ISSUE☆おすすめの連載! a Piece of Social Innovation

2 years ago - 2014.06.06

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仮設住宅からスキー場の頂上まで。スターバックス巌真一宏さんに聞く「人をつなげて、地域の魅力を引き出すカフェの力」

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© Atsushi Shibuya

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

カフェで過ごすひとときは、家庭とも仕事場とも違う、ちょっと特別な時間です。一人で読書や考え事にふけることも楽しければ、思わぬ出会いや会話から、新しいアイデアが生まれることも。

今回は、そんなカフェの力を利用して「人々があつまる場」を創造しようと、さまざまなプロジェクトに携わっている、スターバックスコーヒージャパン株式会社、店舗開発本部・コミュニティアウトリーチ研究所所主の巌真一宏さんへのインタビューをお届けします。

スターバックスでは、地域に開かれたカフェを目指して、各店舗で様々なコミュニティ活動を実施しています。先日、グリーンズも企画でお手伝いさせていただいた社内ワークショップの様子を記事でお届けしましたが、今回巌真さんには、カフェが持つ本来的な機能と、地域におけるその役割に着目してお話を伺いました。

人が再び集まって笑い合える場を。
東北「道のカフェ」の挑戦

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巌真一宏さん(右)と、スターバックス表参道B-Side店の井口店長(左、「道のカフェ」にもご参加)

巌真さんが取り組んでいる仕事のひとつが、震災によって被災した東北各地でカフェを開き、地元の人たちと一緒に地域コミュニティを再生していく「道のカフェ」です。

2011年6月、松下政経塾主催する企業向けの被災地スタディツアーに個人として参加した巌真さんは、陸前高田市の避難所で「そろそろ落ち着いてコーヒーが飲みたい」という声を聞きました。

東京に帰った巌真さんは、すぐに松下政経塾の方々と話し合いの場を持ち、会社に企画を提案。「カフェづくりを通じてコミュニティ再生を支援する」というコンセプトで「道のカフェ」が始まりました。

余震もあり、誰一人として先行きが分からない緊張感の中で手探りのスタートでしたが、最初から大事にしていたことがふたつあります。

ひとつは、炊き出しとは違い、カフェスペースをつくってみんなで座って話せる場にするということ。もうひとつは、自分たちがいなくなった後もそうした場が続いていくように、地元の方々を巻き込んで一緒にやるということでした。

ヨーロッパでカフェという場が生まれた時、そこは人々が集い語らうことで、新しいつながりや情報が得られる場として機能していました。

とはいえ、ただコーヒーを無料配布するだけでは、会話が生まれずにみんなすぐ仮設住宅に戻ってしまう… そうではなく、カフェ本来の機能を活かした支援をしよう、みんなが太陽の下で落ち着いて会話を楽しめる場をつくろう。巌真さんは、そんな強い想いを抱いていました。

また、たとえ交流の場を開いても、外部の人たちだけでずっと持続させることはできません。そこで、仮設住宅住民の中でも世話好きで元気な方たちに声をかけ、一緒にスターバックスのエプロンをつけて「道のカフェ」のお客さんをもてなしてもらうことにしました。

カフェという場の楽しさや重要性を実感してもらい、いずれそうした場を自分達で定期的に開いていけるようにという願いからです。

初回はまだぎこちなさがありましたが、2回3回と重ねるにつれて打ち解けてゆき、みんなで一緒にカフェを開くことを楽しめるようになりました。

その後、陸前高田では、集会場で定期的にカフェが開かれるようになったようで、そうしたつながりのお役に立てたのならうれしいです。社員も、地元の方と一緒に場をつくることの楽しさや重要性を感じてくれ、その後別の場所で「道のカフェ」を実施する際にも経験が活かされました。

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仮設住宅で開かれた「道のカフェ」。スターバックス社員と地元の方が一緒にエプロンをつけて。

また、「道のカフェ」では開催時の様子を写真に撮り、その場でプリントして地元の方々にお渡しするという企画が大好評でした。地震で多くのものを失ったけれど、これからまた新しい想い出をつくっていって欲しい…その思いを共有したキヤノンと、松下政経塾が紹介してくれたフォトジャーナリスト渋谷敦志さん、佐藤慧さん、安田菜津紀さんの協力で実現することができました。

カフェという場も、写真という媒体も、人の交流を促す力を持っています。「道のカフェ」は松下政経塾、キヤノン、スターバックスの連携プロジェクトですが、それぞれの持ち味を活かした化学反応が生まれたのではないかと思います。

2011年夏の陸前高田市から始まり、シーズンごとに延べ9回に渡って東北各地で開催されてきた「道のカフェ」。2014年3月5日から18日までの期間には、全国のスターバックス約1,000店舗で、3年間の活動の様子を伝える写真展も実施されました。
 
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店舗での写真展示の様子

現地でカフェをやるだけでなく、他にスターバックスとして何ができるかと考えたとき、全国のネットワークを被災した東北地方の「今」を伝えるインフラとして活かせるのではと、当初から考えていました。東北の方とお話をしていると、やっぱり「被災地のことを忘れないでもらいたい」という言葉を何度も聞いていたからです。

その当初の思いが、全国1,000店舗で写真展を開催するという形として結実したのは、社内のCSRチームがこのプロジェクトを引き継いでくれたからこそだと思います。

カフェを通じて、地域の魅力を高めるお手伝い。
「コミュニティアウトリーチ」の取り組み

人が集まり、新しいものが生まれる空間としてのカフェの機能を大切にしている巌真さん。東北の「道のカフェ」以外にも、全国各地の様々な地域で「コミュニティアウトリーチ」と呼ばれる挑戦を続けています。

それは、地域を盛り上げようとがんばっている人たちの声に耳を傾け、カフェ出店を通じて場づくりをサポートする取り組みです。

今までも、これからも、いただいた区画の中でスターバックスの世界をつくるというのがビジネスの本流ですが、僕がやろうとしていることは、その区画の周りも含めたエリア全体で空間やコミュニティをつくっていくことです。

街中の店舗であれば、地元商店や住民の方と一緒に。ビル内の店舗であれば、オーナーさんと一緒にフロア全体をどう演出するか。そういう観点での店舗開発です。

たとえば、伊勢神宮の外宮前で毎週末行われている、朝市の活性化の取り組み。伊勢神宮の内宮は参拝客も多く、おかげ横丁を中心として商店も活気があるのですが、外宮は知名度も低くなかなか人が集まらずに困っていたそう。外宮の方から相談を受けた巌真さんは、「まずは朝市を一緒に活性化させるところから始めませんか」と提案し、移動販売車での出店を始めました。

外宮に祀られているのは、食物・穀物を司る生活の神様「豊受大御神(とようけのおおみかみ)」。だからこそ外宮では地元の生活に密着し、参拝や観光で訪れた人たちが気軽に地域の暮らしに混ざっていけるような、そんな空間づくりを目指しています。
 
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伊勢神宮外宮朝市に移動販売車を出店(2014年5月末まで)

一方、志賀高原の横手山・渋峠スキー場では、日本一標高の高い店舗を山頂にオープン。日本で5ヶ所しかない「ユネスコエコパーク」に指定された志賀高原は、シンとした静けさのなかで大自然を楽しめる美しい場所ですが、スキーリゾート地としては全盛期の1/3程度にまで来場者が減ってしまったそうです。

現地のホテル会社からの相談を受けて、この地を知ってもらうきっかけになればと今冬期間限定で出店。
 
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スターバックス コーヒー 志賀高原横手山頂店

ただ店舗を出店するだけでなく、スターバックスもその地域に溶け込み、一緒になって地域の魅力を引き出し、高めていく。そんな巌真さんのこだわりの背後には、薄れゆく日本の地域コミュニティに対する強い関心と問題意識がありました。

スターバックスというブランドは、特に地方都市ではすごく求められていることを感じますし、「うちにも是非出店を」といっていただくのはとてもうれしいことです。一方で、どこの地方都市も一様にスターバックスで埋め尽くされてしまうだけでは、街の個性や面白みが感じられません。

これからますます全体の人口も減っていくなかで、地方都市がそれぞれ独自の魅力を出していかないと、日本の地域コミュニティというのはどんどん薄れ、結果として、日本が画一的で面白くない国になってしまうのではないかという危機感を抱いています。

そんな状況のなかで、人が集まり会話が生まれるというカフェ本来の機能は、単に売上を上げる以上の役割を持つのではないかと、「道のカフェ」を実施する中で考えるようになりました。

全国チェーン展開をする企業としてのジレンマもあるのですが、スターバックスは単なるチェーン店とは違うんだという意識をもって、できる限り各地域に寄り添う形で店舗展開をしていきたいと考えています。

そんな巌真さんの想いを反映してか、志賀高原横手山頂店では都会の店舗とは一風変わった、スキー場ならではの光景が見られるそうです。

はるばる雪山の山頂まで辿り着き、暖かい店内でコーヒーを飲んでほっと一息…そんな体験を共有したスキーヤーは、見知らぬ人同士でも気持ちがオープンになるのか、膝を突き合わせて雑談に興じます。志賀高原の新たな憩いの場として、人気のカフェとなりました。

「ビジネスと地域貢献は別物ではない」
人が集まり、求められるからこその価値

チェーン店としてのジレンマということにも触れられましたが、企業という立場で地域貢献に取り組むことはなかなか難しいのでは、とお聞きしたところ、巌真さんからはこんな答えが返ってきました。

ビジネスと地域貢献・社会貢献を別物として捉えたり、「バランスが必要」という論調で語られることが多々ありますが、僕の中では少し違う解釈をしています。最終的に人を集めてビジネスにならなかったら、大きな地域貢献にはならないだろうと思うんです。

僕たちが携わるカフェという仕事は地域に人を集める力の一助になり得るだろうし、人が集まってきた結果、ビジネスとして持続可能なレベルにまで持っていくことは可能だと思っています。

ビジネスとして成り立たせると同時に、地域や社会にプラスアルファでどんな価値をもたらすことができるのか。「それを考えない仕事は、そもそも仕事とは呼べない」と巌真さんは言い切ります。

やっぱり、大義がなくて営利だけの仕事というものはやりたくないし、逆に、人が集まらないのに「地域貢献だから」といって自己満足しちゃうこともやりたくない。

もちろん、伊勢や志賀を含め、小さな地方で収益をつくっていくことには都会と違う難しさがあり、なかなか一筋縄ではいきません。それでも、その地域に人が集まる魅力があり、地元の人が地域を盛り上げようと汗をかかれているのであれば、僕としては是非一緒に何かやっていきたいと思っています。

スターバックスがカフェを開くことが、日本の魅力を掘り起こすきっかけのひとつになればうれしいです。

「スターバックスだからこそできること」を通して、地域やコミュニティのつながりをつくりながら、事業の可能性を広げていく巌真さん。

「ビジネスか地域貢献か」といった二者択一の思考ではなく、今いる場所で最大限の価値をつくり出すための具体的な試行錯誤こそ、多くの人を巻き込み、地域を盛り上げる一番の近道なのかもしれません。

writer ライターリスト

鈴木悠平

鈴木悠平

greenz シニアライター ひと・もの・ことの閒-あわい-にある物語を探求しています。 お仕事は、企画・執筆・編集業が中心。 東日本大震災後の宮城県石巻市におけるコミュニティ事業、大学院での地域保健政策及び高齢者ケアの国際比較研究を経験した後、株式会社LITALICO入社。発達障害に関するポータルサイト「LITALICO発達ナビ」の企画・編集を担当。 ウェブマガジン「アパートメント」「soar」の運営・編集にも携わる。

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ミラツク

ミラツクは、対話を通じて、異なるセクター、異なる地域、異なるステークホルダーの間に協力を生み出し、より良い社会に向けたイノベーションを生み出すことに取り組むNPOです。 ミラツクが応援するのは、未だあまり知られていない社会を良くする取り組みとそこにいる”人”たちです。1人の人が生み出す未来の可能性を世の中に伝えていくことで、また新しい次の未来の種が生まれる。そんな未来をつくるサイクルを共につくっていければと思います。 ⇒ 特集「a Piece of Social Innovation」ミラツク×グリーンズ対談!Facebookページ

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