来春、武蔵野大学に新設されるサステナビリティ学科。
日本初のこの学科にはNPOグリーンズ代表の鈴木菜央も教員の一人として参加し、持続可能な社会をつくるためのヒントを学んでいきます。
武蔵野大学では学科の新設にあたり、受験生・在校生・卒業生・社会人が垣根をこえて、ともに考えるオンラインイベント「オープンラボ」を定期的に開催。
今回は徳島県の上勝町(かみかつちょう)で「ゼロ・ウェイストセンター」を運営する大塚桃奈(おおつか・ももな)さんをゲストに迎えました。
いまでこそ「ゼロ・ウェイスト」という言葉は広まりはじめていますが、上勝町は2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、ゴミをゼロにすべく取り組んできました。
そして2020年には「ゼロ・ウェイストセンター」をオープン。上勝町の暮らしやゼロ・ウェイストの取り組みを体験できるホテルも併設されています。
このセンターに新卒で就職したという大塚さんは、現在25歳。
いわゆる「Z世代」の大塚さんはどうして上勝町で働こうと思ったのか、そして上勝町で行われているゼロ・ウェイストの取り組みについて伺いました。
株式会社BIG EYE COMPANY・Chief Environmental Officer
1997年生まれ。「トビタテ!留学JAPAN」のファッション留学で渡英したことをきっかけに、服を取り巻く社会問題に疑問を持ち、長くつづく服作りとは何か見つめ直すようになる。国際基督教大学卒業後、徳島県上勝町へ移住し、2020年5月にオープンした「上勝町ゼロ・ウェイストセンターWHY」に就職。山あいにある人口1,500人ほどの小さな町に暮らしながら、循環型社会の実現を目指し、ゴミを切り口に日々対話を重ねている。
服をつくるのではなく、
服を取り巻く社会のことを知りたい
徳島県は上勝町で「ゼロ・ウェイストセンター」の運営に関わって3年目の大塚さん。センターがオープンした2020年に大学を卒業し、新卒で上勝町に移住・就職しました。
その原点は、中学生の頃に遡ります。
小さいときからファッションが好きで、中学生のとき、服をデザインするデザイン画コンテストに応募して、グランプリを受賞しました。その経験から、自分の思いを突き詰めていくことで、何らかの結果が伴ってくることを実感しました。
高校時代もさまざまなデザイン画コンテストに応募し、デザインから服づくりを続けていくなかで、高校3年生のときに官民共同の奨学金制度「トビタテ!留学JAPAN」を通じて、イギリスにあるロンドン芸術大学の高校生向けファッションコースに参加。
現地では、スタイリングや縫製、ミシンを使った授業から、ポージングをしてそれをデザインする授業など、同世代のデザイナー志望の学生たちと刺激的な時間を過ごしました。
しかし、そうしたファッションに関するスキル以上に、服や、服を通じた社会との向き合い方を学んだといいます。
自分が学んだことを、どう社会につなげて考えることができるか? という問いに向き合い、ふだん自分が着ている服が、どこから来て、どこに行くのか、どんな人が関わっていて、どんな素材からできているのかということを細かく考えるようになりました。
また、ファストファッションがつくられる裏側を描いた映画『ザ・トゥルー・コスト』にも影響を大きく受けたそう。
服を安く楽しめる背景には、服の素材として使用するコットンの栽培に大量の農薬や水の使用、農家への健康被害や土壌への被害、労働者の劣悪な環境などたくさんの犠牲があること。今まで全くその現実を知らず、好きな服を選ぶことによって無意識のうちに加害者になっていたんだというショックを感じました。
これまで自分の思い描いていたデザインが形になる喜びなど、ファッションはすごくワクワクするものだと感じていたのですが、服を通して見えてきたもう一つの現実から、見えないつながりに思いを馳せ、自分ごととして社会の課題に取り組もうとする思いが芽生えました。
海外から日本のローカルに目を向けるように
その一歩として、服をつくる専門学校ではなく、服のサステナブルなあり方を学ぼうと大学へ進学した大塚さん。
進学後はアパレルブランド「ミナ ペルホネン」でアルバイトを始め、セールを一切行わず、物の価値を下げずに生産者や、それを使う生活者との関係性を大切にしているブランドの姿勢に触れられたことがとてもいい経験になったと言います。
そして大学1年時に、上勝町のビール醸造所「RISE & WIN Brewing Co.」の方たちとつながり、「山のなかにどうしてゼロ・ウェイストの町が?」という興味から、実際に上勝町を訪れました。
ゴミと暮らしがつながっていること、同じ日本の中でも違う暮らしのあり方があること、山の中での暮らしなどが新鮮で、衝撃を受けました。
服と社会の結びつきを考える中で、はじめは海外で起きている課題に目を向けていましたが、安い服が日本に入ってくることで、日本のものづくりのあり方も変化していることに気づいたそう。
そこで日本の生産地を訪れ、海外のブランドも日本の工場でつくっているけれど、実際には高齢化で担い手が少なくなっていることや、産業自体が衰退しているという課題を知って。
だんだんと自分の関心が日本のローカルがどうサステナブルになるのか? 地域の小さな営みをどう続けていけるのか? という関心に移っていきました。
そして在学中に「ゼロ・ウェイストセンター」の方に声をかけられ、これまでの経験や学びがつながって、心がスッと向いた方向が上勝町での取り組みだったことから、就職を決意。
現在はセンターを運営する株式会社BIG EYE COMPANYのChief Environmental Officerを務め、運営のほか視察の対応、講演などをおこなっています。
大塚さんの話を聞いて、自分自身が感じたことをつぶさに受け止めて、それをもとに人に会いに行ったり、留学に挑戦したり、行動を重ねる中で感じたことや考えたことに向き合っているのだなと感じました。
四国で一番小さな町は、ゼロ・ウェイストの最先端地域
そんな大塚さんが暮らす上勝町は、徳島市から車で約1時間の場所にある人口1500人ほどの小さな町。
これまでも伝えてきたように、上勝町では2003年に国内初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を発表し、2020年を目標に焼却ゴミや埋め立てゴミをゼロに近づけようと取り組んできました。現在は2030年を目標にゴミになるものをゼロにすることを目指しています。
具体的に何をしているかというと、ゴミの分別です。
住民は自分のタイミングでゴミステーションにゴミを持っていき、13種類45分別も行なっています。
その結果、上勝町のゴミ処理などにかかる費用は約6割減ったそう。
ゴミをすべて焼却炉で燃やした場合には、1,000万円以上かかってしまいますが、資源回収することによって、費用は600万円に抑えられ、紙類や金属類が高価値として資源回収されることで、+200万円の収入にもつながっています。ゴミの削減がされていることで、リサイクル率8割を達成しているなんて驚きですね。
さらに、資源循環を意識したビジネスや、そこに魅力を感じて移住する人も増え、ここ10年で20~30代の移住者が平均10人ほど毎年来ているとか。ゴミの削減が、地域の活性化にもつながっているのです。
ゼロ・ウェイストの暮らしを体験できる場所
そんな上勝町に2020年にオープンしたのが「ゼロ・ウェイストセンター」。
ゴミステーションやホテルなどが併設された施設で、町の暮らしやゴミをみんなと一緒に体験として共有することを目指しています。
上から見ると建物が「?」の形になっているのが特徴的ですが、どんな思いがこめられているのでしょうか。
「どうして上勝町でゼロ・ウェイスト?」「どうしてゴミって捨てられるの?」という疑問を社会に対して問いかけて、ゼロ・ウェイストセンターに興味を持ってくれる人と一緒に考える町でありたいですね。
ゼロ・ウェイストって暮らしの中で見えなくなっている関係性を見つめ直すきっかけを与えてくれる概念だと思います。これは単なる手段であって、自分の生活をよりよいものにしてくれるヒントだと思っています。
ハテナの上の部分は、住民がゴミを分別するゴミステーション、その隣には「くるくるショップ」と呼ばれるリユースショップがあります。
このお店は、実は小学生のアイデアから生まれました。不要になったけどまだ使えるものを「くるくるショップ」に持ち込み、誰でも持ち帰ることができます。
ルールは持ち帰るものの重さを量って、ノートに記入するだけ。毎月どのくらいのモノが捨てられずに循環しているのかということを数値で実感しやすくするために、重さを量ってもらうことによって、自分自身とモノとの距離を縮めてもらえたら、と。
ちなみに窓は、町民に不要になった窓がないか呼びかけたところ、700枚ほど集まり、それをパッチワークしてできているというから驚きです。床も割れた陶器が使用されるなど、建物自体にもゴミや不要なものが生かされていました。
そうした上勝町の暮らしを体験できるのが、「HOTEL WHY」です。
宿泊時のチェックインの際には、石鹸を一泊で使う分だけ切ってもらったり、チェックアウト前には、滞在中に出たゴミを、住人が利用しているのと同じゴミステーションで分別してもらいます。
宿泊者の方からは「モノへの解像度が上がりました」「手触り感をすごく感じられる体験でした」という声があり、みなさん日々のモノとの向き合い方を見つめ直すきっかけになっているようです。
ゼロ・ウェイストの取り組みが注目され、さまざまな地域から人々が訪れる一方で、大塚さんは課題も感じていると言います。
今は上勝町の仕組みも、社会の中にあるプロダクトも、一人が頑張ったり、気づいた人が頑張るというような状況になっているんじゃないかと、私は上勝町に来て気づきました。みんなが自然と取り組める社会になっていくのが、一つの理想なのでは、と。
ゴミっていろいろなものからできていて、それをきちんと整理していくのが大切で、ゴミにするのも自分だし、ゴミにしないのも自分自身。だけど、それをつくっている企業や、それを回収している自治体など、それぞれの視点を複合的に考えていくことも重要なことだなと感じています。
自分にできるゼロ・ウェイストのアクションって?
最後に、今回のオープンラボの参加者たちと、学校で広げられるゼロ・ウェイストのアクションについてグループで話し合い、共有してもらいました。
進行はグリーンズの鈴木菜央です。
菜央 それぞれのグループでどんな話が出ましたか?
参加者(大学生) 教科書や大学受験の過去問を、「くるくるショップ」みたいにいろんな人に回せたらいいんじゃないかなと。過去問って年ごとに収録されている範囲が変わってくるので、循環させることによっていろんな問題にも取り組めるし、捨てなくても済むというのでいいんじゃないかなと思いました。
菜央 みんなが持ってきて、本棚に分かれてて、自由に取れたらよさそうだね。
ある海外の大学では、卒業生と新入生のモノのやり取りを仲介する学生グループがあって、卒業生が自転車や家電とかをキャンパスの入口にズラーッと並べて。それを一年生が順番にほしいものを取っていくんだよね。
大塚さん それはいいアイデアですね。
菜央 もう一つのチームはどうでしたか?
参加者(大学生) 私たちも「くるくるショップ」を大学でやれたらという意見が出て、本とかをリサイクルできればいいなと話していました。
あとペーパーレスについても話して、韓国ではコロナがはじまった時点で今まで紙だったものがほとんどオンライン化されて、連絡事項がアプリで共有されるようになったと韓国在住の参加者の方が言っていました。でも日本は、連絡事項などまだ紙で伝えられることが多いので、ペーパーレスが進んだらいいなと思いました。
大塚さん 「くるくるショップ」はあまり初期投資がかからず、空きスペースがあればみんなで持ち寄って始められるので、そんなにハードルは高くないと思います。ただ、仕組みは必要だなと思います。みんなが平等に使えて、散在しないように、管理する人は必要ですね。
武蔵野大学ではどんなゼロ・ウェイストの取り組みがされていますか?
菜央 「くるくるショップ」に似たものだと、学生と教員が協働して大学をサステナブルに変えていく「サステナブルキャンパスプロジェクト」の一環として、学生たちが「服の交換会」という仕組みで服のリユースをしています。キャンパス内に3か所、不要になった服の回収箱があって、1か所にほしい人が持ち帰れる場所があるんです。
あと大学内にある「ロハスカフェARIAKE」で出た食品残渣のすべてを大学の屋上ガーデンでコンポストにしています。そこでできた堆肥を使って、育った野菜はふたたびカフェで使ってもらっています。
大塚さん すごい、学内で循環しているんですね。
菜央 学生の有志チームによる給水機の設置プロジェクトもあります。実験的に1年間設置し、どのくらい利用されたか結果をまとめて、学長に提案書を提出していました。水筒を持参しても飲み干してしまった学生にとっては、とても役立ったようです。
こうしたプロジェクトは現時点では、1つのゼミや研究室単位でバラバラに動いていますが、今後は学科や研究室をまたいで、大学全体としての取り組みにできたらいいなと思っています。
まずは、自分自身の身の回りでできることを知って、心揺さぶられる人を増やすことが重要なんじゃないかなと思いますね。
学生時代に経験したことの積み重ねを経て、現在上勝町で活動している大塚さんの話を聞いて、これまでの点と点がつながって、今があることがひしひしと伝わってきました。
ローカルやゼロ・ウェイストの立場から、活動を続ける大塚さんの社会との向き合い方を垣間見て、上勝町という町が注目されている背景には、そこで活動する一人ひとりがこれまで歩んできた道、そして思いがあることが感じられました。
社会の中で起こっている活動の背景には、それぞれ思いを持った個人がいる。
武蔵野大学サステナビリティ学科での学びの中にも、学生一人ひとりが社会との向き合い方を模索し、自分なりに社会の課題に取り組む余白がありそうです。
気になる方は、ぜひ今後のオープンラボもチェックしてみてくださいね。
(トップの写真:ヤマザキノブアキ)
(編集:古瀬絵里)