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恐れではなく平和と愛を原動力に。ソーヤー海が一番ときめいている社会変革のモデル「ガンディーの氷山」って?

ハロー! ソーヤー海だよ。今日もみんなと引き続き「どうすれば、みんなにとって平和で心地よい社会を実現できるのか?」を考えていきたい。

何が変わると平和になるんだろう?
意識?
暮らし?
経済や政治?
みんなは、どう思う?

僕は平和活動や環境運動を20年近く続けているけど、今日は、僕が一番ときめいている社会変革のモデル「ガンディーの氷山」について、紹介したい。

僕のこれまでの活動を振り返って、例えば2001年に米軍によるアフガニスタンの空爆を止めるための反戦運動に参加したときのことを思い出すと、平和な社会をつくりたいのに、軍隊や政治家に対して「あいつらさえいなければ!」っていう怒りや憎しみが生まれてきたり、仲間の間で対立や分裂があったりすることに、すごく違和感と残念さがあったんだ。

それじゃあ自分も疲弊するし、「敵」が変わってるだけで、敵対しない平和な社会になんてならないよね。自分の心のなかの平和を取り戻さないと、社会に対して暴力的・排他的なエネルギーを広げてしまう。

かといって、瞑想とかヨガをして自分の意識を変えるだけだと、いま本当に大変な状況にいる人たち(紛争地帯にいる家族、難民、いじめやDV、貧困、沖縄にいる米軍や自衛隊に被害を受け続けている市民など)を切り離している感じもする。僕はやっぱり、苦しんでいる人たちに思いやりをしっかりもって行動したい。「彼らは彼ら、私は私」という分離の世界観ではなく、みんながつながっている共生の世界観から、すべての命を大切にするような存在になりたい。

そんなときにいろいろなアクティビストの縁を伝って、Chris Moore-Backman(以下、クリス)の”The Gandhian Iceberg”(『ガンディーの氷山』/未邦訳)という本と出合ったんだ。

クリスは、人生を賭けて非暴力を体現したマハトマ・ガンディーの研究者であり、コロンビアで政府軍と反政府軍が殺し合いをしている最前線で、体を張って兵隊の銃と村人の間に立つような非暴力をガチで実践しているアクティビストでもある。その彼が非暴力の実践者を増やすために、その実践法をこの本にまとめているんだ。

クリスによると、ガンディーはインドの独立をじゃなくて、こんなことを目指していたらしい。

1. ヒンドゥー教徒とイスラム教徒の友愛
2. カースト制度の撲滅
3. 女性の地位向上
4. ローカル経済の繁栄
5. アルコールや薬物への依存のない社会
6. 経済的な平等
7. 非暴力

残念ながらどれもいまだに実現していない崇高な目的だけど、僕は、ガンディーやサティシュ・クマール、そして名前が知られていない多くの平和活動家たちから、非暴力のバトンを受け取ったからには、これからも自分の人生を平和な社会を育てていくために尽したいと思ってる。

さて「ガンディーの氷山」は、クリスがガンディーの取り組んできたことをモデルに表したもので、次の3つの要素がある。

[1] 非暴力・非服従
[2] 建設的なプログラム(日々の生活で理想を体現すること)
[3] 自己浄化(自分の意識を根源から変えること)

この3つは氷山の形に表されて、[1] は船の上から見える氷山のほんの一角、[2]は海面の上の氷山の大部分、[3]は海面の下にある氷山の巨大な部分にあたる。


© Elie Tanabe

クリスによると、[1][2][3]はすべてつながっていて、ガンディーと言うと「塩の行進」([1])が有名だけど、そんな大きなアクションの土台には[2]や[3]がある、というわけ。華やかなアクション([1])は、大手メディアが取り上げたり、歴史の教科書に載ったりするけど、ニュースにならない地道な日々の実践([2][3])が社会変革の大部分であって、社会の不条理に対するアクション(デモとか=[1])のパワーになるんだ。

このモデルの魅力のひとつは、社会が根本的に変わるために必要な全体性を捉えている感じがするところ(インテグラル・ノンバイオレンスと呼ぶ)。自分の意識([3])と、日々の暮らしや身近なコミュニティ([2])と、社会システム([1]s=政治、経済、法律、学校教育)は影響し合っていて、互いに切り離せない重要なレイヤーなんだよね。だから全体を同時に扱うことにで、根源的な変容の可能性が芽生えてくる。

ちなみに平和活動家のジョアンナ・メイシーも同じようなモデルを唱えていて、こんなふうに表現している。

<1> 待ったをかける(地球上の生命を守るために行動する)
<2> 生命持続型の仕組みをつくる(新しい経済、社会システムを開発する)
<3> 意識を変える(私たちの感じ方、考え方、価値観を変化させる)

ジョアンナメーシーと平和活動家の仲間たち

もうひとつの魅力は、それぞれのレイヤーへの取り組みに必要な時間とエネルギーの大きさの比重が表されていること。

ガンディーが一番強調していた非暴力の実践は、自己浄化([3])。その次が、理想の暮らしやコミュニティの創造([2])。そして、重要だけど[3]と[2]がしっかりないと実現しないのが、暴力的な構造に対する揺るがない愛あるアクション「サティアグラハ」([1])。

例えばガンディーは、チャルカ(インドの糸紡ぎ車)を回しながらみんなでマントラを唱えたり、ヒンドゥー教の経典を深く読む時間や瞑想の時間をつくったり([3])、自分たちが理想とする平和な社会を実現するためにアシュラム(トレーニング場)をつくったりしていた([2])。

確かに社会運動をしていると、やっぱり外側を変える([1])のほうが中心になりがちで、それだと自分の生活はボロボロになって燃え尽きやすいんだよね。しかも、結果が出ないばかりか悪化する一方だし(中東の戦争や気候危機など)、もしかしたら僕が生きている間に望んでいる結果が出ないかもしれない。そんな状況に僕も仲間たちも何度も絶望を味わってきた。

だけどいまは、ある結果や「成功」を求めるのではなく、日々どれだけ非暴力に忠実であれるかに取り組むこと(できてない自分を受け入れることも含めて)が大切だと思ってる。非暴力はあり方。ここで大事なのは、自分の心を癒すこと、そして自分のなかにある内在化された「抑圧」を解いていくこと([3])。


© Elie Tanabe

そのために僕は、生活に余裕をもたせて、静かな時間を取って、マインドフルネスの瞑想や非暴力コミュニケーションを通して、自分の心の内側を観察して、勝ち負けや優劣とか、いろいろな暴力や苦しみのタネをしっかり見つけて、地道に変えている。活動(doing)の時間を減らして、あり方(being)を整えるための日々の実践をどんどん増やしている。

それから、理想の暮らしやコミュニティをつくる([2])ために、畑をして、子どもと過ごす時間をしっかりとって、娘を抑圧しない非暴力の子育てに取り組んで、「パーマカルチャーと平和道場」(僕なりのガンディーアシュラム)をつくったりしてなるべく自然の環境にいる時間を増やして、価値観と生活を統合している。地域の人とつながって、お互いを支え合えるコミュニティづくりを(ローカル経済とか)、グリーンズの鈴木菜央さんと取り組んでいる。


ソーヤー海と鈴木菜央が「パーマカルチャーと平和道場」から配信しているYouTubeより

[1]はまだ準備中だけど、世界中でデモに参加してきて、特に2011年の原発事故後は頻繁にデモに関わっていた。毎週のように多くの人が各地でデモや活動した結果、原発の再稼働に歯止めがかかり、規制も多少厳しくなった実感がある。ただ、本当に人生を賭けられるアクション=暴力的な仕組みやシステムを変える方法やチャンスは、まだ探している段階かな。

ちなみにガンディーは「塩の行進」を実行するまでに、78人のデモの核となる仲間と15年間毎日ずっとトレーニングしたんだって! しかもそれでも早すぎたってガンディーは反省していたらしい。そんな感じで[3]はとっても準備の時間がかかるけど、だからこそ僕は逆に焦りがなくなって、ものすごく先の結果のためにいま自分は何に取り組めるか、という考えに変わったんだ。そして、だからこそ日々真剣に平和を生きようと思うようになった。まさに僕が好きな言葉のひとつ、「平和への道はない、平和こそが道だから」だね。

クリスの本のなかでも強調されているけど、この「手段と目的の一致」はガンディーの非暴力の根源にある考え方なんだ。例えば、「平和のためにロシアをつぶす!」では平和になんてならないよね。あり方と手段は一致している必要がある。自分が望んでいる世界は、望んでいるのと違うやり方では、つくることはできないとガンディーは唱えていた。

Public Domain via flickr

ところで、「平和」と「非暴力」って似ているようだけど考え方が違うんだ。非暴力とは何かと言うと……

{1} 僕が教わっている非暴力コミュニケーションの先生の定義では、心のなかに「敵」がいない(=つまり「無敵」)状態
{2} サンスクリット語の「アヒムサー、アヒンサー/非暴力(Ahimsa)」は、人の心から暴力が鎮まった(subside)ときに現れる、愛の状態
{3} 愛に動かされること

{2}を補足すると、外から得るのではなく、自分のなかにつねに存在している状態で、普段は何か(痛みから生まれたバリア)に覆われていて気づかないかもしれないけど、それを取り除くだけで自然と現れるんだ。これが僕たちの本質であり、単に誰かを愛したりするのではなく、愛そのものになること、なんだって。

もうひとつ、ガンディーが強調していたのは、平和な社会を実現するためには、暴力や抑圧に協力することをやめることが重要だということ。たとえ、それで生活が不便になったり、まわりから批判されたり、厳しい罰を受けることになっても。人を搾取したり、環境を破壊したり、戦争をするためには、多くの人の協力が必要なんだ。権力者にしたがうことも、おかしいことを黙認することも、暴力と抑圧を持続可能にする協力のかたちなんだよね。だから、ガンディーは非服従に取り組み続けた。

まとめると、僕が変えたいのは症状ではなく根源的な問題。暴力的な競争も、善悪も、人の価値を数値化(テストの点数、給料、家や土地の広さ……)することも、すべて植え付けられた世界観で、分断と苦しみが継続するだけ。根源が変わらない限り「正しさ」の押し付け合いになって、平和な社会は実現しないし、自分の心も平和にならない。

じゃあ実際に何から始めたらいいの? という人には、こういう実践はどうかな?

#1 瞑想、ヨガ、非暴力コミュニケーション、日々の小さなやさしさの行為とかに取り組んで、自分の心とつながって見つめる時間をとる
#2 畑を実践して自給率を上げたり、地域経済を育んだりして、自分が望む世界をつくり始める
#3 自分の心が動いたときに、暴力、いじめ、破壊に対して「待ったをかける」

恐れではなく平和と愛を原動力に。
自分の心と、日々の生活と、世の中で起きている悲劇的な出来事に、どう向き合うか。

そして、成功するかどうかにかかわらず、やることに意味があるということ。そうして小さな平和の炎を灯し、広め続ける。この冒険をみんなとやりたい。

(編集: 岡澤浩太郎)
(編集協力: スズキコウタ)
(イラスト: Elie Tanabe

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