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パパが笑えば、世界が笑う。笑っている父親を増やすことで未来をつくる「ファザーリング・ジャパン関西」

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

子育ては母親がするもの?父親がするもの?夫婦でするもの?
あなたはどんなイメージをお持ちですか?

イクメンブームと言われる昨今。父親の子育てに対する参加意識は高まりつつあるものの、“子育ては母親の責任”という固定観念が根強く残っているのも事実です。

今回ご紹介する「NPO法人ファザーリング・ジャパン関西」(以下FJK)に所属するのは、そんな、父母で役割を分けてしまった日本社会の意識を変えたいと思う普通のお父さんたち。

良い父親ではなく、笑っている父親を増やすことでお母さんを助け、子どもを守り、延いては父親の働き方・企業、そして社会を明るく変えるために、楽しくがんばるおっちゃんたちの活動をご紹介します。

笑ろてるパパがええやん!

“Fathering”とは、仕事も育児も両立しながら、父親であることを楽しむ生き方のこと。この意識を広め、笑っている父親を増やして社会変革を起こしていくことを目的に2006年、東京で発足したのが「NPO法人ファザーリング・ジャパン」です。FJKは、その関西支部として2010年に任意団体でスタートしました。

3年後の今年4月に兵庫県認証のNPO法人として独立し、現在会員は33名。「笑ろてるパパがええやん!」をキーワードに、大きく三つの活動をしています。

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父子プログラムの“父子たいそう”の様子

一つ目は、“講演会・ワークショップ”。現役イクメンたちのクロストークからパパ同士で子育てについて話をするパパ座談会、パパの子育て知識を計るパパ力検定、そして子育て世代のお金の話まで、父親男性の子育てを促進するための場づくりを行います。

二つ目は “父子プログラム”。オススメの絵本紹介や読み聞かせのコツ、コミュニケーションマジック、段ボール工作や昔遊び、ごはんやおやつの作り方など、子どもとの遊び方・過ごし方を共有します。

そして三つ目が “フォーラム・シンポジウム”。児童虐待や産後うつ、ドメスティックバイオレンスなど、子育てにまつわる社会問題を父親の目線で考え、今まで見えていなかった課題を見えるようにしていく活動です。

そんなFJKで大事にされていることを伺うと、 “笑うこと”と“多様性”だと代表の和田憲明さんは話します。

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代表の和田さん(左)と、事務局長の篠田さん(右)

FJKに参加しているお父さんたちは、とにかく自分が楽しみます。段ボール工作をしても、子どもよりも自分が楽しんでいます(笑)。それは、仕事も趣味も、お父さんが楽しむことで家庭が明るくなって、ママが助かって、子どもがのびのびと育つと信じているからです。

それから、私たちは多様性を大切にしています。「イクメンとはこうあるべき!」という答えを押しつけるつもりは毛頭ありません。イクメンだから料理しましょう、ママのご機嫌をとりましょうではなく、いろんな父親のあり方があってあたりまえ。主夫が正解じゃないし、仕事と家庭のバランスが50:50で正解という訳でもない。

夫婦のバランスは家族の数だけあって、コミュニケーション方法も多様でいい。FJKのメンバーもいろいろです。僕は主夫だし、篠田は元大阪府職員。商社マンもいれば、自営業の人もいます。その多様性を見てもらって、参考にしてほしい。“良いとこ取り”をしてもらえればいいと思っています。

家族を取り巻くさまざまな課題

FJKがこのような活動に取り組む背景には、家族を取り巻く悲しい出来事をなくしていきたいという思いがあります。

例えば、児童虐待。その通報件数が1990年は年間約1千件だったのに対し、2012年にはなんと60倍の約6万件。虐待が虐待として認知されるようになったことも要因の一つですが、たった20年でのこの伸び率は異常だとみなさんも感じるのではないでしょうか。

そして、虐待の相談をする大人の7割が女性という事実。これは、女性側に問題があるという話ではなく、単純に女性の方が子どもと向き合う時間が圧倒的に長いのが原因です。一方で、年間の自殺者数3万人のうち、7割が男性。自殺の原因は、一位が健康問題、二位が経済的な問題です。さらに、過労死の9割が男性。ホームレスになる人の95%が男性です。

「こういったデータから、女性は子育ての責任を背負うことで困っていて、一方男性は経済の責任で困っている姿が見えてくる」と、和田さん。

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高度成長期以前の地域のつながりが機能している頃には、子育ては一人でするものではありませんでした。しかし、そのつながりが希薄化し、“おたがいさま”で頼り合うことができなくなった日本の子育ては、今や“孤育て”になってしまった。

そんな世の中で、昔と同じように子どもを育てるのは本当に大変です。僕自身主夫をやっていますから、お母さんたちのしんどさはよくわかります。とはいえ男性もしんどいんですよね。仕事だけでも大変なのに、家事も育児もやれって言われても、どうしていいかわからなくなる人が大半だと思う。

でも、こうなってしまう根本の問題は、それぞれを役割分担し過ぎて、一人で背負い込み過ぎていることだと思うんですよ。家庭ごとに事情があるし簡単なことではないですけれど、子育てと仕事の役割を100%ずつ背負うのではなく、少しでも分け合えば、お互いのしんどさがわかってくる。事情がわかれば、気遣いができるようになると思うんです。

子育てはやっぱり大変だった

現在、主夫として暮らしている和田さんですが、以前はテレビカメラマンとして働いていました。しかし、子どもが生まれたタイミングで仕事を退職し、専業主夫としての生活をスタート。理由は、奥さまが看護師の仕事を続けたいと希望したこと、和田さん自身は子育てを優先したいと思うようになったからです。

当初、和田さんは2年ほど専業で主夫をして、それから社会復帰をすればいいと考えていましたが、そのプランはもろくも崩れ去ったそうです。

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主夫業初日の和田さんと娘さん

「子どもと一緒にいられる!」って浮かれまくっていたんですが、全くもって甘かったです。主夫を始めて一週間でうつ状態になりかけて、妻から「あんた、顔死んでんで」と言われ、妻の気遣いで淡路島旅行に連れて行ってもらう始末でした。

何が辛かったって、前日まで仕事をしていて同じ目的で話せる相手がいたのに、途端にそれがいなくなったこと。友達がいない訳じゃないけれど、子育ての話なんてできないし、社会で立場がないってこんなに不安なのかと思ったら、ものすごい孤独感に苛まれてしまったんですね。

今振り返れば、父親という社会の立場がある訳で、子どもを育てているという立場に胸を張ればよかったんですが、当時はそれが社会の役に立つことだとは思えなかったですね。

この不安は、仕事を辞めた人であれば皆が感じる可能性のあること。和田さんは、そんなネガティブな状態からどうやって抜け出したのでしょうか。

慣れです(笑)。それから、ママ友たちにも救われましたね。というのも、2年続ける予定でいた主夫生活は、結局5ヶ月でギブアップ。長女が11ヶ月のときに保育園に預けてアルバイトを始めたんですが、10年前は、子どもの送り迎えを毎日しているお父さんは、娘の保育園では僕しかいなかったんです。

お母さんたちに「お仕事は何をされているんですか?」と聞かれて、最初はね、やっぱり主夫ですとは言えなかった(苦笑)。でもね、送り迎えしていることをママさんたちは褒めてくれるんですよ、「偉いね」って。今思えば、お母さんたちも毎日やっているあたりまえのことで、偉くなんてないんですが、でも、子育てに関わる自分に肯定感をもつことができたのは、些細なことですけど、大きかったですね。

そして2009年、“笑っている父親を増やす”というミッションに魅かれて、和田さんは「ファザーリング・ジャパン」に入会。関西のメンバーで集まって、ビールを飲んで二杯目で「よし、支部やろう!」と陽気に立ち上げ、今に至るというわけです。

苦しいお母さんたちを救いたい

そんな和田さんが“父親の子育ての責任”を改めて痛感したのが、2010年に起きた大阪市内の事件です。育児放棄をされた子ども二人がマンションで餓死。母親には結局、懲役30年という判決が下されました。

この事件が起きてから、マスコミの報道を通じてこの母親に関するあらゆる情報が世の中に公開され、非難は母親に集中しました。一方で、父親についての報道はほとんどなされなかった。このことに和田さんは大きな違和感を覚えたそうです。

彼女の罪は許されることではないですが、でもね、彼女は結婚をして子どもをもうけている。その後離婚したんですが、事件を起こす前に何度も、元夫に助けを求めて連絡をしているんですよ。逆に言えば、彼女はぎりぎりまで頑張ったんだと思うんです。父親はその1年前に離婚して子育てを放棄している。その後の元妻や子どもの状況を知りながら、何も手を差し出していない。

つまり、彼も1年前に彼女と同じことをしているんですよね。でも非難は母親に集中した。僕から見たら、当然ながら父親の方にも同等の責任あると思う。極めつけが、その判決が下された後、その父親が「子どもが味わった苦しみを彼女にも味あわせたい」と言い放ったこと。これには本当に腹が立った。

そして、それを誰も疑問に思わないのは、子育ての責任は母親一人が負うものだという刷り込みが、未だに社会を覆っているからだと痛感しました。

笑っている父親を増やすことで、こういった母親たちを救う。この取り組みが機能したとき、どのような波及効果が世の中に生まれるのでしょう。

まず、ママのしんどさが減って、児童虐待や産後うつがなくなるかもしれない。子どもの生活環境がよくなるので、のびのびと育つ子どもが増える。いじめも減るかもしれません。夫婦のコミュニケーションが増えて、離婚も減る。

それから、男性の生き方の幅が広がる。ビジネス用ではない、子どもとのコミュニケーションをとることで、お父さん自身の能力も向上する。笑っているお父さんを見て、子どもたちは大人になるのが楽しみになる。挙げ出せばきりがないくらい、いろんなことに広がっていくと思いますよ。

最後に今後のFJKの展望を伺いました。

今やっていることを続けていくということなんですけど。講演会やワークショップ、父子プログラムを通じて発信し続けて、子育てをする親と子どもたちを笑わせていきたい。そして、シンポジウムやフォーラムを通じて、見えていない課題を見えるようにしていきたいです。

3組に1組が離婚する世の中で、幸運にも僕らは夫婦で子育てをさせてもらっている。もちろん笑えないこともあるけれど、自分たちが笑っていることで、笑えていない人たちにできることがある。そこを忘れずに、今後も取り組んでいこうと思っています。

笑っている父親を増やす。とてもシンプルなアイデアですが、そこから生み出されるプラスのイメージには、多くの可能性を感じます。

夫婦とはいえ、お互いを100%理解することは不可能です。でも、お互いの負担をシェアしあうことで、相互理解が進み、いろんな形で家族の笑顔につながるかもしれません。

一つでも二つでも、まずシェアすることから始めてみてはいかがでしょうか?