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元anan編集者。お買い物中毒だった私が、全米最大規模の環境会議「Bioneers」を伝えるということ

ぶっちゃけ「Bioneers」会場で最も”らしくない”人物といえば、私だったといっても過言ではないのかもしれない。

「Bioneers」とは、1990年に始まった世界的な環境・社会・エコイベント。こちらBiological Pioneers(生態系の先駆者)を組み合わせた造語で、私たちがあらゆる生物と共存・共栄するために何をすればよいのか。最先端の科学者、先住民のリーダー、アーティスト、思想家、行政のリーダーたちが互いの智慧を交わす場所だ。

いっぽうで消費社会の申し子だったという私。正直言えば、環境活動への知識はほぼゼロ。会社を辞めて2年ほど前から学生に戻ってアメリカで暮らしているのだが、退職前はファッション誌『Ginza』の広告営業兼マーケティングを担当、その後は『anan』編集部に勤務していた。

毎シーズンの展示会やファッションショーはキラキラしていてクリエイティブで、本当に楽しかった。
毎日違う洋服を着て、ブランドバッグや靴もたくさん持っていた。

でもあるときふと、商品タグがついたまま一度も袖を通したことのないワンピースやニットがずらっと並ぶクローゼットを眺めていて、このままでいいのかな。疑問の先に行き詰まりを感じ、いろんな経緯をへた結果、全所持品スーツケース2つ分という現在に至っている。が、アクティブな社会活動家というのとは違うし、おしゃれを楽しむ心も大切にしたい。

私の海外居住を全身全霊をかけ、阻もうとした愛猫。現在無理を言って両親に世話になっている。先日1年半ぶりに一次帰国したら、すっかり忘れられ、怯えられてしまった…。

そんな”らしくない”人生を送ってきた私がサスティナブルムーブメント最先端のイベント「Bioneers」に参加し、ここで記事を書かせていただいているという、ある意味謎の事態が起こっているのだが、これはおそらく今から1年半前に始まっていたことなのかもしれない。

世界的な平和活動家であり禅僧のThich Nhat Hanh(ティク・ナット・ハン)が導く、2012年韓国マインドフルネス瞑想合宿で出会ったソーヤ海くん。彼が鈴木栄里ちゃんと”ギフトエコロジーツアー“なるものを実施すると聞き、参加したのが渡米して約半年が過ぎたというとき。

当時の私は、再び学生に戻り無職の身となったために、“お金を稼いでいない”ことへの強い不安と劣等感に苦しんでいた。そのうえ、ツアー直前に有り金と買ったばかりのiPhoneを白昼堂々強盗に奪われ、”ギフトどころか強奪の国やん!”と相当アメリカ社会に対して懐疑的になっていた私。

というわけでギフト精神への不信感を全開にしながら参加をしたのだが、ツアーでは先送り経済をベースにしたバークレーのレストラン「Karma Kitchen」を運営するニップンさんやオークランドのギャングの巣窟で家をコミュニティに開放する「Casa de Paz」のパンチョやサムと出会う。そして締めくくりには50年以上無料で食べ物を配り続けながら今までお金を稼いだことがないというツリーさんと庭仕事をし、一緒に泣いた。

ソーヤー海くん、鈴木栄里ちゃんが実施したギフトエコロジーツアー参加後にボランティアとして参加させてもらった、ニップンさんのヴィーガン料理店「Karma Kitchen」は、ペイ・イット・フォワード[恩送り:受けた恩(例えば、レストランの支払いなど)を直接恩を贈ってくれた当人に返すのではなく、また別の人に贈ることで親切を繋いでいくシステムのこと]を実験的に行うレストラン。

そんな栄里ちゃんがインスパイアされたという「Bioneers」をgreenz.jp編集長の鈴木菜央さんとともに日本の皆さんに届けたいという。

菜央さんとしては、

菜央さん 現場の臨場感を伝えたい。でもなるべく勉強臭くなりすぎないように皆さんが楽しめる内容にしたい。

という思いを持っていたので「じゃあ、エシカル(環境保全や社会貢献)をキーワードにした会場参加者の本気のファッションスナップ記事は面白いんじゃないですか」と提案。

ひと目写真を見て「オシャレ」「可愛い」「真似してみたい」と思ってなにげなく原稿を読み進めてみたら、”ファッショナブル”でありながらも”エコロジカル”である装いのコツが自然に学べる。そんな記事があれば「Bioneers」のメッセージを、読み手に押し付けることなく自然な形で伝えられるのではないかと思ったのだ。

その結果、言い出しっぺの張本人が担当することになり、会場でハントした11名のファッションスナップを決行!

「アナ・ウィンター席」と名付け、会場へと一同に会す参加者を見渡せる石のベンチを毎朝陣取った。

歴史ある環境会議でファッションスナップ取材をしたいとは「Bioneers」側には型破りな提案だった。当然プレス担当者には重々参加者に失礼が無いようにと念を押され、取材を実施。ちなみにスナップ写真は、ギフトエコロジーツアーで出会った相棒・ひろみちゃん(サムと結婚し、現在Casa de Pazで暮らす)が撮ってくれた。

「エシカルだからといって妥協はできない。おしゃれな人を見つけないと説得力がない」。

というわけで毎朝一番にひろみちゃんと”アナ・ウィンター席“と名付けた、「Bioneers」版TED Talks・KEYNOTES会場へと集まる人々を見渡せる垣根前のベンチを陣取り、”おしゃれびと”をハンティング。「ハロ〜〜」と、取材・撮影交渉に走り続けた。

「スナップに使うから」と頼むと、会場のクマの像を忠実に撮影してくれるひろみちゃん。本当はナゾのリクエストにも応じてくれたという姿をこっそり抑えたかったというワケ。盗撮がゆえ、首をかしげたペンギンが手前に紛れ込んでいるのもご愛嬌です。オヨヨ。

参加者たちを取材する前はファッションにおけるエシカルといえば、環境に優しいオーガニックコットン素材の洋服だったり、フェアトレードのバッグだったりというアイテム紹介になるだろうと想定していた私。

もちろんそういう人もいたけれど、圧倒的に多かったのはスリフトストア(寄付によって集められたものを販売し、売上を慈善活動に当てる店)で購入したワンピースや、物々交換で手に入れたキャップ、何十年も愛用しているベルトなどを上手にコーディネートし、古いものを長く大切に使う人たちだった。過剰な消費に加担せず、でも不自然にストイックになりすぎることもない。今あるものを上手に活かして、新鮮なファッションを楽しむという姿勢にふれて、目からウロコが落ちた。

つまり彼らのスタイルに触れて、自分のなかに“ファッション=新しい何かを消費することオンリー”という思い込みが無意識レベルで染み付いていることに気づかされたのだ。

快く取材に応じてくれたアメリカ先住民・スー族の最も偉大な戦士・呪術師とされた、シッティング・ブルの末裔であるマテンさん

もうひとつ勉強になったのは、ファッションにおけるエシカルとは”真正なる自分を表現することだ”という彼らの解釈だ。

つまり黒人女性であったら、そのつややかな肌やカールした髪の美しさを活かしたヘアメイクを施したり、アメリカ先住民の参加者は自分のルーツと繋がる装飾品を身に着けていたり…。自分以外の誰かを真似るのではなく、世界でただひとり、その人本来の存在を輝かせること。それがひいては世界へのギフトになるのだという。

アメリカ先住民の少年、マテンさんが素敵なイヤリングをつけていたのでたずねると、

マテンさん 私の部族ではイヤリングをつけるのには意味があります。つまり、聞く準備は出来ている。肉体は引き渡していても、精神は渡さない。そういった姿勢を装飾品によって表しているのです。

と教えてくれた。

丁寧にひとつひとつ言葉を選びながら話す彼は、ラコタ・スー族で強い影響力を持った伝説の祈祷師・シッティングブルの末裔だった。

10代の彼だが、アメリカ・ノースダコタ州とイリノイ州を結ぶ石油パイプライン「Dakota Access Pipeline(ダコタ・アクセス・パイプライン)」の建設をめぐった抗議デモ活動「Standing Rock(スタンディング・ロック)」のフロントラインに立っているという。

石油パイプラインの建設ルートは、ミズーリ川を通過する。そこで石油漏れが起こった場合、居留地に住む先住民の彼らだけではなく、ミズーリ川の水源に依存するすべての人の生活が脅かされてしまうため、活動しているというのだ。

ミズーリ川がスタンディングロック居留区に合流する場所は、かつてその豊かな水流によって研磨された完璧に丸い石が採れたことから”神聖な石のキャンプ”と呼ばれていた。後に植民地支配により、神聖な石から”鉄砲玉(キャノンボール)”と呼ばれるようになり、1950年〜1960年代のアメリカ陸軍工兵隊による土地破壊によって丸い石は採れなくなってしまった。

そして現在「Dakota Access Pipeline」建設。工事の一時中止が発表されたとはいっても、政府の声明を建設会社側は承認していない。

栄里ちゃん、そしてgreenz.jp編集部の鈴木菜央さんとスズキコウタさんへと繋がり、シッティングブル末裔の彼とこの場で出会った。全ての出来事には意味がある。

”らしくない”にも関わらず、報道する機会を与えてもらえた者として「Dakota Access Pipeline」について何か伝えるべきなのだろうか。というわけでひとまずと建設問題について調べていた矢先に、私のメインバンクが工事に出資しているという事実が判明。

アメリカ人ではない自分は加害者にはなりえないトピックだと無知にも考えていた私。しかし、建設には日本の主要銀行も出資しており、その3行のみで全出資額の約6割を占めるという(2016年9月時点 / foodandwaterwatch.org参照) 。

さらになんという偶然! この原稿の入稿期間中、2度も銀行のカードの盗難と紛失という失態をしでかし、24時間態勢という手厚い銀行のサービスに助けられて事なきを得る。今の自分に銀行を変える勇気は無い。では”伝える自分“と”消費する自分”に隔たりがある以上、社会正義について報道する資格なんて無いのでは?

でも、機会を与えられた身として皆さんに見聞きしたことをお伝えすることには意味がある? 一体どうしたら良いのか。

悩んだところで、”らしくない“私がひとりで考えても結論は出ないまま。そこで思い切って、「Bioneers」創始者のKenny Ausubel(以下、ケニーさん)に相談した。

ケニーさん ”消費者としての自分”と”伝え手としての自分”、その2面性における自分の整合性を取ること。それはジャーナリストとして、永遠のテーマだね。

例えば、「Dakota Access Pipeline」の建設についての批評記事を書いたとする。とはいえ、ガソリン(石油)を使う車を運転する自由もあってしかるべきなんだよ。

とケニーさん。

とはいえ私たちは社会のゲーム構造における一端を担っているという責任を常に忘れてはいけないと言う。

ケニーさん 君も、私も、そしてこの記事を読んでいる読者の皆さんも全員。市民であるということは同時に、消費者であるということだからね。だから非常に注意をしなければならない。

そこで、大切なのはバランスだという。

ケニーさん みんなそれぞれのレベルで生きている。非常にアクティブな社会活動家もいれば、身の回りの何かを改善してみたいという人もいるよね。そこで一番大切なのは、誰かと比べるのではなく、まずは自分の生活水準や価値基準の中で何が出来るのかを模索し、改善・成長していくこと。

今までの発言が私の質問の答えになっているかと気遣ってくれたケニーさんに対して、

「あなたのような社会正義リーダーの助言を受けられ、大変光栄です」

と伝えたところ、

ケニーさん 私が指導者で、あなたが追随者というのではなく、みんながリーダーなんだよ。それぞれがそれぞれの指導者なんだ。自分らしいやり方で、積極的かつ活動的になれるんだよ。

と一言ビシリ。

「Bioneers」の真髄とは、活動的な報道にあるとケニーさんは言う。社会で何が起こっているのかについて意識的になり、そこにどういう形で自分が加わり変革していくのか。そのための具体的な方法や考えを共有し、行動するというスピリットだ。

”今までとは違う価値観や世界に触れて実際に体験して、ものごとをあらゆる視点で眺めてみたい”と会社を辞めてアメリカに飛び出したのが2年前。結果、“世界が開けた!”なんていうものは正直まだまだない。

現実問題として、経済的に困窮して下着が透けて見えてしまいそうなほど擦り切れたレギンスをどこまで履いてよいものかと葛藤している自分を惨めに感じたり、授業料を振り込んだ直後に古着屋でTimberlandのブーツを見つけてうっかり散財してしまって落ち込むこともある。

あれやこれやと理想を描きながら、相変わらずバカなままだ。

でもそんな自分も否定せずに、成長過程としてまずは認めたい。自分のバカさ加減を認めたうえで無意味なこだわりをひとつずつ捨てていき、一歩、また一歩とその歩みを確かめながら自分のペースで成長していきたい。自己中心的な快楽に溺れるわけでもなく、持続不可能な苦行を強いるわけでもなく、実体験のなかで私なりのバランスを見つけること。そういう自発性や自立性もまた、ケニーさんが言うそれぞれが自分の人生におけるリーダーだということなのかもしれない。

社会を変えるために個人が出来る4つのアクションがあるという。それは、

1.実践(社会活動、デモ行進など)
2.教育(何が起こっているのかを知る、伝える、学ぶこと)
3.消費(銀行選びなど、自分の信念に沿う適切な形でお金を使う)
4.主権者活動(自分の意見の代弁者としてどの政治家を選び、支持するか)だ。

私はまず2から始めてみようと思う。そんな人生の転換期である現在、この場に立ち会う機会をくれたgreenz.jpと栄里ちゃんに深い感謝を抱きながら、目の前に広がる未知の世界に少しの不安とたくさんのワクワクを感じている。


(写真: Hiromi Bower Ui、スズキコウタ、土居彩)
(編集: スズキコウタ)

– INFORMATION –

2017年度五井平和財団フォーラム

「Bioneers」の共同創設者、ケニー・オースベル、ニナ・サイモンズ夫妻が2017年度の「五井平和賞」を受賞。今回、授賞式のために初来日し、受賞記念講演を行います。
詳しくはこちら

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