神奈川県藤沢市に、雑草も野菜ものびのび育つ農園があります。
その名も「にこにこ農園」。そこは、障がいのある人が未来を選ぶためのひとつのステージのため、元養護学校の先生がチャレンジしている農園です。作業に関わる人の安全のため、化学肥料、農薬に頼らない農業をめざしています。
土地や人と有機的に関わる本当の有機農業を目指して
自分たちが有機農業でおいしい野菜を作り、売る。でも、そこで完結させない、人や地域と有機的に関わりながらみんながハッピーになれる。そんな農園を目指して、にこにこ農園は藤沢市立白浜養護学校の先生だった井上宏輝さんと、有志の手で立ち上がりました。
にこにこ農園の野菜は、宅配と湘南を中心としたマルシェで購入できます。それは顔の見える生産者でありたいという井上さんのこだわりです。
雑草に守られ、余計なことはせず育つにこにこ農園の野菜は力強く味も濃い
毎年、田植えや稲刈りは「やってみたい!」という、普段農に触れない方たちとワイワイ行なっているそうです。たくさんの人の手が加わることが、にこにこ農園の理想とする「有機的に人と関わりあう農業」に確実につながっています。
昨年の田植えや稲刈りには都内からも大勢参加者が。たくさんの人の手でにこにこ米が育てられました。
子どもたちもしっかりお手伝い!
にこにこ農園始まって以来恒例となっている収穫祭は、誰でもウェルカム。年の最後に、にこにこ農園に関わっている全ての人に感謝を込めて心も体もバリアフリーな収穫祭が開催されます。会場はもちろん、にこにこ農園の畑で。
「俺の収穫した米!」
普段はお店でにこにこ野菜を提供している店主さんも収穫祭は畑で振る舞いに参加。
収穫した稲藁でしめ縄ワークショップ
今回の収穫祭では、同じ藤沢で福祉活動を行なうNPO法人さんわーくかぐやもワークショップで参加。アートと農作業が得意というかぐやのスタッフたちも収穫祭を盛り上げました。
竹笛作りやその場で小麦を引いて小麦粉を作りナンをこねて焼いて最後は自分で食べちゃうというユニークなワークショップは子供にも大人気。
籾殻から精米しよう!その名も「もみすり道場」昔ながらのビンに籾付き米を棒でつくワークショップ。「お米にするって大変」とのこと。
生徒の未来のステージをここに
そもそもなぜ井上さんは、養護学校の先生から農業を始めるに至ったのでしょうか、お話を伺いました。
白浜養護学校に8年勤める中で、卒業式が全然明るくないと思いました。生徒の未来の選択が少なすぎると感じたんです。未来の選択を作る側が全然足りていないのであれば、僕はそちら側にまわらないといけないんじゃないかなって。
井上宏輝さん
障がい者雇用の場をつくるという目的のため、神奈川県農業アカデミーにて一年間農業を学んだ井上さんは、藤沢で就農の資格を得ます。ただ、その先にあったのは「有機にこだわる」ということと、障がい者雇用というハードルの高さだったと井上さんは言います。
自分の理想とする、生徒たちの未来のひとつとして、野外でのびのび、安全に作業できる場所を考えた時、これは、有機農業しかないと思いました。
ところが、藤沢で長年、有機農業を営む師匠に相談に行ったところ、最初は「有機だけでも大変なのに、雇用なんて」と止められました。
話をする中で、師匠のある言葉がにこにこ農園を絶対やろうという決意につながります。
「本当の有機農業っていうのは、栽培方法だけじゃなくて、人も有機的につながりあう農業、それが有機農業」。
左からにこにこ農園の古谷さん、井上さん、有機農業の師匠 藤沢で有機野菜を作って30年以上の相原農園、相原さん。
今年で5年目を迎えるにこにこ農園。3年前から障害者雇用助成金などの行政の制度などを使い、現在2名のアルバイトの雇用を実現しました。
にこにこの野菜は、二度おいしい。もちろん、こだわって作っている野菜だからおいしさにも自信を持っているんだけど、それを支えてくれるスタッフたちの雇用もみんなが野菜を食べてくれることで成り立ってる。
収穫祭やいろんな場所で出会う人たちにもにこにこ農園の野菜を食べる意味が伝わっていると思います。有機的につながりあって、もっと自分が想う障がいがある人の未来の選択の場になれればいいよね。
最近では有機農家仲間が障がい者雇用に手を挙げるなど、井上さんのチャレンジは周りの農家さんにも伝わってきています。
雇用に関して、いままでのノウハウはどんどんシェアできるから、手を挙げてくれる仲間の力に、もっとなれればと思います。
まだ5年、やっとスタートラインに立てた感じ。いろんな人とからまりながらつながりながら、時には「ま、いっか」の精神で(笑)にこにこ農園があって良かったと言ってもらえる農園めざして進みます。
だれかの未来を支えるおいしい野菜を作るにこにこ農園。あなたも2度おいしい野菜に関わってみませんか?きっと笑顔になっちゃいますよ!