創刊から14年。より多くの仲間と社会づくりをするために「いかしあうつながり宣言」をしました

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1000年続く匠の技術と、現代のクリエイティブが出合った先にあるもの。「飛騨の森でクマは踊る」が起こす、森林活用のオープンイノベーション。

「木のまち」をつくることをビジョンに掲げる株式会社竹中工務店とともにお送りしている連載「キノマチ会議」。

日本全国に木のまちをつくるために、私たちは何を受け継ぎ、何を生み出していくといいのか?「木のまち」をつくるヒントを先駆者にお話をお伺いしながら、紐解いていきます。

今回訪れたのは、岐阜県は飛騨市。岐阜県の最北端に位置し、3000mを越える北アルプスや飛騨山脈などの山々に囲まれたまちです。

その中でも、取材先である株式会社「飛騨の森でクマは踊る」があるのは、飛騨古川エリア。飛騨高山の奥座敷とも称され、情緒豊かな景観が残ります。近年には、映画『君の名は。』 の舞台としても話題になりました。

お出迎えしてくれたのは、株式会社「飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」の取締役会長の林千晶さんと代表取締役の松本剛さんのお二人。森林活用分野における「ヒダクマ」の役割や、「木のまち」を広げるために必要なことをお伺いしました。

林千晶(はやし・ちあき)
株式会社飛騨の森でクマは踊る取締役会長/株式会社ロフトワーク共同創業者
2000年にロフトワークを起業。グローバルに展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」、素材の新たな可能性を探求する「MTRL(マテリアル)」、クリエイターとの共創を促進するプラットフォーム「AWRD(アワード)」などを運営。グッドデザイン賞審査委員、経済産業省 産業構造審議会 製造産業分科会委員も務める。森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を岐阜県飛騨市に設立、代表取締役社長に就任。2019年より現職。
松本 剛(まつもと・たけし)
株式会社飛騨の森でクマは踊る代表取締役COO/株式会社トビムシ
環境コンサルティング会社を経て、2009年、株式会社トビムシに参画。2015年、岐阜県飛騨市に飛騨市と株式会社トビムシと株式会社ロフトワークで、森林再生とものづくりを通じて地域産業創出を目指す官民共同事業体「株式会社飛騨の森でクマは踊る」を設立、取締役就任。2019年より現職。

93%が森林。飛騨市が「ヒダクマ」とめざす
広葉樹を活用したまちづくり

飛騨市は、総面積792.53平方キロメートル。そのうち93%が森林を占めています。特徴的なのは、戦後各地に広がった針葉樹ではなく、森林の7割が広葉樹であること。約400種とも言われる樹木を誇る岐阜県の中でも、飛騨市はサクラやケヤキ、ブナなどの広葉樹の資源が豊富で、多くの名工「飛騨の匠」を輩出した地として知られています。

「飛騨の匠」とは優れた建築技術を持つ職人のことで、その歴史は古く、奈良時代の700年代から続いていると言われています。

山々に囲まれた飛騨古川の街並み。

まちのいたるところで、匠の技を垣間見ることができます。

そんな豊かな森林資源を誇る飛騨市でヒダクマが産声をあげたのは、2015年のこと。森林・林業のトータルマネジメントを展開する「株式会社トビムシ」と、約2万人のクリエイターのネットワークをもつ「株式会社ロフトワーク」、そして飛騨市の三者が協働する第3セクター(官民共同事業体)として誕生しました。

全国各地に森林がある日本で、林さんはなぜ飛騨市に着目したのでしょうか?

林さん 飛騨には、豊かな森とともに1000年以上も前から「飛騨の匠」が受け継いできたここにしかない技術や、ユネスコの無形文化財に登録されている古川祭などの文化があります。そこに今まで東京でやってきたクリエイティブを掛け合わせたら、どうなるんだろうってワクワクしたんです。

「クリエイターをはじめさまざまな人が飛騨の森に関わりつづけたら、森とまちの価値は高まるのではないか?」

はじめて訪れた飛騨で、その森と文化に惚れ込んだ林さん。「何ができるかはわからないけれど、まっすぐ飛騨と向き合ってみたい」との思いから、豊富な森林資源がありながら十分にいかせていない林業に足を踏み入れることを決めました。

それから4年、現在ヒダクマは、森と人の間に立ちながら、今まで価値を見出されてこなかった広葉樹に着目し、個性をいかした製品開発に取り組んでいます。

ヒダクマの建物は、まちの中心部にある旧熊崎邸をリノベーションしてつくられました。造り酒屋、木製品工場、塩専売など時代のニーズに合わせて変化してきた建物を、新たな創造の場に育てていこうとしています。

◯◯◯+ヒダクマのコラボレーションで生まれる
未知なるプロダクト

「ヒダクマは、想像できないものをつくる場所である」。これは設立から現在まで、揺らぐことなくありつづける、ヒダクマの存在意義。関わる人の価値観やあり方をもアップデートしながら、山の資源を有効活用したオーダーメイドの製品を生み出しています。

林さん 見たことのないものを、ヒダクマはどうしてつくれるのか? それは、ヒダクマ単体ではなく、さまざまな才能やニーズをもつ人に、私たちが得意とするクリエイティブをプラスして考えるからです。

林さんの言葉を象徴するように、ヒダクマの製品は、建築家、デザイナー、はたまた料理人やネコ好きの人など、「木を使って商品をつくりたい」との思いから生まれてきました。

たとえば、木質の建材であるホオノキストランドボード。家具用材にならない小径木(直径18センチ未満の木)をチップ状に粉砕、圧縮してつくられた製品です。特徴は、オイルを塗ると大理石のようになるホオノキ独特のテクスチャー。天然木の色の違いをいかした新しいストランドボードを商品化しました。

ホオノキの木の特徴でもある色ムラをいかしてつくられたストランドボード。

林さん 木の使い方やつくり方は無限大。私たちは、誰かが課題を持ち込んできて、それに広葉樹や匠の力を借りて応える、「〇〇〇+ヒダクマ」という受け身のイノベーションのスタイルなんです。

また、飛騨の広葉樹を使ったキャットツリー「Modern Cat Tree NEKO」もユニークな商品です。

「Modern Cat Tree NEKO」は、一台100万円(税抜)。ギリシャ産の大理石と、飛騨の広葉樹、そして匠の技を掛け合わせることで生まれた、オリジナル製品です。(写真: 見学友宙)

松本さん この製品は、ネコ好きな人の熱い思いから生まれました。キャットタワーはネコの居心地のよさを重視してつくられても、デザインにこだわりがある人の中には、家具として置きたくないと思う人もいるそう。

そこで「究極のキャットタワーをつくりたい」とお考えになり、縁あってヒダクマに相談がありました。ヒダクマからは飛騨の多様な広葉樹の特性を活かしたデザインや木の使い方、最適な加工方法をご提案しました。

松本剛さん

こうした製品開発を支えるのは、ロフトワークが培ってきたクリエイティビティと、トビムシの森や林業に対する知見です。

松本さん 林さんはデザイン(モノ)から入って製品開発をする。一方、僕はいつも森から入ります。森側の視点からすると、今まで価値が低いとされていた小径木がストランドボードのような製品になり、オフィスや店舗の空間に使われるのは嬉しいですよね。デザインから入ることで森の出口(販売先)ができて、製品が流通するなかで森も林業も変わっていく可能性があることを実感しています。

林さん 仕組み的にイノベーションの起こりづらい林業は、既成概念に縛られがち。未開拓な分野がたくさんあります。だからヒダクマは、それをちょっとだけ変えてみる。すると森や林業はどう変わっていくのかなって! 50年、100年後の森の姿を楽しみに、私たちは取り組んでいるんです。

森と人の関係を見つめ直し、文化と技術を守る

林千晶さん

設立から4年。ヒダクマは、「飛騨の匠」と呼ばれる大工や家具職人、広葉樹を扱う製材所や木工加工メーカーなど70を超えるネットワークを広げてきました。

ヒダクマの製品開発プロセスが洗練される一方、パートナーである職人にも変化が生まれています。

林さん もともと飛騨でしか仕事をしていなかった人が、ヒダクマと働くことで、全国各地に行く機会も生まれています。「次は海外に行きたいから、海外の仕事をちょうだい」なんて言ってくるようになって。匠の技をそのまま残しながら、意識が変わっていくのは、私たちが理想とする姿です。

私はね、5年後に一番アップデートされているのは、もしかしたら職人たちかもしれないなと思っているの。ヒダクマが林業にイノベーションを起こすのではなく、気づいたら職人たちがイノベーションを起こしているんじゃないかって。

ヒダクマの存在があることで、少しずつ変わりはじめた職人たち。しかし、時代が移り変わる中で、職人もそして木材を供給する製材所も、飛騨から、そして日本各地から姿を消しつつあります。

なかでもヒダクマが取り扱う広葉樹を扱う製材所は、全国でも限られているのだとか。しかし、奇跡的に飛騨には広葉樹を専門にする「西野製材所」があり、職人、製材所が身近にあるからこそヒダクマは成り立っていると話します。

林さん 100年前は、大工さんがいて、製材所が身近にあって、「この木は立派だから梁にしよう」と、木を見て何ができるかを考えていました。

現代では、建築家がかつての大工のような役割を担うポジションにいます。しかし、コンピュータで図面を書くので、木のことを知らないままシュミレーションして、建築物を仕上げてしまいます。だから、今の社会では、木そのものを(もしくは、「木を」)見て何ができるか考える人がいない。それを私はすごくチャンスだと思ったの。

木は一本一本違って当たり前。とはいえ、コンピュータで図面を書くことは今後も変わらないだろう。それならば。林さんが考えたのは、建築家に木の情報を届けること。森と人の間に立つことでした。

林さん 今は、建築家をはじめ木を使う人たちが、木から離れすぎている。だから、もう一度木に向き合い、どういかすことができるのか考える機会は今後増えていくだろうし、そのためのシステムを開発しないといけないと思っています。

ヒダクマでは現在、製材した年、品種などの木材データベースをつくり、それを元にどこまで建築家は木のことを知った上で発注できるかを実験中です。

森側の視点に立つ松本さんも、林さんと同様、森と人の関係を見つめ直し、仕組みをアップデートする必要があると続けます。

松本さん 森のことだけを考えると、放っておいてもいいんです。しかし、木を使う文化や技術は一度失われてしまうと、元に戻りません。森という資源を活かす必要があるとき、持続可能な伐採方法や加工の仕方がわからないという状況になって困るのは、僕たち人です。

どれほどいい資源があっても、生活や産業とかけ離れてしまうと使えなくなってしまいます。それよりは、森と人の関係を見つめ直し、身近にある資源を使う仕組みをアップデートし使い続けていくことが、人にとって大切だと思います。

「木のまち」は、オープンイノベーションを起こす
リアルな場から生まれる

森と人、職人と建築家、都市と地方。さまざまな関係を編み直し、よりよい未来をつくろうとするヒダクマのような場所が全国各地に生まれれば、「木のまち」は広がっていくのかもしれません。多様な人が関わるネットワークをつくるためには、何が必要なのでしょうか。

林さん まだ言葉にする準備はできていないんだけど、オープンイノベーションを起こす秘訣の一つは、リアルな場があることだと感じています。

コミュニティはリアルな場に紐づくものだから。

会社の一部を開放し、概念としてオープンイノベーションを打ち出しても、会社のカラーが強いから、フィジカルにオープンにはなりません。概念もフィジカルもオープンな場をつくることが、コミュニティビルディングに効いていくのではないかと思います。「拠点があるから、一回来ていただいて一緒に考えましょう」と言えるのは、強いですよ。

ヒダクマでは社有林を開放して、普段なかなか足を踏み入れることのない山を訪れる「山観日」をオープンな場として設けています。

松本さん 「山観日」では森で自由に過ごしながら、一緒に森のことを話したり考えたりしています。さまざまな人が森に足を踏み入れることで、多様な山の価値や可能性を引き出すことができるんじゃないかって。

クマの研究者と山に入ったときは、彼がブナの木にクマの爪あとを見つけ、一本の木がクマにとっていかに大切な木かを教えてくれました。また別の人と歩くと、「この森には10種類ほどの鳥がいるね」と教えてくれて。僕一人なら、鳥が鳴いているくらいにしかわからないけれど、人によって山を見る目が異なるから、すごくおもしろいんです。

林さん ゆくゆくは飛騨市から自然享受権を導入していきたいです。自然享受権とは、誰でも気軽に自然にアクセスできる権利。フィンランドやスウェーデンではすでに権利になっています。

過去1000年を振り返って、「飛騨の匠」は常に最先端のことを取り入れる人たちだと思っています。今ヒダクマがやっていることも、1000年後には「飛騨の匠」と呼ばれるようになっていたいですね。

ヒダクマは「飛騨の匠」が受け継いできた技術や文化にクリエイティブをプラスし、林業そのものをアップデートしながら新たな「飛騨の匠」像を提案しています。

海外の木材や製品に押され、職人や製材所が減少の一途を辿る今。林業や森林活用にイノベーションを起こす答えの一つは、新技術を開発することよりも、オープンイノベーションを生むリアルな場づくりから、目の前にある資源や技術を掛け合わせ、新たな価値を見出していくことなのかもしれません。

ヒダクマのような場所が全国各地に生まれたら、「木のまち」は広がっていくと思いませんか? 12月10〜11日には、林さんをゲストにお招きし、リアル版キノマチ会議を埼玉県・小川町で開催します。「木のまち」のつくり方について、林さんと一緒に考えましょう!

(写真: 寺田和代