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日本らしいサーキュラーエコノミーってなんだろう?京都の老舗企業のロス食材でつくる「八方良菓の京シュトレン」安居昭博さんに学ぶ、“地域の課題×地域の特徴”という実践

クリスマスが間近に迫った昨年の冬。友人宅でいただいたシュトレンに、私は心を鷲掴みにされました。

「あれ…? 洋菓子なのに食べた瞬間から口いっぱいに和のテイストが広がる! なんだこれは?!」

驚く私の顔を見ながら「このシュトレン、京都のロスフードを使ってつくられているんだよ」と言う友人の言葉を聞き、さらなる衝撃を受けたことを覚えています。

私がそのときいただいたのは「八方良菓の京シュトレン」。原材料の約30%に梅酒の梅の実や、生八ツ橋、酒かす、おから、レモンの皮など、京都のまちから出るロスフードを使用しています。製造は地域の福祉作業所に委託し、ハンディキャップを抱えた人たちの雇用にもつなげているそう。

このシュトレンを開発したのは、サーキュラーエコノミー研究家であり、『サーキュラーエコノミー実践 -オランダに探るビジネスモデル-』の著者としても知られる、安居昭博(やすい・あきひろ)さん。

公民連携でサーキュラーエコノミーの取り組みを実践するオランダとドイツに長らく拠点を置いていた安居さんは、欧州のさまざまな取り組みをヒントに、2022年、京都のまちで「八方良菓」を立ち上げました。

今回は「八方良菓の京シュトレン(以下、京シュトレン)」がどのような経緯で誕生したのか、そして地方でサーキュラーエコノミーを実践することで見えてきた日本ならではの可能性について、安居さんにたっぷりとお話を伺いました。

安居昭博(やすい・あきひろ)
サーキュラーエコノミー研究家。京都市委嘱「成長戦略推進アドバイザー」。オランダを拠点に企業向けにサーキュラーエコノミーの視察イベントやセミナーを開催した後、2021年より京都市在住。2022年、梅酒の梅の実、生八ッ橋、酒かす、おから、レモンの皮など、京都の副産物・規格外品を活用し、福祉作業所と製造連携し「京シュトレン」を開発するお菓子屋「八方良菓」を創業。著書に『サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル』(学芸出版社)。

京都のロス食材でつくられた「八方良菓」の京シュトレン

八方良菓の京シュトレン。白い粉は粉末化された生八ツ橋だそう

みなさんは、「シュトレン」と聞くとどんな材料や味を思い浮かべるでしょうか。ドイツの伝統的なパン菓子として知られるシュトレンには、通常、たっぷりのバターが入った生地にドライフルーツやナッツが練りこまれています。

しかし、「京シュトレン」に使用されている材料は、一般的なシュトレンとはちょっと違います。ラムレーズンの代わりに、梅酒の出荷前に取り除かれてしまう日本酒に漬け込まれた梅の実を、ドライフルーツの代わりに甘納豆やレモンの皮を、生地には豆腐の製造過程で出るおからや、日本酒造りの過程で出る酒粕を使用しています。また、仕上げの粉砂糖の役割を果たすのは、製造過程で切り落とされてしまう生八ツ橋です。

おから

生八ツ橋

酒粕

梅の実

「京シュトレン」に使用している材料の約30%が京都のまちから出る、これらのロス食材でつくられ、ひとつ食べると約100gのロス食材をレスキューすることにつながるといいます。

安居さんは、欧州で見たサーキュラーエコノミーの考えを応用し、味の追求を軸に、販売者、購入者、生産者、製造者、社会、地球環境、未来の八方がより良くなるような仕組みづくりを広めようと、八方良菓をはじめたそう。

その活動の原点はどこにあったのでしょうか。

「社会課題をビジネスで改善したい」
ネガティブな原体験から芽生えた想い

安居さんの現在の活動の原点は、大学時代、ホテルの朝食ビュッフェでアルバイトをしていた際の、ネガティブな原体験にあるといいます。

安居さん 朝10時のビュッフェの時間が終わったら、残っているすべての料理を下げて、破棄するのが私の仕事だったんです。シェフの方がついさっきまで切っていた野菜や焼きたてのパン、まだ皮に包まれたバナナ、封が開けられていない納豆などもすべて捨てなければなりませんでした。朝の数時間だけで75リットルのポリ袋が10袋くらいになるんです。19歳の大学生ながら「どうして捨てなければならないんだろう?」という疑問が大きくなっていきました。

フードロスという問題を目の当たりにし、どうにか改善することができないかとさまざまな本や活動を調べるようになった安居さん。そのなかで出会った、NPO法人が実施するフードバンクの活動にも積極的に参加するようになりました。しかしそこで、社会や環境に良い取り組みをすることと、その活動を継続させていくためのお金の循環が比例しないというジレンマを突きつけられます。

安居さん 活動の資金である補助金がなくなってしまうと活動が打ち切られてしまうケースを多く目にしてきました。また、賃金の出ないボランティアは人が集まりにくく、ひとりが抱える仕事量がどうしても多くなってしまう。せっかくいい活動をしているのにもったいないと思いました。たくさん儲けられるわけではなくても、ビジネスの手法を用いて営利的な活動と社会へのアクションを結び付けられないかということを、その頃から考え始めました。

欧州で出会った“予防医療”としてのサーキュラーエコノミー

その後、ビジネスと社会活動を結びつける方法を学ぶためドイツへ留学していた際に、転機が訪れました。資源が大量廃棄されることが前提である従来の経済の仕組み(リニアエコノミー)から脱却し、はじめから破棄を出さない仕組みを整えることにより、経済と環境の両面にメリットを持たせる新しい経済モデル「サーキュラーエコノミー」と出会い、「私がやりたいのはこれだ!」と感じたという安居さん。

医療に置き換えると、大量廃棄を生むやり方でつくられた仕組みや製品に対して後から改善策として取り組まれてきたリサイクルやアップサイクルは対症療法であるのに対し、サーキュラーエコノミーは“予防医療”のような存在だといいます。

安居さん 大量生産・大量消費型でつくられ、世に送り出されてしまったものに対し、後から対症療法的に延命措置が図られてきたのがこれまでのリサイクルやアップサイクルです。一方でサーキュラーエコノミーは、はじめのビジネスモデルや政策、もしくはものの設計やデザインがかたちづくられる段階から、どのようにしたら廃棄が出ない仕組みづくりが実践できるかを考える手法です。あらかじめそういったアプローチがなされるところが面白い点ですね。

また、サーキュラーエコノミーは、企業のCSRなどのように事業の成長と切り離した活動ではなく、事業として利益を生み出しながら、社会にとっても利益を創出する手法として捉えられていることが大きなポイント。

近年、日本国内ではSDGsという言葉が飛び交うようになりましたが、欧州では企業や行政がSDGsを達成するための具体的な手段としてサーキュラーエコノミーに大きな注目が集まっています。実際、サーキュラーエコノミーを参考にビジネスモデルを構築した企業が、環境負荷を下げながらも大きな利益をあげている事例も数多くあります。

スマートフォンを製造販売するオランダの企業が開発した「フェアフォン」。販売するだけではなく、キャッシュバック制度を設けることで使われなくなったデバイスを回収し、部品を再利用したり、購入したユーザーが自分で部品交換できる仕様になっているそう。その他欧州企業が取り組むサーキュラーエコノミーを参考にした具体的な例はこちらの記事で安居さんが紹介しています

京都のまちに自然と根付いていた循環に可能性を感じた

安居さんは、ドイツ・オランダを中心に、約5年間欧州のサーキュラーエコノミーを研究するなかで、「課題先進国」とも呼ばれる日本に可能性も感じはじめたといいます。

安居さん サーキュラーエコノミーの視点で見ると、日本には欧州とは異なる価値観があり、独特の可能性を感じてきました。欧州のいい取り組みをそのまま日本に持ってくるのではなく、日本の特徴と課題にあったやり方で、サーキュラーエコノミーを実践していく必要があると思いました。

2021年、日本でサーキュラーエコノミーを推進するため、国内の移住先を考えていたとき、京都のまちとサーキュラーエコノミーの相性が良いのでは? と思った安居さん。というのも、本を出版した安居さんに京都の老舗企業や行政、個人からたくさんの問合せがあったというのです。

安居さん 特に世代交代をされた老舗企業の若い経営者の方が私の本を読み、サーキュラーエコノミーに興味を持ってくださいました。伏見の酒蔵の山本本家さんから「梅酒を出荷する時に梅の実が取り除かれてしまっているんですが、これってサーキュラーエコノミーの観点で何かご一緒できませんか?」とお誘いいただいたり、聖護院八ッ橋総本店さんから「生八ツ橋をつくる時に耳の部分が切り落とされてしまっているのをなんとか活用できないですか?」とお声をいただいたりしました。

他にも建築やファッションなどさまざまな分野の方から問合せをいただき、京都でのサーキュラーエコノミーへの関心の高さを感じると同時に、自分のやりがいも見出しました。欧州でも「京都議定書」が広く知られていて、知名度も人気も高い地域。日本の伝統や文化とも深く紐づいており、なおかつインバウンドで訪日客もたくさん訪れているので、京都でサーキュラーエコノミーを実践していくのは、自然と欧州にはない日本ならではの仕組みや価値観を海外に発信できる可能性があると思いました。

安居さんの著書『サーキュラーエコノミー実践』(学芸出版社)

さらに、安居さん曰く、京都にはもともとサーキュラーエコノミーの考え方に近い取り組みを、まち全体で大事にしている空気感があったそうです。

安居さん いまの京都では老舗や地元企業、行政、学生や私のような個人まで、良いと思う取り組みがあれば、みんなで協力していこうとする風潮があると感じています。「競争」に代わり、地域で「共創」していくというのも、サーキュラーエコノミーでは大切な概念なんです。

例えば、京都に「SPINNS」という古着屋さんを持つ株式会社ヒューマンフォーラムと京都信用金庫が提携し、銀行の全店舗に古着の回収ボックスが設置されている「RELEASE⇔CATCH」という取り組み。集められた古着は学生が仕分けし、国内でのリユース・リサイクルにつなげているほか、2022年より梅小路公園で開催されている循環フェス」に「¥0Market」として並べられ、参加者が当日持ってきた古着と同じ数だけ、そこにある古着を持って帰ることができる仕組みを構築しています。


循環フェスは20代を中心に一日に1万人以上が集まる人気イベント。2022年は2回開催され、合計約2,000kg(約8,000着)の古着を回収。約890kg(約3,560着)の古着が持ち帰られ、約93.4tのCO2が削減されたそうです。<参照>京都市ホームページ<画像提供>「循環フェス」公式インスタグラム

また食の面では、40以上の事業者が参加し、ロスフードの情報共有を行う有志のグループ団体エシカル・フードロス・アライアンスを発足したり、「京都音楽博覧会」では生ごみのコンポスト化が行われたり、分野横断的にサーキュラーエコノミーの取り組みが展開されています。

安居さんはこれらの取り組みに関わるなかで、老舗や大企業だけでなく、移住者や学生のような個人の新しい活動を支え合う空気感を感じたことから、京都への移住を決意したといいます。

“人も人材”。ハンディキャップを持つ人たちの活躍とシュトレンの相性

移住を決めた当時、まちのロス食材の情報がたくさん集まってくるなか、お土産の製造を担う福祉作業所の仕事がコロナ禍の影響で減ってしまっているという情報も耳にした安居さん。

安居さん サーキュラーエコノミーは、ものにフォーカスが当たってしまいがちですが、欧州で見てきたのは、ものだけではなく、人も“人材”という観点で捉えること。社会で活躍したいのにその機会と出会えない状況は、社会全体としてすごくもったいない。欧州では例えばホームレスの方や障がいを持たれている方の働き方もサーキュラーエコノミーの一環として考えられています。私もフードロスという観点だけではなく、障がいを持つ方々の雇用についても、サーキュラーエコノミーからヒントを得て、地域でいい仕組みづくりをしていきたいと考えていました。

安居さんは障がいを持つ人たちが働く就労継続支援B型作業所の職員にヒアリングをするなかで、毎日の作業人数や作業時間が不安定になることなど、イレギュラーなことが起こりやすいため、納期には余裕を持たせたほうが良いということを知ります。

実は八方良菓の商品を“シュトレン”に定めた背景には、この事情がありました。シュトレンは常温で日持ちするため、たとえ遅れが発生したとしても時間に余裕を持って作業することができます。また、材料を混ぜて発酵させ、焼き上げるというシンプルな工程のため、レシピさえしっかりしていれば一緒につくりやすいと思ったそう。

取材では、京都の就労継続支援B型施設「一般社団法人FUKURO ル・クロ ラボ 京都」へも伺いました。キャスト(利用者)のみなさんはスタッフのアドバイスを受けながらシュトレンを丁寧に梱包していました。

とはいえシュトレンの製造は初めてだったため、密なやり取りを重ね、できるだけ一人ひとりが作業しやすく、好きなことや得意なことをいかせるよう、細かな工夫をちりばめているといいます。

安居さん 例えばレシピやパッケージの包み方は、文面だけではなく動画や写真でも伝えたり。パッケージデザイナーさんと福祉作業所さんと去年のフィードバックを行い、利用者さんにとって紙折りがしやすいデザインに変更したり。シュトレンを袋詰めする際に利用者さんがやりやすいようお手製の補助具をつくるなど、福祉作業所のスタッフの方々が独自に考案された工夫もたくさんあります。一見些細なことでも共有し合うことで、その時は手間がかかっても、長期的にはみんなが気持ち良く作業し、ミスも減らせる仕組みづくりができると思っています。

視覚的に分かりやすいよう、安居さん手づくりのレシピは写真付き。写真は生八ッ橋の粉末をどのくらい振りかけるかを表したもの。どの作業所でも焼き上がりが近くなるよう、今年はサンプルを何度もつくり、調整を重ねてきたそう

今年からは製造を委託する福祉作業所を京都府内3か所に加え、滋賀、大阪、兵庫にも拡大。全6か所の作業所と連携することでクリスマスシーズンに計1,000本のシュトレンを製造・販売することを目標にしています。

連携する作業所が増えてくるなかで、安居さんは、工賃を一律に決めて依頼するのではなく、それぞれの作業所に適正な工賃を提示してもらうという工夫をしています。その背景には、「就労継続支援B型の作業所で働く方々の賃金向上につなげられたら…」という思いがありました。

就労支援B型作業所では、利用者が作業所と雇用契約を結ばずに、障がいや体調に合わせて自分のペースで利用できる反面、労働基準法や最低賃金法といった法令が適用されません。2021年の全国の平均工賃は月16,507円、時給換算すると233円(厚生労働省調査より)。しかし、作業所で働くみなさんが担う作業は、お店で売られる商品の包装や工業製品の部品組み立てなど、私たちの生活を支えるものばかり。昨今、工賃の向上が大きな課題となっています。

そんな事情を知った安居さんは、作業所の設備や特徴によって求められる工賃が異なるのは当然と考え、八方良菓の仕組みを工夫することで対応しようと、チャレンジしているところだといいます。

安居さん 例えば作業所の規模やスピード感、オーブンの大きさによって一日に製造できるシュトレンの量が60本のところもあれば、6本しか焼けないところもあります。少なければ、その分高い工賃を提示いただく傾向があります。工賃が高い福祉作業所には、利益率の高いオンラインショップや包装やカットのいらない量り売り店向けの商品を担ってもらうなど、八方良菓の販路の築き方やブランディングを工夫して対応できないかと試しています。

SDGsの「誰一人取り残さない社会」をもう一度考えたとき、あえて「均一」に縛られすぎないことで実現出来ることもあるのではないか、と思い日々工夫を重ねています。

この日も、「安居さん、スライス用のシュトレン、1cmではみなさん切りづらいようで、1.5cmに変更できませんか?」「そうですよね。難しいお願いを聞いてくださり、いつもありがとうございます。検討しますね。一本からの取れ数が変わってしまうので、1.2cmではどうでしょう?」といった、優しく細かなやり取りが交わされていました

「もちろん大変なこともたくさんあります」と笑う安居さん。「前例がないからできない」ではなく、「やりながら学んでいく(learning by doing)」という姿勢がサーキュラーエコノミーには欠かせない要素のようです。

「美味しい!」「パッケージが可愛い!」という入り口が
その背景を知ってもらう道筋になる

昨年はホール換算で250本のシュトレンが完売し、約1,000人の一般消費者に「京シュトレン」を味わってもらうことができました。

安居さん 食の力はすごいなと思います。イベント出店のとき、本を一日に100冊売ることは大変ですが、シュトレンであれば1日に100人の方に買っていただけることもあります。お客さまには必ず生産背景についてお話しますが、サーキュラーエコノミーを知らなくとも多くの方がすごく熱心に聞いてくださり「素敵ですね!」と言ってもらえます。シュトレンをきっかけにサーキュラーエコノミーの本を買っていただくこともあるんですよ。

「昔、お豆腐屋さんに鍋を持って買いにいっていたのはサーキュラーエコノミーなんかな?」とか「量り売りやってるお店がいろんなところにあったんだよ」というお話を聞かせてくださるお客さまもいて、サーキュラーエコノミーという言葉は知らなくとも、関心を持ってくださっている人と知り合うきっかけにもつながっています。

購入者に配布しているリーフレット。京シュトレンの製造に関わる人たちの情報が細かく記載されています。サプライチェーン(商品が消費者に届くまでの一連の流れ)を透明化するのはサーキュラーエコノミーで重視されているポイント。英語表記もあり、最近は観光で京都を訪れた外国の方にも評判がいいそう

フードロスや障がいのある人の雇用につながっている、という理由で買ってもらうのではなく、まずは「美味しいから」や「パッケージが可愛いから」といった、とても単純な動機で興味を持ってもらい、その感情の先に背景を深く知ってもらう道筋ができると安居さんは話します。

安居さん 昨今、意識の高い一部の人だけではなく、一般の人々にどれだけ関心を持ってもらえるかが、社会に変化を起こす大きな鍵と言われています。ただ、一般の方に意識変革を求めるだけでなく、例えば売り手側も見せ方の工夫ひとつで変えられることもあります。「京シュトレン」が多くの人にとって、新しい可能性を感じる入り口になれたらと思い、日々見せ方も含め、ブランドと商品づくりを進めています。

京シュトレンで見えてきた、地域×サーキュラーエコノミーの可能性

「京シュトレン」の販売から約1年。食だけではなく、京都の印刷会社や桐箱の会社からも「ロスになっている端材や紙をなにかに使えないか」と問合せがあるそうです。

安居さん こうした情報を自分の中だけにとどめるのではなく、地域で活用してもらえそうな方たちにシェアすることで、循環を通じた新しいつながりが広がっていると感じます。「循環フェス」や「エシカル・フードロス・アライアンス」のように、サーキュラーエコノミーには特定の業界にとどまらず、地域のさまざまな人が関わり、分野横断的な連携を生み出す力があると思っています。

最後に安居さんは、廃棄物との向き合い方について、いろいろなアプローチがあることを教えてくれました。

安居さん 僕はフードロスの現状は、水が流れ続ける蛇口のように考えています。その元栓を締めるような根本的なアプローチは急務ですが、時間とエネルギーが必要です。一方で、今流れ出てしまっている水を救うアプローチは、根本的な対策にはならないかもしれませんが、すぐにできるし、みんなで救い合うことで水をなくす仕組みをつくれるかもしれません。

八方良菓のシュトレンは後者として、まずは現状を知ってもらい、他にもやりたいと思う人が増えればみんなで工夫して楽しみながらレスキューする仕組みをつくっていきたい。僕はたまたま、京都でシュトレンでしたが、正解があるわけではなく、地域や個人の特色が出ることもおもしろいと思っています。日本の発酵食品の技術や知恵もいかせるのではないでしょうか。

安居さんと話していると、自然と「私にはなにができるだろう?」と考えている自分がいました。

サーキュラーエコノミーという言葉だけを聞くと、「難しい、自分にはできない」と思ってしまう人もいるかもしれません。しかし、できることは身近にちりばめられています。はじめから完ぺきでなくてもいい、やりながら学んでいくという心持ちで、「すでにあるものでどんな素晴らしいものがつくれるだろう?」と考えてみてください。

「京シュトレン」がそうであるように、廃棄物を集めれば、その過程で不思議と人と人との有機的なつながりが生まれ、できあがったものにはその地域ならではの色が出てくるのでしょう。

まずは自分の住む地域の廃棄物の情報をさまざまな人と共有する、そんな小さなことから始めてみませんか?

そして2年目を迎えた「八方良菓の京シュトレン」は、今年もクリスマスまで販売中です。みなさんもぜひ、実際にその美味しさを感じてみてください。

(撮影:水本光)
(編集:村崎恭子)

– INFORMATION –

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