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エネルギーのことを遠い世界の話にしない。生活者の目線に立つ生団連が目指すのは、エネルギーについて自由に議論できる未来

2022年3月22日、東京電力と東北電力の管内で、2012年に警報制度が制定されて以来、初めての「電力ひっ迫警報」が発令されました。直前に東北で大地震があり、複数の火力発電所が停止していたこと、急激な寒波が到来したことなど、複数の条件が重なったことが原因だと言われています。

現代の日本では、電気が使える生活は当たり前です。でもそれは「電気に依存した暮らし」ともいえるのかもしれません。ひとたび停電が起こってしまえば、たちまち成立しなくなる危うい生活。そのことを実感し、暮らしとエネルギーの関係を見つめ直した人も多かったのではないでしょうか。

本連載のキックオフ記事でもご紹介したとおり、「国民の生活・生命を守る」ことを目的に、企業・団体・消費者が一体となって活動している「国民生活産業・消費者団体連合会(以下、生団連)」は、5つの重点活動のひとつに「エネルギー・原発問題」を掲げています。ただ、団体のちょっぴり堅苦しい正式名称を前に、実際には何をやっているのだろうと想像できない人も多いかもしれません。

そこで、生団連事務局の「エネルギー・原発問題」委員会担当、小坂有以さん室井脩平さんに、どのような活動を行なっているのか、もう少し詳しく伺いました。見えてきたのは、シンプルだけれどもとても大切な「対話と議論の土台づくり」とでもいうべき活動の数々です。

(記事の最後に感想フォームをご用意しました。あなたの声をぜひ届けてください。)

小坂有以(こさか・ゆい)
生団連事務局、業務部マネージャー。「エネルギー・原発問題」委員会担当。東京海洋大学海洋生命学部卒業後、2008年イオンリテール株式会社入社。イオンリテール店舗水産担当の経験を経て2014年よりイオン本社勤務し、2021年4月から生団連事務局へ出向中。趣味は絵を描くことで、年に1回の個展開催に向けて作品制作を行っている。
室井脩平(むろい・しゅうへい)
生団連事務局、業務部マネージャー。「エネルギー・原発問題」委員会担当。一橋大学卒業後、2016年株式会社髙島屋に入社し、日本橋店の婦人靴売場、婦人洋品売場での仕入・販売・催事企画などに携わる。2021年3月より生団連事務局へ出向し「エネルギー・原発問題」に関する調査・研究・提言活動を行っている。趣味はカメラ・写真。一眼レフカメラを手に街にくり出す日々を送る。

原発をタブー視せず、議論していくために

小坂有以さん(左)と室井脩平さん(右)

東日本大震災、および福島第一原発事故をきっかけに発足した生団連が、重点活動のひとつに「エネルギー・原発問題」を掲げたのは、ごく自然な成り行きでした。

小坂さん 原発事故以前、原子力発電は、日本における総発電量の20%以上を占めていました。ところが、事故をきっかけに全国の原発が停止したあと、原発を巡る議論がタブー視されてしまったがために、長期的な政策が示されないままになっているんです。

これについては、2011年12月2日の団体設立時から指摘されていました。本来なら、原発を長期的視野に立って活用し続けていくのか、縮小もしくはやめていくのかが明確にされない限り、エネルギー政策全体も決めようがないはずなのに、先延ばしにされ続けているんですね。

加えて、気候変動への対策として石炭・石油の利用をやめ、電気をエネルギーの主軸にしていくというのが、世界的な潮流です。そうなれば、電力の需要は必然的に増えていきます。つまり、供給の安定性を欠いたまま、需要だけが増えていっているのです。

小坂さん それが近年、真夏や真冬に電力がひっ迫して、節電の呼びかけがされるようになってきた理由のひとつです。すでに、安定供給がままならない事態に陥りつつあるということなんです。

「生活を守る」ことを前提に置いたとき、こうした電力供給の不安定さと先の見えなさは、切実な問題です。だからこそ、原発問題も含め議論をしていく必要があると生団連は考えています。

生団連のウェブサイト。過去に出したさまざまな資料や提言なども閲覧できる

小坂さん 生団連は、原発がいいか悪いかという議論がしたいのではありません。原発をかつてのように電力供給の主戦力とするのが難しいならどうするべきなのか、その議論が必要だと考えているんです。それに、脱原発しようがしまいが、放射性廃棄物はすでに存在しています。本来ならこうした問題から目を背けず、真っ向から議論しなければいけないのですが、今はそれができていないということが大きな課題意識としてあるんです。

では、いったいどうすれば議論を始めることができるのでしょうか。

室井さん いきなり「原発に関して議論をしましょう」と言われても難しいということは、多くの人が感じているところだと思います。そこでまずは、事実関係をしっかり知るところから始めるのがいいのではないかと思いました。今、原発がどれぐらいの電力を供給していて、一方で、そこにはどんな問題があるのかを整理することにしたんです。

そこで生団連が長年行なっているのが、新聞やメディアのチェックに始まり、専門家へのヒアリング、企業の見学や取材など、エネルギー・原発問題に関するデータや情報の収集です。さらに、こうした知見やデータを数年間かけてまとめたのが2020年12月に発行した「原発問題『ファクト』集」です。

データや情報を集めて議論の土台をつくる

このファクト集、生団連のホームページで閲覧・ダウンロードできるのでぜひ読んでいただきたいのですが、団体の見解や主義・主張は一切なく、原発や電力に関する事実(ファクト)のみを掲載した内容になっています。

私は、比較的エネルギー問題への関心が高く、情報も収集しているほうだと思いますが、それでも知らなかった事実や細部に関する誤った認識があったことに気づかされました。

たとえば、昨年話題になったALPS処理水の海洋放出の問題。処理水のトリチウムの濃度は規制基準の1/40(すでに排出しているサブドレンの排水濃度と同レベル)まで希釈すること、総量も事故前の管理目標値である年間22兆ベクレルを下回る水準にすることが定められています。処理水の保管容量の限界が間近に迫っていること、過去に行われた対策による改善、さまざまな処分方法が検討された結果、なぜ海洋放出が選択されたのかについても、詳しく記載されています。

もちろん、海洋放出という行為そのものの是非、ルール自体の正当性については、別途、議論の余地はあるでしょう。でも、現時点での情報と事実を、色眼鏡を通さず正しく理解したうえで議論していくことは大切なのではないかと思いました。

室井さん ファクトだけに特化した資料だと、みなさんの関心が高い新たなファクトを追加していけるというのが、強みだと思います。ALPS処理水については、2021年4月に処理水の放出が決定したことで社会の関心が高まったため、改訂時に追記することになったんです。

そのほか、政府や行政に向けての提言や要望書なども提出しています。こちらも、集めた情報やデータを活用することで説得力のある内容になっています。

2020年12月に政府に提出した「エネルギー政策に対する提言」では、現在、国の「第6次エネルギー基本計画」で掲げられている2030年度目標について、原子力発電の割合が20~22%という数値は、現在の原発の稼働状況や稼働年数から試算してそもそも不可能ではないか、という指摘がされています。

つまり、賛成・反対を検討するまでもなく、この目標はすでに達成不可能、ということがデータから見えてくるのです。そうなれば、議論の前提自体が大きく変わってきますよね。ちゃんと調べてデータで示すことの大切さを痛感しました。

専門家ではないからこそ説明もわかりやすくなる

とはいっても、エネルギー問題は大規模だし複雑だし「よくわからない」「決められない」と敬遠したくなる気持ちもわかります。「難しい資料は読んでいると眠くなる」という人もいるのではないでしょうか。でもご安心を。じつはこのファクト集、おそらくみなさんが思っている以上に、ものすごく読みやすいのです。

室井さん そもそも、私たちがエネルギーの専門家ではないので、必然的に説明もわかりやすくなるというのは、生団連の特徴かもしれないですね。

小坂さん ファクト集は2021年に改定しているのですが、出向してきたばかりの私たちが素人目線で読み「この表は難しいね」「この文章はわかりにくい」といったことを話し合って、少しでも読みやすいようにさらに工夫をしました。

じつは、今でこそ強い課題意識をもっている小坂さんと室井さんも、生団連にくるまでは、能動的にエネルギー問題に取り組んだことはなかったそうです。

室井さん もともとエネルギー問題や環境問題に対する関心自体はありました。でもエネルギーについては、国レベルでどうしていくのかという高い視座の話が多く、個人の生活の中では持ち得ない視点だと思っていたんです。ただ、実際に生団連にきて勉強してみたら、確かに視座は高いんですけれども、それを実現していくためには、まず個人レベルでやれることをやっていくしかないんだということも実感したんです。

小坂さん 私はエネルギーへの関心自体、あまりありませんでした(笑) 最初は戸惑いましたが、きっと多くの人も私と一緒だろうと思ったので、どういうふうに多くの人の自分ごとに近づけられるのかを大切にして活動しています。

スタッフが同じ目線にいるからこそフル活用される「翻訳力」と「共感力」が、まさに生団連の魅力ではないかと思います。エネルギー問題に詳しくなかったというおふたりが、今では多くの学びを得て、自分の言葉で語っている。エネルギーというのは、どんな人の生活にも関わる問題であり、自分ごととなれば必ず興味がもてるものだということを、おふたりが証明しているように感じました。

中立の立場であることを心がける

生団連としてもうひとつ心掛けているのは「ひとつの立場に偏らず、中立的な資料にすること」だと言います。それは、答えを出すのは組織ではなくひとりひとりだという思いがあるからです。

室井さん メリットとデメリットの両方を示すことは意識して大事にしています。

お互いに主張だけをしていると、議論はなかなか前に進まない。こういったメリットがあるけれども、デメリットについてはどう考えるのか。あるいは、デメリットがあるからやるべきではないと思っている人も、メリットがわかれば別の考え方が生まれるかもしれない。私たちの役割は、そのための情報を示すことです。そのうえで、ひとりひとりに考えてもらいたいと思っています。

これからのカギは、エネルギーの「地産地消」

あくまで中立であることを大切にしている生団連ですが、おふたりがさまざまな取材や調査をする中で感じている「エネルギーの未来」はどんなものなのか、気になるところです。

小坂さん 私たちが最近注目しているのは、原発か再エネかという話よりも、大規模か小規模かという「規模の重要性」です。遠くで大規模に発電し、大消費地に運んでくるというのがこれまでの日本の電力のあり方でした。その効率的なシステムの最たるものが原発だったと思います。一気に発電して一気に運んでしまえば、相対的には価格が抑えられることは確かです。

でも、そのシステムのまま再エネを増やしていくと、大量の電力を供給するために大規模な開発がなされ、一部では環境破壊の懸念も生じてしまいます。

だから規模をもう少し小さくすることと、太陽光、小水力、バイオマス、地熱など、その土地にもともとある資源を上手に利用して発電していくこと、つまりエネルギーの「地産地消」がカギになってくるのではないかと個人的には思っています。

再エネの中だけを見ても問題になるのは、やはり「規模」だと言います。メガソーラー発電所の建設に伴う環境破壊の問題は、環境にいいはずのものが環境を壊しているという、大きな矛盾をはらんでいます。

小坂さん これはきっと、享受しているものの上流が見えていないということなんじゃないかと思います。遠くでどういうことが起きているのかを知り、メリットとデメリットをしっかり理解したうえで使っていくことが大切なのではないでしょうか。

ただし、規模を小さくしていった場合の懸念は、東京などの大消費地で使う電力をどのように地産地消するのかという点だそう。

小坂さん エネルギーの地産地消がなかなか進まないのは、資源と技術はあっても、大規模発電に比べれば、どうしてもコストが高くなってしまうから。でも今は環境問題や気候変動といった価格とは違うバリューが生まれようとしていますよね。それを需要側がどこまで受け入れるのかという問題になりつつあると思います。

生活者の目線からすれば、価格の高騰は厳しい側面もあります。「国民の生活・生命を守る」という生団連の目的においては、生活していくうえで価格が抑えられていることも、とても大切なことなんです。だけどやっぱり、日本や地球の未来を考えたらそれでいいのだろうかという疑問は残る。難しいですね。これは、すぐには答えが出せない問題ですけど、一緒に考えていきたいです。

生団連のフィルターを通して、遠い世界を近づける

今回、グリーンズとパートナーになったのは、ファクト集の作成や提言の提出を経て、さまざまな立場や考え方の人と対話する土台ができたと思ったから。ネクストステップとして、会員企業や団体に限らず、幅広い人々と情報を共有し、議論を行なっていきたいと考えたのだそうです。

小坂さん greenz.jpの読者は、問題意識をしっかりもたれている方だったり、記事も読み込まれている方が多いように感じました。まずはそういったメディアから発信していくことで、記事を読まれた方にとって新しい角度からの視点を提供することに貢献できたらいいなという期待があります。それとじつは今回、生団連に加盟する企業・団体の会員の方々に、連載だけでなくイベントもやっていくとお伝えしたらものすごく喜んでくれたんですね。さまざまな世代の方の考えを直接聞けることはなかなかないので、みなさん、とても楽しみにしています。

室井さん その場での対話にも価値を感じていますが、生団連の企業や消費者団体の方と意見を交換することによる新たな展開についても期待しています。greenz.jpの読者の考えを聞くことで企業や消費者団体は新たな発見があるかもしれないし、その逆のパターンもあるかもしれません。そういった相乗効果で、お互いの道がちょっとでも変わるようなイベントにしたいなと思います。

連載記事でも、最新のエネルギー事情から新しい暮らし方まで、現在のエネルギーに関する話題について、さまざまな角度から紹介していきたいそう。

小坂さん 先日、福岡県糸島市にある「糸島シェアハウス」の取材に同行させていただきました。糸島シェアハウスのことは以前に記事を読んで知っていましたが、正直「遠い世界の暮らし」だと感じていました。

でも実際にお話を聞いていると、思ったより気軽に始められていたんですね。自分たちの生活のためにクオリティを気にしすぎずに何でも自分たちでつくっていくと、スキルも自然と身についていくんだと話されていました。

我々がそういう生活を選ばないのは、ハードルを高く感じすぎているから。でも、そんなに難しく考えなくてもいいんだなと思うようになりました。この間も、まずは太陽光パネルを買ってタブレットを充電するところから始めてみようかと室井と話していたところです。

私は、この連載で紹介する事例が、遠い世界の話に見えたら意味がないと思っています。生団連のフィルターを通すことで、遠い世界をいかに近づけて、いかに接点をつくることができるか。「すごいけど私には無理」ではなく「これいいかも」「これだったらやりたいかも」と感じてもらえる連載にしていきたいと思います。

等身大であることと中立であることを大切に、コツコツとエネルギー問題に取り組んできた生団連。その積み重ねの先にある視野の広がりには、どんな意見の人でもどんな立場の人でも受け入れて対話してくれるという安心感があります。

もしも記事を読み、ただ情報を受け取るだけでなく、対話がしたい、行動したいと思ったら、ぜひ開催予定のイベントにご参加を。企業や団体、そして生活者である私たちが集まった多様性あふれる場は、エネルギーの未来をともに考える、楽しく前向きな場になっていくはずです。

– INFORMATION –

2月18日(土)開催
わたしたちの暮らしを守るエネルギーミニカンファレンス


これまで連載に登場いただいた、「ソーラーシェアリング」「地熱発電」「オフグリッド」「自給自足」といった分野の最前線で活躍される方々をお招きし、エネルギー社会のより良いあり方を考えるカンファレンスを開催します。
当日はテーマごとのトークセッションの他にも、参加者も交えながらのワークショップも実施。「暮らし×エネルギー」について学びながら、一緒に新しいアイデアを発想しましょう!

詳細はこちら

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(編集: 増村江利子)
(撮影: 関口佳代)

[sponsored by 国民生活産業・消費者団体連合会]