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集合知で特殊解をとく。「co-lab」企画運営代表・田中陽明さんが目指す、シェアオフィスから街にしみだすクリエイティビティとは?

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2015年2月にオープンした「co-lab代官山」

ここ数年急激に増えてきた、シェアオフィスやコワーキングスペース。

事務所をかまえるより賃料が安く、コラボレーションの可能性も秘めたその場は、フリーランスで働く人にとって魅力的ですね。

一方で、流行にのって不動産の遊休スペースを開放しているだけの場所貸しも多く、今後の景気によって存続が左右される可能性があるのも、また事実のよう。

今回ご紹介するのは、2003年にクリエイターやクリエイティブワーカー専用のシェアオフィスとして東京・六本木に誕生し、日本のシェアオフィスにおいてはパイオニア的存在である「co-lab」です。

現在は都内6拠点に広がり、今も新規プロジェクトや出店の依頼が相次いでいます。

ここにきて僕らが向かおうとしているのは、“パブリックデザイン”なのかな、と感じています。

そうつぶやくのは、「co-lab」を運営する「春蒔プロジェクト株式会社」の代表である田中陽明さん。インタビューを通じて、クリエイティビティを育むオフィスを追求してきた「co-lab」の、 “特殊なミッション”が見えてきました。
 
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田中陽明(たなか・はるあき)
春蒔プロジェクト株式会社代表・co-lab企画運営代表。クリエイティブディレクター。武蔵野美術大学建築学科を卒業後、大手ゼネコン設計部を経て、慶応義塾大学大学院 SFC 政策メディア研究科 (メディアアート専攻) 修了。「co-lab」を運営しながら、まだ開拓されていないさまざまなクリエイティブ領域のファシリテーションやディレクションを行っている。
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デザイナーや建築家、アーティストなどのクリエイターと、研究者、起業家、企画職などのクリエイティビティを必要とするクリエイティブワーカー専用のコラボレーション誘発型のシェアード・スタジオ。2003年に先駆的にスタートし、現在約350名、都内6拠点(渋谷、西麻布、二子玉川、千駄ヶ谷、代官山、墨田亀沢)にて展開している。

ひとつ屋根の下の“集合知”

まず「co-lab」で特徴である、ちょっと聞きなれない“集合知”という言葉について、田中さんはこう言います。

もともと「co-lab」が目指してきたのは、硬直的な企業組織型、または単なるフリーランス形態の個人型でもない「集合型」のプラットフォームなんです。

分野ごとに複数のクリエイターが集い、今、全拠点で約350人。彼らの掛け合わせは、何百種類もある。この多様なかけ算のなかから、プロジェクトごとに最適な人をチームアップすることで、未知数の可能性が導き出せると思っているんですよ。

いろいろなクリエイターが集うことで、よりレベルの高いアウトプットが期待できるわけですね。そしてこの集合体は、求められる条件に応じて柔軟に変化をしていくのだそう。

例えばここ、「co-lab西麻布」。コクヨグループの“インハウス”のデザイナーと、「co-lab」の“フリーランス”のデザイナーとが階をまたいで同居し、「ひとつ屋根の下のコラボレーションスタイル」を構築。組織や立場といった垣根を超えた “集合知”が、他にないものづくりを可能にしています。
 
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co-lab西麻布のあるKREI OPEN SOURCE STUDIOにて交流するクリエイター

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コラボレーションスペースでは、先進的なクリエイティブの技術や作品を共有するイベントやプロジェクトを実施

コクヨさんとコラボできるスペースを共用していることで、お互いのキャラクターも分かっていて、意思疎通もスムーズなんです。

守秘義務も結ばれたうえで、携わっている案件の課題なども自然に共有されていて、いざ協業がはじまっても、0からの腹の探りあいなどもなく、ダイレクトにプロジェクトをスタートできるんですよ。

その代表例が、「コクヨファーニチャー株式会社」と協業した「Campus UP」です。

活発な学びを促すアクティブラーニング用の椅子をつくるプロジェクトに、「co-lab」が参画。ワークショップなどで能動的に学ぶ人の、活発な動きをすべてサポートする椅子の実現には、業界の過去の例はほとんど通用しませんでした。
 
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「Campus UP」。コクヨファーニチャーと、co-labメンバーの伊東祥次さん(デザイニト株式会社)・石黒猛さん(石黒猛事務所)、大学の研究機関との協業で開発。この椅子でのアクティブな動きが脳の活性化につながると実証されている。(2014年6月発売)

そこで、徹底的に学びの場を観察し、「ワークショップに夢中な人って、ちょっと腰がういているよね」「向きを変えながら、背もたれにひじを置いている人が多い」といったさまざまな発見をベースに、このユニークな型が作られたそう。

シンクタンクって言葉が実はあまりしっくりこなくて…「co-lab」としては、机上の理論ではなく、研究したことをきちんと“Do”して社会に役にたつものにしたい。そんな“Doタンク”として一から新しいものづくりを提案していきたいんです。

さらにこのようなコラボレーションスタイルでは、お互いを高め合う “ピア効果”も期待できます。

例えば、メーカーがデザイン事務所にデザインだけ発注する事例では、売れるかどうかのリスクはメーカー側がとることが多い。一方で、僕らのようなコ・クリエーションの環境では、一緒に切磋琢磨している同士、最初から「売れるものを作っていこう」という強い目的意識が生まれるんです。

社員をスキルアップさせたいメーカーと、単なるデザインの成果物渡しでは物足りない僕らの双方にとって、ともに未開拓なものに向かって成長していけるこのスタイルは、メリットが大きいですね。

最近ではこの例に限らず、企業によるコ・クリエーションのための“プロジェクトルーム”としての活用も増えてきているとのこと。

このように、各拠点で広がり続ける多彩なコラボレーションの可能性こそが、「co-lab」最大の特徴となっているのです。

ものづくりの盲点から“特殊解”をとく

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横浜育ちの特別な技術をもとに作られた、身近な製品ブランド「YOKOHAMA GROWN

「co-lab」のクリエイティビティは、行政の新規事業にも風穴を開けはじめます。

クリエイティブシティ・ヨコハマ」として、2003年よりアートを通したまちづくりに力をいれてきた、横浜市。トリエンナーレや世界のアーティストによる美術展開催、解放した歴史的建物・倉庫に集うアーティストの助成などを続けてきました。

一方で、その活動が実際にはあまり産業に結びつかず、計画の見直しも迫られていました。

アーティスト誘致に重きをおき続けていても、本質的なクリエイティブシティには、つながりづらい。やはり、そこに住んでいる人たちが、クリエイティブなことをきちんと自分の仕事の中に取り込んでいく仕組みが必要だということに気づきはじめたのです。

その“特殊解”をとくために、僕らと組むことになったんです。

それが、2013年よりはじまり今に続く、横浜市文化観光局の新プロジェクト・「ビジネス クリエイティブ ヨコハマ」です。

技術のある地場産業と、クリエイターとの活躍の場を創出する “マッチングコーディネーター”の役割を「co-lab」が担うことに。

このようなプロデュースには、行政では予算がつかないことが多いのです。個々の企業やデザイナーたちへの助成金投資はされていますが、結局彼ら自身が売るところまではつなげられず、その結果、助成金制度までも廃止していくということが日本中で起きている。

だからこそこれは、きちんとプロデュースなされなかったことが敗因という、行政の反省も込めた、“ものづくりの盲点”をついたプロジェクトになってきているんですよ。

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横浜市の地元企業とマッチングコーディネーターの打合せ

チームアップされたのは、co-labメンバーである元株式会社良品計画で商品の企画デザインを牽引していた伊東祥次さんと、クリエイティブとビジネスのブリッジングを得意とするプロデューサーの広瀬郁さん。彼らと市内の特別な技術をもつ企業を何社も渡り歩き、地道なリサーチを続けました。

時間をかけたのは、工場の職人さんとクリエイターの接点をさぐる、いわば“工場のコンサルテ―ション”。単にクリエイターを斡旋するのではなく、企業の状況・課題にそった事業プランと売れる製品を模索します。

そのポイントは、その企業ならではの技術を、工場の手仕事だけでもない、奇抜なアートでもない、 “日常に使えるプロダクト”に変換すること。かつ、その技術が凝縮された分かりやすいアウトプットで、クリエイターに「連携できるかも」と感じさせる、余地を残すこと。
 
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無垢の人造ルビーから削り出した特殊なカタチの指輪(左上)。一体成型がポリシーのアルミ鋳造メーカーによる立体ハンガー(左下)。双方ともco-lab渋谷アトリエにある「Fablab Shibuya」が3Dプリンターで形状の検証を行った。
商業施設のファザードをつくる曲げ硝子の技術で、1枚の飛散防止ガラスを身近な傘立てに(右)

工場やクリエイター両方の言語を相互通訳でき、いく通りものアウトプットを提案できるco-labの“集合知”が、横浜市の地場産業と高い次元で共鳴しはじめました。

こうして、クリエイティブシティという名前だけじゃなく、一つひとつをきちんと創造性豊かなデザインに昇華して、ここ横浜から世界に向け強度をもって提案していくことが、すごく大切だと。

そして、この事例を足掛かりに、他の行政におけるものづくり産業の活性化にもつながっていけば、嬉しいですね。

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印刷業界の刷新をかけて

新しい挑戦が続くなか、今年に入って立て続けにオープンした「co-lab」の新拠点。田中さんは立ち上げるなかで「地域還元の使命を感じた」と言います。2015年3月にオープンした、「co-lab墨田亀沢:re-printing」もそのひとつ。

小さな町工場の集積のようなものづくりの町・墨田では、インターネットの普及で印刷業界が一気に縮小。渦中にいた老舗の印刷会社・サンコーの次期社長から、「この10年で印刷工場が4割倒産してしまった。クリエイティブの力で活路を見いだせないか」と、相談を持ちかけられたのです。

いろいろシェアオフィスを見てまわった末、私たちのところにいらしたという、社運もかけた懇願でした。墨田区の助成金を得ながら、「co-lab」のようなクリエイターの集う場を一緒につくれないか、と。

しかしそのためには、区界隈の印刷業界をどう刷新していくかという、難しい命題に立ち向かうことになります。

想定するオフィスの規模や、賃料的に、かなりボランタリーな事業であるのは目に見えていたんですが、印刷業界の支援によるクリエイターの土壌づくりは、僕らにも意義がある。収益はさておき、ここは一肌脱ごうと。

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すみだクリエイターズ・クラブとの意見交換

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地元の印刷・製本会社など様々な町工場を壁面MAPにし、身近な存在として空間に配置

現場では、オープン前より、地元のクリエイターが集まる「すみだクリエイターズ・クラブ」や、区内の印刷関連の人々とブレストを重ねています。

見えてきたのは、廃業を迫られつつも限られた経営資源で変革できない印刷会社と、印刷・製本のノウハウが少なく、創作活動に制約が生じているフリーランスのグラフィックデザイナーの姿。

彼らと話し合いを続けることで、双方のアイデアを引き出したり、周辺の印刷・製本会社同士のコラボレーションなどで、この場の価値をあげていくように仕掛けるのが、僕らの役回りです。

クリエイティブな集合知が、地場産業の復興にどう力をもたらすのかの、本気の実証実験ですね。

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「co-lab墨田亀沢:re-printing」は、印刷工場の真上にあるオフィスの立地を活かし、活版印刷からオンデマンド・オフセット印刷まで、あらゆる出力形態に対応。サンコーが現場運営を担い、「co-lab」(春蒔プロジェクト)のスタッフがその企画・運営サポートするアライアンス形態

街にしみだすクリエイティビティ

多方面で精力的に活動を広げる田中さんが今直面しているのは、1歳と3歳になるお子さんの“子育て”です。

最近、小学校から図工や理科実験などの授業が削られていくのをみて、本当にまずいな…と心配です。これはインターネットが急速に普及しはじめたときの、人々の距離のとりかたに対する自分の違和感や、ネット社会に急変していくときの恐怖感と似ています。

クリエイティブに結びつく大もとの部分が失われ、今後、点数稼ぎなお受験教育に偏っていくと、絶対に“バランス”を崩した人間になっていくと思うんです。

今、夫婦共稼ぎで、子どもを保育園に預けていますが、そこだけに任せっきりになるのもいけないな、と感じていて。かといって、地域でどうやって育てていけばよいか、自分自身、正直迷っています。そんな悩みからも、この新拠点への思い入れはとても強いんですよ。

そう語る「co-lab代官山」は、2月にオープン。近年、ベビー用品や子ども連れで入れるカフェなどが集積してきたこの“子育ての街”にある、「SodaCCo」という建物内に位置します。
 
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「子どもとクリエイターの“育つ”が出会う場」 がコンセプト。「co-lab」メンバーのCANVASによる定期ワークショップも行われる

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「僕の家も近所なので、いずれ子供たちをここに通わせたいな、って思っているんです」と田中さんがほほ笑むこのビルには、託児学童施設をはじめ、家族で楽しめる雰囲気のカフェや、キッズ系アイテムを扱う雑貨店、イベントスペースなどが併設されています。

期待されるのは、子ども達のもつ“想像力”や“好奇心”と、クリエイターとが出会うことで生まれるコラボレーション。

それを、“ビル内エコシステム”と呼んでいます。

ここに集まる企業同士で子ども関連のイベントをしたり、そこに遊びにくる家族や、ワークショップを楽しむ子供たちなど、すべての人の相乗効果で、子どものクリエイティブ教育をみんなで盛り上げていく場になればいいな、と思います。

そんなふうに、何もないところから旗を振るようにテーマを掲げていたら、興味をもってくれる企業も出てきて。

賛同する大手の企業も入居する予定なので、例えば、協業で知育玩具・家具などを制作したり、教育プログラムの開発等をおこなって、地域の保育園や小学校に導入したりもできるかもしれませんよね。まだ、妄想ですけどね…(笑)

これからは、「co-lab」から、街にクリエイティビティがしみだしていくように、拠点を構える地域や街に対して、僕らなりの還元をもっともっとしていきたいですね。

この「co-lab代官山」のビルは、半分以上が“街の人”が集う空間。また、「co-lab墨田亀沢:re-printing」は、助成金をベースにした、いわば“半官半民”の施設。その地域に開かれた場から聞こえてくる街の課題は、さまざまです。

それに対し、トップダウンやボトムアップといった一方通行のアプローチでなく、集う人のポジティブな想いが柔らかく混ざって、街にしみだしていく――。

「co-lab」の“パブリックデザイン”は、もうはじまっているのかもしれません。
 
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「僕らがやってきたことの集大成になると思います」。2017年、渋谷・宮下町に完成予定の、東急電鉄と手掛ける“クリエイティブセンター(仮称)”に想いをはせる田中さん

数々のハードルが高いミッションを抱える「co-lab」。最後に、レベルの高いクリエイターじゃないと入居できないのでは…?との素朴な問いに、田中さんは首を振ります。

よく誤解をうけるんですけど、先鋭的なクリエイターだけを選抜しているわけではまったくなく、こういうコミュニティって、トップのほうを走っている人、スタートアップの人などが多様にいるバランスこそが、成長し合う面において、大切だと思うんです。

だから駆け出しの若い方も歓迎していますし、実際彼らは、「co-lab」で起こるさまざまなプロジェクトやメンバーから刺激を受けながら、自らのアウトプットにも活かしていると思いますよ。

いまの編集長の兼松くんがかつて「co-lab三番町」にいた際にgreenz.jpを立ち上げ、その後、成長の変革期にNPO法人グリーンズの皆さんで「co-lab千駄ヶ谷」に戻ってきていただき、「co-lab」を一層盛りあげてくれました。

それがまさに好例で、何かクリエイティブなことをはじめたい人に活用していただけると、プラスに働くことがよくあるようです。

成功していった数々のクリエイターたちを万感の想いで振りかえりつつも、一番の願いは「クリエイターの“プレゼンス”をもっと高めていくこと」だと言います。

シェアオフィス利用の入居目的は、もちろん歓迎なのですが、これから直面する“社会”の動きを掴んで、クリエイターたちのコーディネートなどを通じ、プロジェクトをドライブしていきたい人にとっても、とてもおもしろい場だと思いますよ。

「co-lab」で働きながら見る景色は、今よりずっとクリエイティブな街の未来図なのかもしれませんね。