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森を学ぶというより、森で生まれ変わるような3日間。「INA VALLEY FOREST COLLEGE 2022 現地講座1」で生まれた、企ての芽

日本の森では木が使われなくなって…と言われていたところから、コロナ禍をきっかけとするウッドショックでにわかに需要が高まり…と、このところザワついている森界隈。

日本の森は近代以降、材木の供給地という役割を担わされることが大きかったために、木が根こそぎ抜かれた時代もあれば放っておかれる時代が来たりと、世の中の動きに翻弄されがちでした。

でも、森の価値って、材木を生み出すことだけなのでしょうか。

さまざまな命を育み、水をたたえる。訪れる人の心を癒してくれる。四季折々の風景や自然が生み出す多様な色や形が、インスピレーションを与えてくれる…。森には、まだまだいかし切れていないさまざまな宝があります。

長野県の伊那谷をフィールドに、これまで森とは関わりが深くなかった人たちや、新たな森の可能性を見出したいと思う人たちで学び、「森に関わる100の仕事をつくる」というかけ声のもと2020年にスタートした、「INA VALLEY FOREST COLLEGE」(以下、フォレストカレッジ)。

第1期、第2期は新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインで行われましたが、2022年度の第3期は合宿とオンラインを組み合わせた形で開催することになりました。満を持しての伊那谷でのリアル開催も含むプログラムということで、カリキュラムのテーマは「身体性を持って出会う森の学び舎」。「森で働く」と「森で企てる」の2コースで実施されることに。

立ち上げ時から運営メンバーに想いを聞き、変遷を追いかけてきた私としては、なんとしても参加せねば!ということで、7月8日から10日にかけて行われる「現地講座1」に伺いました。

(INA VALLEY FOREST COLLEGE 開講への想いを語っていただいた記事はこちら
(INA VALLEY FOREST COLLEGE 第1期の振り返り記事はこちら

1日目スタート!森っぽくない人たちも森に集合な開校式

3日間行われる現地講座1の初日。伊那市「市民の森」に向かいます。いきなり森とはテンションが上がる!…はずが、おだやかな緑に囲まれ、清らかな森のアロマにやられて、いきなりリラックスです。おいおい、こんなはずではなかったよ。でも、かなり心地いいよ。落ち着いちゃうよ。

市民の森でフォレストカレッジの旗をもつスタッフの方に導かれてたどりついた広場には、切り株でつくった椅子に座った受講生のみなさん。まわりでにこやかに見守るスタッフのみなさんも、枝を切ってつくった手作りのネームプレートをぶら下げています。わたしもネームプレートを装着。みんなでいっしょに森の仲間になった感が!

ワクワク感と緊張感が混じり合った空気の中、開校式がはじまります。初日は、「森で企てる」コースも、「森で働く」コースもいっしょ。INA VALLEY FOREST COLLEGE協議会会長の有賀真人さんによる挨拶のあと、スタッフと受講生による自己紹介となりました。

スタッフのみなさまは、プログラムの企画・運営に携わっている「やまとわ」のみなさん、伊那市などの行政のみなさん、山の現場で働くみなさん、そして、第1期と第2期の卒業生のみなさんなどさまざま。

受講生のみなさんはもっとさまざま。林業をされている方や、製材所の方といった山側ですでに働いている人はもちろん、造園の仕事をしている人、人材教育をされている人、金融関連の人、UXデザイナーや理学療法士、エネルギー関連、これからアウトドアショップの開業を考えているという人など、バラエティゆたかすぎ。

これだけバックグラウンドが違う人たちで深いコミュニケーションが成り立つのだろうかという不安と、意外なセッションから思ってもいない動きが生まれるかも、というワクワク感が混じり合ってドキドキしてきました。

森歩きで、森への解像度がグングン高まる

開校式のあとは、森歩き。長野県林務課小林健吾さんの案内で、市民の森を歩きます。この森が「市民の森」という名前になったのには、伊那市らしい理由があります。

まだバブル景気が残っていた平成のはじめごろ、いまの市民の森あたりの土地でゴルフ場を開発するという動きがありました。その開発をなんとか食い止めるべく市民運動が起こり、市民から「この森をそのまま残していきたい」という要望が伊那市に寄せられました。

伊那市はその声に応えて土地を買い取ったり借りたりして森を保全。アカマツが7割以上を占め、サワラ・ヒノキなどの針葉樹、コシアブラ・コナラなどの広葉樹も育つ混交林には遊歩道が敷かれ、市民が森に親しめる場として開かれています。

2016年に「50年の森林(もり)ビジョン」を策定した伊那市には、市民の森のように、レジャーや憩いの場として気軽に訪れることのできる森が市有林として整備されているのです。

森歩きのお供はハンディな樹木図鑑。小林さんはところどころで「この木はなんでしょう?」と、受講生に質問。葉っぱや樹皮を参考にして樹木を見分ける方法を教えながら、さまざまな木の特徴や使われ方をレクチャーしてくれました。

友だちを紹介するように木々を紹介する長野県林務課の小林健吾さん

こうして詳しく説明していただきながら森を歩いていると、それまで「森」というザックリしたものがそれぞれの「木」となり、さらにそれぞれの木の「性質」にと、森をめぐる解像度がグングン高まっていくのが実感できます。そうなると、知りたい、学びたいという気持ちが自ら高まっていきます。

「カレッジ」ということで、先達から教えてもらうようなイメージをもっていたのですが、自らの五感で森に触れることで好奇心をもって進んで学ぼうという気持ちに。こうしたスイッチが組み込まれているのがFOREST COLLEGEなのかもしれません。

「木を見て森を見る」受講生たち

森という共通言語で広がる話題があちこちで

たっぷり1時間半かけて市民の森を歩いたあとは、受講生同士で感想をシェア。

地元の山では見られない木がいっぱいで、森といっても地域によって全然ちがうということに気づきました。

土のことや木にくっついている地衣類の話なんかを聞いていると、木だけではなくいろいろな命で森ができているということがわかりました。

知識として木のことを知っているつもりでいたけれども、本だけでは学べないということが実感できました

などなど、みなさん静かなよろこびとともに語っていました。

夏に焚き火?と思われるかもですが、この日、伊那谷の森は涼しかった

カードを使ってそれぞれの野望を語るグループワークをしたあとは、懇親会。受講生の方が開発したクロモジをブレンドしたほうじ茶と、1期生の方が伊那の野菜でつくったフードを片手に、講師もスタッフも、受講生も混じり合う形で盛り上がります。

「人がもっと森や木に関心を持つにはどうしたらいいだろう」「人だけではなく、いろんな生き物の共有地になるような森をつくりたい」「あるべき森の豊かさとは」…立場はちがっても、リアルで顔を合わせるのははじめてでも、森への関心というところでつながっているからなのでしょうか、あちこちでさまざまな話が広がっていました。

野菜たっぷりのカラフルなフードがみんなのトークを盛り上げてくれました

具体的な知識やスキルを得るのではなく、そのためのでっかい器となるような気持ちを育むことができた。そんな初日でした。

2日目は、森を企てる山登りでスタート!

2日目からは、企てるコースと働くコースに分かれて学ぶことになります。ふだん企画の仕事もしている私は、企てるコースに参加。スタッフや受講生のみなさんとは昨日会ったばかりなのに、集合場所に集まった時点ですでに古い友だちと再会したような感覚です(って、こっちが思ってるだけ?)。

午前中は、やまとわの中村博さんの案内で鳩吹山に登り、マウンテンバイクで下るというアクティビティ。昨日の市民の森は平地ですが、今日は山の中、高低差がある森体験となります。

鳩吹公園から少し歩き、これから坂になるというところで、大きな鉄柵が。この柵は、山の動物が里に降りてこないようにするための柵なのだとか。

柵の扉を開け閉めしながら中村さんは、言います。

中村さん こういういかつい柵がなかったらもっとたくさんの人が気楽に山に来れるのにね。獣害対策ってことなんだろうけど、柵がなくても動物が里に降りてこないように森を手入れするとか、もっとできることがあるだろうと思う

鳩吹山は水源地の森として、ヒノキやカラマツの人工林として、古くから人びとの暮らしとよりそう山でした。歩いていると、葉っぱが黒々としているヒノキのゾーンは暗く、カラマツなどのゾーンは明るく下草がたくさん生えているのが、変わりゆく風景とともに実感できます。

山を歩きながらさりげなく「企て」ポイントを教えてくれる、やまとわの中村博さん

ふと立ち止まった中村さんは、太い幹を指差して受講生にたずねます。「この丸太はいくらになると思う?」すると、製材の仕事をしている受講生の方が答えます。「これだと…1,200円くらいでしょうか」そこから、中村さんはそろばんをはじきます。「薪になったら6,000円くらいかな。でも、家具にして売るとなると、1台50万くらいで売れるダイニングテーブルが5台つくれるな…」

なるほど…木そのまんまよりも、人のアイデアと手を加えることで、価値は変わっていくのですね。地域によって森のあり方もさまざま。そして、森の中にある木もさまざま。そこにまた、さまざまな人の「企て」が掛け合わされることで、森の仕事に多様性が生まれてくる。「森で企てる」チームの使命感に新たな火が灯りました。

山を登るほどに、森で企てるモチベーションが上がっていく…

鳩吹山は中村さんのお気に入りのお散歩コース。季節ごとの風景を味わいながら歩くのが楽しみなのだそうですが、特に好きなのは冬の景色だそうです。葉が落ちて、澄んだ空に立ち並ぶ木の姿がなんともキレイなのだとか。仕事の場にもなり、リラクゼーションの場にもなる。森って、めっちゃいいヤツ…。

心地よい汗を流しながら登り、山頂へ。山頂に立てられている「鳩吹山城址」と書かれた標識は、なんとやまとわさんがつくったもの。中村さんの鳩吹山愛が感じられます。

「よくがんばったな!」と迎えてくれた、鳩吹山城址の標識(著者撮影)

伊那市のまちが一望できる山頂の広場には、ゴツい荷物を背負った先客が何人か。先客は斜面のような角度がついた広場に、何やらテントのようなものを広げはじめました。みるみる大きくなるそのテント状のものは、パラグライダー! タンデムで人を乗せて飛ぶライダーもいれば、単独でのびのびと空を漂うライダーも。なるほど、これも山があるからこそ楽しめるアクティビティですね。

空を舞うパラグライダー。気持ちよさそ〜。コワそ〜。

マウンテンバイクでの山下りで、森のありがたさを体感

ぷかぷか浮かぶパラグライダーを眺めながらお弁当をいただいたあとは、いよいよマウンテンバイクに乗っての山下り。伊那谷のアウトドア体験複合施設「ASOBINA」の方のガイドで本格的なマウンテンバイクにまたがり、GO! 山道を疾走する快感…とはいかず、慣れないマウンテンバイクにへっぴり腰状態でまたがり、顔は完全に引きつっていたと思います。

筆者もマウンテンバイクに挑戦。硬い表情がヤバい…

轍にハマったり石を踏んだりしてひやひやしたのですが、マウンテンバイク、強い。ぶっといタイヤとサスペンションが頼もしく、多少の衝撃では転びません。ハンドルさばきさえ間違えなければ林道を余裕で走り抜けることができます。

鳥や虫の声をBGMに走っていて気づくのは、地面の変化。砂や岩ばかりの道は衝撃が大きいのですが、広葉樹の落ち葉が敷き詰められている道はフカフカして気持ちいいんです。よっしゃ〜、慣れたぞ、極めたぞ、と思った頃にはアスファルトの道路に。ビューンと飛ばして鳩吹公園に戻ってきました。

「企てるコース」全員、無事に下山いたしました!

飛騨の森で熊は踊る。伊那谷の森で人は企てる。

山登りとマウンテンバイクの興奮を残したまま、午後は講義。伊那西小学校にある屋外学習スペース「森の教室」へ。森の教室は、70数年前に当時の生徒たちが植えた木を使って建てられた施設で、建設にはやまとわさんも携わっています。校舎の裏手にある森の一角にあり、緑と鳥のさえずりに包まれながら学ぶことができます。

いよいよFOREST COLLEGE「森で企てる」コースの初講義。講師は岐阜県飛騨市で「飛騨の森でクマは踊る」(以下、ヒダクマ)の松本剛さんです。

熊が喜んで踊り出すような豊かな森をイメージして設立されたヒダクマ。熊が喜ぶ森というのは、さまざまな食べ物があって、安心して冬眠できるような森。おいしいものがいろいろあって気持ちいい森というのは、結局、人間にとってもいい森なのではないかと松本さんは考えているそうです。

「森で企てる」コースの受講生たちに、松本さんはまずこう語りかけました。

松本さん 「企てる」っていう漢字って、人と止まるという字でできているじゃないですか。立ち止まって、遠くを見渡すイメージです。自分がいまどこに立っていて、どういうところに行きたいのかが大事なんですね。まず、私たちがどういう立ち位置からいろいろなことを企てているのかをお話します。

クマ感ゼロ。おだやかに森の企て方を話してくださったヒダクマの松本剛さん

ヒダクマがあるのは、飛騨市の古川町。そこは縄文時代から、1万年以上にわたって人が暮らし続けているという説もある、持続可能なポテンシャルに満ちたエリアです。ところが、いまは過疎化と高齢化がどんどん進行。また飛騨市は自然環境も豊かで、面積の約9割は森林で、そのうち約7割が広葉樹の森となっています。そうした特性を生かして家具づくりで有名なのですが、こちらもいまでは材料となる木はほとんどが外材になってしまっているそうです。

厳しい状況にあるものの、森林そのものと、木を伐り出して製材し、それを製品として加工するという一連の流れがコンパクトに固まっている。かつ、優れた技術をもつ職人さんたちがいる飛騨というエリアはとても恵まれたエリアだと言えます。そうした飛騨が秘めたポテンシャルをいかし、森とまちをつなぐのが松本さんたちヒダクマのお仕事

具体的には、新しいものを創りだす能力や意欲のある都市部の建築家やデザイナーといったクリエイターたちに森に入ってもらい、飛騨の森にあるありのままの資源を使って、ときには地元の職人を交えながら、地域材を使った空間やものづくりのコーディネートをしています。

また、古民家を改装した、宿泊もできるカフェも運営。誰もが気軽に立ち寄れる空間でイベントやワークショップを行い、自然なかたちで森のことを知ってもらったり、地域材を買ってもらったりするきっかけづくりも。さまざまなかたちで、森への入り口と、森の出口をつくっています

3Dスキャニング技術を用いた曲がり木の家具や、木材の粉を使った木々の色のクレヨン、木の実などを有機溶剤フリーの樹脂で固めた天板など、次々とお話される事例はそれぞれ驚くようなアイデアで、単なる材木ではないかたちで森の資源が使われていることが分かります。

山登りとマウンテンバイクの疲れもなんのその、受講生は松本さんの話に釘付け

事例のアウトプットは本当にさまざまで、それぞれをカタチにするまでは実に大変なのだそうですが、松本さんは、どの事例にも共通している大切なポイントをお話されました。それは、たくさんの人を巻き込むこと。価値を自分たちだけで創り出すのは限界があるので、価値を見出してくれるクリエイターなどを森に連れてくることがポイントになってくるそうです。

都市のクリエイターが森に新しい価値を発見してくれる一方で、森は、都市のクリエイターに新たな視点をもたらしてくれます。都市で加工された木材や、それによってつくられた建物や家具にばかり接している人が山に入ることで、複雑で味わい深い自然への関心が高まることがあるのです。松本さんは都市に住む人がそうした気づきを得て、森についての情報を発信してくれるようになることもうれしいのだとか。

松本さんの講義のあとは、5人ずつぐらいに分かれてのディスカッション。森の教室のまわりの木陰など、それぞれのグループで好きな場所に分かれて話します。ディスカッションのお題は、「松本さんの話を聞いて自分が感じた『嫉妬ポイント』」。

ファシリテーターを務めるやまとわの奥田悠史さんはこう語りかけます。

奥田さん 松本さんからは本当にさまざまな事例について話していただきました。それらの事例の、どこに自分が嫉妬したのかを考えることが結構大事だと思うんです。単純にスゴイ!っていうだけじゃなくて、やられた!って感じるところって、自分がやりたいこととつながっていたりするんですよね。

松本さんは企てる上で、自分の立ち位置が大事だとおっしゃっていました。うらやましいな、悔しいな、と思ったところは、おそらくみなさん一人ひとりの立ち位置に近いところなのではないでしょうか。そういう観点から松本さんのお話を振り返って、さらに聞きたいことをまとめていってください。

仲間の企ても、自分の企てのヒントになったりするから真剣に聞いちゃうのです

ワクワクする事例の数々が自分ごとになっ​​た受講生のディスカッションは真剣そのもの。質問も、建築のどのプロセスに地域材の提案を組み込むのがベストか、とか、地域の人たちと軋轢を生まずに地域外の人を巻き込むコツは、など、具体的な内容ばかり。松本さんはそれぞれにこれまた丁寧に答えてくださり、最後は受講生みんなで「飛騨ツアーをさせてください!」と、自主的なアクションまで芽生えることになったのでした

異質だからこそ企める、仲間がいるから続けられる

続いての講師は、「山学ギルド」の川端俊弘さん手島昭夫さん。山学ギルドは、「山で遊んで山で学ぶ」をテーマに、春夏秋冬、山菜採集・渓流釣り・草木染め・狩猟活動などの遊びを通じて里山で遊び、里山で生活を学んでいこうという団体です。

山学ギルドのメンバーは4人。デザイナーで散弾銃を扱う川端さん、料理人でエアライフルを扱うボブ石川さん、花屋で罠ハンターのアッコさん、そして農家にして猟師の手島さんという、職業もバラバラなメンバーで、サークル的なノリではじめたそうです。

デザイナーである川端さんとYouTuberでもある手島さんが情報を発信し、ボブ石川さんがジビエをおいしく料理、アッコさんは野生動物の角などをアクセサリーにするなど、それぞれが得意なことをいかして里山と都市に住む人をポップにつなぐ活動をされています

仲間とユーモアを大切にしている姿勢が伝わる、山学ギルドの川端俊弘さん

そんな山学ギルドがいまいちばん力を入れているのが、「罠ブラザーズ」。罠ブラザーズのコンセプトは、「同じ罠の肉を食おう!」。4人で1つの罠をシェアするオーナーとしての権利を買うと、狩猟を追体験できるコミュニティに参加でき、罠に獲物がかかったら、そのお肉をブラザーズみんなでいただける、というサービスです。

ネーミングといい、提供される体験といい楽しげなサービスですが、その目的は、獣害対策をめぐって里山が抱える課題の解決にあります。

まず、有害動物の駆除には報奨金を出す自治体もあります。ところが、狩りや罠のためにかかる費用と労力を考えると、報奨金はとても割に合うものではありません。有害動物の被害から農作物を守るための狩猟を持続的にしていく必要があります。

そして、狩猟だけではなく、狩猟を通して里山の暮らし全体を伝えることも大切だと考えたと川端さんは言います。狩猟というと動物を殺しているところにフォーカスされがちですが、毎日動物が罠にかかるわけでもなく、あくまでも農業など里山の暮らしを守るための狩猟なのだという一連のストーリーを、オーナーになってもらうことで知ってもらいたいのだそうです。

手島さんも、そこは丁寧に説明します。

手島さん 僕の場合は特に、動物を殺したいとか狩りをしたいとかでは全然ないんです。里山では、農業もですが、林業も獣害に遭っています。カラマツなどの木を植えても苗が食べられてしまうという、問題があるんですね。

現状の対策としては、どうしてもいわゆる有害動物の数を減らしていかないといけない。動物を捕獲して動物園にして観光客を呼ぶ、みたいなこともあるかもしれませんが、農業もやっている自分としては経済上支障が出るもんだから、やむを得ず動物と対峙しているというところがあります。

仲間から「仙人」と呼ばれるほど狩りを極めている、手島昭夫さん

また、都会に住んでいると知ることのないジビエをめぐる悩ましい課題もありました。

動物を一頭仕留めると、大量の肉が出ます。まずは捕獲した人がおいしいところをいただいて、余った部位を近所の人に配るのですが、それがあまりおいしくない部位だったり、鮮度が落ちていたりすることもあって、田舎では「ジビエはおいしくない」と感じる人が多く、肉が余ってしまいがちなのだそうです。

さらに、有害動物駆除の報奨金をもらうためには写真を撮ったり尻尾を切ったりしないといけないそうで、そうした報告作業の間に風味が落ちる、と。貴重な命を無駄にしないためにも、ジビエに価値を感じる都会の人たちに届けること、そして、料理人であるボブ石川さんの手で余すところなく肉を食材にすることが大事なのだとか。

サークル的なノリではじまったという山学ギルドは、先日なんと株式会社化されたそう。里山の現実について伝えるべき大切なところを大切なままにしながら、都市に住む人たちにポップに伝える。そして、無駄になっていたものをうまく料理したり情報を盛り込んだりすることで価値化する。

川端さんは「反骨精神で株式会社化した」と笑いながらおっしゃっていましたが、そこには、都市を中心に営まれる大量生産大量消費的な経済とはちがう、オルタナティブな経済のあり方を地域からつくっていこうというパンクな精神が感じられました。

驚くような話の数々は、これまでにない思考を生み出す燃料になるんですね

体にも心にも頭にも、もんのすごいボリュームのインプットがあった2日目を、奥田さんはこう締め括りました。

奥田さん ヒダクマの松本さんたちも10人のチームでやっていますし、山学ギルドも4人の個性でひとつの価値をつくっていますよね。一人で考えているとどうしても行き詰まってきますし、できることも限られてきます。なにより仲間は、心が折れそうなときにも支えになってくれます。何かを企てるのも、一人で遂行しようというのではなく、柔軟に人と協力していけるといいですね

2日目の終わり。まだこれからだ!と言わんばかりに受講生を駆り立てるやまとわの奥田さん

そして、明日の最終日に向けて宿題が出されて、2日目のプログラムが終了しました。

奥田さん この2日に学んだことをふまえて、自分が探求したいこと、強い興味を感じることを、考えて、ビジネスアイデアの種みたいなものを明日持ち寄りましょう。

3日目の朝、「嫉妬ポイント」と野望を赤裸々に語る

2日目に感じたこと、学んだものがまだ消化不良なまんま迎えた3日目。「森を企てる」コース午前中の学びの場は、「フォレストコーポレーション」のオフィスにあるホール。フォレストコーポレーションは、信州の木を使った家づくりを進めている会社です。家を建てる前に、その材料となる木が育つ森に施主さんを案内したり、施主さんがもつ森の木を使った家づくりも行っていたりと、森と人とのつながりを大切にされています。

まるで地域材のショールームのような、フォレストコーポレーションのロビー

ホールに入ると、木の香りに混じって、コーヒーの香ばしい香りが。コーヒー好きの受講生の方が、森の環境と農場で働く人に配慮したコーヒー豆を焙煎し、ハンドドリップでみなさんに配っていたのです。

疲れ気味だった3日目の朝をリフレッシュさせてくれた受講生の方によるハンドドリップコーヒー

3日目の「森を企てる」コースのプログラムは、グループにわかれて、昨日のヒダクマや山学ギルドの事例を聞いていて感じた「嫉妬ポイント」と、これからの自分のテーマについて語り合うところからはじまりました。

パノラマ状態で広がる窓越しの木々と淹れたてのコーヒーで醸し出されたくつろぎムードは一変。あちこちでテンション高いトークが繰り広げられ、ホールは熱気に包まれました。

3日目ともなると、企ての先にある野望についてそれぞれが語るように

グループワークが終わると、一人ひとりが宣言に近いようなかたちで、自らの嫉妬ポイントとテーマを発表。

課題にフォーカスするだけではなくて、ワクワクできるつながりをつくっていっているところに嫉妬した。ここに集まっているみなさんと、地域の資源を生かす取り組みをはじめてみたい

山とまちのつながりをつくるという点で、一回来たら終わり、一回買ったら終わりにしないしかけづくりのうまさに嫉妬しました。都会の人をどうやって山に呼び込むのかをテーマにしているのですが、どのような人たちなら魅力を感じてもらえて、リピーターになってもらえるのかをもっと考えてみたい

現場にしっかり向き合いながら、都市にいる人が価値を感じる企画にできている事例の数々に、嫉妬というか、すごいと思わされました。そして、森の仕事というと、林業とか、体力がある人しかできないイメージがあったのですが、森をなんとかしたいという視点さえあればいろんな関わり方ができるのだということに気づかされました

…などなど、一人ひとりの実感がこもった発表が次々と。私自身も、森で何か、新しいことやってみなきゃ! という気持ちにさせられました。

一人ひとりが企てるだけではなく、受講生同士でのコラボも生まれそうな予感

発表のあとは、それぞれが好きなところでお弁当を食べながら、同じ関心ごとなどをもつ人たち同士でコミュニケーションをとるゆるやかな時間となりました。

「森で働く」コースが伐った丸太が目の前で材木に!

午後は、「有賀製材所」さんで、「森で企てる」コースと「森で働く」コースが合流。午前中に森で働くコースの受講生たちが伐り倒したという丸太がドーンと持ち込まれ、材木になり、磨かれるまでの一連の流れが実演されました。製材したてほやほやの材木は水を含んでしっとりしています。生きてるって感じがします

山とともに働く姿勢がマークからもアツく伝わってくる有賀製材所

製材のプロセスがひと目でわかるさまざまな機械をバックに、有賀真人さんが有賀製材所のお仕事について話してくださいました。

有賀製材所は、伊那で3代続く地元の製材所。地元の木にこだわり、製材から建築、施工までも行っています。建築材として扱う木は、7、8割がカラマツとアカマツで、製材する木の8割が自社の建築用、2割が賃引きといって、お客さんが持ち込んだ丸太などの製材となっています。

社員のみなさんを紹介しながら製材について話をしてくださった有賀製材所の有賀真人さん

また、市場を通さず、木こりから直接丸太を調達することも多く、それはウッドショックで丸太の市場価格が高くなっているいまメリットになっているそうです。そして、家を建てる際に「これはどこどこの山の木をうちで製材した材木です」と自信をもって言えるところは、地域の小さな製材所ならでは。いまでは珍しい、天日乾燥による材木にこだわっています。短時間で人工的に乾燥するよりも材木に粘り気が出て耐久性が高まったり、色合いも時間が経つほどにきれいになっていくのだとか。

木は、伐り倒すだけでは広く使えるものにはなりません。山の環境に精通し、地域に密着した製材所の存在が、山を適切に使っていくために大きな役割を果たすのですね。

「森で働くコース」の受講生たちが伐った木が、目の前で材木に!

地域材の難しさを一旦受け止め、楽しく企てる

有賀さんからのお話に続いて、地域材を活用したさまざまな取り組みをプロデュースしている「SHARE WOODS」のヤマサキマサオさんによる講義。

ヤマサキさんの携わっているお仕事は、文字通りさまざま過ぎます。木材全般、と言っていいくらいに。製材や木材の販売、ものづくりのデザインや、リフォーム、マイクロファームがある工房の運営などなど。六甲山のふもとであり、海にも面している神戸を拠点に活動されています。

プライベートではじめたプロジェクトからスタートした、SHARE WOODSヤマサキさんの企て

もともと天然素材を使った塗料の輸入商社に勤めていたヤマサキさんは、環境問題と木の流通への関心が高まり木の世界に。プライベートで間伐材でカホンという楽器をつくるワークショップ「カホンプロジェクト」をはじめます。

農作物や水産物とちがって、木は森から生活者に届くまで時間がかかります。木についての環境や生産現場のことについて、多くの人たちが気軽に話し合えるような雰囲気をつくりたい。カホンプロジェクト立ち上げのきっかけにもなったそんな想いをカタチにするために設立されたのが、SHARE WOODSでした。

SHARE WOODSがまず挑んだ大きな仕事は、六甲山の木を使って神戸市役所の公共スペースをリノベーションするプロジェクト。明治の後半まで禿山だった六甲山は、治水のための植林事業によりアカマツなどの広葉樹が植樹されるようになり、やがてコナラやアラカシといったさまざまな樹が生える森となりました。ところが、防災目的でできた森ということもあり、守らないといけないという意識が強すぎるあまり六甲山の森は十分な手入れがされず、荒れていることが問題となっていました。

そこで、神戸市は、六甲山の森を育て、活かし、楽しむ仕組みをつくるという森林整備戦略を策定。手入れのために伐採された木を使った神戸市役所の公共スペースのリノベーションのコンペが行われました。その材木の調達にあたり、六甲山の木の製材に携わっていたヤマサキさんに白羽の矢が立ちます。コンペにより設計を担当することになった東京の建築士と協力して完成したのは、六甲山材をはじめとする兵庫県産材11種を使ったベンチや天板が並ぶ、バラエティゆたかな木の表情が楽しめる心地よいスペース。

この仕事を皮切りに「ヤマサキさんに相談すればなんとかなる!」という評判がたち、地域材の活用についてのさまざまな仕事が舞い込むように。古材を使った鉛筆づくりや、御神木を使ったベンチづくりなど、地域材をなんとかしたいという依頼の数々に、他にないアイデアとコラボレーションで応え続けています。

ノウハウだけではなく、マインドが大事だと説くヤマサキさん

地域材を使った企てにおいて大切なこととして、ヤマサキさんはまず「一旦受け止める」ことだと言います。最初はそんなの無理だろうと思うことでも、いったん受け止めて、どうにかできないか考える。そして、ビジネスの組み立てにおいては、誰かに皺寄せがいっていないかをよく検証すること。誰かが飛び抜けて儲けようとすると破綻するのだそうです。特に、木を伐る人たちが幸せになることを意識しないといけないと。製材所で働く人たちを前にこうしたお話を聞くと、胸にしみるものがあります。

ヤマサキさんの講義を受けて、「森で企てる」コースと「森で働く」コースそれぞれの受講生たちがいっしょになってグループディスカッション。それぞれのコースでの学びについてシェアしながら、聞いた話をもとに、森をめぐる新たな仕事の可能性について語り合いました。

「働く」と「企てる」両コースの受講生が、それぞれの学びをシェア

もっと学びたい、もう都市に帰りたくない(涙)

実に濃く、しかし爽やかな3日間の学びを終え、振り返り。

自分とは違うコースの人とお話して刺激を受けました。企てるコースと働くチームの人同士が友だちになって、それぞれのアイデアやスキルをシェアして、新しい仕事をつくっていけるようにしたいと思いました。

経済のあり方について考えさせられることが多かったです。社会人になるとなんらかの利益を得ることが目的でコミュニケーションしがちですが、そうではなく、純粋に大切なことについて学び合える関係性ができてよかったです。生きていく上で、自分にも何か新しいことができそうだという勇気をもらいました。

企てるコースで学んでいましたが、働くコースの方のお話などを聞いていて、もっと山の厳しい現実を知った上で企画をしてみたいと思いました。

受講生たちの言葉は、さわやかな緑に染まっていたのでした…

どの受講生の感想も飾り気がなく、まっすぐな言葉が印象に残ります。そう感じたのは、私自身も森の中で真剣に学び合い、語り合う受講生に触れたせいで、普段のひねくれた心が矯正されたからかもしれません(苦笑)

最後に、やまとわの奥田さんがこんな言葉で3日間の学びを締めくくりました。

奥田さん 私はやまとわという会社で林業にも携わっているのですけど、まあ、大変なことは大変です。でも、圧倒的に楽しいです。

林業は大変で、課題がいっぱいある。苦しい仕事だからみんなで助けようね、ではなく、僕らは、本当に山の仕事というのは楽しいということを伝えたい。森っていいものなんだということを伝えたい。こういう価値観を、ここにいる皆さんでシェアしてもらいたいです。ようやく実現できた現地でのカレッジ開催は、フォレストカレッジの協議会のみなさん、そしてスタッフのおかげで無事に初回を終えられました。どうもありがとうございます!

3期目にしてようやく実現した現地開催を支える、運営事務局の榎本浩実さん

森の木々それぞれがユニークな存在として見るようになったり、小さな体験や気づきをアイデアの種として大切にするようになったり…。私自身も、大いに学ばせてもらった現地でのフォレストカレッジ。9月にも行われる予定の現地講座も、カリキュラムを見ただけでゾクゾクするような内容です。森への感度を鈍らせないよう、近所の公園の木々と対話しておこうと思います。

さー、9月の現地講座2もがんばろー!!

(撮影:高橋和馬、奥田悠史)
(編集:福井尚子)

[sponsored by INA VALLEY FOREST COLLEGE]

– INFORMATION –

伊那谷フォレストカレッジの詳細情報を知りたい方はこちらをご覧ください。

●「伊那谷フォレストカレッジ」ウェブサイト
https://forestcollege.net

●「伊那谷フォレストカレッジオンライン」Facebookページ
https://www.facebook.com/groups/695428535074531

祝! green drinks Tokyo 復活!
3/7(火) 「森と関わって生きる」


2020年から3年間に渡って開催された「INA VALLEY FOREST COLLEGE(伊那谷フォレストカレッジ)」。
今回のgreen drinks Tokyoでは、「フォレストカレッジ」を企画運営した株式会社やまとわ/森林ディレクターの奥田悠史さん、プログラム参加をきっかけに伊那へ移住し、現在は市町村向けの森林コンサル事業などに関わっている杉本由起さん、関係人口として赤松を原料にしたシャンプー開発に取り組むフリーライターの黒岩麻衣さんをゲストにお招きします。

詳細はこちら