用いられる状況が描かれている。よくできた通訳、秘書、先生、コンシェルジェなどがまとめて傍にいるような情報が利用可能となることで、人間の能力が拡張される方向性を示している。

青柳さん ワークショップではアイデアの断片が出てきた段階だったので、その後のシナリオは時間をかけて仕上げていきました。

そのときに大切にしたのは、「未来がこうなります!」という予言をすることではなく、2030年頃の新しい状況をイメージできたり、共有できるものになっていたりしているかどうかだったんです。

YOSH 当たるかどうかはあまり重要でないと。

青柳さん 予言することは重要ではありません。4つのシナリオに至るまでに、想定内のものから想定外のものまで、さまざまな知見を取り入れています。その結果、最終的に仕上げたシナリオに触れるだけで、新しい変化が生まれる駆動力やそれを妨げる要因に気づくことができると思います。

YOSH 最終的にはどんな結論になったんですか?

青柳さん 現時点では、「本人の価値観」と「リスク意識/リスク対処」が、持続可能なライフスタイルに転換する上で重要なキーとなる、ということですね。

価値観や願望にあった生活が実現できるかどうか、想定外のリスクに対応できるかどうか。その組み合わせによって、さまざまな未来が起こりえます。

YOSH 僕もワークショップに参加して「健康優先社会へ」のシナリオを一緒に考えたのですが、今までまったく考えていなかったことでも、シナリオを描いていく過程で「確かにありえるな」と少しずつ実感できるようになりました。

まさに思考実験のような感覚ですが、それを想定できたことで、グリーンズでもメンバーの健康を優先する仕組みを導入しようか検討するなど、自分の仕事にも生かされています。

青柳さん まさにそういう感じで取り入れていただけると理想ですね。
 
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YOSH 特に今回の研究は数年がかりということで、未来のライフスタイル像だったり、それをもとにした仮説だったり、事前のリサーチが綿密に行われているのも特徴ですよね。

もしかしたら、それらを題材に対話の場を持ってみると、参加者の興味やバックグラウンドによって、無限のバリエーションのシナリオが生まれるかもしれません。

青柳さん そうですね。未来のリスクを考える材料として、私たちの研究を活用していただけると嬉しいなと思います。

どうして国立環境研究所が働き方の研究を?

YOSH そもそもなんですが、どうして環境分野をリードする国立環境研究所が、“働き方”や“コミュニティデザイン”といったテーマに取り組むことになったのでしょうか?

青柳さん それには国立環境研究所が歩んできた歴史が関係しています。1960年代の高度成長期は悲しいことに公害も同時に生み出しましたが、それが私たちの始まりなんです。

その頃は、水や大気への公害対策についての研究が中心でしたが、公害問題が一段落したと思われたところで、80年台後半から気候変動など地球環境問題が新たな問題としてクローズアップされてきました。そこで90年に、今の国立環境研究所に改称したんです。

それ以降は国連などの様々な国際機関などとも連携しながら、気候変動や生物多様性、資源循環などの研究に取り組んでいます。

YOSH なるほど。公害から環境にテーマが広がったんですね。
 
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田崎さん 「出てしまった環境汚染物質をどうしよう」というフェーズから、「出る前になんとかしよう」というフェーズに移行してきた、ということです。我々の社会を見つめなおす必要があり、そのためにはやはりライフスタイルの転換が欠かせません。

そこでリサイクルを呼びかけるといったさまざまな取組や政策に、研究者として関わってきました。「エコ」という言葉が広まったのは大きな進展だったと思います。

YOSH 確かに「エコ」という言葉が、ここまで根付いたのはすごいことですよね。

田崎さん ただ、一定の成果はあったと思う一方で、行き詰まりを感じているのも正直なところなのです。「エコ」という言葉は広まったけれど、まだ取組としては不十分。では、次に何をしていくべきか。

青柳さん 例えば気候変動は、国際的にも緊急性という意味でもトップアジェンダだと思いますが、ライフスタイルのレベルではあまり話題になりません。残念ながらまだまだメインストリームではないんです。

また、雇用の流動化や格差の広がりなどさまざまな要因を背景に、政策を立案するためのデータ集めも複雑になってきています。

これはもしかしたら環境分野と生活者との距離が広がってきていることを意味しているのかもしれない。だからこそ「環境をいったん離れて考えてみること」を提案しているのです。
 
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YOSH それは強烈なメッセージですね。

青柳さん かつては統計データから標準世帯を想定し、そこからモデル化することで、ある程度の予測は可能でした。しかし社会が多様化した今、場合によっては平均化すればするほど実情から離れたものになるケースもあります。

だからこそ生活者目線で社会を見直すことが重要で、「未来をつくりたい」と思っている読者が集まるグリーンズさんにご協力いただけることは、とても意義のあることだと思っているんです。

田崎さん 今回の研究は、環境研究としてはかなりユニークなものだと思います。とはいえ環境からいったん離れたとしても、それはもう一度、環境に着地するため。この研究を通じて、マクロで追い切れないものをミクロで眺めてみて、もう一度、時代に適応したマクロな姿を模索していきたいですね。

青柳さん 2011年に始まったこの研究は2015年に一区切りを迎えます。その成果をぜひみなさんと共有したいですし、特に自治体の計画書づくりなどにも役立ててもらえるようなものになると思うので、ご期待いただきたいです。

(対談ここまで)

 
「2030年の未来シナリオ」をめぐる国立環境研究所さんとの対談、いかがでしたでしょうか? 

今回の未来シナリオのように、社会でリスクを共有し、それに向けて前向きに対話できる雰囲気をつくることができたら、ちょっと遠い未来のことも自然と“自分ごと”になっていくのかもしれません。

今後、グリーンズでは、「2030年の未来シナリオ」の成果をまとめた冊子を制作しながら、ワークショップに参加した有識者の方々へのインタビューを連載としてお届けする予定です。

さまざまな現場に携わるからこそ見えているリスク、そしてそれを乗り越えていくグッドアイデアをご紹介していきますので、どうぞお楽しみに!

(撮影:山本恵太)