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文化の垣根を超え、パキスタンの伝統音楽とジャズが出会う。『ソング・オブ・ラホール』が奏でる、いかしあう音楽

今回のコロナ禍のなか私は家にこもってひたすら映画を見ていたんですが、その中で最初に感じたのは「音楽の力」でした。今回に限らず災害などの危機に際していつも思うんですが、音楽には人の心を動かす力があり、音楽によって人は救われるし勇気ももらえると感じます。

今回も4月の初めの段階で『ソウル・パワー』という作品を見て、それを感じました(https://note.com/ishimurakenji/n/n4692ff995846)。

それから2ヶ月が経ち少し落ち着いたいま、もう1本、音楽の素晴らしさを感じられる映画に出会ったので、今回はそちらを紹介したいと思います。

その作品は『ソング・オブ・ラホール』、パキスタンの伝統音楽を演奏するバンドがニューヨークの舞台に立つというドキュメンタリーです。

パキスタンの伝統楽器の名手とニューヨークのジャズの巨匠が出会ったステージが何より最高な映画ですが、その演奏は文化の垣根を超えることで新たな芸術を生み出していると言ってもよく、私たちに他者理解の大切さを教えてもくれます。

そして、この映画は今「UPLINK Cloud」でオンラインで格安でみることができるのですが、そのことがこれからの私たちと映画の関わり方を考えさせてもくれるのです。1本の映画をオンラインで見ることを通して私たちの今を様々な角度から考えることができると思います。

伝統音楽の危機をYouTubeが救う

舞台となるのは、パキスタン第2の都市ラホール。その地で伝統音楽を受け継いできた人たちが登場します。ラホールはムガール帝国時代には音楽の都でしたが、パキスタンが独立しイスラム教国となると、音楽は禁止されたり重要ではないとされ衰退していってしまいます。さらに、近年入ってきたタリバンにより明確に音楽が禁止され、伝統音楽はほとんど聞かれなくなってしまいます。

映画の序盤でこのあたりの歴史的な事実が説明されるのですが、今回の映画に関しては宗教やタリバンはあまり重要ではありません。大事なのは、パキスタンで伝統音楽が廃れ、なくなりそうになってしまっていて、ラホールはかつて音楽の都だったこと。そして、その音楽の都であろうじて伝統音楽を守っている人々が世界的なミュージシャンたちと肩を並べて新しい音楽をつくっていく姿が素晴らしいのです。

ことの始まりは、音楽の危機を感じたミュージシャンたちがジャズの名曲をアレンジしてバンドで演奏しようとしたところから始まります。そのバンドはサッチャル・ジャズ・アンサンブル。彼らは伝統楽器を使ってジャズの名曲「テイク・ファイブ」を演奏しYouTubeにアップします。すると、大反響を呼び、あれよあれよという間にウィントン・マルサリス(現代の最も著名なジャズ・ミュージシャンの一人)の耳に届いて、ニューヨークのジャズ・アット・リンカーン・センターのコンサートに呼ばれてしまうのです。

しかし、メンバーを厳選してニューヨークに乗り込んだ彼らを待っていたのは試練でした。ニューヨークの一流ミュージシャンとの共演、それはただ招かれて演奏するだけではなく、音楽性をすり合わせひとつのステージをつくり上げることでした。本番までに残された日数はわずか、その中で彼らは演奏を完成できるのか、それは彼ら自身とパキスタンの伝統音楽の未来がかかった戦いだったのです。

相手を尊重し高め合う戦い

劇的に書いてしまいましたが、どちらも一流であるからこその戦いがそこにあります。ただ、その戦いは相手を打ち負かすことが目的ではなく、互いを理解し高め合うことが目的の戦いなのです。

この映画で一番面白いところはこの部分、ニューヨークのジャズマンたちは自分たちと同じ舞台に上がれるだけの力量が彼らにあるか見極めようとし、サッチャルのメンバーたちは自分たちのやり方が通用するかどうか試し、本番へと向かっていく場面です。

ウィントン・マルサリスは映画の中で、音楽は文化の垣根を越え架け橋になるというようなことを言います。それは、音楽をとして異文化理解が可能だという意味です。ミュージシャンは形式や性質の違いを越え音楽を通して互いを理解することができるのです。

(C)2015 Ravi Films, LLC

彼らがリハーサルでやろうとしているのはまさにそれ、お互いを理解し、相手を尊重しながら自分らしさを発揮できる地点を発見することです。

ただ、お客さんに聞かせる以上、一定のクオリティは必要で、それをクリアできないメンバーはステージに立つことはできません。そんな残酷さも描かれます。

そんな相剋を経てたどり着いたステージのシーンはまさに圧巻。特に素晴らしかったのは打楽器。タブラとジャズドラムが対決するかのようにアドリブを繰り出す場面などは、ついニヤニヤしてしまいます。

今こそ他者理解が必要な理由

この圧巻のステージを見て「素晴らしかった、良かった」で終わればいいのですが、こんなご時世ですから、音楽や映画の持つ意味を考えてしまいます。この映画が素晴らしい理由のひとつは文化の垣根を越えた新しい芸術が生まれた瞬間を目にできることです。音楽や映画にはそれができる力があるのです。

今回のコロナ禍で多くの人が行動範囲を小さくし、接する人をなるべく少なくし、自分(たち)の世界を閉じていきました。その副作用として排他主義が強まり、違いを尊重することが軽んじられるようになってしまったと感じます。医療従事者とその家族を差別したり、県外ナンバーの車に石を投げたりということが起こってしまうのです。

ウィントン・マルサリスは「パキスタンの音楽の形式を理解し、自然にできるところまで持っていきたい、自分たちならではのやり方で」というようなことも言っていました。彼は英語のことわざで言うところの「他人の靴を履いて」みて、異なる文化を理解しようとしているのです。

私たちに今必要なのはまさにこのことで、環境の変化によって他者との関係性が変わってしまったからこそ、自分とは違う立場の人たちが何を感じ、何に困っているのかを想像しなければならないのです。

この映画はそんなことを思わせてくれます。

映画の灯を消さないために

最後に、この映画を配信しているサービスについて書きたいと思います。私がこの映画を見たのはUPLINK Cloudの「Help! The 映画配給会社プロジェクト」にラインナップされている見放題の中のひとつ「サンリス」から。

このプロジェクトはコロナ禍で苦境に陥っている映画配給会社を助けるべく、独立系の配給会社の作品を見放題プランとして提供するもの。レンタルすると各社の作品5本から30本を3ヶ月見放題でみることができます。

5月29日現在で第2弾までラインナップされ、13社、255の作品が並んでいます。サンリスは6作品を700円という破格の値段で提供しています。

みなさんは映画を見るときに配給会社を気にすることはほとんどないと思いますが、独立系の配給会社は独自の視点で映画を買い付けてきて配給していて、実は注目すると面白い存在です。その会社の作品に1本好きなものがあったら、他の作品も気に入る可能性が高い、そう思います。

今回13社ラインナップされているので、ぜひお気に入りの会社を探してみてください。

私はまず、サンリスに加えて、前々からすごく観たかった『鉄西区』を初配信したムヴィオラをレンタルしました。

他にも『いのちの食べ方』『眠れぬ夜の仕事図鑑』のエスパスサーロウ、『独裁者と小さな孫』『ローマ環状線』のシンカ、『TOMORROW パーマネントライフを探して』『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』のセテラ・インターナショナルなど、greenz.jp読者もきっと気になる映画が色々ありますので、ぜひレンタルしてまだ先行きの見えない映画産業をサポートしてあげてください。

– INFORMATION –

『ソング・オブ・ラホール』

2015年/アメリカ/82分
監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
撮影:アサド・ファールーキー
https://www.senlis.co.jp/song-of-lahore/