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「忘れないで」から脱却して、新しい記憶をつくる。ものづくりの現場から復興の物語を届ける『東北マニュファクチュール・ストーリー』

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東日本大震災の被災地で手作りでつくられた商品を、手に取ったことがある、あるいは購入したことがある方も少なくないのではないでしょうか。

震災以降、東北地方では、たくさんのものづくりの取り組みが生まれました。いわゆる「復興チャリティー商品」といった手作りグッズから始まり、今ではデザインや品質で人気を集め、事業として軌道に乗っているものまで、種類も背景も様々。そのプロジェクトの数は、約40の被災地で200を越えるといいます。

では、あなたはその商品にまつわる情報を、どの程度知っているでしょうか。作り手は誰なのか、どんなきっかけで始まった取り組みなのか、どんな工程でつくられているのか……。断片的には知っていても、全ての「ストーリー」をよく知っているという方は、あまりいないのではないかと思います。

「ストーリーと共に、そのものの本当の価値を伝えたい」
「ものづくりの現場から、復興の息吹を届けていきたい」

そんな思いから立ち上がったウェブサイト『東北マニュファクチュール・ストーリー』をご紹介します。

『東北マニュファクチュール・ストーリー』とは?

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震災以降、被災各地で生まれたものづくりの取り組みの数々。それらのプラットフォームとして誕生したのが、『東北マニュファクチュール・ストーリー』です。それぞれのものづくりの様子やその背景にある思い、作り手のインタビューなどをアーカイブして伝えていくメディアとして、2013年2月22日にオープンしました。

主なコンテンツは、現場の様子を伝える「STORY」と、商品を一覧で紹介する「GALLERY」の2つ。

「STORY」では、取り組みのきっかけから、体制づくり、製造工程など、商品化への物語が、関わる人々の想いと共に、丁寧に綴られています。中には、その過程で生じた苦労話などもありのままに語られていて、現場の様子をリアルに感じることができます。

また、つくり手へのインタビューは、滅多に聞くことのできない、ものづくりに取り組む被災者のみなさんの貴重な生の声。じっくり味わってみることで、ものづくりによってみなさんの心がどのように変化していったのか、彼らにとってものづくりとは何なのか、その本当の意味を感じることができるでしょう。

丁寧な取材によってものづくりの背景を伝える「STORY」ページ
丁寧な取材によってものづくりの背景を伝える「STORY」ページ

一方の「GALLERY」は、ものづくりの現場で生まれた商品を、セレクトショップのように一覧で見られるページ。繊細さと強さを併せ持つアクセサリー、やさしい風合いのハンモック、カラフルに編み込まれた布草履など、2013年3月現在、20の商品がずらりと並んでおり、東北で育まれているものづくりの多様さを実感することができます。

東北で生まれた多様なものづくりの商品を一覧できる「GALLERY」ページ
東北で生まれた多様なものづくりの商品を一覧できる「GALLERY」ページ

これらをまとめて一つのメディアで公開することによって、いつでもだれでも、それぞれの商品の生産現場で紡がれた物語に触れられるようにすること。そして、物語を通して、ものづくりから始まる復興の息吹を感じてもらうこと。それが、『東北マニュファクチュール・ストーリー』の目的であり、役割です。

友廣裕一さん、飛田恵美子さんインタビュー

『東北マニュファクチュール・ストーリー』は、スイスの高級時計メーカー「ジラール・ペルゴ」のサポートを受け、石巻で「OCICA」などのものづくりを手掛ける一般社団法人「つむぎや」が運営しています。サイトを立ち上げるに至ったきっかけや、この取り組みへの思い、「ストーリーを伝える」ということの意味などについて、「つむぎや」の代表・友廣裕一さん、取材を担当するライターの飛田恵美子さんに、お話を聞きました。

「つむぎや」の友廣裕一さん(左)と、取材を担当するライターの飛田恵美子さん(右)。
「つむぎや」の友廣裕一さん(左)と、取材を担当するライターの飛田恵美子さん(右)

OCICAの取り組みを通じて感じた「物語を伝える」ことの意味

ものには、背景にある物語が伝わって初めて完成する、みたいなところがあるな、と思うんです。

友廣さんは、「物語を伝える」ためのメディアを立ち上げるに至った想いを、こう語ります。

例えば、僕らがやっているOCICAは、いろんな人に現場に来てもらって、一緒につくってもらって、身につけて帰ってもらって。そのことを伝えてくれる人がたくさんいることで、広がっています。

さらに、書籍をつくったことは大きかったです。本があることで、現場に来たことのない人も、OCICAが育ってきたプロセスを一つの物語として共有できました。より理解してくれて、より共感してくれて、より伝えやすくなったと感じています。

友廣さんが手掛けるOCICA(オシカ)は、石巻市牡鹿半島の小さな浜で被災したお母さんたちが、一つひとつ手作りで生み出しているアクセサリーブランド。鹿の角のリングと漁網の修復糸が織りなす繊細で美しいネックレスとピアスは、一時的な「復興グッズ」としてではなく、継続的に多くの人に愛されるファッショナブルなアクセサリーとして、生産が追いつかないほどの人気商品となっています。

友廣さんが言うように、OCICAの大きな特徴は、口コミによる広がり。制作現場を訪れた人や購入した人が、そのストーリーを語りつぐことによって、着実にファンを増やしています。また、現在、カフェや雑貨店など全国35店舗以上で販売されていますが、これらの多くは「つむぎや」メンバーやプロジェクトに触れた人の紹介でつながったお店。「OCICAを物語と共に届けたい」という友廣さんの願いから、きちんと商品を理解したうえで販売してもらうことにこだわり、あえて人の縁を辿って販売店舗を増やしていく形をとっています。

2012年には、書籍『OCICA ~石巻 牡鹿半島 小さな漁村の物語~』も出版。「もの」と同時に、その背後にある「人」や「物語」の存在も届けることで、購入者に被災地における仕事やコミュニティの大切さを感じてもらうきっかけにもなっているのです。

※OCICAの商品や書籍に関しては、過去記事もご参照ください。
→『浜の息吹を感じる宝物のようなアクセサリー。お母さんたちの手しごとブランド「OCICA」』
→『石巻市牡鹿半島、小さな漁村の物語を本に。「OCICA出版プロジェクト」がクラウドファンディングで資金調達中』

「OCICA」 www.ocica.jp
「OCICA」 www.ocica.jp

そんなOCICAの取り組みを知った東北のものづくりの担い手の方々から、友廣さんの元に届いたのは、「私たちもそういうことをやりたい」という声。

(友廣)確かにそうだな、と思いました。震災後、たくさんのものづくりのプロジェクトが同時多発的に生まれて、職人さんじゃない普通の人たちが、自分の技術や土地の素材を使って、ものをつくって売ろうとするプロセスって普通の状況では滅多に起こらないですよね。すごくエネルギーも勇気も要ることですし、本当にすごいことです。

でも、背景にあるものが届かないと、「好みにあっているか」「かっこいいか」というところだけでコミュニケーションが終わってしまって、可能性が止まってしまっているんじゃないかな、と。

例えば、今はデザインが良くなくても、背景が伝われば、「一緒にやりたい」というデザイナーさんが現れるかもしれない。さらに進化していくかもしれないのに、そこで止まっちゃうのはもったいないですよね。そんなことから、東北でゼロからはじまったものづくりの背景にある物語を届けるメディアがあったらいいな、と思い始めました。

「東北マニュファクチュール・ストーリー」でディレクションを担当する友廣裕一さん
「東北マニュファクチュール・ストーリー」でディレクションを担当する友廣裕一さん

ジラール・ペルゴとの出会い。そして、ものづくりの現場へ。

「ものづくりの物語を届けるメディアをつくりたい」。友廣さんがそんな想いを抱き始めたのは、2012年の夏前のこと。周囲の人に話しているうちに、友廣さんは、以前仕事で知り合った方を通じて「ジラール・ペルゴ」というマニュファクチュール時計ブランドと出会います。

「マニュファクチュール」とは、一般に時計業界で使われる言葉で、企画から製造まで、すべての工程を一貫して自社で手がけることを意味しますが、それを標榜できる時計ブランドは世界でもごくわずかです。

(友廣)ジラール・ペルゴの担当の方は、「ものづくりにかける思いの深さは、東北の現場もジラール・ペルゴの工房も同じだ」と思われたようで、「本当に復興に役立つことをしたい」「短期ではなく、長く続けられることをしたい」という熱い想いを聞かせてくれました。

「ストーリーを伝えたい」という話をしたら、「現地の方々が誇りを持って手仕事によってつくるものを“東北マニュファクチュール”と呼び、ウェブで紹介しよう」という話に展開して、プロジェクトがスタートしました。

ウェブサイトは、ジラール・ペルゴのサポートにより「つむぎや」が運営を行うことが決定。そのときに合流したのが、ライターの飛田さんです。ウェブサイトのリリース時に岩手・宮城・福島からそれぞれ一つずつ、3つのプロジェクトの取材記事を掲載しようと、さっそく取材活動が始まりました。

(飛田)プロジェクトの担い手の方の取材はもちろん、作り手のインタビューや制作工程など取材することが多く、すべての取材を1日で行うので、最初は大変だな、と思いました。でも、実際取材を初めてみると、どの現場の方もすごく喜んであたたかく迎えてくださって、楽しく取材することができて、うれしかったですね。

ありのままのストーリーを伝えるために、飛田さんが心がけているのは、「美談」では終わらせないこと。

(飛田)ものづくりの現場はあまり表に出ていない部分が多いので、上手くいっていることだけではなく、苦労話なども聞くようにしています。「大変なことは?」と聞くと、みなさん「大変なことばかり」とおっしゃいます。特に外部から来た人と現地の作り手さんが一緒にやっているプロジェクトは、今は上手くいっていても、やっぱり過去にはコミュニケーションで苦労した経験もお持ちのことが多いです。

さまざまな側面をきちんと伝えることで、「これから東北でものづくりを始めたい」という人の参考になるかもしれないし、「自分もこういう形で関わりたい」と思ってくれる方が現れたらいいな、と思っています。

取材・執筆を担当するライターの飛田恵美子さん
取材・執筆を担当するライターの飛田恵美子さん

そんな飛田さんと現場の人々との関わりから紡がれ、サイトにアップされているそれぞれの「STORY」。プロジェクトに関わる方々からは多くの喜びの声が届き、「記事をイベントで配布したい」と、次なるステップにも意欲的になっているのだとか。また、友廣さんや飛田さんも知らなかったものづくりプロジェクトから「掲載してほしい」という声も届いているとのこと。

オープンしたばかりの『東北マニュファクチュール・ストーリー』ですが、これから先、それぞれのプロジェクトの可能性、さらには東北のものづくりの可能性を広げてくれるような、そんな予感を与えてくれます。

「かわいそう」「忘れないで」からの脱却を目指して

『東北マニュファクチュール・ストーリー』の取り組みは、今後、どんな展開を見せてくれるのでしょうか。

(友廣)まずは、リアルの場を増やしたいと思っています。オンラインでは、東北や復興、ものづくりに興味のある方にはリーチできるんですが、やはり層が限定されてしまいます。リアルなら、たまたま通りがかった人にも出会えるので、違う接点のつくり方ができます。販売や展示、どんな形でもいいのですが、リアルとオンラインを融合させた取り組みを進めていきたいです。

実際に『東北マニュファクチュール・ストーリー』は、サイトオープンと同時にリアルの場づくりを展開しています。代官山の蔦屋書店では、2月10日から3月21日の期間、「東北マニュファクチュール・ストーリー ~3.11のむこうに、新しい未来を作ろう。それが、3.11を忘れないこと。~」と題し、6つのプロジェクトの商品を展示・販売し、代官山という立地ならではの客層にアプローチすることができました。

また、2月27日には、プロジェクトの担い手7名が登壇し、『東北マニュファクチュールストーリー・トークセッション〜東北で新たに生まれたものづくりの現場から〜』を開催。約70名の参加者と直接言葉を交わし、数々の出会いを生み出しました。

『東北マニュファクチュールストーリー・トークセッション〜東北で新たに生まれたものづくりの現場から〜』の様子
『東北マニュファクチュールストーリー・トークセッション〜東北で新たに生まれたものづくりの現場から〜』の様子

(友廣)トークセッションでは、参加者とプロジェクトの担い手が意気投合し、お店にパンフレットを置いてもらえることが決まるなど、小さいながらも、広がりのきっかけをつくることができました。

また、とても良かったのは、取材した人同士がつながれたこと。他のプロジェクトがどんな風に運営しているかを聞く機会って、あまりないんですよね。でも生産管理のノウハウなどは、共有することでいい効果が生まれるし、違いを知るだけでも意味がある。各生産現場を巡るツアーなど、今後、横のつながりもつくっていけたら、と思っています。

リアルへの展開、そして、横のつながりをつくること。これらの施策を通じて友廣さんが目指しているのは、東北のものづくりを、次なる段階へとステップアップさせることです。

(友廣)震災から2年経った今でも、東北のものづくり商品は、「かわいそうだから」という理由で買っている人もいますし、まだそういった人々の心情に頼っている部分があるのも事実です。でも、いくら「忘れないでほしい」と言われても人は忘れますから、どこかで転換していかなくてはいけない。

そのために、これまでの記憶を新しく上書きしていきたい。現地の状況も変わっていて、歩みだしている人たちがいて、僕らはそういう新しい記憶を作っていかなきゃいけないと思うんですよね。笑顔で一歩踏み出した人たちの、希望のある物語として、伝えていったほうがいいんじゃないかな、って思っています。

(飛田)私は今日も取材させていただいた商品を、3つ身につけています。でもそれは、「取材させてもらったから」じゃなくて、本当に「商品としていいな」と思っているからで、身につけるのも楽しいし、人に説明するのも楽しかったりするんですよね。それも、「かわいそう」という気持ちじゃなくて、技術や生産管理の現場をみて本当に「すごい」という気持ちで話しています。

そんな風に、買って終わりじゃなくて、応援者と言うか、仲間と言うか、そういう人たちが増えるといいな、と思います。

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「かわいそう」「忘れないで」を軸としたマーケティングからの脱却。そのためのカギは、飛田さんのような「語り手」を増やすことにあるのかもしれません。「ものの背景にあるストーリーを伝える」ことは、そのための第一歩。被災地のものづくりに限ったことではありませんが、「もの」と一緒に「物語」が伝わっていくことが当たり前になれば、人々の消費の構造も変わっていくことでしょう。

『東北マニュファクチュール・ストーリー』は、復興の物語を伝える役目を果たすだけではなく、そんな“物語”から始まる新しいマーケティングの可能性をも感じさせてくれるプロジェクト。今後の展開が、とても楽しみです。