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浜の息吹を感じる宝物のようなアクセサリー。お母さんたちの手しごとブランド「OCICA」

Photo : Lyie Nitta

Photo : Lyie Nitta

特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

カラフルな細い糸が施された白い小さなリング。

思わず手を伸ばして触れたくなるような、繊細な輝きを放つアクセサリーが誕生しました。名前は『OCICA(オシカ)』。小さな浜に住むお母さんたちが一つひとつ、丁寧につくり上げているハンドメイドブランドです。

陽射しに春を感じるようになった3月のある日、その制作現場を訪ねました。

牡鹿半島の制作現場へ

石巻の中心街から車で約40分。小さな漁港が点在する海岸線を走り、牡鹿半島・牧浜(まきのはま)に到着しました。

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高台にある小さな集会所。ここが、お母さんたちが集まる作業場です。

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午前10時。既に作業場には、家で仕上げてきた作品を手にしたお母さんたちが集まり、手を動かし始めていました。「せっかくだから」と、私も制作に参加させていただくことに。まずは材料の「鹿の角」を削ることから始めます。

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輪切りにして穴を開けた状態の「鹿の角」を一つひとつ、3種類のヤスリで磨き、整形していきます。これがなかなか力の要る作業なのですが、お母さんたちは手慣れたもの。手早く、美しいリング状に仕上げていきます。

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研磨剤で光沢を出した後は、ドリルで外周に切れ目を入れる作業。これが美しい編み目をつくるポイントになります。これはさすがに鍛錬が必要な作業なので、私の分もお母さんにお願いすることに。真剣な眼差しで、ミリ単位の細かい切れ目を入れていきます。

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そして最後は、糸を巻き付ける工程へ。美しい編み目をつくるのはこちらの漁網の修復糸。とても細いのですが、漁で使うものだけあって、強度は抜群です。

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小さな切れ目に沿って1目ずつずらしながら、慎重に編み目をつくっていきます。

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糸を弛ませることなく、均等に巻き付けていくのはかなりの集中力が必要。お母さんに教えを請いながら(実際にはかなり手伝っていただきながら…)、なんとか2周巻き付けて、ネックレスの完成!

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何度もやり直した末、お母さんたちと一緒に仕上げた作品は、私にとって、たったひとつの宝物になりました。

『OCICA』が誕生するまで

『OCICA』が発売を開始したのは、昨年11月。東日本大震災から半年以上経ってからのデビューとなった背景には、お母さんたちと一緒に『OCICA』を育てている友廣(ともひろ)裕一さんの、

いかにも「復興グッズ」ではなく、息の長い物を

という思いがありました。

DEERHORN DREAM CATCHER NECKLACE 鹿角のドリームキャッチャーネックレス Photo : Lyie Nitta

DEERHORN DREAM CATCHER NECKLACE 鹿角のドリームキャッチャーネックレス Photo : Lyie Nitta

以前こちらの記事でご紹介したとおり、友廣さんは震災後すぐ、被災地に入って復興支援活動を開始。4月には、牡鹿半島でお母さんたちと出会い、ミサンガづくりを始めました。こちらの制作や販売が軌道に乗り始め、お母さんたち自らの手で作業がまわり始めた頃、「鹿の角」を使って何かつくることができないか、と動き始めます。

最初に牡鹿半島に訪れた時から鹿をたくさん目にしていて、この鹿の角を使って何かできないか、とずっと考えていました。

鹿に関わっている人を探していた頃、道の駅で見つけた鹿肉の缶詰を食べて、美味しさのあまり問い合わせたら、鹿の猟師さんと出会うことができたんです。その人の元に何回も通いながら、角を活用して手仕事がつくれないか、と伝えると「角は俺が集めてやる」と言ってくださった。

また、牡鹿半島は捕鯨の町でもあるのですが、鯨の歯の加工経験があり、今は趣味で鹿の角の加工をしている方ともお会いすることができました。その方も「ぜひ力になりたい」と言ってくれて。不思議な出会いから、制作できる条件が整っていきました。

これまでほとんど活用されてこなかった牡鹿半島の鹿の角

これまでほとんど活用されてこなかった牡鹿半島の鹿の角

その頃、「みちのく仕事」の右腕募集を活用して鈴木悠平さん、多田知弥さんが合流。同じ頃、東京で石巻出身の齋藤睦美さんと出会い、メンバー4人の体制で、プロジェクトが動き出しました。

当初は鈴木さんと齋藤さんが中心となって浜をまわりながら、このような手しごとを必要としている人たちを探しました。齋藤さんのご家族のご縁もあり、「ぜひやりたい」と言う牧浜のお母さんたちと出会ったのは9月末のこと。これで、制作体制は整いました。

『OCICA』を制作・販売する「つむぎや」の4人。左から、鈴木さん、友廣さん、齋藤さん、多田さん

『OCICA』を制作・販売する「つむぎや」のみなさん。左から、鈴木さん、友廣さん、齋藤さん、多田さん

でも具体的に何をつくるのかのイメージが沸かなくて。加工の技術を習い、一度キーホルダー等をつくって仙台で販売させてもらったのですが、売れなかった。タイミング的にも、もう復興グッズが売れる時期ではないと分かりましたし、息の長い物にしたくて、こういう素材を扱えるデザイナーさんを探し始めたんです。

知り合いを通じて出会ったのが、 NOSIGNERの太刀川英輔さん。お母さんたちと一緒にワークショップをして試行錯誤しましたが、デザイン完成までにはかなりの苦労を伴った様子。でも、最終的には友廣さんも提案していた「輪切り」というキーワードに落とし込まれて、『OCICA』の原型ができあがりました。

DEERHORN DREAM CATCHER NECKLACE 鹿角のドリームキャッチャーネックレス Photo : Lyie Nitta

DEERHORN DREAM CATCHER NECKLACE 鹿角のドリームキャッチャーネックレス Photo : Lyie Nitta

何度もやりとりした末に出てきたデザインを見たとき、「これはいける」と思いました。最初はミシン糸でつくっていたんですが、漁網の修復糸でやってみたらすごくハマって、「これだ!」って。

僕らが、というよりも、お母さんたちのために、市場に出しても本当に喜んでもらえるものにしたくて、商品をつくりあげる段階は太刀川さんたちと踏ん張りました。

様々な人の出会いと気持ちが重なり合い、『OCICA』の制作は始まりました。

つくることの楽しさと、集える喜びと

震災前、牧浜に住むお母さんたちの仕事は、男性漁師のサポートをすることでした。津波により漁業が立ち行かなくなり、仮設住宅で暮らしていたお母さんたちは、この手しごとをどのように受け止めてくれたのでしょうか。

正直、デザインはお母さんたちにとっては、「まあまあ」という感じだったんです(笑)。でも、最初からつくること自体をとても楽しんでくれました。途中、制作が難しくてご年配の方がドロップアウトしかねない状況もあったのですが、若いお母さんたちがフォローしてくれて、上手く役割分担ができていきました。

お母さんたちには、1個あたり1,000円(※)をお渡ししていますが、こういう作業って、「量産しよう」というムードになったり、個数の競争になったりしてしまうこともあると思うんです。でも元々の素地が良かったんでしょうね。制作を進めていくにつれて、フォローしあう関係性ができあがってきたように思います。

そして、売り出したら反響もあって、買ってくれた人から「涙が出ました」なんて手紙や声が届いたり、遠方からここに来てくれたりする人もいて、お母さんたちのモチベーションもどんどん上がってきました。

(※)1,000円のうち200円は作業後のお茶会等、会の運営経費にあてられています。

私が訪れたこの日も、お母さんたちの中に「自分たちの仕事」という高い意識を垣間みることができました。自らドリルやミシンの使い方を覚えたり、改良すべき点を提案したり。言葉や行動の節々から、「いいものを届けたい」という思いが、ひしひしと伝わってきました。

そして何より、この作業を心から楽しんでいる様子。制作現場からは、終止笑顔が途絶えることはありませんでした。

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作業の途中、当初このプロジェクトの話を聞いたときの感想を聞くと、「何もやることがないし、集まる場所がなかったから、うれしかった」と聞かせてくれました。「最初は何をしても涙ばかりが流れてきたけど、こうやってみんなで集まれるからね、うれしいよ」とも。

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友廣さんにとって、この声は、何よりうれしいことのようです。

お母さんたちの収入のため、というのはもちろんですが、このプロジェクトの大きな目的のひとつは、交流の場、バラバラになってしまったコミュニティをつなぐことでした。仮設住宅に引っ越して、離ればなれになってしまった浜のお母さんたちが集まる、この場自体を楽しんでほしいな、と。だから作業後の「お茶っこ」の時間はすごく大事にしています。

作業終了後に、お菓子とお茶を囲んで団らんする「お茶っこ」の時間。なんでもないように見えるこのひとときが、お母さんたちにとってはかけがえのない時間となっているのです。

この日の「お茶っこ」は、完成したOCICAのホームページが披露され、大いに盛り上がりました!

この日の「お茶っこ」は、完成したOCICAのホームページが披露され、大いに盛り上がりました!

「復興グッズ」や「支援者」から、一歩先へ

現在『OCICA』は、雑貨店やカフェなど全国10店舗の他、「ソトコトオンラインショップ」にて販売中。口コミで徐々に広がり、常に制作が追いつかないほどの注文が寄せられているとのことです。ネックレスに続き、3月には新商品のピアスも発売。商品展開に期待も高まりますが、今後はどのような動きを予定しているのでしょうか。

DEERHORN DREAM CATCHER PIERCE 鹿角のドリームキャッチャーピアス Photo : Lyie Nitta

DEERHORN DREAM CATCHER PIERCE 鹿角のドリームキャッチャーピアス Photo : Lyie Nitta

今僕たちがやっている仕事を少しずつお母さんたちに譲っていって、僕たちは必要最低限のことだけやれるような体制にしたいですね。「支援側の雇用を守らなくてはならない」みたいになってくると不健全になってしまうので、ある程度は手離れしていける状態を保った方がいいと思っています。

もちろん本当に必要な限りはいるべきだと思いますが、もっと適した形があるならば執着せず譲れる状態。支援者じゃない立場になっても、関係は続きますからね。

今後は、他の浜でも「やりたい」という方がいれば、広げていくかもしれないし、新商品も出すかもしれない。でもそれはあくまでその時々で、お母さんたちや僕たち、デザイナーさんの状況次第。今後もその時の状況に応じて一番いい形で動いていけたらいいな、と思います。

「支援」という意識に捉われず、その都度、必要性に合わせて関わり方を変えていくこのスタンスは、ずっと友廣さんの中で変わらないもの。最近では、友廣さんが関わる他の地域の方々との交流も生まれているそうです。

高知で魚の商品化を地元の若者や漁師さんたちと一緒にやっているんですが、彼らがこっちに来てくれて地域間の交流も生まれています。彼らもこちらでの経験がまた地元でも生きると思いますし、僕にとってはやっぱり、他の仕事と変わらない。

でも、この場所では、普段できなかったことも経験させてもらえているので、こんなことを言ったら怒られるかもしれませんが、ご縁には感謝していますね。良い仲間に囲まれて。偶然にしては、でき過ぎてます(笑)。

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震災から1年経った牡鹿半島。徐々に牡蠣やワカメの養殖も再開し始めたこの地には、どんな状況の変化にも、変わらぬ自然体で向き合い続ける友廣さんがいました。以前の記事でご紹介したミサンガ「マーマメイド」の販売も好調で、資金が集まり、浜に食堂をつくる計画が具体的に動き始めたとの情報も。また必ずここに来るとお約束をして、石巻を後にしました。

『OCICA』は復興グッズではないし、友廣さんも、もはや支援者ではない。そう気付いたとき、私は、これまでも愛用してきたグリーンの『OCICA』が、全く違う物に見えてきました。

様々な人の気持ちで丁寧につむがれた『OCICA』のアクセサリー。
みなさんもぜひ一度、手に取ってみてください。

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