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小商いを支える地域の「マーケット文化」。仕掛け人ってどんな人? 市塲明子さんの、好きな人・もの・場所を繋ぐ生き方。

「よりよい暮らしを送りたい」とは、多くの人が願うこと。「よりよい暮らし」がどんなものかを突きつめていく中で、マクロビ、田舎暮らし、小商いといったキーワードに出会う人も多いのではないでしょうか。

今、千葉県いすみ市を中心とする“房総いすみエリア”では、コーヒー、パン、お菓子、雑貨、自然農でつくった作物など、自分が本当にいいと思うものを手づくりし、それを売って生計を立てている人が増えています。

お店を持っている人も、お店の無い人も、自分がつくったものを買いたい人へ届け、安定した売上につながるまでを支えてくれる「マーケット文化」。

今でこそ、大小様々なマーケットが開催されている房総いすみエリアですが、このムーブメントを、10年以上前にいち早くスタートさせ、広めた人がいました。

「明るい市場」と、ペンネームみたいなお名前の市塲明子さん(本名)。

市塲明子(いちば・あきこ)
2006年4月に娘ふたり、両親といすみ市へ移住。カフェ開店準備中の2007年、「ナチュラルライフマーケット」を立ち上げたことがきっかけとなり、以後マーケットのプロデュースをするように。「渚のファーマーズマーケット」や「屋根下のカーゴ」、房総パンフェス「パンガナイト」のオーガナイズなど、地域のマーケット文化を支えている。

取材の前情報として聞いていたのは「マーケットをプロデュースしている人。市塲さんがマーケットを開催し続けたことで、やがて店舗を持てるようになった人もいて、房総いすみエリアのマーケット文化を語る上で欠かせないキーマン」。
なんとなくイメージしていたのは、ビジネスウーマン系のハキハキした人物でしたが、インタビューに現れたのは、優しく、おっとりした雰囲気を携えた柔和な女性でした。

いすみ市へ移住してきてすぐの頃は、全国チェーンの自然食品店で働きながら、カフェの開店準備をしていたという市塲さん。それが一体なぜ、「マーケットのプロデュース」をするようになったのでしょうか?

仕事の昼休みかなんかに、雑誌『自給自足』をよく読んでたんですけど、そこに「もみじ市」の記事が載っていて。

もみじ市とは、手紙舎(東京都調布市でカフェや雑貨、本とコーヒーのお店などを経営している)が開催しているマーケットイベントです。

神社の境内に作家さんが何店舗か出ていて、すごく良い雰囲気で。
現在「ネココロ」という移動カフェをやっている当時の同僚に「わたし、こんなのやりたいんだよね」って言うと、「私もやりたい! やろう、やろう! 」と。

ふたりの昼休みトークをきっかけに話は進み、知り合いを中心に数店舗に声をかけ、2007年12月に第一回「ナチュラルライフマーケット」を開催することになります。この時の運営は、言い出しっぺの市塲さんとネココロ、また、当時いすみに移住してきたばかりのタルマーリー(後に、自家製天然酵母のパンで全国的に有名に)の3者で行うことに。いすみ市の市民活動団体を応援する助成金5万円と、出店料500円、会費500円を集めての開催でした。

それでも、ぜんぜん運営資金が足りないから、チラシもモノクロで、100円で何枚でも印刷できる公民館を利用したりして。

それに、当時はみんな自分のお店を持つための準備中だったので、わたしたちもお金を稼がないといけません。それで、マーケットの運営をしながらそれぞれがお店も出して、私たち運営員会のブースをつくって焼き芋や大根ステーキの販売をして。とっても忙しかったです! そんなの、手が回るはずないですよね。

写真は、第2回ナチュラルライフマーケットの様子。

イベントを企画して実施するまでには、出店者への声かけや調整から始まり、チラシづくり、チラシ配布などの広報活動、会場づくりや机・椅子などの手配や設置、当日の搬入や搬出のお手伝い、駐車場の確保、お客さんの動線づくりや誘導、会計など、見えないところにも、小さな仕事がたくさんあります。

その上、自身が出店するとなると、その準備やお客さんの対応も。忙しさは想像に難くありません。

イベントのプロデュースに興味がある人は、『小商いで自由にくらす: 房総いすみのDIYな働き方』(磯木淳寛著・イカロス出版)市塲さん監修ページ「実践! マーケットのつくりかた」を!

その後、出店者から会費を集めたこともあって、年に2回くらいのペースで継続的に運営していこうとなったのですが、初回の反省も踏まえて「今後は、主催者の中にマーケット当日は運営だけに専念する人がいたほうがいいね」と話し合いました。

その時に「わたしがその役割でもいいよ」と。今みたいに、わたしがマーケットの運営を手掛けるようになるのはそこからですね。

第2回の開催にして、たくさんのお客さんが楽しんでいます。

第3回目からは、市塲さんはナチュラルライフマーケットの運営から離れますが、マーケットはその後何度か開催するうちに、東京からもお客さんが押し寄せ、数千人を動員するまでの人気マーケットに育っていきます。

マーケットプロデューサー・オーガナイザーとしてのお仕事続々

そんな評判を聞きつけ、あるときは、道の駅の設立が予定されていた新しい公園でのマーケット開催の相談が持ち込まれました。

開催目的は、道の駅になった場合に人が集まるかどうかの実証実験。こちらは、2011年9月に第1回目を開催し、以後「渚のファーマーズマーケット」として、年2回のペースで現在も続けています。

渚のファーマーズマーケットの様子

また、同じく自治体と民間のまちづくり会社の取り組みで、2016・2017年には商店街の空き店舗対策の一環として、シャッター街に雑貨店舗を招いてオープンした1日限定マーケット「屋根下のカーゴ」をプロデュースすることに。

「屋根下のカーゴ」の様子。当日は、商店街に人が溢れ、よそのまちからも視察が来たりと、大にぎわいでした。

さらに行政が関わらない、完全自主企画のパンイベント「パンガナイト」も2014年にスタート。第1回目は、なんと土砂降りの雨。そんな天候にも関わらず、前評判を聞きつけたお客さんが殺到し、開場から30分でパンが売り切れるという伝説を生みます。

集客人数を正確に数えることは不可能ですが、オープン前に並ぶ人数をざっくり数えてみると…1000人並んでいた回もあるそう。

実際に食べたり、話したりして「いいな」と思ったパン屋さんに、直接声をかけて出店を募ります。

正体は、福の神!?

マーケットのプロデューサー、もしくはオーガナイザーとして、次々と事を成していく市塲さん。
いすみ市に移住する前には、都内や地元(神奈川)でカフェを営んでいたこともあるそうですが、移住から11年経った今でも、ご自身のカフェは開いていません。このままでいいのでしょうか?

一番最初にいすみに来たときは、カフェかパン屋をやろうと思ってたんですけど、タルマーリーがお店を開いたときに「パン屋はすでにあるからもういいか」って。

残念な気持ちではなくて、「このまちに、パン屋ができるんだったら、次はカフェがあるといいな」というように「まちにまだ無いものをつくっていきたい」という気持ちが強いんです。

地元でカフェを経営していた時に、マクロビや自然な暮らしに目覚めていったという、市塲さん。いすみに来た当初は「パン屋」や「カフェ」といった店舗経営の他にも、地域に根ざす店舗の情報発信のプラットフォームを築いて地域通貨を運用できないかとアイデアを巡らせたりもしていたそう。そもそもの興味が「パン屋」「カフェ」「マーケット」などに留まらず、さらに広い範囲にあったことが伺えます。

一番最初に「マーケットがやりたい」と思ったのも、地域のあちこちに面白い人がいながらも、みんなが全然つながってなかったので、なんとかしたかったから。面白い人がいれば、会いに行って、点を線に、線を面にできれば、というような思いでしたね。

房総いすみエリアの面白い人を、マーケットという場でつなげ、お客さんを集め、出店者への売上までもたらす市塲さん。中には、継続的なマーケット出店でファンを増やし、実店舗を持つまでに成長したお店も1つや2つではないということ。なんだか、福の神みたいな存在の市塲さんですが、市塲さんにも、具体的に、福の神はやって来たのでしょうか?

“すごい収入”には、なっていないです。

イベントは、集客が多く、盛り上がれば盛り上がるほど、警備員の配置、テントや机などの備品の必要経費もかさむため、出店者から頂く出店料だけで大きな儲けにはならないそうです。

集客数千人のイベントを1日開催するとして、フライヤー代、場所代、警備員の配置だけで20万円くらいかかりますね。

市塲さんのきめ細やかな対応は評判であると同時に、コミュニケーションコストのボリュームもすごそうです。さらに、運営者は出店者と違って、「感謝やお礼」よりも「不満や困りごと」が集まってくるようなポジション。

誰もができそうで、できない。むしろ、やりたがらない仕事を、(大きなお金になるわけでもないのに…)丁寧に続けて来られたモチベーションの正体が知りたいところです。

出店のお願いや、チラシ置きのお願いに出向き、すっかり話し込むことも。

まぁ、色々と見合わない部分については、また考えようかなと。

ただ、出店者さんとやり取りをすると、距離が近くなります。出店してる人たちって、みんな面白いから、それは連絡係の特典でもあります。

しつこいようですが、それだけで頑張れるものでしょうか…?

いつか、自分でもマーケットに出店できたらいいなとは思ってるんですけどね(笑)

市塲さんが、マーケットプロデュースの面白さに目覚めた原体験はいつだったのでしょうか?

高校3年生のときの文化祭が、わたしの中の一番最初のイベントづくり。文化祭面倒くさい、学校も好きじゃないというタイプでしたが、当時、学級委員長っていうのをやらされてたんですよね。

そのときの文化祭で、けっこう自分のアイデアも通したりしながら、細々したことを決めていって。みんなでつくるという達成感があったなぁと。

大人になった今だからこそ、「文化祭」が楽しい。その気持ちは想像できるし、多くの人が共感するものかもしれません。

人が出会い、つながる喜び

それにしても、市塲さんはもう少し深いところで「人と人がつながる」ことに意味を見出しているのではないか? だからこそ、“お金”ではないところで、これだけ動けるのではないか? そんなことを感じさせるエピソードを話してくださいました。

わたし、地元時代から、ずっと仲良くしている友だちがひとりだけいたんですが、その子が死んでしまったんです。ちょうど、いすみに引っ越して来てすぐの4月でした。

「死」を身近に感じる経験は、生きていれば、誰もが何かのタイミングで、必ず出会うもの。そして、そのインパクトが大きければ大きいほど、おそらく生き方に変化をもたらすもの。

「友だちが誰もいなくなってしまった。ちょっと、外に出ていって、新しい友だちをつくらなきゃ」って。それから意識的に、気になってたお店や講座に顔を出すようにしました。

結果的に、こうした意識の変化が第1回目の「ナチュラルライフマーケット」の開催へとつながっていきます。市塲さんが、一番最初に外の世界やつながりに目を向けたとき、そこにあったのは「ただ、会いたい」という気持ち

つくづく、人が出会うことには、色々な階層があるように思います。

「存在を知っている」ことから始まり、「言葉を交わしたことがある」「どんな仕事をしているかを話す」「どんな思いで生きているか話す」「一緒にプロジェクトを行う」…より深い階層で相手に出会い直す度に、人は、自分の知らなかった一面にも出会い、色々なことを学び、知らない間に友情も育っている。

大人になってからでも、友だちをつくるというのは案外簡単な仕組みでできているのかもしれませんね。

さて、マーケットプロデュースの場面でも、市塲さんは「誰かと誰かが出会う」ことをとても大切にしているようでした。

出店者を公募するマーケットの場合には、事前説明会をやって、まず、お互いにお友だちになってもらうんです。お友だちになったら、その人たちをマーケット当日に隣同士の配置にしたり。

あとは、レストランと農家さんなど、つながってほしいと思う人たちを隣にしたり。そうすると、わざわざ紹介しなくても、勝手に知り合いになれるので。

事前説明会の様子。みなさん本当に初対面? と思うくらい、楽しそうな雰囲気です。

もちろん、お店とお客さんの出会いもクリエイトしています。

マーケットは、その1日で1年分の売上げがつくれるわけではないので、むしろ広報っていうか、その後もお店とお客さんがつながるためのきっかけになればいいなぁと思っています。お客さんが「マーケットでは商品が売り切れていて買えなかったけど、直接お店に来ました」ってことも、よくあるみたいです。

ご自身が商売をやっていたこともあって、マーケットを開催するときは、小さなお店を応援する気持ちが強いという市塲さん。その気持ちは、巡り巡って、お客さんの喜びへと還っていくのでしょうね。

もちろん運営サイドから見ても、空間やニーズに応じて、幅広い出店者の中からマーケットを組み立て、集客に結びつけることができる市塲さんへの信頼は厚く、「パンガナイトをこっちでもやってほしい」といった相談から、新しいマーケットが立ち上がることもあるそう。

たとえば、いすみ市内のコワーキングスペース「hinode」からも、「パンガナイトをやってくれませんか?」と相談があって。元市民プールを改装した面白い空間なんですけど、要は、「ここに人が集まり、活動の拠点として使ってもらうにはどうしたらいいか?」という相談なので、「パンガナイトに限定せず、色んな人がマーケットを開催できるようにしてみたらどうですか?」とアイデアを出したり。

相談者の真のニーズや目的を汲み取ってくれる、頼もしい市塲さんです。

究極のマッチング業へ発展!

市塲さん流「マーケットプロデュース」の本質にあるのは、人をつなげる、コーディネートする、ベストマッチングを見つける、という考え方。その面白さを追求すべく、市塲さんのフィールドはさらに広がりを見せているようでした。

将来的に、不動産さんになりたいかなと

もともと建物を見て回るのが好きだし、地域にある古民家が朽ちていくのをどうにかしたいという問題意識もあります。やっぱり不動産を買うことは、人が引っ越して、新たにそのまちに住むということだし、究極のマッチングだなって。

まさに、人生の一大イベントのお手伝いです。

今、不動産業のお手伝いからスタートして、少しずつ、自分の好きな物件を扱えるようになってきたから楽しいです。

市塲さんのお好みの古民家! 素敵な雰囲気です。

さらに、将来はいすみの地で「シェアハウス」ならぬ「シェアランド」を築きたいという市塲さん。

今はいすみ市から数十分の場所に住んでいるのですが、いずれ両親が住んでいる、いすみの土地を引き継ぐことになります。

なんでも、市塲さんのお母さんが過去に犬のトリミングの仕事をしており、犬がたくさんいても隣家に気を使わなくていいような、広大な土地なんだとか。

のびのびと、楽しそうなワンちゃんたち。

一つ屋根の下で一緒に暮らす「シェアハウス」ではなくて、それぞれに衣食住が賄える小屋を自由に建ててもらって、それぞれの暮らしがありながらも、小屋を出たら共同のリビングスペースがあって、誰かに会えるような。

あとは、加工場があって、農家さんの作物を商品化することで多少の収入になるような、パーマカルチャー的なことをやれたらと。


こちらが、ご実家の様子。自然に隣接してます!

そもそも、最初にいすみ市へ移住してきたきっかけというのが、ご両親が土地を購入した際に、「あんたもついて来なさいよ! 」と誘われたからだそう。

ふわりと、この地へ舞い降り、房総いすみエリアの中で、自由に、緩やかに活動を広げていく市塲明子さん。

マーケットプロデュースは、ひとつの形。

この先も、市塲さんはまだ出会っていない人と出会い続けながら、誰かの出会いを、そしてまちにまだ無いものを生み出し続けるのではないか。それが仕事となり、その結果として、市塲さんの周りにはいつでも優しいコミュニティが存在し続けているだろうなぁと感じました。

写真:
パンガナイト、屋根下のカーゴ: 磯木淳寛
市塲明子さん撮影: 楢侑子
他: 市塲明子さん提供