「暮らしているまちは好きですか?」
と聞かれて、「大好きです」と答える人はどのくらいいるのでしょうか。
19世紀のイギリスで興った都市に対する市民の誇りを指す「シビックプライド」。この概念はじわじわと日本でも広がり、持続可能な行政運営のために取り入れる自治体も出てきています。
岐阜県岐阜市では、現市長の柴橋正直さんが着任した2018年から「シビックプライド」をキーワードに、岐阜で生きる人々が地域に誇りや愛着を持てる政策や取り組みを進めてきました。
市民のシビックプライドを醸成する起点となっているのが、まちの中心部にある「みんなの森 ぎふメディアコスモス(通称:メディコス)」です。
シビックプライドの源泉である市の情報を集約し、地域に積み重なっている歴史も含めて発信することで、未来につなげる場として期待されるメディコス。この場所で、2021年には「メディコス編集講座(以下、編集講座)」がスタートし、グリーンズは共創パートナーとして講座づくりや運営に伴走しています。
シビックプライドを育むために、なぜ編集講座が必要だったのでしょうか。また、どのような岐阜の未来を描いているのでしょうか?
メディコス総合プロデューサーの吉成信夫さん、岐阜市役所 市民協働推進部 ぎふメディアコスモス事業課の見廣篤彦さん、そして「作文の教室」を中心に編集や執筆の講座を数多く手掛け、2023年より共創編集マネージャーに就任したグリーンズのスズキコウタ。3人の座談会をお届けします。
みんなの森ぎふメディアコスモス 総合プロデューサー
CIコンサルティング会社役員等を経て、1996年に宮沢賢治が足跡を残した岩手県東山町に家族で移住。「石と賢治のミュージアム」構想立ち上げに奔走。岩手県葛巻町の廃校を活用したサステイナブルスクール「森と風のがっこう」を開校。この間、県立児童館いわて子どもの森初代館長を7年間務めた。2015年に岐阜県へ移住。岐阜市立図書館長を経て、2020年より現職。著書に「ハコモノは変えられる!子どものための公共施設改革」(2011年学文社)がある。毎日新聞地球未来賞にてクボタ賞受賞。2023年より東海国立大学機構参与を兼任。ムーミンとカフェをこよなく愛す。
岐阜市役所 市民協働推進部 ぎふメディアコスモス事業課 企画係長
2005年入庁。2020年からぎふメディアコスモス勤務。メディアコスモス1階に設置した岐阜市の魅力を集めた情報空間、シビックプライドプレイス「ぎふ古今」の整備やメディコス編集講座に立ち上げから関わるなど、岐阜市民のシビックプライド醸成に奔走中。
WEBマガジン「greenz.jp」編集部所属。2016年〜2022年まで副編集長。2023年、読者や会員とともに探究しながらコンテンツをつくるリーダーとして、共創編集マネージャーに転向。
これまでに3000本を超える記事の編集、さらにワークショップ設計に携わる。2015年より「作文の教室」を展開。300人を超える卒業生が、編集者やライター、社会起業家として活躍している。2020年には第2編集部「greenz challengers community」を結成、若い世代の編集者たちと新たなグリーンズの模索を続ける。
2019年「しあわせの経済」国際フォーラム実行委員、2021年「ローカリゼーションデイ日本」実行委員。
シビックプライドを醸成するために生まれた「メディコス編集講座」
コウタ はじまりは、吉成さんが僕宛に問い合わせしてくださったことでしたよね。グリーンズにお声がけいただいたのは、どのような経緯だったのでしょうか?
吉成さん グリーンズのことはNPO法人になる前から知っていて、立ち上げをされたメンバーにも20年近く前にお会いしているんです。編集講座のパートナーを検討していた際、さまざまなご縁からグリーンズが「作文の教室」を開講していることを知りました。そこからとんとん拍子で話が進んでいきましたね。
コウタ 連絡をいただいたときは驚きました。そもそもなぜ編集講座をすることになったのでしょうか。
吉成さん メディコスは2015年7月にオープンして以来、シビックプライドの醸成を情報面からサポートする拠点として、さまざまな企画や取り組みを通じて岐阜のひと・モノ・場所を発信してきました。コロナ禍で一時期は落ち込みはあったものの、毎年110万人から120万人にご利用いただき、視察も年間250〜300団体が訪れています。
吉成さん 2022年3月にはメディコス1階の正面玄関横に、シビックプライドプレイス「ぎふ古今」を新たに設けることになりました。岐阜市の魅力を集めた情報拠点なのですが、行政情報だけを取り扱ったり、パンフレットと同じ内容のものを入れたりしても面白くないなと。それに、情報は一度入れるだけではどんどん陳腐化していきますよね。
僕は生活している人たちの言葉があふれ出すようにしないといけないと思ったんです。そこで「ぎふ古今」のオープン一年前から、ライティングや編集に関わる担い手を育てようと動き始めました。それが編集講座です。
「個」のスキルアップよりも「共創」を重視したプログラム
コウタ お声がけいただいた時から、「受講生同士がつながり、ともに高めあえるプログラムにしたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。
吉成さん 実はグリーンズさんにお願いしたのは、2022年に実施した第二期からなんです。第一期をやってみて、ライティングや編集のスキルを身につけることはもちろんですが、それ以上に「共創」を体感できる講座であることが大切だと痛感しまして……。グリーンズさんなら、その点を共感しながらプログラムに落とし込んでくれるんじゃないかなと期待がありました。
コウタ プログラムづくりでも「共創」はキーワードになりましたね。まず、ご依頼いただいた時点で、僕が編集系講座をファシリテートする際のレパートリーが20ぐらいあるんですが、その内容を吉成さんにお見せして、「個」と「共創」のワークショップに分けていきました。内省的すぎるものは外して、チームのコミュニケーションが生まれそうなものを残して。最終的に、どのように受講生がつながり価値を共創していくかに振り切り、全6回のプログラムをつくり上げました。
吉成さん だから「作文の教室」じゃなくて「編集講座」なんだよね。スキルを身につけることよりも、共に学び合いながら岐阜の情報発信していくものであれば、公共施設である僕たちがやる意味があるんじゃないかと思って。
コウタ その吉成さんとの取捨選択や、新たにつくったワークショップで仕上がったゼミプログラムを見て「私たちメディコスさんにリミックスされちゃったね」って、アシスタントをしてくれている水野淳美さんと、言っています(笑) 僕らも、自分の手元にあるもので貢献できる別の可能性が見えてきて、とてもうれしいことです。
見廣さん 「共創」に価値を置いていることはプログラム中も強く感じられました。25名の受講生の反応を見ながら、予定していたプログラムを急遽変更することもありましたよね。
コウタ 事前に資料の印刷や道具を準備してもらっているにも関わらず、吉成さんと相談して開始15分前に内容を組み替えたこともありました。毎度準備に奔走してくれていた見廣さんには、たくさんご迷惑をおかけしました・・・。
見廣さん いえいえ。逆にそのライブ感がよかったです。
コウタ 大事にしたかったのは、事前に決めたプログラムを円滑に完了することでなく、岐阜に住むことへのシビックプライドがさらに醸成されていくこと。僕らグリーンズが、それに最大限の貢献をすること。そして何より受講生の満足を高めることでした。そういった目的を達成するためには、受講生の表情やワークに取り組む様子を見て、講師は最適なプログラムを、都度提案できるようにと思っています。
見廣さん 「共創」と聞いても初めはイメージが湧きづらかったのですが、編集講座を通して僕自身も体感することができました。一人でやることと複数人でやることの価値の違いに気づかされましたし、メディコスを「共創」を体験してもらえる場にしていくことが我々の仕事だと思いました。
吉成さん 体感できるって大事ですよね。
コウタ チームで動くことがほとんどでしたが、たとえば山中散歩さんをゲスト講師に迎えたインタビューと撮影の講座では、「文字起こしをやっておきます」「レタッチを担当します」とうまく役割分担して、みなさん主体的に動かれていました。アイデアとスキルの持ち寄りによって、僕らがアドバイスしなくてもさまざまなことが勝手に動き出していましたね。
吉成さん 創発的だったよね。みんな切磋琢磨して、記事をつくり上げていました。
仲間との出会いから、岐阜を知り誇りに思うきっかけに
コウタ 第二期は全てのプログラムを終えて、あとは卒業制作を残すのみです。振り返ってみて、印象的だったことはありますか?
吉成さん Slackでの情報共有は面白かったよね。
コウタ 受講生同士のつながりを大切にしたいけど、コロナもあり飲みにも行きづらかったんですよね。なのでコミュニケーション拠点としてSlackを提案させてもらいました。心配もありましたが、動き出してみると僕が入っているSlackの中で最も通知が多いのが編集講座でした(笑)
岐阜のおすすめチャンネルをつくったら毎日投稿があり、吉成さんや見廣さんが知らないディープな場所も共有されていて。それを主体的にGoogleスプレッドシートに整理する受講生もでてきて、ワンチーム感に驚きました。おかげで、僕は毎回、出張帰りに食事をするのが楽しくて(笑)
東京から来た僕ら。岐阜に住む受講生同士。その仲間に「おすすめをする」ことを通じて、自分の住むまちへの愛に気づく人や、選び、魅力を伝えることも編集だと学ぶ方が多かったのも素晴らしかったです。
吉成さん 岐阜市の職員、タウン誌のライター、企業の広報担当、NPOや商店街に関わっている人など、色々な人が混ざり合っていたのがよかったですね。学び直しのニーズも高かったように思います。
見廣さん 「仲間を見つけたかった」と話す方も複数いらっしゃいました。「共創」という言葉に惹きつけられたとおっしゃっていましたね。
コウタ 最初の頃、受講生のみなさんに「岐阜愛にあふれていますね」と軽率に言ってしまったら、「そんな簡単なもんじゃないんです」と何人かから返ってきました。仕事や家庭の事情など、さまざまな境遇のもとに岐阜へ来たから、「おいしいお店は知っていても、岐阜愛までは高まってないんです」って。だから「どう岐阜を愛していけるかを悩んでいて、編集講座に来ているんだ」とおっしゃる方もいました。
つながりを求めて参加されている方がいることがわかり、編集講座でやることは「共創」で間違いないと定まった感覚はありました。
見廣さん そのような受講生の気持ちに気づけたことは、私自身にとっても大きな成果でした。市役所職員としては、受講生に岐阜のために動いてほしいという下心があるわけですよね。これまでは我々が一方的に相手に求めるのは申し訳ないなと思っていたのですが、受講生のみなさんがメディコスのためにできることを考えて、やりたいと思ってくださっていることが嬉しかったです。
吉成さん 悩んできた分、支えになったよね。
見廣さん 受講生が活動しやすいように我々が枠を提供することができたら、主体的に動いてくれるんだって感覚を持てるようになりました。受講生に対していい意味で遠慮もなくなりましたね。踏み込んでメッセージを送ってみようとか、集まる場をつくろうかなとか。我々は裏方に徹しようとしていましたが、修了後も付き合っていく職員の心算なくして成り立たないと考えを改めましたね。
第三期への期待と、「文化的なまち・岐阜」への希望を胸に
コウタ 2023年7月から始まる第三期には、グリーンズも引き続き共創パートナーとしてご一緒させていただきます。僕自身とても楽しみにしていますが、期待していることやアップデートしたいことはありますか?
吉成さん 第二期は共創することに関して大成功、期待値以上の成果が出ました。受講生のみならず、私たち職員も共創を体感できたことは素直にすごいなと思いました。
一方で、最終的に記事をつくることを考えると、開いていくことだけではなく、自分に問いながら形にする必要性も感じています。インタビューで得た内容を削って、文章に組み上げることは孤独な作業です。自分の感覚みたいなところから問いを発して、どう組み上げていくのか? 一度は体験できるようにしたいですね。
コウタ 僕は第一期・第二期の各25名ずつの卒業生に、第三期のプログラムでは仲間になってもらえるよう取り組みたいです。「作文の教室」は過去卒業生が約400名、Facebookグループにも3分の1が参加して、投稿するとすぐに反応があります。そんなコミュニティをメディコスでどううまくできるかなって考えています。
つまり、大切なのは卒業後なんですよね。持続的に書くことで自分の発信力もソーシャルインパクトも高まります。修了生のみなさんが活躍できる器をどうつくるのか? 卒業後のデザインは、これからメディコスや卒業生のみなさんと取り組みたい課題です。
吉成さん 僕は編集講座からメディコスのZINEが生まれるのを期待しています。言葉に結晶させたものをみなさんに見てもらえるようになるといいなと。すると、もっと書くことが楽しくなるはずなんだよね。書くことには苦しさも楽しさもあるじゃない? でも書くことが自分を振り返ることになり、アーカイブすることにもなっていくんですよね。
見廣さん ZINE制作にはぜひみなさんに参画してもらいたいですね。
吉成さん 「岐阜には文化がない」と言う人がいるけれど、過去を検証すると、戦後の文学を牽引した小島信夫さんが出ているまちだし、1970年代以降タウン誌の発行も盛んなまちだった歴史があります。まちが積み重ねてきたことが、点から線にそして面になった時、大きな物語が生まれると思っていて、岐阜にはその潜在能力があると僕は信じています。メディコスからZINEが出ることで、「岐阜は文化的なまちである」と証明できる一つの飛び道具になったらいいですね。
コウタ これはかつてgreenz.jpの編集長を務めたYOSHから教えてもらったんですけど、アメリカの各都市にある826番地にどんどん作文教室をつくろうとしているプロジェクトがあります。実際にサンフランシスコのバレンシア通りにある「826 Valencia」に視察へ行きましたが、小学生が作文と編集を覚えてつくったZINEが5ドルぐらいで売られていて、すごく素敵でした。そういう場が一軒あるだけで、文化的なまちに見えるんです。
そんな風景を参考に、メディコスさんで卒業生同士がつながりつづけられるコミュニティをつくり、期を超えた共創を生み出すお手伝いをしたいと考えています。
見廣さん 「卒業後の一歩をどう踏み出したらいいのかわからない」との声を修了生から聞きます。僕らは配架場所や印刷などフォローできることはやらせてもらうので、気軽に相談してほしいです。お節介なくらいがちょうどいいんでしょうね。
コウタ つながり・共創・探求の三つがいい三角形をつくりつづけられれば、第三期以降もいい形になるはず。引き続き頑張っていこうと思います。
そして、メディコスさんとの取り組みには、僕だけでなくグリーンズ一同とても手応えを感じているので、岐阜市以外の自治体や企業関係者のみなさんとのコラボによる「作文の教室」や「編集講座」の開催を増やしていきたいです。そのまちのニーズに合わせてプログラムをカスタムしますし、開催地区同士のつながりが生まれるのも面白いかもしれないですね!
書き手の一人として、思わず頷いてしまうことも多かったインタビューの時間。
吉成さんの言うように、書くことは時に孤独です。だけど書くことの周辺には、インタビューイーとの時間や人とのつながり、未来への想いがあり、それらがいつも次の一文を書く勇気を運んできてくれます。そして、孤独な時間こそが、出会った人や暮らすまちへの想いを育んでくれる気がするのです。
メディコス編集講座第三期は2023年7月にスタートします。自らの手で、まちの魅力を掘り起こし、過去から現在そして未来へと情報をつないでいきたい方はぜひご応募ください。締め切りは6月30日です。
(撮影: 小椋雄太)
(編集: 古瀬絵里)
(編集協力: 岐阜市)
– INFORMATION –
開催日時:2023年7月29日(土)、8月6日(日)、8月27日(日)、9月10日(日)、9月24日(日)、10月7日(土)の全6回
場所:みんなの森 ぎふメディアコスモス(岐阜県岐阜市司町40−5)
参加費:6,000円(全日程分)
定員:25名(申込多数の場合は抽選)
対象者:15歳(高校1年生)以上
申込方法:下記サイトの専用フォーム、もしくは「ぎふメディアコスモス」1階総合案内へお申込みください。
①お名前(ふりがな)②年齢 ③職業(学校名)④お住まいの市町村 ⑤電話番号 ⑥E-mailアドレス
申込期限:6月30日(金)必着
詳細はシビックプライドプレイスWebサイトをご覧ください。
>「メディコス編集講座」第3期
<問い合わせ先>
ぎふメディアコスモス事業課 企画係
電話:058−265−4101
Email:g-mediacosmos@city.gifu.gifu.jp
– INFORMATION –
長いキャリアと実績のある講師チームが、あなたのまちに合ったプログラムをデザインし、1回の講座も、複数回の講座も開催します。詳しくは、E-Mailでお問い合わせください。
案内ページ:
https://greenz.jp/sakubun_gakkou_shucchou/
お問い合わせ先:
sakubun@greenz.jp (担当: スズキ、水野)