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お客様と25,000人のパートナーを”参加者”へ。スターバックスCSR担当・酒井恵美子さんに聞く「人と人、自然なつながりができるまで」

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ハチドリのひとしずく』というものがたりをご存じですか?

森が火事になり、動物たちはわれさきにと逃げました。でもあるハチドリだけは、口ばしで水を一滴ずつ運んでは火の上に落し、何度も行ったり来たり。

「そんなことをしてどうなるんだ?」と笑う周りの動物たちに対し、ハチドリは言います。「私は、私にできることをしているだけ」

そんなハチドリ(英語でハミングバード)の名前を冠したCSR活動「ハミングバードプログラム」を展開しているのが、「スターバックス コーヒー ジャパン株式会社」です。

一つひとつは小さくても、全国25,000人のパートナー(スターバックスではアルバイトさんも含めて従業員のみなさんのことをこう呼びます)すべてが取り組めば大きな力を持つ。

以前にご紹介した一店舗ごとに地域とのつながりを深めていく「コミュニティコネクション」という取り組みも、同じ志を持った活動といえるでしょう。

今回はそれらを展開するスターバックス コーヒー ジャパン株式会社 広報部の酒井恵美子さんに、“つながりのもたらす力”についてお話を伺いました。
 
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スターバックスの酒井恵美子さん

一杯のコーヒーで届ける想い

ハミングバードプログラムは、スターバックスがお客様と一緒に取り組む震災復興支援プログラムです。

特別にデザインされたスターバックスカード(繰り返し入金できるプリペイドカード)発行時に100円の寄附ができ、さらにカードを使ってお店で商品を買うと、売上金額の1パーセントが震災遺児の進学支援につながります。

今年で3年目となるこのカードは、毎年10万枚近く発行され、2012年度は19,426,600円、2013年度は19,558,600円が、公益財団法人「みちのく未来基金」へ寄附されました。

カードデザインのモチーフになっているのは、冒頭でお伝えした『ハチドリのひとしずく』。全国でお客さんと一緒に小さな想いの輪を広げて、新たな一歩を踏み出す遺児たちの力になりたいという想いが、こめられています。
 
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参加のしるしにお客様に貼ってもらったしずくシール。今年の寄附対象期間は2014年9月10日~12月25日まで

全国にお店があることを活かして、毎日50万人以上のお客様が来てくださっているスターバックスだからできることをしたいと考えました。「1杯のコーヒーからできること」。そこで浮かんだのが「ハチドリのひとしずく」でした。

2012年のスタートから多くのお客様が賛同してくださって、その結果、全国にたくさんのハチドリが羽ばたいています。

そうして広がっているたくさんのつながりを実感してもらいたくて、今年は参加した皆さんにしずくの形のシールをボードに貼ってもらったところ、しずくがいっぱいになりました。

メッセージを書いてくださるお客様もいらっしゃり、同じ想いを共有する仲間との一体感を感じていただくことができたのではないかと思います。

さらにお客さんたちに聞いてみると、「同じコーヒーを飲むならこのカードのほうがいい」「自分の日常に、社会貢献が溶け込んでいるのがうれしい」という声も。

一杯のコーヒーを楽しみながら被災地の役に立てるということから、心があたたかくなる瞬間を味わっているようです。

パートナーが現地で感じ取ることの重要性

スターバックスは、震災直後から被災地において「道のカフェ」という活動を始めていました。

それは、有志で参加するパートナーたちが、現地の人と一緒に、集まってゆっくり話せるカフェスペースをつくることで、コミュニティがつながり直すきっかけをつくり、その後も集う場が続くような支援です。

2011年7月にスタートして、今年は10回目の道のカフェが行われました。
 
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2014年11月16日に、毎年訪れている陸前高田市で行われた第10回 道のカフェ。地元の子供たちも参加して、500杯近くのコーヒーを振る舞いました。

また震災から一年が経った2012年3月、年一回の全国約1000人の店長が集まる会議を、この年は特別に仙台で開催し、店長たちは会議の前日に仮設住宅を訪れ、被災地の皆さんのお話を聞き、被災地の現状を肌で感じることができました。

その結果、全国のお店から「お客様と一緒に被災地の皆さんを支援したい」という声が大きくなっていきました。
 
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仮設住宅を訪れ、自分たちにできることを考える店長たち。西日本の店長たちも現実を実感できた一日になりました。

その想いが高まる中、酒井さんたちCSRチームが現地に足を運び、NPO等の活動視察で出会ったのが、公益財団法人「みちのく未来基金」です。

震災遺児の高等教育(大学・短大・専門学校)進学の夢を応援する奨学基金で、カゴメ(株)、カルビー(株)、ロート製薬(株)の3社の発起で設立されました。遺児の学費を返済義務のない形でサポートし、被災地の将来を後押しするプログラムです。

スターバックスがここをパートナーとして選んだ理由は、震災の年に生まれた子が大学を卒業するまで「25年間」続けるという明確なゴールや、一律の支給ではなく、子どもの志望する進学先の必要額に合わせて全てを給付する設計があったこと。

加えて、仙台に事務所も構え、子どもたちとの定期的な集いを通じて、子どもたちとスタッフだけでなく、子どもたち同士のつながりを育もうとする考え方が、相手を想い、人と人とのつながりを大切にするスターバックスのホスピタリティへの想いと共通するものがあったからです。

基金の皆さんは、子どもたちのことを名前やニックネームで呼んでいて、とても仲が良いんです。基金スタッフを家族みたいな存在と言う子どもたちもいるくらい。

代表の長沼さんはみんなのお父さんみたいな存在です。そんな普段は穏やかな長沼さんが、関わるなかで一回だけ声を荒げたことがあったんです。

「別の場所で自然災害があったとしても、まだまだ東北の支援は続けるのでしょうか」という、誰もが思うふとした問いかけに、「だからこそ仙台に事務所を置いているんだよ。忘れないために」と。それがとても響きましたね。

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基金スタッフの話を聞く店長たち。全国で12回開催された会議すべてにみちのく未来基金のスタッフが参加してくれました。

こうして生まれたハミングバードプログラムですが、酒井さんは「全国のパートナーとお客様、ひとり一人の力がつながることで、こんなにも大きな力となるんだということを、心から実感した」と続けます。

基金の皆さまは、2,000万円という金額というよりも、10万枚のカードが発行されたことを喜んでくれました。

「10万人の人が共感をして行動してくれたこと、そして働きかけをしてくれた25,000人の気持ちが何よりありがたい」と仰っていただいたのが、本当にうれしかったです。

コミュニティコネクションに未来の可能性を感じて

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大人気のキッズパーティー(武蔵境イトーヨーカドー店)

そんな酒井さんがいま力をいれているのが、以前も紹介した「コミュニティコネクション」です。

ちなみに、スターバックスは、「倫理的な調達」、「環境面でのリーダーシップ」、「コミュニティへの貢献」の3つを柱にCSRの取り組みをしていますが、このコミュニティへの貢献の主軸となるのが、「コミュニティコネクション(以下、コミコネ)」です。

コミコネはスターバックスの各店舗が主体となって、それぞれの地域を元気にする取り組みの総称。

その内容は、お子様連れのお客様が子どもと一緒に楽しめる「キッズパーティー」、音楽好きのパートナーが開く「ミュージックライブ」、地域のお祭り会場や施設を訪問しコーヒーを通じた交流を楽しむコーヒーサービス、地域の中学生の「職場体験」のお手伝いなど多種多様。

パートナーがそれぞれの地域でニーズを見出して活動を計画・実施する、自由度の高さが特徴です。
 
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高齢者福祉施設への訪問(恵那峡サービスエリア(下り線)店)

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グリーンズでもおなじみ坂口修一郎さんが主宰するグッドネイバーズジャンボリー(鹿児島県南九州市)では、青空の下で自分好みのコーヒーを淹れられる体験「コーヒーラボ」を実施。(鹿児島OPSIAミスミ店ほか)

もともと高いホスピタリティとフレンドリーな接客スタイルのスターバックスらしく、2007年のスタート以来、パートナーたちは水を得た魚のようにコミコネでできるお客様とのつながりを楽しんでいます。

今では年間4,000件も開催される活動として定着していますが、酒井さんはそこに大きな可能性を感じていきます。

経済危機や震災を経て、社会や人々の考え方が変化している中で、もともと私たちが大切にしてきた思いやりや、つながることのあたたかさの価値を強く感じるようになりました。今こそコミコネを通じて、私たちにできることがもっとあるんじゃないかと。

件数も増え活動は多様化しましたが、地域の“ギフト”になるような店舗づくりを目指すスターバックスとしては、まだまだコミコネの伸びしろはある。

さらに、コミュニティとのつながりをより豊かにしていくことで、ブランドをもっと強固にできるんじゃないかって。

地域のギフトになるようなお店になるために

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2007年にコミコネの仕組みをつくる仕事に携わった後、少し離れていた酒井さんですが、2012年3月に広報部へ異動し、CSRを担当することに。そこで改めて、コミコネの意義を考え直します。

地域にとって歓迎される存在になるためには、どこのお店でもできるサービスを超え、その地域の人が求めていることに対し、店舗ごとにしっかり向き合うことが重要だと思いました。

それには、強制ではなく自発的な想いの存在が重要です。でも毎日店舗で忙しく働くパートナーが、想いをあたため、仲間を募って実行していくことは簡単ではありません。

そこで酒井さんが次の一手として実現したのが、2014年2月に行った、「5年後のコミコネを考えるワークショップ」です。

全国17名の店長が集い、グリーンズにもたびたび登場している社会起業家の小笠原舞さん、小沢朋子さん、坂口修一郎さん、北澤潤さんやグリーンズと一緒にコミコネの未来を考えました。
 
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「5年後のコミコネを考えるワークショップ」で、進化したコミコネの姿を考える店長たち

パートナーはつながりを生み出すことへの情熱もあり、実行力もある。とても信頼している彼らとともに、さらに広い視点でお店を良くしていこうと一緒に考えて行けたら、コミコネ自体の活動の質が変わってくるんじゃないかと。

同時に、私たちが社会で果たせる役割を、客観的に見直したいと感じていました。そのためにはグリーンズさんを始め、外部の方の力を借りた方が早いと思ったんです。

楽しくて夢があり、かつユニークなアイデアがたくさん出たワークショップ。「うちの店で試してみたい!」とパートナーが発奮する絶好の機会となったのです。

ドリームテーブルで、“お客様”から“参加者”へ

早速、ワークショップで現代美術家の北澤潤さんと考え出したアイデア「ドリームテーブル」を展開させようと、“実験”する店舗が現れます。

ドリームテーブルとは、黄色いテーブルクロスが掛かったテーブルで、「街×スタバ×〇〇」を合言葉に、お客さんの実現したかったささやかな夢を叶えるというもの。普段同じお店に来ていても知り合うことのないお客さん同士のつながりをつくり、みんなで一緒に楽しもうというアイデアです。

東京のオフィス街・丸の内では、かねてから働く人たちのコミュニティづくりに興味を抱いていた店長の「自分の店を、人と人とをつないで街を元気にできるようなサードプレイスにしたい」という熱い想いに呼応して、会社員の常連さんたちがこのドリームテーブルの企画会議に集いました。
 
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ドリームテーブル当日。「このビルからの夜景がきれい!」などとお気に入りスポットを出しあいます(丸の内三菱ビル店)

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最後はすっかり打ち解けて最高の笑顔で集合写真

「どんなドリームテーブルにしようか、とアイデアを出し合うこの企画会議自体が、すでにドリームテーブルのようでした」と振り返る酒井さん。

仕事の会議さながらの白熱したブレストは2ヶ月間・7回にもわたり、参加者みんなが自分たちのお気に入りスポットを持ち寄り、ルートをつくって巡る、「丸の内散歩」というアイデアに結実していきました。

さらにその過程で、一緒に下見に繰りだすなど、パートナーとお客様という関係を超えた、思いがけない一体感をも味わうことになりました。

お店は人によってつくられるんだということを改めて実感しました。お店によって、地域のためにできることは無限にあります。

何より、自分たちで企画をして、人と人とのつながりをつくっていく時のパートナーたちの顔は、本当に輝いていた。そしてそこにお客様も加わって。私が漠然と可能性を感じていたことが、しっかりと確信できたように思います。

25,000羽のハチドリと一緒に

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ハミングバードプログラムやコミュニティコネクションなどCSR活動を進めるにあたって、「人から人へ、自然とつながっていくものが基本」と酒井さんは語ります。

普段パートナーに伝えるときには、CSRという言葉はほとんど使わないんです。

CSRとしての重要性を伝えるよりも、スターバックスのミッションである「人々の心を豊かで活力あるものにする」ために、私たちはこういう活動をしているんだ、という文脈の中で伝えるようにしています。

復興支援も、コミコネも、その想いの延長線上だと思っていますから。

その想いに共鳴した全国のパートナーたちが、それぞれの立場で今自分にできることを考えて行動することが大切。そして、ずっと先に見えている景色はいつも変わらないと続けます。

スターバックスで働くパートナーは学生さんも多いので、毎年毎年、卒業と同時に社会に巣立っていくことになります。

スターバックスでの経験を通じて、お客様と、地域と、“つながる”実感をしっかりもっている彼らが、またいろんな分野でスターバックスの精神を受け継いで活躍していくと、社会を変えていくような力になるんじゃないかと思うんです。

10年後、20年後、30年後…そのようなリーダーシップを持った人が育って、明るい日本をつくってくれるよう、ここスターバックスでますますよい経験をしてほしいと、心から願っています。

スターバックスでは25,000羽のハチドリたちが、今日もしずくを運び続けています。