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アフターコロナのまちづくりはキノマチしかない! 公共空間からDIYまで、木の循環を生かしたまちづくりの担い手を増やしていくためには?

新型コロナウイルスの流行によって、わたしたちは新しい生活様式を心がけるようになりました。

人々が集うこと、移動すること、分かち合うこと。今まで社会でよしとされてきたものが安心安全を脅かすことになったのです。みなさん、立ち止まり戸惑ったことでしょう。

しかし、そんな新世界でも変わらなかったこともあります。

公園をはじめとしたパブリック(公共空間)のなかに身を置く気持ちよさ。家にいる時間が増えたことで身の回りの環境を自らの手で良くする楽しさ。ワークバランスを自分の幸せを基準に考える大切さ。

コロナ以後も、地方のみならず都市に住むひとたちもそんな生きかたをより求めるようになってきました。

そのような“変わらなかった価値観”につながるのが「キノマチ」的な考えかたです。そこで、『アフターコロナのまちづくりはキノマチしかない!公共空間からDIYまで、木の循環を生かしたまちづくりの担い手を増やしていくためには?』と題して、新しいまちづくりの文脈から、キノマチの可能性について、このお三方にお話を伺いました。

左から、つみき設計施工社河野直さん竹中工務店の設計部・松岡正明さん、竹中工務店のまちづくり戦略室・高浜洋平さんです。

個人、建物、まち。ミクロからマクロとフィールドを分かち合うお三方の交点は「キノマチ」。短パンとYシャツのコントラストがイノベーションでしかない3人が、つながることで見えたものを惜しみなく語って下さいました。

つくっているのは建物じゃない、キノマチのコミュニティだ

3人が集ったところは東京の江東区東陽町にある「汐浜テラス」。区内屈指のビジネス街から徒歩5分のところにある、水辺をオープンエアで楽しめるウッドデッキテラスです。

ここは、高浜さんが竹中工務店のおとなりさん企業の(株)IHI、スカパーJSA(株)に声をかけ、デザインは竹中工務店設計部、施工はウッディワールド(株)、そしてカフェの出店は地域のつながりで深川の焼き鳥名店の「アポロ」、管理は地元町会・企業を中心とした「運河ルネッサンス協議会」にお願いし、さまざまなプレイヤーをつなげて実現することができた場所です。

海に近い運河だからか潮を感じる風が気持ちいいテラス。高浜さんは「元々ここはサボリーマンの聖地だったので本当は教えたくなかった(笑)」といいつつ、出来栄えににっこり

高浜さんが江東区の水辺にコミュニティの力で場をつくったのはこれでふたつ目。ひとつめは門前仲町に川沿いの景色や桜並木を堪能できる「深川川床」です。この事例が、新しいまちづくりの可能性を感じるキノマチ的なまちづくりなのです。

高浜さん 江東区の湾岸は木場(深川)や新木場など江戸時代に木材を大量に供給していた卸問屋のまちでした。けれど、いま木場へ行っても昔の面影がなくなりました。そんなこのまちにキノマチを復活できないかなと。

そして、川床の木は荒川でつながる上流の木材のまち埼玉県小川町の木を使っています。一度、断ち切れた上流と下流のまちのつながりをまたつなぎ直していくことで「深川川床」を復活させることができました。

都会はコンクリートだらけで余白がなく殺伐として、人が暮らすには息苦しい。けれど、よくよく見回してみると川沿いには緑はあって、江東区は川が多く30kmの水辺を持っているんです。しかしいまその水辺のほとんどが閉鎖されています。

深川川床の周囲もこのように閉鎖され、水辺に人が立ち入れないようになっている。すばらしい枝なりの桜がうわっているのに!

高浜さん そういう場所をコミュニティの力で開いていけば、さまざまな社会問題が解決していく気もしています。

竹中工務店というリソースを活かして地方自治体と協定を結び、民間のプレイヤーたちとプロジェクトを構築する。この動きこそがキノマチプロジェクトが目指しているそのものだなと思っています。

河野さん 竹中工務店さんがそこまで考えてまちづくりに携わっていること自体がびっくりしました。

高浜さん 森と都市の関係を回復させるためには、かつて江戸の街を川の上流域の森からつくってきた川の軸や時間軸を、改めてつなぎ直すことが大事だと考えました。

外は暑いので(取材当時8月)竹中工務店の会議室へ戻りました。水辺から徒歩5分

高浜さん また都心の課題としては、道路・公園・水辺など公共空間をもっと開いていくことがあると感じています。密を避ける新しい生活様式を東京で実践していくためにはもっとパブリックを開くこと。そうすれば東京はいまの1.5倍くらい豊かなまちになるんじゃないの? って思っています。

松岡さん 今まで公共空間といえば最大公約数的にみんなの利害が重なった部分をかたちにして、個性を排除していくようなつくりかたがずっと続いてきたと思います。以前、僕は公園を立体化した高層建築を提案しました。

松岡さんがコンペ向けに設計した未来のキノマチ事例・次世代高層建築「Smart Obelisque

松岡さん いま、公共空間に求められているのは色々な意思が集まる場所。1+1が3になるような空間が必要で、そこにはこころの拠り所になるようなまちのシルエットとしての具体的な「かたち」がいるんじゃないかと思いました。

かたちってなにで決まるの?というと、その時代に沿った技術と素材の関係なんです。パリのエッフェル塔は鉄が大量に使われるようになった時代に建てられたもので、当時「あんなものを建てて」って批判されたわけです。

しかしいまではパリを代表するシンボルになっている。具体的な「かたち」をもった公共空間がもたらすまちのシルエットと、それが人々の心象風景の一部になる時間軸をもう1度考え直してもいいんじゃないかと個人的に思っています。

僕らは、駅や公園とか、大きなビルとか、みんなで使うところは、木に可能性があるという思いはベースにあるし、コロナでそういう風潮は一気に強まってきています。今の時代、技術と素材の関係において木は大変注目を集めていると思います。

松岡さんは2013年竹中工務店入社。高浜さんとは同じ会社にいながら本日が初対面のおふたり

「ワザワザ」交換して分かち合う。その理を木の循環に生かせたら

高浜さん これからの公共施設は、勝手に誰かが大きいものをつくってくれるという他人ごとの考えかたではなく、まちのものは、みんなで考えてつくると決めていくことがさまざまな復権につながっていくんだと思います。

たとえば長野県の下條村は新しい公共事業の先進地域で、村民に資材を支給して、農道や林道などの小規模な工事を村民自身に依頼するんです。公共空間はすべて自分でつくるみたいな方向で、ちいさな地方のまちでありながら財政の健全化が進んでいます。移住者も多くて、税金が安いんです。

そうするとDIYが生きていくためのライフラインにつながって、パブリックになっていく。そこで暮らすみんなが思う、色や素材、地元のものが公共空間を満たしていくんです。公共空間に地域性が備わっていく。さらに地域の誇りにつながっていきます。

日本中のキノマチ事例を、社会課題を解決する活路として見出し、木のプレイヤーと関わりあいを深めている高浜さん。竹中工務店でも稀有な存在

松岡さん たとえば、DIYで隣近所同士で、ドアをつけてあげたから、床をひいてくれない? とか、「技術の貨幣」のようなそういう技術と技術を交換できないですかね。物々交換のような。わざの交換?

高浜さん キノマチが目指すところはそこのような気がしていて、売買関係ではなく、コミュニティや生態系のようなやりとり。さまざまな役割を持つひとたちが助け合うことで、金銭が発生してなくても、ものが生まれていく。

お互いの利害が一致したところで持ち合わせたものを交換して木が循環していけば。そういう世界の理のようなものを木の流通にもなじませていけたらと良い社会になるなぁと。

「深川川床」のウッドデッキに使用する木を伐採する際に、川下の東京都深川と川上の埼玉県小川町が一緒に儀式を行った

キノマチをつくるには、コミュニティで“波紋的”に技術を学ぶことが大切

河野さん 「つくる」ということには必ず「学ぶ」ことも伴います。それもコミュニティをつくるキーワードになっているはず。また「学ぶ」世界観のなかでは、学ぶという行為の在りかたが変わっています。

今までは棟梁から弟子へなど直線的な教育でした。でも、つくることが生活に入ってきたコミュニティにおける学びは、もっと波紋的な在りかたになります。

僕は南房総で築100年以上の古民家などをDIYで断熱しようというワークショップに4年くらい関わらせていただいています。

1年目にワークショップに来てくれたかたのなかで、二拠点暮らしをしているひとたちが中心となってコミュニティを形成していって、結果、毎週のように各家をキャラバンのように回ってDIYを行っていたんです。僕らは彼らを「DIYマフィア」って呼んでたんですけど(笑)

1年目は僕や大工さんが技術を教えるワークショップでしたが、2年目からは1年目の参加者にも講師になっていただきました。職業における技術伝達とは全く違うかたちで技術が広がっていくのを目の当たりにしたんです。

断熱ワークショップの様子

河野さん もちろん、直線的・旧来的な技術伝達を否定するわけじゃなくて、コミュニティの中で波紋の様に広がる学びや伝達を両方認めることで正しく世界を捉えやすくなるのではないかなと思うんです。

松岡さん 私も3年前、いま急速に発展しつつあるコンピューテーショナルデザインやデジタルファブリケーションといった革新的技術と伝統的な木造建築技術の融合をテーマにしたワークショップを行ったんです。

竹中大工道具館で行われたAAスクールワークショップ。海外のかたと一緒にものをつくると固定観念に縛られていないみなさんから「こうしたほうがいいのでは?」と率直な意見を得られる、と松岡さん

松岡さん このワークショップで、協力していただいた大工の方が「長年、技を盗めといわれてやってきた結果、技術が伝わりにくくなってしまった」とおっしゃっていました。普通のひとに伝統技術といってしまうと、すごく敷居があがります。一方、伝統的な技術が先細りしていくなか、先進的な技術はどんどん先に進んでいきます。

我々、設計者にとっても伝統的なものと先進的なものを橋渡しすることは重要な課題です。

そして、私はものづくりから遠く離れた現代社会のひとたちが、ふつうのひとがまちのシルエットに関わるにはどうしたらいいのか。ヒントは「道具」じゃないか思いました。

河野さん めちゃめちゃ共感します!

日本の木を加工して身の回りの暮らしに役立てるというのは生活を豊かに変換するための「つくる」技術であり、誰のものでもありません。

そこをどうやって開くかのコツは間違いなく「道具」だと思っていて、道具はある日突然生まれたものではなく、僕らが自然やものと向き合ったときに、何回も何回も試行錯誤を繰り返した結果、できたものだと思います。例えばノコギリですよね。

道具にはものすごいヒントが秘められていて、それを知ることは自然を理解することだし、ひとの生活を理解することでもあります。

道具というキーワードに、水を得た魚のようにキラキラ輝きはじめた河野さん。

河野さん そして竹中工務店はひとりの棟梁からはじまった会社なんですよね。その頃の大工さんって今よりもう少し、まちのひとに寄り添っているような人間像だったと想像します。

住宅や建物がたくさん必要になったタイミングに、各分野の専業化が進んで、大工は大工の仕事だけすればいいし、設計者は設計だけ。同じようなものを早くたくさんつくる重層構造的な社会システムになりました。その結果、我々の生活から離れた存在になったなと思います。

専業化が進んだ結果、分化された技術というものが自分たちだけができるものだとか、自分たちだけのものだとか、自分たちの仕事を仕事たらしめるツールだと勘違いしてしまったんじゃないかと思うんですね。

同じ社会に暮らしている私たちが、違う職業を名乗り別れていった結果、技術も、ひともそれぞれに細分化され閉じたことによって、いまこの社会の状況になってしまったんじゃないかと。誰がなにやったっていいし、誰が学んでもいい。DIYも大工仕事も、技術はひとつなんです。そこをつなげるのが道具であって、ノコギリを持てばみんな木を切ることができるんです。

一歩踏み出してみることで見える世界が広がるじゃないですか。自分に関係のないことはやらなくていい、みたいな自分の在りかたがいまさまざまな場所で分断を生んでいます。

山から木を伐りだして、木を流通させる林業のひとたちって、まちなかに住んでいるひとにとっては関係ないと思うでしょう。でも、キノマチが目指すものや、森林グランドサイクルの文脈においては、同じ生態系にいる我々みんなプレイヤーなんです。

DIYをすることで、ふたつの大事な「技術」があがる

松岡さん 質問なんですが、DIYは素人でもものづくりができる一方で、めちゃくちゃ技術を極めたいってひともいるじゃないですか。波紋状に技術を伝達していくことで技術自体の向上につながるんでしょうか?

河野さん ふたつの意味で技術が高まっていくのかなと思っていて。

ひとつめは、大工さんが自分の技術をみんなに教えて、みんなある程度できるようになると、自分はプロとして、そのレベル以上の仕事が求められます。教えることで、より自分の技術をより高める必然性が生まれ、全体の技術があがっていくんじゃないかなと。

ふたつめは、ものづくりの世界でも、林業の世界でも、それらが分断されているから問題だと思うんです。ひとつの生態系になることが大事だなと思う。ひとつの業界で技術が高まっていくだけではなく、波紋のように領域を超えて技術伝達が行われ、学習していく状態になれば、各々の技術があがっていくはず。

お互いの知見を持ち寄り、波紋状に学びが広がっている様子がこの対談中にも。笑顔も広がりました

自分のフィールドでキノマチの担い手を増やすには?そして、集まろう

河野さん 家でなにかつくってみましょう。木で椅子をつくりましょう。もしくは収納! それを撮影してハッシュタグ「#キノマチ会議」とつけて、つながりましょう! そして少し余裕があったらその木がどこから来たものなのか知って、そのまちへ実際行ってみませんか?

松岡さん 大事なのは、いまの時点で「自分はこう思っている」と仮説をたてることじゃないかと。自分なりの仮説を持ちながら、みんなと話ができると面白いなと思いますね。

普段、建築や都市像を提案する際にも思いますが、すべての課題を同時に解決して設計することはできないと思うんです。いろいろな条件を与えられたなかで「まずこの形がいいのではないか」と仮説をたててその都度軌道修正するのが僕の仕事です。

そして、仮説を立てるためには「観察力」が大事です。キノマチの担い手にも必要ではないでしょうか?そして、仮説を検証するために自分で実践できてしまう加工性に優れた「木」という素材はおもしろいですよね。

高浜さん 私はいろいろなプレイヤーがいて、それぞれのひとが参画意識を持つことが大事だと思います。

ただ、今はコロナなのでみんなで集まることが難しくなってしまっている。とはいえ、「リノベーションしたいな」「家を直したいな」って思うニーズはずっとあるので、リアルの学びの場は難しいんでしょうけど、キノマチウェブやSNSなどで悩みを投稿してみて、いろいろな知恵を授けてくれるひとを募集してみると、途切れていた線がいつのまにかつながるかもしれません。

同じムラのなかで波紋がつながっていくように、ウェブ上で日本全国の知恵を集結させて、個人的な悩みが次々と解決していき、日本全国でその波紋が生まれていくとアフターコロナにキノマチシナプスの再生が生まれてくるのかなぁと思いました。

(対談ここまで)

「キノマチの担い手」とは、木を使うひとではなく、木を「つながりあうマテリアル」として、この国の数少ない自然資源を有効活用して、みんなが幸せであれる未来をつくる人のこと。

増やしていくことを効率化するのではなく、増やす過程を大事にする。このマインドはコロナで「当たり前」がひっくり返った社会にもフィットしていき、人類をまた新たなステージへ進化させてくれる気がします。

わたしたちはひとりぼっちではとても限定的にしか生きられません。だからこそ、自分のできることを観察して、半径数メートルのニーズを汲み取って、自分でできることを持ち寄ってみる。そのいい機会が、10月に行われる「キノマチ大会議」です。ちなみにこのお三方も登壇いただきます。

混じり合う波紋のなかで、Do It Yourselfを探してみてはいかがでしょう?

(撮影:廣川慶明)

– INFORMATION –

オンラインカンファレンス「キノマチ大会議」で木のまちづくりを一緒に考えませんか?

キノマチ会議」は「まちと森がいかしあう関係が成立した地域社会」を目指すラーニングコミュニティです。活動母体となる「キノマチプロジェクト」は、2019年9月に竹中工務店、Deep Japan Lab、グリーンズによる三社共同プロジェクトとしてキックオフしました。全国から仲間を募りながら「木のまち」をつくるための知恵を結集しています。

今回、10月5日から五晩連続で開催するカンファレンス「キノマチ大会議」は、本プロジェクトの集大成的なイベントです。「木のまち」をつくる全国の仲間をオンラインに集め、知恵を共有し合い、未来のためのアイデアを生み出します。

メインテーマは「まちと森がいかしあう社会をつくる」。建築、まちづくり、林業、デザイン、メディアなど様々な分野の人が、それぞれの領域を超えてこのテーマについて考える場になります。5日間に渡り、毎晩さまざまなテーマでチャレンジャーのトークセッションをお届けします。

「木のまち」をつくることに関心のある人なら、どなたでも大歓迎。あなたの参加を待っています!

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