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“田舎起業家”の先輩たちによる生の声!「いすみ起業大学」でのトークセッション

2011年1月8日に千葉県いすみ市で行われた「いすみ起業大学」を通じて、「田舎で起業することの楽しさ、強み」を参加者に伝えた、先輩起業家たちの力強い言葉と暮らしぶり、そのトークの内容を御覧ください!

いすみ起業大学」で行われた田舎起業家によるトークの模様です。

「パン屋タルマーリー」 渡邉麻里子さん

「パン屋タルマーリー」 渡邉麻里子さん

「田舎は空気もいいし、食の環境も素晴らしいし、子育てにもいい。そんな基本的なリッチが得られる場所です。豊かなライフスタイルの確立ができるのに、気付いている人が少ない。同じような志を持っている人が集まれば地域内循環ができると思います」と麻里子さんがあいさつ。

子どもの頃から環境問題に関心があり、結局は、地域内で人・もの・お金の循環を築くことがグローバルな環境問題の解決につながると考えるようになったそうです。「トレーサビリティ」という商品の原材料から流通、販売、消費までの経路をたどれる仕組みがありますが、

「たとえば自然栽培の小麦を使ってパンを焼いたら、生産者も畑の土も生き物も、すべてが健康で幸せ。タルマーリーのパンづくりではそんな「幸せのトレーサビリティ」を目標にしています」と麻里子さん。いい食材を作る生産者にきちんとお金が入るようなかたちが作れると、確かにみんなが幸せでつながっていけるのです。素敵な考え方です。

「パン屋タルマーリー」 渡邉格さん

「パン屋タルマーリー」 渡邉格さん

そして、格さんが移住、起業までのいきさつと、実践的な開業資金や価格設定など金銭面のアドバイスしてくれました。

いくら「若い」といっても、田舎へ移住したときにそれだけでは地域に歓迎されません。求人も少ないのが現実です。農学部を卒業した夫妻は農業研修などでそのような現状を知り、「田舎で何ができるか、どんな技術があるか」ということが重要と思い、パン屋として「農」にかかわることを決め、東京で約5年の修業を積んだ後に移住しました。

いすみ市に決めたのは以前から房総になじみがあったこと、移住者が多く開放的な土地柄、子育て環境がよい、マクロビの料理研究家としても活躍している中島デコさんのカフェもあるということでした。

国道沿いではなく、辺鄙な場所に古民家を借りて住居兼店舗にしている渡邉さんは、移住して3ヶ月で希望の物件が見つかったそう。その理由は「“パン屋”という明確な目的が地域の人にもわかりやすく、受け入れやすかったから」といいます。何をしたいか明確に説明できないと、物件を探す本人も地元で紹介してくれる方々も、漠然としたイメージのままで、なかなか見つかりにくくなってしまいます。

「何をやるか」。これは田舎で起業をする上でしっかり固めることが重要です。

講義では「パン屋タルマーリー」を見学。古民家の納屋を店舗にしている。自分で改装した話に参加者は興味津々。本当に美味しいパン屋さんなのでぜひ一度、買いに行ってみて!

講義では「パン屋タルマーリー」を見学。古民家の納屋を店舗にしている。自分で改装した話に参加者は興味津々。本当に美味しいパン屋さんなのでぜひ一度、買いに行ってみて!

パン屋タルマーリー オーナー
渡邉格さん 麻里子さん
東京生まれ。農学部卒業後、有機農産物流通会社に勤務。02年に結婚。夫婦で房総に移り「農あるパン屋」を開くことを目標にし、格さんは「ルヴァン」などで5年間パン職人として修業。万里子さんも農産加工業者にて、広報や通販業務を担当。07年に1歳の娘と3人でいすみ市に移住。08年「パン屋タルマーリー」を開店し、人気店に。自家製天然酵母と国産小麦のみを使用し、地域の農を大切にした経営スタイルも話題を呼んでいる。5歳の娘と1歳の息子がいる。
http://www.dab.hi-ho.ne.jp/soba-mari/top.html

房総は食材の宝庫だと気づきました

続いて登場したのは、地元の山武市で千葉県産の食材で作る「千産千消」のイタリアンレストラン「Ushimaru」を経営している鈴木敦子さん。明るく楽しい性格で頼りになるオーナーです。11年目ですが、始めるより維持するのが大変だといいます。

「Ushimaru」 鈴木敦子さん

「Ushimaru」 鈴木敦子さん

じつは5年前に大きな転換期がありました。以前は地元向けのパスタや和牛のレストランでした。シェフが交代することになり、新しく入ったシェフは新潟出身の打矢シェフは「なんでこんなにいい食材があるのに、使わないんですか!」といったそう。山武市で生まれ育った鈴木さんはその食材のよさを当たり前と思っていたので、シェフによって、地元食材の豊富さ、素晴らしさに気づかされたといいます。

それまでは地元の方も利用しやすい価格とメニュー形態でしたが、それを打矢シェフは地元食材中心のコース料理を主とした形態へ切り替えることを提案しました。その提案に鈴木さんは、切り替えるとそれまでの地元のお客さんが離れてしまうだろうと思い、経営者としてシェフと意見がぶつかっていたそうです。

「シェフはいつの間にか外房の海に行って漁師さんから直接魚を仕入れてきたり、猟師さんからイノシシや鹿を仕入れてきたり。シェフの一生懸命さに負けました(笑)」とシェフの熱意に、応援していこうと心を決めた鈴木さん。

また、この転換期に渡邉夫妻とも出会いました。都会から来たからこそ地元の素材に大きな魅力を感じるという言葉に、鈴木さんは勇気付けられたそうです。そして新しいスタッフたちが店をますます盛りたて、今では東京からも地元からもお客が来る繁盛店として、新たな道を歩いています。

鈴木さんの経験談から、新しいことに挑戦する度胸が経営者には必要で、それが飛躍する鍵を握っていると実感しました。

また、生産者が身近にいるということは新しいビジネスチャンスにつながる好条件。打矢シェフのようにほかの地域から移住をしてくると、地元の人が当たり前で気づかなかったその土地の魅力に気づくことがあると、よく耳にします。そこを上手に生かし、アピールすれば、田舎ならではのビジネスを成功に導けるのだと思います。

ランチに出されたUshimaruの打矢シェフが作った「千産千消イタリアン」料理。「匝瑳市産 豚肉の生ハム 一年熟成」など珍しくて豪華な料理に満足

ランチに出されたUshimaruの打矢シェフが作った「千産千消イタリアン」料理。「匝瑳市産 豚肉の生ハム 一年熟成」など珍しくて豪華な料理に満足

Ushimaru オーナー
鈴木敦子さん
千葉県山武市(旧松尾町)生まれ。地元の千葉県山武市で一軒家のイタリアンレストラン「Ushimaru」を経営。九十九里で獲れる海の幸や、地場の野菜、酪農家である実家の絞りたて牛乳、天然の鹿やイノシシなど、海と大地に育まれた房総半島の豊かな食材をシェフが探し出し、千葉の恵みを表現したコース料理が好評。店長のご主人との間には0歳の娘がいる。
http://ushimaru.biz/

“覚悟できるか”がいちばん大事

最後はいすみ市に昨年4月に移住したばかりの「株式会社ビオピオ」代表取締役の鈴木菜央さん。菜央さんが立ち上げたWEBマガジンの「greenz.jp」では、「自分の暮らしが変わる世界のグッドアイデア」を日々紹介しています。そのアイデアを求める読者はなんと8万人! それを基本にビジネスを展開し、ソーシャルメディアでの反響に手ごたえを感じているそうです。

「ビオピオ」 鈴木菜央さん

「ビオピオ」 鈴木菜央さん

子どもの頃、ぜんそく持ちだったことから環境などの社会問題に目覚め、その問題を解決できる場所を仕事場にしたいという菜央さんが選んだのがメディアの世界。出版社などで経験を積んだ後、社会問題を解決するメディアをやりたいとあちこちに話していたところ、とある会社で念願のメディア、「greenz.jp」を立ち上げることができました。でも半年で事業が頓挫。どうしても続けたかった菜央さんと仲間の2人で新たな「greenz.jp」を作るべく、資金もない状態の10万円で起業したそうです。

「起業した当時はとにかくgreenz.jpがやりたかった。記事を読んだ人から元気になったといわれると嬉しくて。純粋にメディアがやりたかったんですが、今振り返ってみるとそれだけでは食べていけなかったんですね。“やりたいこと、得意なこと、社会が求めるもの”この3つが重なったところを真剣に考えなくてはいけないのですが、やりたいことだけで突っ走ってしまい、後戻りできない状況になっていて。子どももいたし、2人分の給料も考えなくてはいけないし」と菜央さん。いくつもの厳しいハードルを乗り越え、現在のかたちにたどり着きました。

「起業の準備は絶対必要だと思いますが、えいやと始めてしまうことも重要。“覚悟があるか”ということなのです。勝負できるときに勝負しないと後悔する。自分ができること、考えていることにゴールを設定して、そこに向かって覚悟を決めることが大事。前へ踏み出して後戻りできない状況を作り、必死になって考えて、階段をひとつずつ上がっていけばいい」。大事なのは覚悟と、参加者を力づけるメッセージを伝える菜央さん。

また起業に必要なコミュニケーションの成功の秘訣も、5つ教えてくれました。

「1ゴールを決める。2相手を知る。3己を知る。4メッセージを決める。5導線を作ることです」。やることを決めたら目標を設定し、相手(お客)と自分を客観的に見つめ、伝えたいキーワードを決めて、お客さんがやってくるようにもっていくこと。菜央さんが言う秘訣はどんな仕事にも役に立つ言葉でした。

東京で起業した菜央さんは次のステージを考えるため、何回か訪れたことのあったいすみ市へ昨年春、家族で移住をしました。現在は東京の事務所へ通勤をしていますが、田舎に溶け込み、周囲や都会ともうまくつながっているお店のように、田舎のコミュニティーという舞台で、メディアもその中に位置づけたいという考えがあるからです。

「社会に役に立つことは、お金を取ることと両立しないといわれていました。でも良いことを提供しようと思っても、お金が入ってこないと広まらない。読者の獲得もできない。自分たちが100%エネルギーを注ぐことができない状況になってしまう。うまく自分が社会に利益のあることをビジネスにつなげられて、それが回転していくと、自分たちももっとその良いことに時間を使えるようになる。自分も周りも満足するような社会的起業、新しいビジネスのやり方のほうがやりやすい」と話す菜央さんのいすみ市での新たな展開にも注目です。

株式会社ビオピオ代表取締役
鈴木菜央さん
バンコク生まれ。6歳より東京で暮らす。コンサルタント会社にて2年間、「月刊ソトコト」にて編集・営業として3年間勤務後に独立。06年、「エコスゴイ未来がやってくる」をテーマにしたWEBマガジン「greenz.jp」を創刊し、編集長として活躍。08年株式会社ビオピオを設立、取締役に就任。暮らしと世界を変えるグッドアイデアを発信し続けている。10年4月に東京から千葉県いすみ市に家族で移住。6歳と4歳の娘がいる。
https://greenz.jp/

起業をする上での心がまえと時代の読み方

続いて事業計画の作成について。これはいすみ市商工会の根本さんから、テキストを使った講義がありました。難しい話ですが、お金についての知識は起業する上で避けて通れないものです。資金計画や損益計画の立て方、採算、融資制度について、基礎知識を学びました。最初の資金計画は、しばらく商品が売れなくても食べていけるような運転資金を考えて、最悪のシミュレーションをしておくのも大事なことだそうです。

渡邉格さんは起業の心構えと時代の読み方を具体的に講義しました。

「行き止まりの谷にぶつかったときにやめましょう」と最初からきっぱり。自分の未来が見えない仕事なら辞めてしまおうと、少々過激なように聞こえますが、自分の心身をラクにするための格さん流の提案です。本当にやりたいもの、持続可能な仕事をするための提案なのです。

「事業を起こすというのは作ること、売ること、管理すること」の3要素を行うことです。これが成り立つように、サラリーマンから起業家としての思考に切り替えていかなくてはなりません。自分の資質の見極め、資金の準備、できるだけ技術を身につけていくことも田舎での起業準備にはかかせないようです。

時代の読み方の講義で印象に残ったのが、「信念、大局観が重要だと思う。自分本位でやる。流行を追うのではなく、時代を読む」という言葉。これからはますます、大企業が真似できないような独自性が大切で、自分が作りたいものを作っていれば経済の波にものまれないといいます。

そして、それを理解してくれる人に伝えるためには、短いキャッチフレーズをつけること。自分が何をやっているのか正確に伝える短い言葉は、確かにわかりやすいですし、自分自身も目指すものが常にはっきりしていることになります。

「飲食で革命を起こしたい」という夢をもっている渡邉夫妻。週休2日、年間3週間のバカンスが取れ、地元の美味しいものが食べられて、技術が身につき、楽しい。そんな会社づくりを目指しているといいます。「関わっているみんなが幸せになる」。そんな新しい働き方のビジネスモデルを期待できるのが、“田舎起業家”だからこそなのでしょう。

(文/細江まゆみ 写真/徳留尚弥)