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キーワードは“映画館だけじゃない映画館”。クラウドファンディングで復活を果たした、クリエーターとコミュニティの拠点「豊岡劇場」

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クラウドファンディングで復活を果たした兵庫県但馬地方で唯一の映画館「豊岡劇場」の外観。(c)豊岡劇場

みなさん、映画はお好きですか? 今日、実に様々な娯楽がありますが、テレビが普及するまで、映画は一大娯楽。そのジャンルも洋画、邦画、大衆的娯楽映画から、芸術作品まで幅広く、子どもから大人までが集う映画館は街の中心的な存在でした。

ところがここ近年は、大手シネコンで上映される商業映画が市場を席巻し、単館系の映画は押され気味。日本全国のあちこちで、こうした街の小さな映画館が姿を消していると言われています。しかし本来、文化には多様性があってこそ。

そんななか、閉館してしまった街の映画館がクラウドファンディングの力を借りて、見事に復活を果たしました。兵庫県豊岡市にある「豊岡劇場」(以下、豊劇)です。復活の発起人であり「豊劇新生プロジェクト」代表の石橋秀彦さんは、こう言いました。

石橋さん 文化財って建物だけじゃない。僕は「豊劇」が映画を通して地域に提供してきた文化的役割には大きな価値があると思っています。「豊劇」の再生は、これこそが文化財ではないのか? という問いかけと挑戦なんです。

「豊劇」のキャッチコピーは「映画だけじゃない映画館」。クリエーターとコミュニティの拠点を目指しているのだとか。その再生の物語と場づくりのノウハウを詳しく見てみましょう。
 
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豊劇新生プロジェクト代表石橋秀彦さん(写真左)とデザイン&マネージメントの松宮未来子さん(写真右)。

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プロジェクトリーダーの伊木翔さん。

1927年にオープンし、2012年にクローズした「豊劇」

大阪から特急で2時間半、鞄づくりとコウノトリで有名な兵庫県豊岡市に到着します。駅を降りて歩くこと10分ほど、古い街並みの通りから、ひょいと角を曲がると「豊劇」に着きました。

「豊劇」が建ったのは1927年(昭和2年)。はじめは芝居小屋としてスタートし、社交ダンスの場、戦時中は倉庫、そして映画館として、時代とともに文化の拠点は姿を変えてきました。

かつて豊岡の街に映画館は4つあったそうですが、他の映画館はすべてクローズド。「豊劇」は残るひとつの街の映画館として営業を続けてきました。

石橋さんは思春期に「豊劇」で見た映画の影響を受け、映画監督を目指していたほど思い入れがありました。あるとき、新聞の報道を通じて閉館されることを知り、オーナーに「閉館しないでください」と嘆願しましたが、時すでに遅し。惜しまれながら2012年の3月にクローズしてしまいました。

それでも諦めきれない石橋さんは、有志で「トヨオカ・キネマ・クラブ」を結束し、5月に映画館のお掃除とビアガーデンのイベントを企画します。ところが、イベントの直前に映画館のオーナーさんが事故で急死されてしまいました。

ご遺族の心情や事情を鑑みて、いったんは閉ざされた豊劇復活の夢。しかし、その年の11月、1日限りの映画の上映会を行うことになります。それは、石橋さんにとって、改めて「豊劇」の価値を見つめなおすきっかけとなりました。

石橋さん 上映会の後に「豊劇」ってどんなところでしたか? とアンケートをとってみたんです。

そうしたら「若い頃よく見にきました」「私の子どもたちもよく見に来ました」「親子二世代にわたって、お世話になった場所です」など、映画館に対する地域住民の方の思いが伝わってきて。

僕の心が、もう一度大きく揺れてしまいました。

クラウドファンディングへの挑戦

とはいえ、映画館の運営にはお金がかかります。近年多くの映画がデジタル化されていますが、「豊劇」は資金不足のため、デジタル化しきれず、映写機器やスクリーンは全てフィルム専用のものでした。

上映したい新作映画があっても、配給会社のほうがデジタルデータしか持っていない場合は、その映画を上映することはできません。しかも、デジタル機器類はすべて揃えるのに約1千万円ほどかかります。

そこで石橋さんは、大衆文化のシンボル「豊岡劇場」をリノベーションし、再び地域に文化の拠点をつくるため「豊岡新生復活プロジェクト」を立案しました。まずは仲間集めから、ということで、但馬地方(兵庫県北部)で音楽イベントを主催していた実績を持つ伊木翔さんをプロジェクトリーダーに据え、デザイン&マネージメントに松宮未来子さんを誘います。

そしてもう一度、豊劇を再生させる意義をブレストしました。

石橋さん そもそも映画館って何なの? と考え直したのです。映画は地域の人に貢献する文化的な役割が高い。でも、レンタルDVDの普及、若者の映画離れなど、映画館の経営が立ち行かなくなった理由もきちんとふまえて、違うありかたを考えなければならない。

よくよく考えると「豊劇」は、もともとは芝居小屋であり、社交ダンスの場であったり、時代とともに変わっていったんです。

だからこそ、その時代に応じて、やはり新しいことをやっていかなければならない。そこで、「再生するなら地域の人々のためのコミュニティづくりの場とクリエイターを生み出す場にしたい」と考えるようになりました。

新しい映画館のあり方として、資金集めも新しい方法でやろう。そう考えた石橋さんは、映画監督の畠山容平さんから聞いた、クラウドファンディングという手法に注目します。
 
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MotionGalleryにてクラウドファンディングに挑戦。

実は映画業界では、クラウドファンディングで資金を集めて、映画を撮るという方法が、メジャーになりつつあったのです。

とはいえ映画館をクラウドファンディングで再生するというのは、なかなか類を見ない挑戦。豊劇はずっと街に根付いたものであることから「できるだけ地元の方の支援を集めることを念頭においた」と石橋さんは言います。

豊劇のある兵庫県北部ではクラウドファンディングは初の試みだったそうで、まずはクラウドファンディングとは何か、という説明会を開くところからのスタートでした。

理解を得るため劇場を開放して、中を見ていただく機会も設けましたね。1日で50人から60人ほど、人が集まり、そのうち8割は地元の方でした。

他にも地元のフリーペーパーに2回も広告を出すなどの地道な努力を重ね、石橋さんはこうして着実に人々の心に豊劇再開に向けた灯りをともしました。

こうして2014年11月にはじまったMotionGalleryでのクラウドファンディングは大成功! 目標金額200万円を大幅に上回る、271万6000円の資金が集まりました。
 
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改修前。70席あった小ホール。戦後に増築されて以降、数多くの物語を銀幕に映し出してきました。(c)豊岡劇場

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改修後。70席あった客席を取払い、床を張り替えました。さらには琉球畳を敷いて、子ども連れの若いお母さんやお父さん、みんなが座って映画が見られるようにリノベーションしました。(c)豊岡劇場

豊劇には大小2つのホールがあり、石橋さんたちは早速この費用を小ホールの改修費用にあてました。

一方、映画館のデジタル化に必要な機材は「中小企業・小規模事業者ものづくり・商業・サービス革新事業」という中小企業庁の補助金を活用。建物全体は石橋さんが経営する石橋設計事務所が買い取るという、複合的な資金調達の方法をとることにしました。

「映画館だけじゃない映画館」のはじまり、はじまり

こうして、映画館として再び映画の上映をはじめた「豊劇」。それでは、「映画館だけじゃない」部分、つまりコミュニティ育成の場としては、どのような取り組みが行われているのか見てみましょう。

私が取材に訪れた前の週には、地域の子どもたちを主役にした「キッズバザール」というイベントが開かれていました。「キッズバザール」とは、地域の子どもたちに職業体験とマーケットを体験してもらうイベントです。

まず、子どもたちに不要なおもちゃや子ども服を持って来てもらい、豊岡劇場だけで流通する通貨「豊コイン(とよコイン)」と交換します。

そのコインを持って、おもちゃを換えっこするゾーンに行けば、他の子どもたちが持って来たおもちゃと換えっこできる「わらしべ体験」、という物物交換が楽しめるという仕組みです。
 
tygk7おもちゃや着なくなったお洋服を豊コインと換えっこする「わらしべ体験」のゾーン。(c)豊岡劇場

また、お菓子やアクセサリーなどの雑貨をつくって商う地元のお母さんたち11組にも声を掛け、豊コインを使った物品販売も行いました。

これらの店舗ではコインで商品が買えるだけではなく、1豊コインで1時間の職業体験ができる「こどもスタッフ」も募集しました。
 
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豊岡でケータリングやパンの販売を手がける「My pan」は、子どもたちがバーガーを手づくりし、自分でつくったバーガーを自分で食べるという体験ブースを開きました。その傍らで子どもたちがつくったアクセサリーも販売しました。(c)豊岡劇場

松宮さん 近くにレジャー施設がたくさんあるわけでもないので、豊岡に住むお父さん、お母さんは、2時間半ほどかけてお出かけしているそうなんです。じゃあ、子どもたちが集えるマーケットが豊岡にあってもいいな、と始めました。

子どもたちのおもちゃって、捨ててしまうことも多いと思うのですが、こうして交換できるようにすると、「自分のおもちゃを後で誰かが使うかもしれないから、大切に使おうね」と子どもたちに教えることができます。それはお母さんたちにも好評でしたね。

また、豊劇の小ホール・大ホールは、いずれもレンタルが可能です。地元の人たちが同窓会や会議に使ったり、イベントを開いたり、はたまたウクレレ教室のようなスクールを開催したり。さまざまに使われることで、地域の人たちにとっての居場所となりつつあるようです。
 
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月1回開かれるウクレレの会の様子。小ホールの畳部分を使って、くつろげるウクレレ教室に。(c)豊岡劇場

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VJとDJを招いたクラブイベントも開催。深夜0時まで営業しました。(c)豊岡劇場

コミュニティのための催しはレンタル料が無料!

地元の人たちに積極的に活用してもらうために、石橋さんが考えたのが「豊岡コミュニティ認定」です。

手順は簡単。ホールを使用したいと思ったら、まず豊劇に「コミュニティ申請申込書」を提出します。豊劇スタッフは申請された活動内容が

1. 文化的な活動
2. 地域交流の活動
3. クリエイターとしての活動を目的とした非営利目的の団体や3人以上の個人の集まり

のいずれかに認定されるかを協議し、審査に通過すれば大ホール、小ホールともにレンタルスペース基本使用料金がなんと無料に! 主催者は光熱費や機材の使用料のみを支払うだけで、気軽にスペースをレンタルすることができます。
 
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小ホールの使用料金表。レンタルする曜日と時間帯で細かく基本使用料が設定されている。コミュニティ申請を行い、活動目的がコミュニティ育成のためと認定されれば、基本使用料が無料になり、光熱費やレンタルした設備費のみを支払う仕組み。(c)豊岡劇場ホームページより

伊木さん コミュニティ認定って、難しそうに聞こえるかもしれないですが、とてもシンプルです。例えば、ウクレレ教室を開きたいと思ったときに、自分はウクレレが大好きで、街に音楽やウクレレが学べる場所があるといいよね、という意図で申請していただければ大丈夫です。

石橋さん クラウドファンディングだけで、豊劇のすべての改修費用や映画上映のための設備をまかなっている訳ではないので、少しでもレンタルホールとして稼働してくれたほうが収益もあがり、僕らもありがたいです。

でも一番の目的は豊劇で映画を見るだけでなく、いろんな形でみなさんに参加していただくということ。

「豊劇」の活動内容は半ば公共性が強いので、なるべく地域の方を巻き込んで参加していただきたいと思い、兵庫県立大学の経営学部の先生と生徒さんともワークショップをして、この仕組みを考えました。


2ヶ月に1回開かれるアコースティックギターのライブ「TOYOGEKI MUSIC FESTIVAL」。コミュニティ申請を行い、いち早くレンタル料無料を実現した団体。(c)豊岡劇場

場づくりの秘訣は、なるべく関わる人を増やすこと

地域住民の方をなるべく多く巻き込む。このコンセプトは「豊劇」の柱となり、その運営の随所にみられます。例えば、映画館全体の内装。劇場入り口のスペースにはカウンターを設け、ちょっとしたバースペースにしました。
 
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入り口をはいってすぐ左手にあるコミュニティスペース&バー。「お酒を飲みながら街づくりのことを話たり、情報交換ができるように」と伊木さん。

豊劇の内装設計には、地元豊岡で鞄づくりを手掛けている「decomp laboratory」の太田垣稔さんにお願いしました。

伊木さん 飲食店も入れることで、人が行き交う空間にしようと話し合いました。ここはロビーなので、飲食+待ち合い+2階にある小ホールへの経路という導線もかねないといけないので悩んだのですが、結果的にはコミュニティスペース&バーになりました。

太田垣さんがテーブルや照明なども設計してくれて、オーダーメイドでつくってくれたんです。

ロビーのメインガラスドアは大阪の建築家の方に設計をお願いしましたが、都会の建築家だけでなく、地元のクリエーターも巻き込んでいきたいと思っていたんです。そのときに鞄づくりを手掛けておられる太田垣さんに思いあたりました。

石橋さん 実は太田垣さんはもともと建築や照明もお好きだったようで、本業そっちのけで手伝っていただきました(笑) 都会のデザイナーと地元のクリエイター、複合的に関係者を増やしましょう、という作戦です。

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改修前のロビー。昭和の懐かしい雰囲気が漂っています。(c)豊岡劇場

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改修後のロビーでは映画を見ない人も集い、仕事もできるようにWi-Fiも完備。写真奥の階段上には小ホールがあります。(c)豊岡劇場

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思い思いにロビーでくつろぐ若者たち。豊劇を訪れる外国人のお客さんもちらほら。(c)豊岡劇場

伊木さんは、このロビースペースを使ってゆるく飲みながら語り合う「ゆらくみ」というイベントを始めています。これまでゲストスピーカーを招き、地域を盛り上げて行くためのトークの場を定期的に開催しています。

「隣の鳥取が盛り上がっていると悔しいんですよ」と伊木さんははにかみながら言いますが、兵庫県北部という場所をいかして、但馬や丹後など、広く文化的な渦の中心となるべく、日々着々と活動を続けています。

代表の石橋さんはこう言います。

石橋さん 何より僕自身、ここで見た映画に影響されて、中学卒業とともに北アイルランドに留学しました。そんな感じで若い世代の人にもここで映画を見て、ものづくりや芸術方面に進む人が増えてほしいと思います。

クリエーターのインキュベーションを目指す石橋さんと、その思いと情熱に引き寄せられた仲間たちが生み出す物語が、豊岡ではじまっています。映画好きの方はもちろん、地域のコミュニティや場づくりについて考えている方は、ぜひ一度「豊劇」を訪れてみてください。

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– INFORMATION –

 
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http://www.g-mark.org/meeting