「地方」が生き残るために必要なものは何か。トラ男、ANDON、シェアビレッジを手がけて都会と地方をつなぐ武田昌大さんと語る、ふるさとで経済をつくるということ

秋田県北秋田市を暮らしの拠点にしながら、トラ男、ANDON、シェアビレッジの3つを運営する武田昌大さんが直面しているのは、地元が消滅しようとしている現実です。

人口減少先進地域で、2040年までに25市町村のうち24が消滅するとも言われている秋田県。武田さんはトラ男を立ち上げてインターネットで秋田県のお米を売り、五城目町に最初のシェアビレッジをつくって都会の人を呼び、東京におむすびスタンドANDONをつくってお米を食べてもらおうとしてきました。

武田さんはどうやって地方と都会をつなぎ、ソーシャルなビジネスを生み出そうとしているのか、そして北秋田市はどうやったら生き残っていけると考えているのか、グリーンズのビジネスアドバイザーでANDONの共同経営者でもある小野裕之が聞きました。

武田昌大(たけだ・まさひろ)
シェアビレッジ村長・トラ男米プロデューサー・合同会社ANDON 共同代表。
1985年秋田県生まれ。秋田の農業の未来に危機感を持ち、トラクターに乗る男前たちを集めた若手米農家集団トラ男を結成。お米のネット販売サイトtorao.jpとtoraofamily.comを運営し、単一の農家が栽培したコメ“純米”のインターネット直販を行う。2015年春クラウドファンディングで約600万円の資金を調達し、築134年の茅葺き古民家を活用した新ビジネス 「シェアビレッジ」を立ち上げ、村長に。

小野裕之(おの・ひろゆき)
O&G代表 / NPOグリーンズビジネスアドバイザー
1984年岡山県生まれ。中央大学総合政策学部を卒業後、ベンチャー企業に就職。その後、ウェブマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズの経営を6年務め、2018年、同法人のソーシャルデザインやまちづくりに関わる事業開発・再生のプロデュース機能をO&G合同会社として分社化、代表に就任。合同会社ANDON 共同代表。SIRI SIRI LLC. 共同代表。

トラ男とANDONとシェアビレッジ

小野 武田くんはいま、主にトラ男とANDONとシェアビレッジをやっているわけですが、その中で最初のトラ男を立ち上げたのが2010年。トラ男の現状はどうですか?

武田さん トラ男は立ち上げた当初は毎月東京でイベントをやったり、販路拡大のためにお店に行ったりしていたんですが、今はそれが落ち着いて時間の配分としてはそれほど使っていないですね。イベントの代わりに食べてもらう場としてANDONがあるので、そちらに時間を使うようにしています。

小野 トラ男の売上はどうですか?

武田さん 売上は伸びてて、今は年間20トンくらい出荷しています。一般向けのスポットが7〜8割で、あとは定期と飲食店が少し。ただグーっと伸びていたのが比較的落ち着いた感じになっています。本当は定期でももっと売りたいんですが、今は全国的にすごく沢山の品種のお米があるので、いろいろな種類を買いたい方が多いんだと思います。

トラ男のホームページ、単一農家100%の「純米」の購入や、お米をご飯のお供と一緒に定期購入もできる。

お米は利益を出すためには量を売らないといけないんです。だから、ANDONをやったり甘酒をつくったりして次の売り方を考えて、それが伸びていけばトラ男も増強できて、人も増やせて全体を底上げできるのかなという気はしています。

小野 もう一つの大きな軸がシェアビレッジだと思うんですが、シェアビレッジでは何をやってるんですか?

武田さん シェアビレッジは古民家を村に見立てて、全国から村民を募集して、村民が定期的に村を訪れて滞在できるような仕組みを目指しています。今、「村」は秋田県の五城目と香川県の仁尾の2ヶ所にあって、村民は2,000人くらいいます。

全国に12の拠点を作る予定で、計画では5年でそこまで持っていくはずだったんですが、もう3年経ってしまって。それでも来年には5拠点まで増やす予定でいます。

12の拠点を全体で大きな村と考えて、都会の人が第二の故郷を気軽に持てるような仕組みをつくろうというのが最初の思いとしてあったので、早く増やしていかないと、とは思っています。

シェアビレッジのホームページ

ただ、大変なんですよ。拠点をつくるには地域に入っていかないといけないわけですが、地方で何かをやるときは企画やお金より人の心を動かしていかないといけないので、リアルなコミュニケーションを取るために足繁く通ってこの人とならやれるって思ってもらう必要がある。だから時間とお金がすこくかかる。

東京のビジネスとは速度が全く違っていてすごく時間がかかるし、地域の人たちがやりたいっていうからやってるはずなのに、いつの間にかやりたいのは僕で僕のためにやってくださいって感じになってしまったりする。そこを相手の自発性や積極性をうまく引き出しながらやるっていうのはすごく難しいですね。

小野 その逆転する瞬間はありますよね。最近、自治体の予算で住民向けに何かをやるということが多いんですが、いつの間にか「やってくれるんですよね」ってみんななってく。本当は地域の人たちがやらなきゃいけないのに、自治体の予算とか補助金で人を呼んで話を聞いてそれでおしまい。今はそれでいいかもしれないけれど、地方創生の予算がなくなっていく中で、これからどうしていくんでしょうね。

武田さん 確かに、農業も空き家対策も国の予算頼りになっている部分が大きい気がしますし、予算ありきの講演会や勉強会から地域の人たちがなにか興してビジネスになっていっているという話はほとんど聞きませんね。

小野 2%くらいだよね、体感。

武田さん 地域で人を育てようというのが国の方向性だと思うんですが、若い世代ではそういう人が減った気がしていて。僕は今、故郷の北秋田市で暮らしているんですが、「今のままでいいよね」という空気感を感じることも多くて、なにかやろうという人が少ないんです。

田んぼができなくなったらやめればいいし、子どもがいなくなったら小学校も廃校にすればいいし、廃校になったら都会に引っ越せばいいと思っている。実際それですごい勢いで人がいなくなっていますし。

田舎で子育てしたいというのが自分が故郷に戻った理由の一つなので、それができなくなるんだったら、秋田で暮らすというのも厳しく感じます。

先進地域に学ぶ地方の生き残り方

小野 それでも地方で暮らしていくには何をすればいいと思いますか。

武田さん 正直なところデータや数字だけ見ているとお先真っ暗といえば真っ暗なんです。でも、やれることもたくさんあって。まちって構成するひとりひとりのやる気でできていると思うんですよ。だから、ひとりひとりが見える範囲でいいから良くしていけば希望は持てると思うんです。

元気なまちって人が元気じゃないですか。今まではどうしても行政に頼ることが多かったんですが、これからはそうじゃない部分で頑張っていかないと。でも、地方は情報が遅れていたり、情報が不足していたりしてそのやり方を知らないんです。同じような問題を抱えててもうまくやってる所があるということを知るだけでも変わるんじゃないかと思うんですけどね。

小野 武田くんは全国の事例を見てきてると思いますが、ここの場所知ってほしいという場所はありますか。

武田さん たとえば、島根県の大邑町(おおなんちょう)は、人口減少の先進地域だったのに、今は出生率が秋田の2〜3倍になってます。大邑町は「日本一の子育て村構想」を掲げていて、自治体が「2子目から無条件で保育料の全額無料」や「中学校卒業まで医療費無料」、小学校や幼稚園も一つも潰さないという方針を出して、子連れのお母さんの移住を促すために、職を与えるということをしてきた。行政が方向性出してお金を出してという例としてはすごく参考になると思います。

鹿児島県の甑島(こしきしま)は、東シナ海の小さな島ブランド株式会社の山下賢太くんという僕と同い年の強者がいて、豆腐屋と民宿とカフェといろいろやっていて、島を盛り上げていて面白かったです。島だけではなくて鹿児島市内にもKENTA STOREっていう食と暮らしの専門店をやっています。発信力があってファンが増えているので、これから移住したいという人も増えるんじゃないかと思いましたね。

あと、岡山の問屋町は駅から離れていて周りになにもないところにそこだけおしゃれな店が集まったりしていて良かったですね。最初は2-3軒からスタートしたらしいんですが、徐々に集まってきて歩いてお店を回れるようになったという。うまく地元の鷹ノ巣(北秋田市)の商店街でもできないかなと思ったりしますね。

小野 もともと繊維のまちでアパレルが強かったのはあるけど、それでも10年以上かけてやってきたからね。

武田 時間はかかってるんですけど、ああいうのって素敵だなって。

北秋田から地方を元気にする新しいスタイルを発信したい

小野 その地元の北秋田市はどうなんですか?

武田さん それが最近、地元のシャッター商店街にいくつか場所ができたんですよ。1つ目が設計事務所とシェアオフィスで、その隣が木工職人のギャラリーとカフェで、驚いたのはオリジナルブランドの洋服屋さんもできたんです。

渋谷に新しい洋服屋がオープンするみたいに、まさか地元の商店街に新しい洋服屋ができるなんて思わないじゃないですか。洋服の販売だけでなくて若者が集まる音楽イベントを主催していたりしてすごいんですよ。若者だけじゃなくお年寄りにも愛されていて、キャンドルを買っていくおばあちゃんがいたり。

さらに面白いのが、みんなお店にお客さんを呼び込む商売だけではなくて、それぞれのスキルを活かして外とつながってビジネスをしていること。注文を受けてTシャツのデザインや印刷をしたり、木工職人さんも外からのオーダーで家具をつくっているし、設計事務所もデザインの仕事が外から来る。そうやって外から来る仕事と掛け合わせて成り立つ商売をしてるんです。みんな故郷をなんとかしたいと思っていて、商店街に活気が出てきています。

武田さん ただみんな自発的にやってきているので、今まではチームとしてまちづくりをしているわけではありませんでした。せっかくいい仲間が繋がって来ているので、僕が見てきたものを活かしながらみんなで面白いことができたらいいですね。北秋田ならではの突然変異型のスタイルで、都会に名前が轟くくらいのことをやりたいです。

小野 他のまちにとっての武田くんみたいな誰かが来るといいんだけどね。

武田さん そうなんですよ。地方の人を動かすときには第三者の意見がすごく大事ですよね。だから、秋田に来てくれた人とセッションして、地元の人たちをアップデートしていくことが必要かなって。

小野 根気が必要だよね。人間関係でやってるところだから。ローカルもソーシャルも食も、従事してる人はそんなに所得が高いわけじゃないから、気持ちのほうが大事なところはどうしてもあって。そこはしょうがないですね。

武田さん 本当に時間かかりますね。

小野 さっきも言ったように地方創生予算が減っていって、賑わいとか移住みたいなふわっとしたものには予算がつきにくくなるから、明暗がはっきりしてくると思っていて。そういう意味では、自然発生的な行政に頼らない取り組みは必要かもしれない。

武田さん 田舎でお金を稼ぐには、都市にものを売るか、都市から来てもらうかしかないので、その2つを上手く組み合わせて田舎なりの経済をつくっていくしかないですね。

(対談ここまで)

グリーンズでも地域を元気にする様々な取り組みを取り上げてきましたが、この「地域」と「地方」というのは微妙に違っていて、しかもその違いが実は重要なのかもしれないと、この対談を聞いていて思いました。

武田さんが言う「地方」の人たちの危機感のなさというのは、つまり当事者意識のなさで、地方にはいわゆる地域のプレイヤーがほとんどいないということだと思います。その中で国や自治体からの支援がなくなっていった時、生き残るためにはどうすればいいのか。

その答えはやはりプレイヤーを育てること、地方でその地域のために動く人を増やすことしかないのではないでしょうか。北秋田では幸いにもそんな人たちが少しずつ増えていっているようなので、その人たちの力で地域全体を元気にできるようなデザインがうまくできれば希望は見えてくるように思います。

当たり前ですが、それぞれの「地方」で問題も違えば、解決方法も違います。しかし共通する部分もあって、その最たるものは面倒くさい「人間関係」です。しかし、それをうまく使って関係をデザインできれば、解決できることも多いような気がしました。

この連載のテーマは「ソーシャルな会社のつくりかた」ですが、地方の問題もソーシャルデザインの力で解決できるかもしれないととらえれば、会社も地方も考え方はあまり変わらないのではないでしょうか。

ANDONのおにぎり、キーマカレーとちりめん山椒

【ソーシャルな会社DATA】
社名:合同会社ANDON
設立:2017年7月
代表者:武田昌大/小野裕之
事業内容:スペース「ANDON」の企画・運営
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– INFORMATION –

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