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プロジェクトの“種”を“苗”に育て、京都からソーシャルデザイナーを生むしくみを作る「ミラツク」西村勇也さん

ミラツク ワークショップ風景

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。
特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

「対話(ダイアログ」から変わっていく未来を描く――2008年にゲストから「どんな面白い人生を歩んできたのか」を聴き、参加者が全員参加する「ワールドカフェ」で“対話”をする場「ダイアログBar」をスタートし、2011年にNPO法人ミラツクを立ち上げた西村勇也さんは、この春に京都で“第二創業期”となるタイミングを迎えています。

その手始めとなるのが、「京都から、100人のユースリーダーのプロジェクトが未来をつくる!『ミラツク京都』」と題したプロジェクト。この3月から、クラウドファンディング「READYFOR?」上でサポーター募集を開始しました。

西村さんが、京都に拠点を移して3年目となる今、京都はソーシャルデザイナーたちの揺りかごとしての条件が整いつつあります。このタイミングで「ミラツク」という「つなげる器となるNPO」が京都に関わることで、予想もつかないほど大きな化学反応が起こっていきそうなのです。

「ミラツク」の活動すべてを京都に注ぎ込む

ミラツク 西村勇也さん(HUB KYOTOにて)ミラツク 西村勇也さん(HUB KYOTOにて)

西村さんは、「ダイアログBar」のほか、2日間をかけてじっくり時間をかけて対話を深める「未来をつくるワークショップ」や、ダイアログのメソッドを実践的に学びファシリテーターを育成する「Art of Hostingワークショップ」をなどを通じて、ダイアログを広く国内に紹介してきました。

2011年12月には、「“未来を創る”をテーマに対話とともに社会にイノベーションを生み出す」という大きな仕事に取り組むために「ミラツク」を設立。京都を拠点にして新たな動きを作り始めています。

東北、香川、淡路島など、日本全国の各地域でいろんな人をサポートする仕事に取り組んできた西村さんが「腰をすえて地元での活動に取り組む」のは実は初めて。震災復興プロジェクトを生み出してきた「ユースコミュニティリーダー・ダイアログ」など、対話を通じたコミュニティ作り、READYFOR?などのクラウドファンディングを利用した資金調達サポート、「Art of Hostingワークショップ」のように海外から講師を招いて開催するワークショップなど、今までは単発で行ってきたすべてのプロジェクトを京都という場所に集めることが、今年の「ミラツク」のチャレンジなのです。

学校みたいになればいいなと思っています。名前は「ミラスクール」。一年間関わっていくうちに、プロジェクトの種を持っている人たちに、必要な仲間、資金、場所、そして自分で考える時間を提供し、彼らがやろうとしていることがgreenz.jpなどのメディアを通じた情報発信を通じて実現する。そんなことがやりたいんです。

「思い」を「行動」に確実に変える、Ready For?ワークショップの試み

京都から、100人のユースリーダーのプロジェクトが未来をつくる!『ミラツク京都』(「READYFOR?」より)京都から、100人のユースリーダーのプロジェクトが未来をつくる!『ミラツク京都』(「READYFOR?」より)https://readyfor.jp/projects/miratuku

西村さんは、みんなでアイデアを出し合って仲間を作る“教育フェーズ”と、プロジェクトをカタチにして起業する“企業フェーズ”の間には、 “自らアクションに入る”という段階があり、その部分のサポートが抜け落ちていて“溝”として横たわっていると感じています。この“溝”の部分を埋めるプロジェクトのひとつが、冒頭で紹介した「京都から、100人のユースリーダーのプロジェクトが未来を作る!『ミラツク京都』」です。

「具体的な取り組みが起きるかどうかわからないままで終わってしまうワークショップ」ではなく、「上位入選者だけに50万円ほどの賞金が出るだけの起業家支援のビジネスプランコンペ」でもなく、「100人いたら100人が挑戦できて、起業の一歩手前まで生み出せるパッケージ」を作ろうとしています。

「ミラツク京都」のワークショップは、今年のうちに少なくとも京都で5回、その他に東京、仙台などを含め全国で10回の実施を予定。各回20~30名が参加すれば、一年間に200~300のプロジェクトが生まれてくる可能性があります。クラウドファンディング「READYFOR?」を利用して、それぞれがプロジェクトの魅力をしっかり伝えれば、すべてのプロジェクトに資金調達をするとができるのも、「ミラツク京都」のポイントです。

お金、場所、情報発信。たとえば、HUB Kyotoと一緒にコワーキングスペースを1年間提供したりして、起業の一歩手前まで生み出せるパッケージを作る。そのコアになるのが、READYFOR?を使った「ミラツク京都」のワークショップです。

今年の春、京都には社会イノベーターの拠点「the HUB」の京都版「HUB KYOTO」がオープンします。greenz.jpもまた初のローカルプロジェクト「マイプロSHOWCASE関西」を立ち上げました。同時多発的に起きているこれらの動きが「ミラツク」と出会うことで、より大きな化学反応を生みだそうとしているのです。

たまたま、いろんなものが京都と関西に立ちあがってくるタイミングに出くわしているので、ほうっておくとバラバラの動きになるものに「ミラツク」が関わることでしっかりつなげていける。「つなげる器」としての自分たちの役割をうまく活かせるタイミングでいい場所に来たと思います。

西村さんが見ている「コンパクトな街・京都の持つ可能性」とは?

京都 祇園祭

西村さんが、今年新しく大きなチャレンジに踏み切った理由のひとつは、京都という街が持つポテンシャルを発見したこと。京都は、市内エリアにたくさんの大学があり、祭りなどの地域文化が色濃く残り、市街地を一歩出れば里山もあるという多様性。コンパクトな街にほどよい人口と人間関係があり、街としてのサステナビリティがうまく機能しています。

また、大学、ベンチャー企業、老舗など、それぞれの分野に信頼のネットワークがすでに築かれており、そのどこかに接続すれば人間関係が一気に広がるのも京都の特徴。西村さんは、「home’s vi」の嘉村賢州さんから紹介を受けて京都にあるネットワークのいくつかに接続し、「一見新しいことを好まない京都で、ネットワークの内側に入ると思った以上に自由に挑戦出来る」ことを実感したそうです。

もうひとつ、西村さんが注目しているのは、イノベーションを起こす力となる多様性が京都にあることです。

東京は人が多いので、あるテーマに対して同じ職種や業種の人ばかりが集まりやすいんです。でも、京都を含めたローカルでは、大学の先生、NPOの人、企業経営者、行政の人など、全然違うことをしている人がコンパクトに集まれるんです。なおかつ、京都はそれぞれの要素がすごく濃い。経営者は「100年の歴史ある老舗企業の経営者」だったり、職人さんといっても「西陣で200年家を構えている」とか。京都でダイアログをしていると、その濃さと多様性の組み合わせがものすごく面白いんです。

「ミラツク」のテーマは「対話から協力を生み出し、イノベーションを起こす」こと。土地にしっかりと根付き、暮らしに密着した仕事をする人が多い京都では、それぞれの人の動きが、街の動きとしっかりと連動します。「京都で小さな新しいイノベーションが起きることが、実は世の中を動かしているのではないか」。西村さんは、確かな手ごたえを感じはじめています。

次の大きなチャレンジは「お金の流れを変えること」

京都での“第二創業期”を迎えた今、西村さんはすでに「ミラツク」が次に取り組む未来の課題を見つめています。それは、ひとことで言うと「お金の流れを変えること」。そのために、「利子ではなくソーシャルインパクトでリターンを出すような融資」を可能にする財団づくりを構想しています。

一般的には、融資を受けると元本に利息をつけて返済することになっています。貸し手側は、貸したお金が返ってこないリスクを回避し、また確実に利息を回収して利益を上げるために、財政・経営状況が良好で信頼できる相手にお金を貸したいと考えるのが、今の社会での“常識”です。

でも、それだとアーリーステージにいる人たちに大きな金額の融資を届けることができませんよね。お金儲けを目的とした融資ではなく、自分の暮らしや社会が良くなることを目的とした融資のかたちを作りたい。それが、子どもたちのために良い未来を残していくひとつの方法にもなればと考えています。

「誰かのおススメ情報」で“金融商品”を選んで融資するのではなく、「自分自身と相手との顔が見える関係性」のなかで“自らの望む未来”を選んで融資する。そこには、すでに「そこまで信頼しあえる人間関係」という大きなリターンも得られているというふうにも考えられます。

「お金でお金を増やす」という方向性が行き過ぎているのが今の資本主義社会。90年代にバブルが崩壊して、また2008年にリーマンショックが起きたように、何度でも経済は崩壊を繰り返します。そうならない流れを作るためには、根本的に利息を考え直さないといけないと思うんです。暮らしや環境が良くなる、自分が欲しかった音楽を作ってもらえる、農産物が手に入るということでもいい。お金を「お金を得る」以外のことに使う発想が、本当に世の中を良くするためには必要ではないでしょうか。

社会的な課題が増え続ける今「何かしなければいけない」と感じている人はたくさんいると思います。でも、誰もが今すぐにプロジェクトを考えて行動できるわけではありません。そんなとき、「自分が働いて得たお金を社会的な課題解決に使う」という関わり方の選択肢があってもいい――西村さんはそんな風にも考えています。

「お金の流れを変える」ことは「社会のあり方を変える」とほとんど同じ。西村さんがチャレンジしようとしている“課題”は、あまりにも大きいのかもしれません。でも、いずれ条件が整い、出会うべきスキルやツールを持った人が現れたとき、西村さんのチャレンジは現実のものになるはずだと思うのです。