日本の野外音楽フェスには、ゴミを分別する「ごみステーション」が当たり前になりました。今やそのゴミの少なさは、世界的にも有名なのをご存知でしたか?
2001年、RISING SUN ROCK FESTIVALの環境活動をきっかけに、国際青年環境NGO「A SEED JAPAN」の北海道チームとしてスタートしたのが「NPO法人 ezorock」です。
「50年後も野外で気持ちよく音楽を聞いていたい」というキャッチコピーを掲げ、年間3000名の若者と共に活動しています。今回は、団体設立当初から携わり、NPOの代表理事を務める草野竹史さんにお話をお伺いしました。
前列でパンフレットを持っているのが草野さん
1979年札幌生まれ。大学卒業後、建設コンサルタント会社へ勤務。2005年に退社し、半年間経営の勉強をする。2006年4月、学生時代より活動に関わっていた環境NGO ezorock代表理事に就任。2013年NPO法人化。
市民活動センターとしてのezorock
野外音楽フェスや地域のお祭りで出たゴミの分別を行う「Earth Care」、北海道の森と若者をつなぐ「プロジェクトNINOMIYA」、札幌のサイクルシェアサービス「ポロクル」の運営など、様々な事業を展開するezorock。その事務所は、札幌の中心街の外れにある2階建ての一軒家にあります。
誰でも自由に出入りできるオープンな雰囲気の事務所
中に入るとカフェのような落ち着いた雰囲気で、15人程度が一堂に参加できる大型の会議テーブルとホワイトボードが目に飛び込んできます。その横には、冬に大活躍の存在感のある薪ストーブ。使用する薪もどうやら自分たちで調達しているとのこと。
夕方になると「お疲れ様です~」と、10代~20代の学生や社会人がゾロゾロと集まってきます。ミーティングを行うためのレジュメの印刷や個別の打ち合わせ、パソコンで個人作業を行う人など、建物の1階と2階のあちこちが賑わいます。
「ゴミ拾いから森づくりまで、さまざまな活動をしていますが、本当は若者を対象とした市民活動センターのような機能をezorockは担っているんです」と草野さん。
ここには、ミーティングルームや資料を印刷するためのプリンターやパソコン、市民活動に必要な書籍やアドバイスを行う有給スタッフ、さらには自由に使えるキッチンまで、市民活動に必要なものが完備されていて、会員になればそれらを自由に使うことができるようになっているのです。
RISING SUN ROCK FESTIVALのような世界観をめざす
毎年、全道・全国から約200名のスタッフが集結する
ezorockが取り組む事業に共通しているのは、「若者が問題意識を持ち、北海道の課題解決につながる」もの。なかでも発足当時から行っているEarth Careは、多くのボランティアスタッフが集まる人気プロジェクトに育っています。
そのハイライトが、毎年、夏に行われる国内最大級の野外ロックフェスティバル「RISING SUN ROCK FESTIVAL(以下、RSR)」。こちらでezorockは、ゴミの分別ナビゲートを担当しています。
回収した生ゴミは、提携するオーガニックファームへ運搬します。そこで、堆肥をつくって畑に播き、ジャガイモなどの野菜を栽培し、翌年のRSRで商品として販売しているんです。いわば、小さな6次産業ですね。
「RSRの雰囲気には、人と人の関係性や優しさ、自分と違う人を受け入れる多様性がある」と草野さん。それこそezorockがめざす理想であり、その世界が日常にもやって来るようにと、RSRで活動を続けています。
若者がエネルギーを生み出す生産型の仕事をつくる
売上の一部はセミナーや書籍の費用など、若者の「勉強」に充てられる
続いて紹介するのは、ezorockが今最も手を入れているプロジェクト「NINOMIYA」です。
植林をはじめ森づくりに取り組む人は増えてきているものの、生産から販売までやっている団体はほとんどいません。そこでezorockでは木から薪を生産し、札幌市内のカフェへ販売するという事業を行っています。
現代版・二宮金次郎という発想からネーミングされたこのプロジェクトは、森づくりに携わる方の高齢化や手入れされず荒れていく森の現状を見たところから始まりました。
大学生のアルバイトと言えば、コンビニや居酒屋など物・時間をお客様に使ってもらう消費型が中心ですが、NINOMIYAでは若者がエネルギーをつくり出し、お金に替える生産型の仕事をつくりたいと考えています。
そういった若者の選択肢を増やすことが、若者のためになると思うんです。
アルバイトを通じて、まちづくりや地域づくりに関わる
また、次第に行政や企業との連携事業も増える中で始まったのが、サイクルシェアサービス「ポロクル」です。ポロクルクルーと呼ばれるアルバイトスタッフと一緒に、札幌の街中に置かれた自転車の管理や「自転車Day」、サイクリングツアーなどのイベントを開催。
自転車のマナー啓発、まちづくり、ユーザー参加型の仕組みづくりに取り組んでいます。
人と人がホンネで関わる場所をつくりたい
備え付けのキッチンを使って一緒に食事をとることも多い
ざっと紹介してきたezorockのプロジェクトは、地域で共有している課題や、スタッフが持っている問題意識から生まれています。
僕たちのテーマは、若者と社会の接点を生み出すことなんです。インターネットやテレビでは遠くのように感じられることも、実際に山に行けば、外来種が実際に生態系を壊していることを目の当たりにしますし、地域に行けば本当に高齢者しかいないことに気づきます。
そういう気づきによって変化してきたスタッフが「○○○をやりたい」と言ったら、それを事業化するスキームを考え、活動できる環境を整えるのが僕の役割だと思っています。
草野さんが、スタッフが提案しやすくするために、心がけていることがふたつあります。ひとつ目は、自分で考えて行動すること、ふたつ目はチームで100点をめざすこと。
ひとりひとりが20点でも5人いれば100点になる。そうすることで、ムリせず、チャレンジできる環境になるんです。
スタッフのできることに注目し、本人が自ら動き出すまでひたすら待つ。代表だからと目立とうとせず、組織や売上が年々大きくなっても、草野さんは決して偉そうに振る舞うことはありません。
優しいリーダーシップを発揮できるのは草野さん自身が感じてきた社会の個を抑圧する雰囲気や、表面的な人と人の関係に疲れたところから来ているようです。
会社員として建設コンサルタント会社に3年ほど勤めた経験もありますが、他にできる人がいっぱい居て、僕はできないのに何でやっているのだろうと思っていました。
競争するのがイヤで逃げ続けたら、誰もやっていないイベントのゴミの分別というニッチな領域を見つけたので、ここでがんばろうと思ったんです。
だからこそ、「自分がつくるezorockの空間は、ホンネでいれる場所にしよう」。誰が何を好きで、何がイヤなのか知る。個人が考えて行動したことを認め、きちんと評価する。抑圧したり、指示したりすることもなく、あくまでスタッフの自主性を大切にしているのです。
音楽や環境に関心がある若者が、楽しくボランティア活動に関わる
ボランティアは一番わがままです。100人居れば、100通りの動機があります。
友だちが欲しいとか、かわいい女の子と出会いたいとか、どこかに所属したいとか、欲求の固まりです。でも、そんなドロドロしたところが人間っぽくて好きなんです。
代表ながら掃除当番は順番に回って来るし、インターン生から「飲み終わったコップは片付けてください」と言われたり、事務所にご飯をつくりに来た母親にスタッフの前で怒られることがあったりも。
社会問題の解決に、年をとっているとか、経験があるとか関係ありません。フラットな組織であれば、自由な発想からアイデアが生まれ、それが形になり、やりがいや楽しさにつながります。
個人を尊重する姿勢を貫き、権力や役職の力で人を動かそうしない。50年後のビジョンとスタッフを大切にする”優しいリーダーシップ”が、多くの若者を巻き込む原動力になっています。
人と関わる楽しさを知り、笑顔が増える若者たち
インターンシップに来ていた千歳科学技術大学の学生たち(右端:草野さん)
ここはみんなの居場所です。いつでも帰って来てください。
インターンを終了した学生に声をかけた事務局長ゆーすけさんの言葉が心に残っています。ezorockに関わる若者に会うと、みんな楽しそうで、生き生きしていて。そしてezorockで活動する自分が好きということが伝わってきます。
だから、どんな団体なんだろう、自分も関わってみたいと思い、多くの人が集まってきて、面白いプロジェクトが生まれる。そんな好循環が北海道で生まれています。
あなたの地域のお祭りのゴミ分別をしているのは、もしかするとezorockのスタッフかもしれません。どこかで出会ったら、ぜひ「お疲れさま」と声をかけてあげてください!
(Text: 北川由依)