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「理念」と「ビジネス」の融合に取り組む会社が増えなければ、社会は変わらない。「マザーハウス」山崎大祐さんが事業を拡大して気づいた、経済合理性だけに支配されない社会のつくりかた

「社会的価値あるものをビジネスに」というテーマは、今やソーシャルセクターだけのものではありません。しかし、世の中に新しい未来や価値をつくろうとすれば、その道はたいていケモノ道……。きちんとした経済の循環を目指すなら尚のこと。

本連載「ソーシャルな会社のつくりかた」は、社会性と経済性を両立させるビジネスモデルやチームづくりのヒントを集め、悩める経営者やプロデューサーのチャレンジを応援する企画です。

この春、NPO法人グリーンズからビジネスプロデュース部門を分社化し、その代表を務める小野裕之が先輩プロデューサーたちに会いに行き、ソーシャルな会社に立ちはだかる様々な障壁を突破するための実践的なノウハウを探ります。

第6回目のテーマは「ソーシャルなものづくり」。対談のお相手は、「株式会社マザーハウス」副社長の山崎大祐さんです。

現在バングラデシュ製のバッグやインドネシア製のジュエリーなど、途上国の職人によって生産されたプロダクトを、日本をはじめ台湾、香港に直営店を構えお客様へお届けしているマザーハウス。

同社でマーケティング・生産の両部門をマネジメントする山崎さんに、小野はジュエリーブランドSIRI SIRIの経営に携わることになった2015年頃から、時折仕事の悩みを相談していたそう。

今回は、ソーシャルなものづくり会社が事業拡大に舵を切るフェーズで起こる変化や、乗り越え方に関するヒントを伺いました。

山崎大祐(やまざき・だいすけ)
株式会社マザーハウス副社長
1980年東京生まれ。慶應義塾大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したのがきっかけで、途上国の貧困・開発問題に興味を持つ。2003年、外資系証券会社にエコノミストとして入社。2007年、大学時代の1年後輩だった山口絵理子が始めたマザーハウスの経営に参画。現在、マーケティング・生産の両サイドを管理。また、外部の人を招いて学ぶ「マザーハウス・カレッジ」も主宰する。

MOTHERHOUSE マザーハウスとは

途上国それぞれの素材や技術を用いて、現地の職人と共に美しいプロダクトを生産し、世界へ届けることを目指すブランド。2006年に設立し2018年は12周年を迎える。現在、世界8カ国450名の多様性あふれるスタッフとともに、「もの作り」を通じて「途上国」の可能性を形にし、お客様に笑顔とぬくもりを伝えて続けている。バングラデシュ、ネパール、インドネシア、スリランカ、インドに生産拠点を持ち、日本に29店舗、台湾6店舗、香港1店舗と計36店舗の直営店を展開中。

ものづくりの原点は拡大しても変えない

小野 マザーハウスは「途上国から世界に通用するブランドをつくる」と、社会課題を真正面に据えながらもビジネスとしてしっかり利益をあげ、着々と事業を拡大しています。山崎さんとは創業7年目にお話する機会があったのですが、当時の倍以上の規模になりましたね。

山崎さん そうですね。

小野 生産と販売の現場を自社運営する中で、思いと仕組みをどう連動させるかを追求してきたと思うのですが、特にものづくりは人材の確保から始まって、品質の安定までとかく時間がかかります。

僕自身の悩みでもありますが、伝統と品質を兼ね備えたものづくりを拡大フェーズにおいてどう維持してきたか、すごく興味があります。

山崎さん 大前提として、やはり代表の山口が自分でものをつくれることが一番大きいですね。彼女はチーフデザイナーとして、素材開発・デザイン・製作の全プロセスに関わっています。これがマザーハウスの全ての原点です。

彼女はいつも職人と共に「どうやったらイメージ通りに仕上がるか?」を考えているんですよ。一緒にプロダクションできれば伝えられる情報の質量が当然変わりますし、サンプルを本人がつくるので低コストかつ早いサイクルで試行錯誤を重ねられる良さもあります。

山口絵理子(やまぐち・えりこ)
株式会社マザーハウス代表兼チーフデザイナー。
1981年、埼玉県生まれ。慶応大学4年生のときに国際援助機関でインターンを経験したのをきっかけに、単身バングラデシュへ。現地の大学院に通いながら貧困の解決を模索するなか、ビジネスを通じてこそ社会に持続可能な変化を起こせると気づき、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」と決意。2006年に株式会社マザーハウスを設立。生産現場の様子はブログやインスタグラムで発信中。

小野 日本のものづくりを見ても、デザイナーと職人は完全分業で成り立っていて、それ故に新しいものを一緒につくる関係になりづらいなと感じています。

山崎さん 30年も同じものをつくってきた職人に、いきなりデザイン画を見せて「これつくって」と言うと、だいたいはじめはみんな「できない」と言うんですよ。山口も最初は困ってデザイナーにサンプル製作を依頼したりもしました。でも結局、彼女の思うようには仕上がってこなかったんです。

これはもう、自分でつくれるようにならない限りどうにもならないと悟って、日本に戻って職人の元で6ヶ月間修行した後、今のものづくりをスタートさせました。ジュエリーを始める時も職人についてゼロから学んでいましたね。

彼女が「このやり方だったらつくれるんじゃない?」と目の前でつくり始めると、彼らもやらざるを得ないというか。

小野 コミュニケーション上の必然性があったんですね。

山崎さん 形になってくると職人たちも「できるかも」と手を動かし始める。すると徐々に試行錯誤の過程が楽しくなってきたりして。その結果として新しいプロダクトが生まれてくるんです。

小野 規模を拡大するとなると、生産過程もどこか効率化する必要が出てくると思うのですが、ものづくりの独創性を妥協せずに探求し続ける部分は、起業初期から大切に守り続けているんですね。

山崎さん とにかくいいプロダクトを徹底してつくることが僕らにとっては重要なんですよ。いくら「途上国から世界に」と言っても、売れなければ生き残っていけないので。そのためにどう環境をつくるか、ということですよね。

事業拡大が理念の実現に必要か見極める

小野 事業を大きくすると決断した時のお話を聞きたいと思います。ソーシャル系企業は、できるサイズで社会に貢献できればいいや、と小さくまとまる経営者が多いと思っていて。

山崎さん 山口もまさにそのタイプでした。最初はお店を持つとも考えていなくて、ネットで売ればいいと考えていたくらいでしたから。

僕の方が、オルタナティブで経済的に成功したビジネスモデルをつくらないと資本主義社会は変わらないと強烈に思っていたので、試行錯誤しながらも頑張って2、3店舗と出していきました。

小野 本格的に決断したのはいつ頃ですか?

山崎さん 4年目くらいです。ちょうど店舗数が増えてみんなが疲弊していた時期です。小売業で店を出すと4店舗目くらいで死の谷があると言われていて、大きな投資が必要になってくるタイミングなんですよね。

1店舗目の時は同じ場所で働いているので支え合えるし、正直条件が悪くても理念の共有でモチベーションを保てますが、4店舗目となるとスタッフは分散するし当然問題も見えづらくなる。

在庫や売り上げデータの管理にも限界がきて、以前と同じ方法では現場が回らなくなっていました。これ以上は増員やシステム導入など大きな変革が不可避。

小野 製造も販売も、先にお金が出て後から回収するモデルなので、比較的リスクの高い商売ですよね。山崎さんにはファイナンスの知識があったからできたかもしれませんが、多額の負債を背負うにも何らか根拠がないとなかなか踏み出せないと思っていて。

山崎さん ここ大事なポイントなんですけど、当時は僕、本当にビジネスを分かっていませんでした(笑) 前職はエコノミストでしたが、研究者と商売人では感覚がまるで違います。僕は資本主義を変えたいと考えるくらいビジネスが大嫌いで、ビジネス書も読んでいなかった。

小野 そうなんですか!

山崎さん よく世間には、山口が感性で突っ走って僕が計算してビジネスに落とし込んできたと誤解されますけど、この頃まではただ愚直に突っ走っていただけ。店舗工事も店頭販売も自分でやっていましたし。で、気づいたら周りが疲弊してしまっていたんです。

小野 うんうん。

山崎さん どうしてこうなっちゃったんだろうと思って、その時すべてを計算し直したんです。要するに、スタッフの生活に心配のない水準の給料を維持できるとか、借金しないで新しい国に投資ができるとか、理想の経営状態を実現するのに必要な金額です。

そしたらなんと、このビジネスモデルでは10億行かないと利益が出ないと分かった(笑) ドン引きですよね。当時1億4千万円ほどの売上で利益もでていないので……。

小野 でもそこで大きくなるのをやめようよ、とはならなかったんですよね。

山崎さん うちの場合はもう仕方がなかったですね。その時点で借り入れもしていたし、働いているスタッフもいたので正直後戻りができなかった。そこを支えたのは「描いた拡大のビジネスモデルが社会にとって意味ある変化を起こせる」というミッションの強さでした。

小野 山口さんはどの段階で拡大を受け入れたんですか?

山崎さん 山口が変わったのは、利益が増えれば、いい素材を使ったバッグがつくれると気づいてから。実は、ものづくりする中で彼女に一番大きく立ちはだかった壁はロットの問題でした。

バッグの品質のよさには、素材のクオリティが不可欠です。だけど素材の最低ロットってものすごく高いんですよ。ロール単位での購入だし、オリジナル素材の開発となると何百万円とかかります。でも当時は、クオリティに満足しきれないレザーを少しずつ調達するしかなくて。

彼女はそれが嫌だといつも文句を言っていたんです。だから会社が大きくなって投資ができるようになれば、ロットもカバーできると気づいた時、それは職人たちにもメリットがあると。迷いがなくなったのはそこからです。

新しい社会常識となる待遇と評価を体現

    

小野 スタッフの反応はどうだったんでしょうか?

山崎さん 辞めた人間もいました。起業してからずっと「途上国でブランドつくるんだ」と連呼していたわけじゃないですか。それだけを信じてやれるのは4年が限界。聞き飽きますよね。

小野 みんな生活がありますもんね。

山崎さん だから10億行くと決めた時に、業界水準より高い給料を貰えるようにするとか、お母さんたちが働きやすい環境に改善するといった組織のビジョンを明確に示しました。

小野 年齢が上がれば守るものも増えていくだろうし、働いた対価が目に見えて増える実感がないと頑張れないですよね。

山崎さん 組織ビジョンを実現するための拡大なので絶対やると約束して。信じてついてきてくれた人たちの頑張りがあって、実際に4年間で辿りつけました。

小野 すごいですね。辞める人もいる中で自分たちを信じ切れるところが。本音では理想を体現したいのに、スタッフの意見を聞いて我慢する経営者は多いんじゃないかな。

山崎さん 社会的ミッションを抱えている企業って民主主義的になりすぎますよね。ベンチャーには強烈なるオーナーシップとリーダーシップ、そしてスピードが必要なんですけどね。

とはいえ、トップに理解者がいなければミッションに突き進むことはできない。うちも僕らふたりを理解して現場のオペレーションを組んでくれる人間がいたからできました。

山崎さん あと重要なのが評価ですよね。資本主義は利益を上げた人間が数字で評価されるシンプルな仕組みですけど、僕らの目指す世界とは真逆じゃないですか。

小野 グリーンズの場合は、評価という軸は入れず、まずはざっくり年齢× 1万円ぐらいを給与設定のベースに決めています。その年齢の人が生きていくのに必要な金額がだいたいこのくらいだろうと。

山崎さん うちは資本主義と共同体主義とのハイブリットな考えに基づいた制度です。毎月の給料は生活の安定をもたらすもの、ボーナスは頑張ったご褒美という設定ですね。

新卒でも最低年収300万円。責任給なので昇級はポジションごとに上がる仕組みで、家族手当などがあって評価が落ちてもセーフティネットとして守られる。小売業界の給料は他業種と比べてすごく低いので、業界水準を上げたいという意図もあります。

逆にボーナスにものすごく差があります。もちろん業績が良ければ全体的に金額は増えるんですけど、同時に評価によって相当金額が変わります。

小野 成果が見えにくい人が評価されにくいなんてことは起きないんですか?

山崎さん 起きます起きます。そういうフェアネスの難しさはありますよね、やっぱり。各店長が裁量を持って運営する店舗は、ランキングなどで成果がはっきり見える一方で、バックオフィス系はどうしても見えづらい。

是正策として、数字に換え難い価値をトップが評価する全社貢献という仕組みを設けています。

小野 やっぱりどこかしらトップダウン的な要素がないと難しいですよね。

山崎さん そうなんです。数字に代わる評価軸といっても、それは誰かの主観から生まれた哲学でしかなくて。山口や僕の主観に基づいて、みんなで文化とルールを決めて、スタッフの理解のもと評価する仕組みがないと、どうしたって数字に寄っていきます。

でも今の制度に満足していないし絶えず変えていこうとは思っています。制度の矛盾や不完全な部分をオープンにして社内で言い合える雰囲気は大事にしていますね。

生産から販売までを全て自社でやりきる

小野 マザーハウスは販売にあたって卸売りをしていないと聞きました。販売パートナーを持たないのは怖い決断だと思うのですが、なぜ卸をやらないと決めたんですか?

山崎さん 僕らは160個のバッグを先につくっちゃったところからスタートしたので、売ることを全然考えていませんでした。全てが手探りの中、飛び込み営業に回ったりして。そこで幾つか気づきがあったんです。

ひとつは、卸売りでは買ってくれた人の顔が見えないこと。当時、お客様は満足できる品質ではなくとも買ってくださっていました。でも直接お渡しする接点がなければ、お客様の大切な思いを知る術がないしアフターケアもできない。
   
次に、売り手が僕らの思いを汲み取ってくれるわけではないこと。あるショップと取引が決まったときに、メイド・イン・バングラディシュのタグを「外して」と言われました。貧しい国のタグは価値にならないからと。正直頭にきましたね。

小野 ファッション業界独特の価値観ですよね。

山崎さん 最後は、満足度の高い購買体験を僕らのお客様が求めていたことです。卸し先の百貨店へ買い物に行った方から「売り場がぐちゃぐちゃだった」と直接苦情を頂いたことがありました。心から応援してくださるからこそ、これほどがっかりさせてしまうのだなと。

だったら小さくてもいいから自分たちで対応できる場をつくろうよ、と2年目に店を出しました。

小野 早かったですね、その決断が。

山崎さん それが全部今につながっていると思います。小野さんもたぶん一緒だと思うんですけど、自分で売る喜びと自分で売る利益率の高さ(笑)みたいな。当時10カ所ほどあった卸し先は事情を説明しながら徐々に減らして、4年目には全て直販に切り替えました。

小野 以前、僕が山崎さんにSIRI SIRIのご相談をした時って、うちの卸と小売の占める割合は7:3でした。あの後、スタッフにPLを開示し利益率の違いを説明したんです。卸で10個売るのと小売で3個売るのは同じだよと。今は5:5まで持ってこれたので、今年は3:7に持っていけたらと。

SIRI SIRIが生産をお願いしているような、手仕事をベースとした職人さんたちは今、業界的に収益性の悪化や担い手不足など、なかなか厳しい状況を迎えています。現状の生産量にはどうしても限界があるので、しっかり利益率を上げて、担い手を育成する余力をにしていこうと考えているんです。

山崎さん 利益率、全然変わりますよね。売り上げとしては、ババーって広く卸してちっちゃく積み上げたほうが安心なんですけど、自分で売ると学びがある。

僕らは素人だったから学習が必要でした。だから製品とサービスのクオリティを学ぶ環境として、早い段階でお店をつくって3ヶ月無償修理返品サービスを実施したわけです。

品質が悪ければ容赦なく持ち込まれる。お客様から直接いろんな情報を頂いて、真摯に向き合ってものづくりへ反映してきたのが僕らを一番成長させたというか。

小野 それ、20代中盤くらいの話ですよね。

山崎さん 26歳ですね。やっぱり社会的なミッションとともに、ものの本質、サービスの本質に対して本当にいいものつくりたいって思えるかどうかが本当に大切。

小野 大人だなあ。

山崎さん でもアホだったんですよ(笑) 1店舗目は入谷で、家賃7万8千円でしたけど、隣に股引が干してあるような民家のど真ん中。こんな所じゃ誰も来ないからやめた方がいいって、小売業界のプロが大反対したくらい。

小野 僕、2回ほどお邪魔したことあります。

山崎さん イベントなど来店していただく工夫をたくさんして、結果的には月900万円ほど売り上げる月もありました。そこは賢くなり過ぎなかったのが良かった。

小野 利益をあげるには成功モデルの模倣から始めたほうが近道なのに、全てをゼロから自分たちでつくるという王道を歩むのはとても勇気が必要ですよね。

先発企業がどこも手を出していなければ、後発のうちができるわけないって判断しがちじゃないですか。そこをあえて行く怖さはないんですか。

山崎さん やっぱり「自分たちの力でやっていかないとだめなんだ」って強い思いがパワーの源泉だったと思うんです。そういった意味で、マザーハウスはすごくクローズドなコミュニティ。今も他社とのコラボをほとんどしていませんしね。

小野 自分たちの本質に迫っていこうとするほど、いかに周りの雑音をシャットアウトするかが問われるという話ですよね。

理念とビジネスの融合を目指す企業を増やす

山崎さん マザーハウスのビジネスモデルは、正直真似しづらいと思うんです。工場だって、外部委託での生産では品質の担保がままならなくて持たざるを得なかったし、とにかくやるしかない、で進んだ結果だから。

だけど大きくなってみて感じるのは、うちみたいな「理念」と「ビジネス」の融合に取り組む会社がもっと増えなければ社会は変わらないということ。さっき「マザーハウスはクローズドなコミュニティ」だと言いましたが、この規模になったからこそ、外部とつながってやるべきことがあると感じています。

小野 すごくざっくり言いますけど、正直に仕事をし過ぎると、損をする可能性の高い社会じゃないですか。その正直さが適正に評価されるモデルをつくり直さないと、みんな安心して働けないような。

多少嘘つきながらやっていると仕事に対する嫌悪感も出てくるし、仕事の価値をこんなもんだろうと見くびって、自分で自分の仕事をつまらなくしてしまう。

山崎さん 自分らしく生きることを会社に求められないから、ワークとライフを分けてしまいますよね。

小野 どこの業界の話を聞いても起きている現象ですけど、だからこそ今、正直に働ける会社の成功モデルが本当に必要ですよね。僕は1億から数十億くらいの規模の、企業の集合体のようなものが共同体意識を持つことが大事なんじゃないかと思っています。

山崎さん それは僕の考えとすごく似ています! 金融出身ではない小野さんがそういう考えをしているのは面白いなあ。同じ志を持つ人と一緒に学ぶ場がほしくて始めたマザーハウスカレッジも、実はその危機感から生まれました。

特にものづくりは時間がかかる世界なので、1億円の壁にぶち当たる会社がすごく多いんです。だから1億くらいの成功モデルをもっと増やしたい。

小野 今の世の中は会社を金融市場の価値でしか図れないところがあって、最終的には金融側からの支配が強くなり過ぎてしまう。だから僕の周りの経営者は、わりと似通った価値観を傘にして、さまざまな業態を展開するホールディングス化を目指しているケースが多いんですよね。ある種のコミュニティ化をして、束になって大きな経済から少し距離を置くというか。

山崎さん うちもIPOをしないと決めているから飲み込まれなくて済むけど、僕はやっぱり経済合理性に支えられた構造を変えたい。自分たちで別の生態系をつくっていかない限り働き方の多様性は生まれないですよ。

あとコミュニティが重要になればなるほど、採用がより大事になります。会社で起こる問題って、実は価値観の相違に根ざしていることが多いんです。だから、気持ちよく一緒にやっていける価値観の持ち主かどうか、そこを見る採用が必要だと思う。

小野 ちょうどSIRI SIRIでも初の職人部門の社員をどのタイミングから雇い始めるかというところで、ドキドキしてるんですよ。

山崎さん いやあでも本当、めちゃくちゃ共感するなあ。もうちょっと一緒に何かやりましょうよ。

(対談ここまで)

社会にとって大事だと思っていることをビジネスに変えるためのノウハウを共有し、小商いではなく社会で堂々と渡り合える規模に育てる。そして、ソーシャルな会社の母数を増やし、ともに支え合える生態系をつくっていく――。そんな思いの一致に、山崎さんも小野もとてもワクワクしていたのが印象的でした。

資本主義社会のルールに則りながら、自分たちの求める理想を諦めずに探求する。そのために市場へ誇りを持って差し出せるよいプロダクトをつくり、働きやすい環境を整える。実現に向かう途上で起きる失敗もリスクも厭わない。

そこにあるのはノウハウではなく、真摯さと誠実さを胸にひたすら行動し続けてきた山崎さんの熱量でした。

グリーンズの学校「ソーシャルな会社のつくりかた」2期では山崎さんも講師を務めます。今、ビジョナリーな経営を目指しながらも行き詰まりを感じているリーダーのみなさん、ぜひ彼のエネルギーに触れてみてください。自分の原点に立ち返るきっかけを掴めますよ。

【ソーシャルな会社DATA】
社名:株式会社マザーハウス
設立:2006年3月
代表者:山口絵理子
社員数:国内190名/海外260名(2018年現在)
事業内容:発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・生産・品質指導、同商品の先進国における販売